奏視点
その後新歓をやったが、結局低音に入ったのは湊さんと吉川先輩の妹だけだった。
「やっぱり、『初めまして〜♡低音パート、久石奏で〜す♡みなさぁ〜ん♡(やらしい声)』をやった方が良かったのでは⁉︎」
「すずめ。大輝先輩の許可なしに、それをやっていいのかな⁉︎」
「ぷっw」
「3バカ、変な反省の仕方しないで。あとそれやるつもりないから。」
「え?この先輩、そんな事言ってたんですか⁉︎」
「そうだよ、華子!」
「ちなみに奏先輩は、大輝先輩と結婚の契りを交わした仲でして!」
「ぷっw」
「「違う!」」
「部活中にイチャイチャしないでくれませ〜ん?ウザいんですけど〜。」
「「だから違うって‼︎」」
そして、吉川さんの方が生意気で、
「「杏奈は2人の仲を見てどう思う⁉︎」」
「えっと………いいと思います。」
「「だよね⁉︎」」
「「よくない!」」
湊さんの方が礼儀正しいという。
「杏奈ちゃん、俺は久石の彼女じゃない‼︎むしろお前の彼女に………なってやってもいいぞ♪」
「あっ、大輝君が杏奈ちゃんにセクハラした‼︎」
「先輩、それは流石にダメです!」
「私たちの杏奈に、手出しはさせません‼︎」
「大輝、退部ね。」
「なんか俺だけ扱いおかしくね⁉︎一応俺もチューバだぞ⁉︎」
「えっと………そこまでしなくて大丈夫ですよ///」
「「「かわいい〜♪」」」
「えっと………///」
というか第一印象とは裏腹に、めちゃくちゃ大人しい。その上かなりの恥ずかしがり屋。そのため、最初はビビってたさつき以外の人たちもあっという間に仲良くなり、気がついたらチューバの先輩全員に可愛がられていた。鴨川の河川敷で見たあの姿はなんだったのかと、つい思ってしまった。
「杏奈ばっかりずるいです〜!私も私も!」
「はっ、華子ちゃんも可愛いよ!」
「あ^〜♪佳穂先輩、マジ
「ありがとね、華子ちゃん!」
「久石先輩………は、大輝先輩に言ってもらえるからいいでしょう!」
「ぷっw」
「そんな事ないから。」
にしても、吉川さんは本当に生意気だな。もうさん付けするのやめよ。アンタの呼び方は華子、またはデカリボン後輩だ。あと口癖がお姉ちゃんそっくり。確かこんな感じのこと、OGの先輩に言ってた気がする。
「1年生が入ったようで、羨ましいですな‼︎‼︎」
「照葉、仕方ないよ。今年の方針的に、少数精鋭にならざるを得ないし。」
「こうなったら………兄さん、2人っきりで頑張りましょう‼︎‼︎」
「ああ。引退した緑先輩のために。」
そして、新入生が居ないコンバスがその光景を見て羨む。そう思うなら、華子をあげようかな?きっと苦労すると思う。絶対そうだ。
ちなみに、今年の1年生は17人とかなり少ない。夏紀先輩の代が15人、久美子先輩の代が23人、私たちの代が44人、佳穂の代が28人と、集団退部があった夏紀先輩の代並の数だ。そのためパート毎の人数も少なく、コンバスみたいに誰も居ないなんてことも普通だ。ダブルリードも1年生ゼロだし。
ただその分、非常にレベルが高い。
「杏奈、マジヤバくね………?」
「私と弥生の席が消滅しそうだよ〜‼︎」
「そんな事、ないですよ………///」
「いいや、北宇治は実力主義だ‼︎だから先輩らの席を蹴っ飛ばして後輩がなるなんて、よくあること!だから杏奈ちゃん、遠慮しなくていいぞ!」
「えっと………ありがとうございます///」
まず湊さん。ヤンキーで喧嘩に明け暮れてたのかと思いきや、普通に上手い。現状さつきと同じくらいなので、さつきが落選なんてこともあり得る。曲次第では、すずめや弥生がその2人を落とすこともあるけど。
「おばあちゃん、めっちゃ上手いです!」
「おばあちゃん、すごいです!」
「ありがとねぇ。」
「梨々花自慢のおばあちゃんです!」
「「「「りりりん先輩、ずるいです!」」」」
次にフルート。梨々花のおばあちゃんこと小百合さんは、実力と人柄で皆に慕われていた。年齢の衰えを感じさせないパフォーマンス、あるいは衰えてあれなのか………
そして、ユーフォなんだけど………
「華子ちゃん、上手いね!すごいよ!」
「ありがとうございます、佳穂先輩♪先輩も高校から始めたにしては、とても上手いですよ!」
「ありがとね、華子ちゃん!」
「あ^〜、もう!佳穂先輩マジ天使〜♪」
「えへへ……///」
なんと華子がめちゃくちゃ上手い。元々強豪の南中出身なのだが、その中でも群を抜けている。自前の銀のユーフォから奏でられる音色は、思わず聴き惚れてしまうほどだった。義井さんや美玲も彼女のことは高く評価しており、1年生の中じゃ圧倒的なエースだ。
「反面、久石先輩は6年目の割にあんまりですね!大輝先輩の奥様なんですから、もう少し頑張ってくれます〜?」
それでいて生意気。私には敵意剥き出しという。ホントムカつくな‼︎なに、ちょっとお姉ちゃんのことでからかっただけじゃん‼︎
「華子もお姉さんみたいに、カリスマ性溢れる人になって欲しいなぁ。」
「はぁ⁉︎あのクソ姉貴にそんなもの無いんですけど⁉︎」
「あと、負けるつもりないから。」
「え〜、手加減しなきゃいけないんですかぁ〜?まあ、副部長を落としたら、皆が悲しみますもんね♪」
「元部長の妹が落ちても、悲しむと思うよ?」
「いちいちアイツの妹扱いしないでください‼︎」
絶対負けてたまるか‼︎あと副部長を落とすとか言うな!1年の時の私みたいじゃん‼︎夏紀先輩から見た私はこんなだったのかと、ちょっと謝りたくなった。
「奏先輩、華子ちゃん!落ち着いてください……っ!」
とりあえず、佳穂に宥められたから落ち着くか………
「これ、お詫びの漫画です!」
「わぁ〜!佳穂先輩、ありがとうございますぅ!なになに、『だいかな恋愛譚』?」
「佳穂、1年生に広めないで‼︎」
「北宇治の文化に馴染んで欲しくて………」
「そんなのをうちの文化にするな‼︎」
いや、落ち着けるかぁ‼︎なんでユーフォの後輩はこんなのばっかなの⁉︎ホント腹立つんだけど‼︎
「杏奈ちゃんにもあげるよ!」
「針谷先輩、ありがとうございます。」
「めっちゃ面白いよ!」
「今年のノーベル文学賞、間違いなし‼︎」
「ぷっw」
「勝手に広めるな‼︎」
これで湊さんにまで揶揄われたら、ホント終わりだから!低音唯一の良心、頼むからまともでいて‼︎そんな事を思いながら、私は練習したのだった。
その日から数日経ち新歓が落ち着くと、サンフェスの練習が始まった。滝先生の指導の元、合奏の体形に並ぶ。
「今年のサンフェスは、『マーチ・ワンダフル・ヴォヤージュ』でいこうと思います。2・3年生は既に演奏した曲ですので、完璧に吹けると思います。ですので1年生の皆さんは、頑張って追いついてくださいね。」
「「「「はい!」」」」
サンフェスではなんと課題曲のうちの1つ、かつ沖縄のパレードでやった曲のうち1つをやるという。演奏時間的に片方に絞ったと思ったんだけど………これは、もしかして?
「先生、すいません。」
「どうしました、久石さん?」
「もしかして、今年のコンクールの課題曲もその曲ですか?」
「いい質問ですね。その通りです。コンクールの課題曲もこの曲でいこうと思います。」
「ありがとうございます。」
やっぱり。コンクールの課題曲の練習がサンフェスでも出来るという、とても効率のいいやり方だ。オーボエやコンパスなど、サンフェスで演奏しない組以外はサンフェス後課題曲にあまり時間を割かなくていいという。そうすれば、自由曲に割ける時間を増やせるし。一般的に、課題曲より自由曲の方が難しいからね。私もこのやり方に賛成だ。
「そして、自由曲も発表します。」
「「「「お願いします!」」」」
そして、自由曲もついでに発表。
「今年の自由曲は…………」
滝先生の口から言われた楽曲は………
「交響曲第1番『ギルガメッシュ』より第二楽章『巨人たちの戦い』。」
想像を絶する難曲だった。
ということで、奏3年次のコンクール曲はアッペルモンド作曲のギルガメッシュになります!龍聖のモデルになった洛南の演奏が有名ですね。北宇治初の最高難易度・グレード6の楽曲になります。(課題曲が3、リズ鳥と一年の詩が4.5くらい?)
ただ、洛南は人が少なくオーボエなど一部の楽器を他パートに移行しているため、原曲の編成からはちょっと離れています。しかし北宇治は人が多いため、ほぼ原曲通りでできます。なので参考演奏として、YouTubeにある「Gilgamesh (WMC Kerkrade 2005」というタイトルの「9:13〜15:47」の部分を聴くのをお勧めします。