奏視点
自由曲『ギルガメッシュ』は想像を絶する難易度だった。発表されてから数分後、パート譜を配られた部員達が………
「7/8拍子⁉︎見た事ないんどけど⁉︎しかもテンポ速いし‼︎」
「ホルンでハイF#⁉︎高すぎ‼︎出るわけないじゃん‼︎」
「ペットはハイD♭でフラッター*1あるんだけど………」
「つーか、一年の詩の時の最高音*2がしょっちゅう出てくるし……。こんなの唇死んじゃうよ………」
「前半でスタミナ使い果たした後に、後半で繊細な表現を求められるの……?」
「なんか、♩=144で16分音符のタンギングが8小節続くんだけど………」
「クラやサックスの連符地獄もあるよ!」
「フレクサトーンって、何*3?」
「オーボエだけじゃなくて〜、コーラングレ*4のソロもあるんだけど〜。」
「りりりん先輩と私、どっちもソロってことですね!しかもめっちゃ重要なとこ!」
「チューバの………えっ、これ何の音⁉︎低すぎない⁉︎下線何本引くの⁉︎えっと………ローC⁉︎」
阿鼻叫喚していた。
「ねえ大輝、これいけるの?」
「やるしかねえだろ。クソむずいけど。」
「だよね。」
大輝は覚悟の決まった顔をしているが、正直自信は無さそうだ。自分のパートは多分吹けるんだろうけど、ドラムメジャーとしてこの難曲を完成させることの難しさを感じているのだろう。そりゃそうだ。ハッキリ言って、今までやってきた曲とは比べものにならない。これを完成させなきゃいけないのかと、気が重くなった。
その後、私たちはパートで集まっていた。
「今調べた感じだと、この曲は『ギルガメッシュ叙事詩』を元にしているみたい。」
パートリーダーの美玲が仕切る。どうやらこの曲はリズと青い鳥と同様、何かの話をベースに書かれた曲みたいだ。
「ウルク市の暴君ギルガメッシュと野生の強者エンキドゥは共に出会う。そして激しい戦いを繰り広げた後に、お互いを親友と認め合う。そして2人でいろいろな旅に出かけ、そこで色んな敵を倒す。だけどエンキドゥが早死にして、ギルガメッシュが不老不死を求めて彷徨う………というお話だね。」
「この曲はそれを表しているのか〜。難しいね、みっちゃん!」
「今回演奏するのは第二楽章だけだから、ギルガメッシュとエンキドゥの戦いから、お互いを認め合って友情で結ばれる部分までになるね。」
「なるほど〜。」
今回演奏するのは喧嘩からの和解………か。確かに前半部が激しくて、後半は美しいメロディーになっている。聴くだけなら、とてもいい曲なんだけど………いかんせん、演奏するのが難しすぎる。
「「つまり『だいかな』ですか?」」
「ぷっw」
あと、このバカ達は人の話聞いてた?
「そんなわけないでしょ。」
「でも、喧嘩してからの仲良っぴですよね!」
「しかも2人ですよ、2人!」
「奏先輩は大輝先輩といつも喧嘩してますけど、家では仲良しですし……」
「つまり、久石と大輝のせいでこんな難しい曲をやることになったのか。」
「戦犯じゃないですか‼︎」
「「違う‼︎」」
滝先生が私たちを見て決めた、とか言わないよね⁉︎ちゃんと楽器とかのバランスをみて決めたんだよね⁉︎そうだと信じたい。
「真面目な話をすると、この曲は低音が鍵になる。特に最初の10秒は、低音しかいない。だから北宇治の第一印象を決めるのも、私たち次第ってこと。大輝、合ってるよね?」
「美玲の言う通り。俺や照葉がいるから選んだ気がするんだよな〜。バリサクやファゴットも強いし。そして、ここまで低音重視の曲はあまりない。だからこそ、俺たちで北宇治を引っ張ることを意識して、な‼︎」
「「「「はいよ!」」」」
「はい!」
言われてみれば、ユーフォ以外の低音は最初吹いている。逆に低音以外は、トロンボーンとティンパニ、マリンバという低音寄りの楽器しかない。つまりは低音が自由曲の最初の10秒を担当するわけで………。10秒は長い。第一印象どころか、第二印象まで決まってしまう。そのため、低音は責任重大だ。
「あの〜、ユーフォがないんですけど〜。」
だが、ユーフォは最初ない。休みだ。まあ、低音よりは中音に分類されるし、不思議なことではないけど。しかし、最初休んだ後には………
「ユーフォは最初が終わったら、メロディーがあるだろ?それがめっちゃ重要。ギルガメッシュの主題、いわゆるメロディーをホルンと吹くんだけど………ユーフォが下の音域を担当する。ということは、ホルンだけじゃ足りない迫力をユーフォで出さなきゃいけないんだ。」
「どっちにしろ重要な役割なんだね。」
「そうだ。久石、佳穂ちゃん、華子ちゃん、頼んだぞ!」
「「はいよ!」」
「はい!」
重要なメロディーを担当する。しかもかなり低い音域で。楽器が鳴りにくく息の消耗が激しい音域で、それなのに迫力を出さなきゃいけない。しかもそれが、曲全体を通して最初のメロディー。最初の低音は迫力こそあるものの、あくまで伴奏。だから、私たちが主役にならないと。
「つーことで………美玲、あとよろしく!最初は7/8に慣れる練習から!俺は他のパートを巡回するぜ!」
「分かった。」
そして、いつもの通り他のパートに行く大輝。本当に先輩方が引退してから、大輝がパート練にいる時間がめっきり減った。その分、私たちで美玲を支えて低音を作らないと。とりあえず………
「それじゃあ、まずは大輝の言ったことから。」
「「「「はいよ!」」」」
まずはこの独特のリズムに慣れることだ。
練習後、私は大輝や梨々花と一緒に帰っていた。
「うぇ〜ん、おばあちゃんと一緒に帰りたかったよ〜!」
我らが部長も、今やただの子供に戻ってしまった。
「小百合さん言ってただろ?友達と過ごす時間を大切にしな、って。」
「でも〜!2人の邪魔も出来ないし〜!」
「邪魔はして欲しい。というか、大輝が邪魔。」
「俺が小百合さんをナンパしようか?」
「守備範囲広すぎでしょ………」
そして我らがドラムメジャーは、ただの変態に戻って………いや、元からだった。
「そういやりりりん、オーボエとコーラングレ、どっちのソロやるんだ?」
そんな事を思っていると、ドラムメジャーがちゃんとし始めた。
「いや〜、まだ決まってない〜。」
この楽曲はオーボエとコーラングレ、それぞれに超重要なソロ*5がある。しかも途中持ち替える時間が無いタイミングでそれぞれのソロがあるため、1人が両方やることはできない。そして、オーボエは1年生がいないため、梨々花と加千須さんの2人。つまり2人とも、必ずソロをやらなきゃいけないわけで………
「加千須さんはコーラングレ吹き慣れてるの?」
「いや〜。どっちも不慣れ〜。」
「どっちがどっちを吹くかは、コンクール曲を決める並に重要な選択だ。だから、かなり慎重に選ばないとな。」
「両方がオーボエとコーラングレ、並行してやるのは?」
「めちゃめちゃ負担おっきいね〜。どうしよ〜?」
しかもコーラングレなんて、コンクールの自由曲くらいしか出番がない。しかも北宇治は2年連続採用してない。それをどっちが吹くべきか……
「よしっ!」
「「ん?」」
そんな事を思っていると、大輝が何か閃いたようだった。
「何か思いついたの?」
「オーボエの専門家を呼ぼう‼︎」
なるほど、プロの人に相談するのか。それはありだね。梨々花たちで決めきれないなら、他に頼るしかないけど………大輝や滝先生は音楽の知見はすごいけど、オーボエが吹けるわけじゃない。となると、オーボエに特化した人を呼んだ方がいい。いい考えだ。
「おっ、いいね〜!誰にする〜?」
「そりゃもちろん、あの人しか居ねえだろ!」
「「あの人…………?」」
「オーボエと北宇治の事情、両方に詳しい人といえば…………っ!」
そして、その答えは………
「みぞ先輩だ!」
なんともまあ、懐かしい人だった。