奏視点
鎧塚先輩の特別レッスンから数日後。私たちは校庭で、サンフェスの練習をしていた。
「手の高さ、足の高さ、テンポ、周りを見てよく合わせて!」
「「「「はい!」」」」
「疲れてきたと思ったら、気持ち大袈裟に!そうすれば合いやすいぞ!」
「「「「はい!」」」」
「今年は例年より出来てる!だから自信持って!」
「「「「はいよ!」」」」
大輝の指導の元、皆が練習に励む。全員の目は真剣そのものだ。
「あと美玲、もうちょっと振りデカいほうがいいかも!そしてキレよく!」
「わかった。」
ちなみに紛らわしいことに、マーチングのドラムメジャー、いわゆる先導は美玲がやっている。沖縄でのパレードを経て、見栄え的に彼女の方がいいとなったからだ。なので大輝は本番スーザ*1を吹きつつ、練習の時はこうして離れて見ている。
「よしっ、それじゃあ皆疲れてきたから休憩‼︎ちゃんと水分とって、汗を拭いて、俺とデートしてね〜‼︎」
「最後は余計。」
「「「奏先輩、是非‼︎」」」
「私はしないから‼︎」
そして、相変わらず休憩になったらアホになる。大輝だけはずっと練習してればいいのに。そう思ってしまった。
休憩中、私は仕方なく大輝の隣にいた。
「なんでお前なんだよ⁉︎」
「風紀委員。あと皆に行けって言われたし。」
「皆〜、コイツを引き取ってくれ!俺じゃあ扱いきれねえ‼︎」
「皆、このゴミを捨てるから手伝って‼︎」
「ぷっw」
「勝手にイチャイチャしててくださ〜い♪私は佳穂先輩とラブラブするので〜♪」
「「おい‼︎」」
相変わらず皆は大輝に寄ってくれない。どころか私に押し付けようとする。少しは副部長の負担を減らそうとか思わないのかな?まあ、大輝が他の女の子のとこに行ったら行ったで、風紀が乱れるからダメだけど。
それはさておき、私は真面目な話をすることにした。
「話変わるけど、皆の演奏はどんな感じ?」
「曖昧な質問だな。まあ、マーチングや課題曲の出来はいい感じだ。上級生は沖縄のパレードで鍛えられてるし、1年生も今年はレベルが高い。」
「おお、良かったじゃん。」
今年はサンフェスについては、特に心配することはなさそうだ。
「ただ、マーチングとなると………小百合さん、大丈夫か?」
ただ1人を除いて。
「正直、あの歳でマーチングはキツいでしょ。」
「りりりんにも言ったんだけどなぁ。本人が出たいって。」
「倒れないといいけど………」
梨々花のおばあちゃん、小百合さんは75歳。後期高齢者が楽器を吹きながら行進するのは、控えめに言って酷な話だ。滝先生とも相談して、サンフェスは参加を見送ろうか悩んだけど、本人の希望により出場。だけど………
「おばあちゃん、大丈夫⁉︎」
「大丈夫じゃよ、梨々花。あたしゃ意外と丈夫なのもで〜。」
「「「おばあちゃん、無理しないでね!」」」
「皆ありがとねぇ〜。」
いつ倒れるか不安だ。今のところは、他の子たちと同じくらいのパフォーマンスを出せている。それははっきり言えば、とんでもないことだ。正直言って、目を疑っている。だけど、それを信じ過ぎるのもよくない。
「よしっ。俺、小百合さんのとこ行ってくるわ。」
「私も行く。」
「小百合さぁぁぁぁん!」
「なんじゃのぅ?」
「ホンマに倒れられたら困るんで、ちゃんと休んで下さいね‼︎若い俺が何言ってんのって感じですけど、油断だけはマジで勘弁で!」
「はいよぉ〜。」
「皆も熱中症には気をつけて。お互いの体調も気にするようにしよう。」
「「「はい!」」」
部員が倒れたとなれば、騒ぎになる。ましてやかなりレアな後期高齢者の入学。学校側の問題にもなるから、慎重にやらないと。他の子が倒れるのも防がなきゃいけない。自分だけじゃなく、部全体を見ておかないとな。
その日の帰り、私たちは梨々花を捕まえて話を聞いていた。
「ねえ、梨々花。」
「おばあちゃんのこと〜?」
「そう。昔運動とかやってた?」
「うん!フルマラソンによく出てるよ〜!」
「「つっよ!」」
なんと、めちゃくちゃ凄いランナーらしい。あの歳でフルマラソンって………とんだ化け物だ。
「大輝より強いのでは?」
「失敬な。俺だって42mは走れるぞ!」
「kmだよ‼︎それじゃ短距離走!」
「でも、大輝君ならいけるんじゃな〜い?」
「まあな。球技は苦手だが、マラソン系はチューバのために鍛えてあるし。」
「さっすが〜♪」
ちなみに大輝は走れるタイプ。というか一流のチューバ奏者なので、肺活量がとんでもない。体育の先生もびっくりしてたな。球技や武道は下手なの見てたから、その変わりっぷりに。
「梨々花、あまり褒め過ぎない方がいいよ。調子に乗るから。」
「りりりん、あまり久石と関わらない方がいいぞ。ウザいから。」
「じゃあ間をとって〜、2人でイチャイチャして〜!」
「「なんの間を取ったの⁉︎」」
そんな事を思いながら、私たちは帰った。
数週間後、私たちは無事サンフェスを終えることができた。それこそ、例年にないくらいの完成度で、観客も大盛り上がりだった。更に課題曲を演奏したためか、その曲のコンクールに向けての完成度もかなり上がった。課題曲は5月にして、もう関西大会レベルにまできてると思う。
だが、しかし…………
「ギルガメッシュの冒頭、低音はもっと縦*2を合わせてください。」
「「「はい!」」」
「あと、何度か音を出すタイミングを間違う人が居ますね……。そろそろ7/8拍子に慣れてほしいのですが………」
「「「すいません!」」」
「痛っ………!」
「滝先生、休憩を提案します!トランペットとホルンの唇がもう限界っぽいです!」
「わかりました。ではクールダウンを兼ねて、休憩としましょう。」
「「「「はい!」」」」
自由曲はその限りではなかった。今までに経験したことのない難易度。それが部員全員を苦しめていた。金管は唇を痛め、木管は口を痛めたり指が回らなかったり………。そして、いかんせん縦が合わない。7/8拍子がうまく捉えられず、吹くタイミングが分からなくなる。まるで初心者の頃に戻されたような感覚だ。
「トランペットにホルン、大丈夫?正直に言っていいぞ!」
「えっと……加部ちゃん先輩、すいません。正直、結構キツいかも………っ!」
「夢先輩でキツいんですもん、私たちはもう地獄です………」
「こんな時、高坂先輩が居てくれたら……」
「ホルンは散々だよ〜!」
「僕の計算が正しければ、めちゃくちゃ痛いでしょう!」
「そっか!とりあえず、氷か冷水を当てて冷やしといて!」
「「「はいよ!」」」
大輝が色んなパートをみて回る。ここら辺は流石ドラムメジャーだ。もちろん本人はちゃんと吹けている。このレベルの曲を速攻で仕上げてくるあたり、やっぱり次元が違うのだと実感する。ただ、他の子はそういうわけにはいかない。
「美玲先輩………このローC、上手く吹くコツってあります……?」
「杏奈、ごめん。私も上手く吹けない。大輝、ちょっと来て。」
「はいよ!なんだい⁉︎」
あの夢や美玲でさえ、かなり苦戦する有様。このレベルの先輩が苦戦するのかと、それを見た後輩が絶望するという負のループに陥っていた。
「佳穂先輩〜!この曲難しいです〜!」
「でも華子ちゃん凄いよ!めっちゃ吹けてるし!」
「私と久石先輩なんて、まだまだですよ〜!」
「ちょっと華子ちゃん⁉︎えっと、奏先輩………」
「いや、華子の言う通りだね。全然まだまだ。」
「お互い頑張りましょうね〜♪」
私はいつもの通り華子にバカにされた。でも、不思議と気にならない。華子自身が上手い上に、めちゃくちゃ真面目に練習している。演奏の評価も的確で、気に入ってる佳穂にもちゃんと言うし、私のいいところは不貞腐れながらもちゃんと褒める。だからこそ、演奏面では信頼できるのだ。
それはさておき………
「とりあえず、佳穂先輩!久石先輩が居ない間に、めっちゃ上手くなっちゃいましょう!」
「う、うん……!頑張るよ………!」
私は2人の前から、しばらく居なくなる。
「奏先輩!修学旅行、行ってらっしゃいませ!」
「そのまま帰ってこなくていいですよ〜♪」
「華子が寂しくなる前に、ちゃんと帰ってきてあげるよ♪」
「人の話聞いてました〜?」
「あとで大輝先輩とのお話、聞かせてください!漫画のネタにするので!」
「うん、絶対しないからね?」
何故なら修学旅行だから。明日から3泊4日、私は慣れない土地で大輝の面倒を見続けなきゃいけない。そう思うと、とても不安になった。