奏視点
私たちは東京スカイツリーへとやってきた。
「にしてもでけえな‼︎京都タワー何個分だ、これ?」
「2・3個分だった気がする。」
「ヤバっ!」
空へと貫く大きな塔は、太陽の光を反射して輝いていた。その圧倒的な存在感に、東京の街としての凄さと異世界感、そして京都の小ささと心落ち着く雰囲気を感じてしまった。黒江先輩はこんなところで、一人暮らししてるんだもんなぁ。なんか凄い、とつい思ってしまった。そして、来年は自分がここに住もうとしている。それがなんか不思議な、そして、とてもロマンチックな場所だった。
「とりあえず上行くぞ!」
「そうだね。」
「上にいる女の子に、絶景を見せながら告白するからな!」
「上から落としていい?」
そして私は、そんな素敵な場所に最悪の人と登っていた。せめて楽器でもあったらいいのにと、思ってしまった。演奏している間は、素敵な時間に変わるから。
その後私たちはダークでおしゃれなエレベーターに乗り、一気に展望台へと駆け上がった。そして、そこで待っていたのは………
「「すごっ!」」
圧巻の絶景だった。遥か彼方まで続く東京の巨大なビル群。さらに遠くには、微かに富士山も見える。なんてロマンチックで、素敵な場所なのだろうか。
「凄すぎてうんこ漏れそうだぜ!」
隣にいる男を除けば。
「早くトイレに行ってきて。」
「はいよ!」
ホント、せっかくのいいスポットなのになんで台無しにするのかな?スカイツリーの良さを持ってしても、大輝の悪さは打ち消せない。その事実に、ただただ絶望するしかなかった。
そして、待つこと数分。
「ねえ、君。今暇?」
「俺たちと遊びに行こうぜ!」
大輝みたいにナンパしてる人の声を聞きながら、私は待って………
「ねえ、君だよ、君!赤リボンちゃん!」
って、私がナンパされてる?振り返ると、そこには大柄な大人の男が2人いた。片方は茶髪、片方は金髪で、見るからにヤンチャ系の人たちだ。しかもちょっと酒臭い。そして、周りの観光客もヤバい雰囲気を察してか、明らかに見て見ぬフリをしている。この人たちについて行ったらろくな目に合わないと、一目で分かった。
「すいません、人を待っているので。」
「ちょっとくらいいいじゃんか♪」
「悪いようにはしないから、さ♪」
ヤバい、断って逃げ出したい。でも相手は2人、しかも大柄な男。大輝用にパンチの練習してたとはいえ、通用するとは思えない。なら声を出さなきゃ。そう思っているのに、声が出ない。どうしよう、怖い、助けて………
「ちょっと待った〜‼︎」
そう思っていると、トイレから出てきた大輝が私とチャラ男の間に入ってくれた。
「お2人さん、この女は危険です‼︎今すぐ逃げてください‼︎」
チャラ男を庇いながら。
「「えっ⁉︎」」
「コイツ、すぐ金たかってくるんですよ!しかも1食1〜2万円‼︎ホント性悪で有名なんで‼︎」
「「いや、その…………」」
「おい‼︎また人を騙して奢ってもらうつもりじゃねえだろうな⁉︎」
「いや、違うから。大輝にしかたからないし。」
「とりあえず、この2人から離れろ!ほら、こっちだ!俺が相手になってやる‼︎」
「「ええ…………」」
そうして大輝は私を無理矢理チャラ男から引き剥がすと、そのまま下に下がるエレベーターまで私を連れてきてくれた。そして、チャラ男達がいないエレベーターの中に入り、チャラ男がいないことを確認して、
「久石、ごめんな。怖かったか?」
優しく私に話しかけてくれた。
「うん…………」
「そっか。2人行動の時は、ずっといるよ。」
「ありがとう………///」
今思うと、さっきのおかしな言動も、相手を刺激しないようにするためだった。あそこで私を庇ったら、チャラ男2人と喧嘩することになる。そうなったら多分、大輝は勝てない。それを見越して、私の安全を第一に守ってくれた。
「ナンパされるのって、怖いんだな。」
「うん…………」
「よし、分かった。」
そして、大輝は私の様子を見て、ナンパしないことを誓って………
「じゃあ、お前が隣にいる時しかナンパしねえぜ‼︎」
くれないの⁉︎
「どうしてそうなる⁉︎」
「いや、だってさ〜。彼女は欲しいじゃん‼︎でも、男だけでナンパされるのは怖い‼︎だから隣にお前をつけるのさ!」
「余計意味分からないって⁉︎バカなの⁉︎」
「はぁ⁉︎俺は頭いいぞ‼︎」
「その返しがバカ丸出し‼︎」
せっかく見直したのに‼︎なんでそうなるかなぁ⁉︎どんだけ彼女欲しいんだよ‼︎ホント、締まらない男だ。
「でも………ありがとう///」
「はいよ!」
でも、その日ばかりは、感謝してもしきれなかった。いつもよりも大輝がカッコよく見えた、そんな日だった。
私たちはそのまま集合場所である、宿泊先に着くと………
「見て〜、ラブラブカップル〜♪」
「「「ホントだ〜!」」」
「なんか、前よりも仲良くなってね?」
「きっと何かあったんでしょ。」
「まさか〜、一線超えちゃったの⁉︎」
「「違う‼︎///」」
梨々花達と低音パートの3人が、私たちを見てバカにしてきた。
「梨々花達に置いてかれたから、仕方なく。」
「さっちゃん、美玲、求‼︎なんで俺のこと忘れて行っちゃったんだ⁉︎」
「「「「そりゃあ、ねぇ〜。」」」」
「「ニヤニヤするな‼︎」」
明らかに確信犯だ。よほど私たちをくっつけたいのだろう。あとは佳穂に漫画のネタを提供したいのか。いずれにしても悪気しか感じない。
「あっ、そうだ!かなぴ〜、見て!ママ先輩と浅草巡りした時の写真!」
「お〜、って、あの人授業じゃなかったの⁉︎」
「それは2人きりにさせるための嘘だ。」
「あの人までグルじゃん‼︎」
しかも黒江先輩にまでしてやられた。ホントあの人は性格が悪いんだから‼︎あったまきた‼︎後で久美子先輩に弱点を聞いておこう‼︎
「あ〜、みっちゃん!また単語帳見てる!」
「さつき………」
「修学旅行中はめっ、て言ったでしょ?気分転換気分転換♪」
「わ、分かったよ………」
ちなみに美玲は修学旅行中、時々単語帳やら何やらを見てた。修学旅行中も受験勉強か。流石に私もそこまではしないな。
「勉強か、懐かしいな。」
「懐かしがるな‼︎受験生でしょ⁉︎ちゃんとして‼︎」
反面、大輝は普通に何もしてない。藝大志望で音楽メインとはいえ、共通一次で国語と英語は科されている。だからコイツもその勉強をしなきゃいけないんだけど………最近その姿を全く見ていない。
「とりあえず、宿に入るぞ〜。今日は求や靖也と無限大富豪だ‼︎」
「言っとくけど、負けないからな?」
「その言葉、そのまま返してやるよ‼︎」
「奏〜、大輝君の部屋行く〜?」
「行かないから!///」
とりあえず、今は修学旅行だ!余計なことは考えないようにして、楽しまなくちゃね!そんな事を思っているうちに、修学旅行はあっという間に過ぎ去ってしまった。
そして、私たちは北宇治へと帰ってきた。のだが…………
「「「「「「先輩方、大変です‼︎」」」」」」
低音の2年生4人に華子、そして義井さんが慌てふためきながら、私たちを呼んだ。修学旅行から帰ってきたばかりの3年生を呼ぶなんて、普通じゃない。一体何が起きたんだろうか?その答えは、この5人が来ていることから明らかだった。
「何があったの?」
「杏奈が急に退部するって言って、帰っちゃいました‼︎」
ここに居ない唯一の低音の後輩。湊さんが問題を起こしたのだった。