杏奈視点
それは、中2の秋頃のこと。その日は仲の良かった後輩と一緒に下校していた。
「杏奈先輩、これ見てください!熊さんの人形です!」
「おっ、可愛い………瑞希が作ったの……?」
「はい!」
「すごい………っ!似合ってるよ………!」
「えへへ〜、ありがとうございます!」
瑞希は同じチューバの後輩で、私によく懐いてくれた。特に何かした覚えもないのに。私もそんな彼女に、逆に懐いていた。そして、今日もいつも通り一緒に帰っていたのだが………
「よぉ、杏奈ァ。随分元気そうじゃねえか‼︎」
「アンタに友達なんて居たんだ〜♪」
「ウケる〜!」
いつも私をいじめているヤンキー達に絡まれてしまった。
「杏奈先輩………?」
「帰ろう。瑞希、こっち。」
「はい………」
「へえ〜、その子後輩なんだ〜!」
「じゃあ、その子もいじめちゃおっかな〜♪」
「弱そうだし!」
いつもだったら、大人しく殴られてたかもしれない。殴られて丸く治まるなら、それでいいと思ってたから。でも今日は違う。瑞希がいる。彼女が傷つくのだけは、避けないと………っ‼︎
「はぁ⁉︎私の後輩に手を出すんじゃねえよ‼︎ぶっ殺すぞ‼︎」
「「「はぁ⁉︎」」」
「おいおい、陰キャちゃんのくせに調子に乗ってんじゃねえよ‼︎」
「こっちは3人ってこと、わかってんのかなぁ⁉︎」
「2人まとめて死ね‼︎」
「瑞希、逃げて‼︎」
「でも…………」
「早く‼︎」
そして私は瑞希を逃し、3人と拳を交えた。なんとしても私が倒れるわけにはいかない。ありったけの根性を振り絞って、ありったけの大声を出して、私は思いっきり抵抗した。
その結果………
「「「つよ………っ!」」」
「はぁ………はぁ………」
ボロボロになりながらも、なんとか3人と相討ちにまでもっていった。自分がこんな力を出せた事に驚いたが、それと同時に、瑞希を守れたことがとても嬉しかった。これで、今後は何事もなく過ごせる。そう思っていた。
それは、1週間後のことだった。
「お〜い、杏奈!アタシら、お前の腕に惚れたぜ!」
「アタシらと一緒に全国制覇しねえ⁉︎」
「もちろん、喧嘩でな!」
何故かこの間喧嘩したはずの人たちが、私を仲間にしようとしてきた。本当に意味が分からなかった。もちろん答えは決まってる。
「無理。私、部活したいから………」
私は喧嘩じゃなくて音楽がしたい。だから吹部を選んだ。全国制覇するなら、音楽でしたい。そう言ったのに………
「ふ〜ん。まあ、そう言うと思って、これを撮っておいたぜ!」
「じゃじゃん!この写真な〜んだ⁉︎」
「えっ………?」
ヤンキー達は瑞希が家に入る写真を私に見せてきた。どう見ても盗撮。そして、これから言えることは…………
「コイツがどうなってもいいのか⁉︎」
「それは無理。」
「じゃあ吹部辞めてこっち来い!」
「そしたら襲わないでやるよ!」
脅迫だった。私が喧嘩をしない限り、瑞希が酷い目に遭う。大切な後輩をそんな目に遭わせてまで、私は音楽を続けることはできない。
「…………分かった。その代わり吹部には手ぇだすな。」
「いいよ〜!決まり!」
「「しゃあ‼︎」」
だから、私は吹奏楽部を辞めた。
「瑞希、この退部届渡しといて。」
「えっ⁉︎ちょっ、杏奈先輩⁉︎何があったんですか⁉︎」
「音楽に興味無くなった。それだけ。」
「ぇっ⁉︎ちょっと、嘘でしょ⁉︎」
「それじゃあ。」
「ちょっと待ってくださいよ‼︎そんな、どうして急に………っ!」
瑞希をアイツらから守るために。
その後、私はアイツらと喧嘩する人生を続けた。同じヤンキーだけをひたすら狙い、喧嘩し、時には喧嘩を売られて、殴り合って生きていく。日陰のジメジメした、私にお似合いの生活だった。
でも、そんな生活は嫌だった。また音楽がしたかった。だから私はアイツらに内緒で、地元から遠く吹奏楽が強い北宇治を受けた。そして、再び音楽をすることができた………はずだった。
「おい杏奈ァ‼︎喧嘩で全国制覇するんじゃなかったのかァ⁉︎」
「何勝手に北宇治行ってんだァ、テメェ⁉︎」
「うるせえな‼︎私の勝手だろ‼︎」
アイツらに私が北宇治に通っていることがバレた。それどころか………
「なぁ、杏奈ぁ………」
「この写真、見覚えある?」
「………っ!」
同じ手口でさつき先輩を危険に晒した。やっぱり私に音楽は無理だったんだ。さつき先輩は私がこんな見た目でも、元ヤンだと知ってくれても、それでも優しく接してくれた。他の先輩方や華子達も、私を普通の友達として接してくれた。そんな人たちを傷つけるわけにはいかない。だから私は、北宇治吹部の皆を突き放す形で退部した…………
はずなのに………
「ちょっと、なんでここに居るんですか⁉︎先輩には関係無いって………」
「杏奈ちゃん、練習するよ。」
「いや、だから、私は辞めたって‼︎というか、危ないから下がってください‼︎」
「大丈夫だから。杏奈ちゃんこそ下がってて。」
さつき先輩はこの喧嘩の場に現れた。しかも3人相手に啖呵を切って。そして、私を見捨てるどころか、逆に庇ってくれる。そんな、あなたは普通の人でしょう?
「おい、なんだテメェ⁉︎」
「そんなちっこい身体で何が出来るんだよ⁉︎」
「そーだそーだ‼︎」
「自分ら、口の利き方も分からんのか?あぁ⁉︎」
「「「ひぃ…………」」」
「うちの大切な後輩に手ぇ出しやがって………どう落とし前つけるんや⁉︎」
「「「えっと…………」」」
そして、さつき先輩が脅している間に…………
「僕たちの練習の邪魔、しないでくれる?」
「さっさと帰ってくんない?」
「警察呼んだけど………捕まりたい?」
「「私たちの杏奈に手出しはさせない‼︎」」
「自分たちの邪魔をするな、痴れ者共‼︎‼︎」
「もう2度と来ないでください!」
「佳穂先輩の言う通り!一生私たちに関わらないで‼︎あっかんべー!」
「そそそ、それか、俺の彼女になれ‼︎」
「「「「それはこっちの人に言って(下さい))。」」」」
「私にも言わないで‼︎」
他の先輩方も駆けつけてくれた。なんで、どうして………私のことを庇ってくれるの?
「「「くそっ………分かったよ!」」」
そして、人数と男の先輩を見たからか、3人は去っていった。
3人が去った後、私が呆然としていると………
「あ〜、怖かった〜!杏奈ちゃん、私ドラマで観た感じでやってみたんだけど………どうだったかな⁉︎」
さつき先輩がいつもの無邪気な感じで話しかけてくれた。そんな、こんな私に、なんでそこまで…………
「えっと………その………ぐすっ………」
「あれ、泣いちゃった⁉︎大丈夫⁉︎」
安堵感と感謝が入り混じって、私は涙を堪えきれなかった。
「あっ、さつきが泣かせた。」
「だいぶ怖かったもんな。」
「すごい迫力でしたぞ‼︎‼︎」
「大輝の言動の方が怖いけどね。普通あそこで告る?」
「怖いのはお前だろ、久石。」
「先輩方、今くらいイチャイチャを抑えてくれませ〜ん?」
「「そ〜だそ〜だ!」」
「ぷっw」
「「違うから!///」」
でも、なんで助けてくれたの……?あんなに突き放すようにして出て行ったのに………。こうなっていること、知らなかっただろうに………
「でも………なんで………私を………助けてくれたんです………?」
「そりゃ、大切な後輩だからね!」
「そして、俺の彼女の1人………」
「「「それは違います!」」」
「前に湊さんのことここで見たの。それとさつきの話でピンときて。」
「そう………だったんですか………」
目つきが悪く、口数も少ないから怖がられている。それでいて、特にコミュ力があるわけでもない。でも、こんな私を見捨てずに優しくしてくれた。その事実が、何よりも嬉しかった。
「あの………その………すいません………ありがとう………ございます………」
「「「「はいよ!」」」」
「杏奈ちゃん、困ったことがあったらすぐ言うんだからね!」
「私たちは皆、杏奈の味方だから。」
「なんなら、私はすずめお姉ちゃんだ!」
「すずめだけずるい‼︎私は弥生お姉ちゃんだぜぃ‼︎」
「ぷっw」
「大輝お姉ちゃんだぜ♪」
「それは違うでしょ。」
「これからも………よろしく………お願いします………」
「「「「「はいよ!」」」」」
そして、この人たちと一緒に頑張ろうと、心の底から思えた。見てて、瑞希。私、この人たちと一緒に、音楽で全国制覇するから。そう思った日だった。