奏視点
あがた祭りの日の騒動からしばらく経ち、私たちは府大会のオーディションを目前に控えていた。部の雰囲気からも、本気モードが肌で感じられるようになっていた。いつもは割と来るのが早かった私も、それより早い人たちが増えたことにより、普通くらいになってしまった。
「綺麗な音………」
そして、登校する私を綺麗なユーフォの音が出迎えたくれた。非常に優しく、そして美しい音色。間違いない、華子のだ。ホント、楽器だけは上手いんだから。せっかくだし、そばで聞くか………
その近くまで行くと………
「あっ、奏先輩!お疲れ様です!」
「お疲れ。」
佳穂にも遭遇した。どうやら彼女も来ていたみたいだ。コンクールに向けて気合が入っているのは、彼女も同じだった。
「オーディションに向けて頑張ってるね。」
「ありがとうございます!でも、先輩も華子ちゃんも上手いから、今年も厳しいですけどね。」
「諦めないで。ユーフォ3人になることだってあるんだから。」
「そう言ってくださり、ありがとうございます………っ!」
佳穂もだいぶ上手くなってきた。正直2年目にしてはかなり上手いと思う。私も中2の時はここまで吹けなかったし。普段は揶揄ってくるけど、なんだかんだ頑張ってくれてる。それが先輩としては、とても嬉しかった。
「それじゃあ、私楽器とってくるよ。」
「はい!」
そして、私は楽器を取りに向かった。
私が楽器ケースから楽器を取り出していると、
「おはようございま………って、朝イチ久石先輩ですか。」
ミス生意気こと華子がやってきた。今日もいつも通りのデカリボンだ。
「おはよう、華子。朝から会えて嬉しいよ。」
「私は嬉しくないんですけど〜!」
「はいはい、ツンデレだね。」
「違いますぅ〜!」
なんか最近、華子が子供に見えてきた。というか、小百合さん以外の1年生全員がすごく若く感じる。夏紀先輩たちから見た私たちってこんな感じだったのかと、今になって思った。
「私はただ練習したいだけですぅ〜!」
「それは私も同じ。最初のところとか、特に練習したいし。」
「音が潰れないように、でも迫力は出るように、注意したいですね!」
それにしても、練習だけはホントちゃんとしてるなぁ。まるで大輝みたいだ。私のアドバイスも素直に聞いてくれるし。だからか、元から上手いのに更に上手くなってる気がする。今朝もあんな感じで、いい音出してた………
あれ?華子って今来たんだよね?じゃあ、今朝の音は………もしかして、佳穂?佳穂って、あんなに上手かったっけ?
その日から数日後、いよいよオーデションの日がやってきて、あっという間に終わった。
「佳穂先輩〜、緊張しちゃいました〜!」
「でもすごく上手かったよ、華子ちゃん!」
「ありがとうございますぅ〜!あ^〜、佳穂先輩マジ天使〜♪」
「えへへ………///」
「荒川奏先輩はミスらなかったですね。悔しいです。」
「苗字ミスってるよ、華子。」
今回の曲は、ユーフォは割と重要なところもある。でも、せいぜい2人いればいいと思う。その分大変なホルンやトランペットの人数を増やすか、あるいはチューバを増やして迫力を上げるか。だから、この3人で吹ける可能性は低いだろう。それが私の予想だった。
そして結果発表当日。
「それでは、オーディションの結果を発表する。まずはトランペット。」
いよいよ緊張の瞬間がやってきた。松本先生がトランペットから順に読み上げる。ここは4パートあるが、例年通り6人で挑むようだ。
「続いてホルン。小原愛音!」
「はい!」
「屋敷さなえ!」
「はい!」
「長瀬辰馬!」
「はい……っ!」
「三木美乃!」
「はい!」
「相良大河!」
「はい‼︎」メガネクイ‼︎
「以上5名。」
続いてホルンは5人。一応楽譜上は4パートだが、流石に4人はキツいと思ったのか、北宇治初の5人編成になっている。
そして、3年生が2人も落ちた。今年は3年生が非常に多いため、こういうこともよくある。なんなら、コンクールに一度も出られずに引退する人が10人を超えるかもしれない。今はまだいいけど、関西や全国ってなった時に、どう影響してくるか………それが不安だ。
その後も、色んなパートが発表されていった。フルートでは小百合さんが受かったり、コンミスに義井さんがなったりなどなど、学年に関係なく実力者が選ばれていた。そして、ついにユーフォの番になった。
「続いてユーフォニアム。」
北宇治は3年→2年→1年の順に呼ばれる。だから私は最初に呼ばれなかったら終わりだ。
「久石奏!」
「はい。」
よかった、呼ばれた。これで副部長として、そして最上級生としての威厳は保たれた。
「吉川華子!」
「はい‼︎」
「以上2名。」
そして、次は華子が呼ばれて終わり。やはりこの2人になったか。佳穂は俯くけど、これは仕方ない。自分で言うのもなんだけど、相手が悪かったとしか言いようがないからだ。
「続いてチューバ。荒川大輝!」
「はい!」
次はチューバ。大輝と美玲は確定として、何人で吹くか。普通の曲なら正直この2人でいいけど、今回は低音が超重要。迫力を出すために、大輝がいても人数を増やす可能性が高い。
「鈴木さつき!」
「はっ、はい‼︎」
やっぱり増やしたか。これで最低3人。流石に4人はないだろう………
「釜谷すずめ!」
「はい‼︎」
「以上3名。」
「…………っ!」
えっ、ちょっ、ちょっと待って。すずめ?美玲じゃなくて?えっ、ちょっ、どういうこと⁉︎
「あれ、美玲先輩は……?」
「嘘でしょ?あの人が……?」
「何かの間違い………?」
「静かにしろ‼︎発表の途中だ‼︎」
周りの皆も混乱してる。よりにもよって今の美玲が落ちるなんて、ありえない。もしかして、オーディションでミスったとか?それでも、普段のことを考えてくれるはず。それなのに、なんで………?
「続いてコントラバス。月永求!」
「はい。」
「石神井照葉!」
「はい‼︎‼︎」
「以上2名。」
コンバスも2人。別に普通だ。だから尚更、美玲が落ちた理由が分からなかった。
休憩時間になると………
「みっちゃん、大丈夫⁉︎」
さつきが真っ先に心配していた。
「さつき………私は大丈夫だよ。それよりコンクール頑張って。」
「うん、分かった!」
「美玲、関西大会用意しておくぜ。弥生ちゃんに杏奈ちゃんもね!」
「ありがとう、大輝。」
「ありがとうございマッスル!」
「ありがとうございます………」
「すずめちゃん、よろしくな!」
「はい‼︎」
確かに、すずめがこの曲と相性いいのは分かる。大音量大迫力は、戦いを表現する前半部にもってこいだし。繊細な後半部は大輝とさつきがいるからオッケーというのも分かる。でも、美玲を落としてまで選ばれるのは、かなり違和感がある。なんならさつきでさえ。
とりあえず、私が考えても仕方ない。今は佳穂のケアだ。
「佳穂、私と華子で関西大会獲ってくるから。」
「そして、その時に久石先輩を抜き去っちゃいましょう!」
「抜かされるのは華子でしょ。」
「2人とも………ありがとうございますっ!」
どこか悔しいのか、やはり泣きそうな佳穂。去年の関西大会の私もこうだったなと、ふと思い出す。あの時大輝がレッスンしてくれなかったら、全国大会も吹けてなかったかもしれない。ついそう思ってしまった。
とりあえず、佳穂や美玲のためにも、まずは関西大会への切符を手に入れないと。そう決意した日だった。
ここで一旦区切ります!続きは次の区切り(関西大会終了後)まで書き終えたら投稿します!お楽しみに!