奏視点
その後、コンクール京都府大会はなんとか突破し、私たちは関西大会に進出した。のだが………
「いや〜、これだいぶギリギリだぞ………」
「危なかったね。」
「課題曲の評価は高いが、自由曲がな………」
「難しいよね………」
なんとギリギリの突破。府大会のギリギリ突破なんて、それこそ強くなる前の北宇治に戻ってしまったみたいだ。奏者自体は上手いのに、それでも吹きこなせないギルガメッシュ。それはまるで、ラスボスのようだった。
そんな事を思っていると、
「おっ、ママ先輩の投稿だ!久々に清良に行ったみたい!」
「そうなんだ。どれどれ………?」
黒江先輩が投稿したSNSの動画を大輝が見せてくれた。どうやら古巣に訪れた様子。再生すると、何か喋ってるのかな?気になったので、再生ボタンを押してみると、池の鯉が泳いでいる動画だったのだが………
「「ヤバっ…………」」
その背後で聴こえてきた演奏に、私と大輝は釘付けになっていた。心を動かされる、圧巻の演奏。綺麗な音色と恐ろしい超絶技巧が波のように押し寄せてくる。曲名はブリュッセル・レクイエム*1で、確かギルガメッシュと同じアッペルモンド作曲の最高難易度グレード6の曲だ。それなのに、この時期にもうこの完成度。ハッキリ言って、異次元だった。
「全国金常連校は、このレベルの曲をここまで仕上げている………」
「こんなところと戦わなきゃいけないんだ………」
「だな………」
そして、このレベルの学校で戦っていた黒江先輩。あの人って本当に凄かったんだな。そして、このレベルの高校と勝負をしなきゃいけない。そんな全国金の厳しさを、改めて実感したのだった。
その後、私たちは関西大会に向けて、練習に励んでいた。そして、今日はなんと低音の中でユーフォだけ、ホルンとの合同パート練という変わった練習をすることになっていた。
「ホルン隊、集まれ!」
「「「「「サー!」」」」」
パートリーダー・屋敷さなえの号令で、何故か軍隊式で集まる彼女たち。元々このパートは、北宇治の中でもどこか不思議な雰囲気と謎のノリを持っていた。
「ユーフォパートに向けて、何か言うことはあるか!」
「はい‼︎」メガネクイ‼︎
「なんだね、
そして、手を挙げたのはホルン1年の眼鏡系男子、相良君。どうやら頭良く見られたいらしく、伊達眼鏡をかけてメガネをクイっとしているらしい。
「僕の計算が正しければ、ユーフォの3人をホルンの7人に足したら、13人になるでしょう‼︎」メガネクイ‼︎
その中身はアホ。大輝より頭悪いまである。
「うん、大体正解‼︎」
正解にすんな。甘やかすな。一桁の足し算だぞ。
「他に何かあるか⁉︎」
「はい‼︎」
「なんだね、荒川大輝君!」
そして、この合同パート練の企画者である大輝までふざけ始めた。コイツ大丈夫か?
「ここにいるホルンパートの女子は、俺の彼女であります‼︎」
大丈夫じゃない‼︎何バカなこと言ってんだよ⁉︎
「違う‼︎それはあそこの久石奏君だ‼︎」
「「それも違う‼︎///」」
「僕の計算が正しければ、2人は付き合っているでしょう‼︎」メガネクイ‼︎
しかもホルンの連中に揶揄われるし‼︎
「「「「相良君の計算が当たった………だとっ⁉︎」」」」
どんな驚き方してんだよ‼︎確かにアホだけどさ‼︎ちょっとくらいは計算当たるだろ‼︎
「アホなことしてないで、早く始めてもらえますぅ〜?」
「では始めよう!」
「「「「「サー!」」」」」
そして、珍しく私たちは華子に救われて、練習を始めたのだった。
その合同パート練では、大輝が主に仕切っていた。
「知っての通り、今回の課題曲と自由曲ではホルンとユーフォが同じメロディーを吹いていることが多い。だから2パートの音色を上手くブレンドさせ、1つのメロディーを聴かせて欲しい!」
「「「「はいよ!」」」」
「まずは課題曲のEから!」
今年は課題曲のEといい、ギルガメッシュの最初のメロディーといい、何かと重要なところでホルンとユーフォがタッグを組む。同じ金管曲管*2同士、息の合った演奏をしなければ‼︎
「ここはどっちも同じ音域だし、なるべく1つの楽器が吹いているように聴こえるようにしよう!お互いをもっと聴いて!」
「「「「はいよ!」」」」
「それじゃあもう一回!おっ、いいじゃん!その調子で‼︎」
「「「「はいよ‼︎」」」」
「よしっ、ここはオッケーだな。次はギルガメッシュの頭のメロディー。ここはユーフォが低音としてホルンを支えて‼︎」
「「「はいよ‼︎」」」
「ついでに女の子は俺を抱いて‼︎」
「「「「いやよ‼︎」」」」
「おい‼︎」
そうして大輝主導の元、途中いつものボケを挟みながらも、その日の練習は無事に進んでいった。
そして、休憩時間のこと。
「あれ?大河のチューナーのストラップって、吉川さんと同じだね。」
「そうなんですよ、辰馬先輩‼︎」メガネクイ‼︎
なんとメガネクイ男子こと相良君のチューナーについてたストラップが、華子のと同じだった。
「長瀬先輩。私が先に買っただけなんで、気にしないでください。」
「あれ?僕の計算が正しければ、僕の真似をしたくて後から買ったような……」メガネクイ‼︎
「はぁ⁉︎ばっかじゃないのばっかじゃないのばっかじゃないの⁉︎///」
「照れてる!可愛いね‼︎」メガネクイ‼︎
「うるさい‼︎///」
しかもこの反応………いや、絶対付き合ってんじゃん‼︎華子が今までに見たことないくらい顔真っ赤だし‼︎嘘でしょ⁉︎絶対タイプじゃないと思ってたんだけど‼︎
「そうなんだ。お幸せに。」
「ち、ちが………///」
「はい‼︎」メガネクイ‼︎
それにしても、これは先輩として、ちゃんと揶揄ってあげないと♪
「ねえねえ華子、なんでそんなに顔赤いのかな?」
「うるさいです‼︎先輩には関係ありません‼︎///」
「ねえねえ、馴れ初めは〜?」
「関係ないですってば‼︎///」
「奏先輩、あんまり他のカップルのこと揶揄っちゃダメですよ!」
「お前が言うな、佳穂。というか漫画描きなよ。華子と相良君で。」
「それは華子ちゃんが可哀想ですし………」
「私はいいのかよ。」
「はい!」
「はいじゃないよ。」
「佳穂先輩〜、マジ天使!ホント頼れるのは佳穂先輩だけですぅ〜!」
「えへへ、ありがとね!」
「そいつ意外と悪魔だよ。」
なんか華子って思ったより可愛いな。子供っぽいというか、生意気な妹みたいで。あと正直、佳穂も大概生意気だ。
「おい大河ァ‼︎俺より先に彼女を作ろうなんて、いい度胸してんじゃねえか‼︎」
「すいません‼︎華ちゃんが可愛かったので、つい‼︎」メガネクイ‼︎
「ちょっ、ばかっ、うるさい‼︎///」
「テメェェェェェェ‼︎」
あと大輝、本当にみっともない。とうとう1年生カップルにも口を出すようになったか。そんなんだから彼女できないのに。私はもちろん大輝みたいな真似はしない。徹底的に華子を揶揄うだけだ。そう思った日だった。