奏視点
私たちは吹部コンクールシーズン唯一の休み期間、お盆に突入した。お盆初日、私は梨々花の家に来ていた。
「お邪魔します。」
「いらっしゃ〜い、奏〜!」
「おや、奏先輩じゃのぅ。くつろいでくだされ。」
「ありがとうございます、小百合さん。」
「おばあちゃんもこっち来て〜!」
「はいよ〜、梨々花〜!」
更にそこには、小百合さんの姿もあった。確か北宇治に進学する時に、梨々花の家に住むことになったらしい。
「あれ〜、大輝君は〜?」
「男子で山登りだって。」
「あら〜、残念〜!寂しい?」
「ちっ〜とも。」
「素直になりなよ〜!おそろのネックレス付けちゃってさ〜!」
「これは先輩方からのプレゼントが被っただけだから。何回も言ったでしょ?」
「そうだっけ〜?」
「小百合さん、梨々花ボケてるみたいです。」
「それは気のせいじゃのぅ〜。」
それにしても、本当に似たもの親子……というかお婆ちゃんと孫だな。ゆるい雰囲気とか口癖とか。まあ、こんなお婆ちゃんだったら梨々花も懐くか。
「おばあちゃんの言う通り!早く告りなよ〜!」
「梨々花の言う通り。早く言うべき事は言わんと後悔するのぅ〜。」
「告白しませんから‼︎///」
にしても、この2人はどれだけ私と大輝をくっつけたいのだろうか。本当に、余計なお世話だ。
小百合視点
最近若い子たちを見てると思い出しますの。あなたとの、あの懐かしい日々を。
私とあなたとの出会いは、確か暑い日のお見合いの時でしたよね?
「初めまして〜。
その時の私は14歳。正直に言うと、あまりお見合いにやる気はありませんでした。まだ若いですし、もう少し自由に遊びたかった………なんて思ってましたっけ。それでこの日も、適当にやり過ごそうと思ってましたの。そしたら………
「ははは、初めまして!けっ、剣崎です‼︎あとっ、
そしたら、あなたはものすごく緊張してましたね。その姿がなんだか面白くて、ちょっと揶揄おうと思っちゃいましたっけ。
「私も言い直しますね〜。吉永です〜。あと、小百合です〜。よろしくお願いしますね〜。」
「真似しなくてもいいのに‼︎///」
「辰五郎さんが可愛らしくて、つい♪」
「かかか、可愛い⁉︎俺が、可愛い………だとっ⁉︎///」
「ふふっ♪」
「あ〜、俺を揶揄ったな〜!許せん!俺の凄さを見せてやる!この後川に来い!特上の魚を釣ってやんよ‼︎」
「それは楽しみですな〜♪」
最初はあなたといるとなんか面白くて、楽しい。それで、しばらく一緒にいることにしましたっけ。そんな軽い気持ちでしたのに、気がつけばあなたのことが気になってしまいましたね。どこか抜けていて、揶揄いやすいのに、
「私、ちょっと疲れましたの〜♪」
「そっか、じゃあ俺の背中に乗れ!ほら!」
「えっ⁉︎ちょ、ちょっと………っ!///」
「それに………こうした方が、花火も見やすいだろ?」
「でも、辰五郎さんが見えにくくなるんじゃ………?///」
「花火見てるよりお前背負ってる方が……いや、なんでもない‼︎///」
「そう………ですか………///」
なんか惹かれてしまう魅力がある。だからか、気がついたら結婚してたような気がします。
結婚してからも、本当にあっという間でした。大地*1と康太*2が産まれて、大きく育って、そして2人とも可愛いお嫁さんを連れてきてくれて、梨々花が産まれて、そして高校生になりましたね。
「おじいちゃ〜ん!おばあちゃ〜ん!私高校生になったよ〜!」
「おお、梨々花はすごいのぅ。」
「高校か。懐かしいのじゃ。楽しかったのぅ!」
「あたしゃ通っとらんけどねぇ〜。」
「通ったらどうじゃ?」
「そうだよ〜!おばあちゃんも一緒に行こ〜♪」
「流石にこの歳では、ちと厳しいのぅ〜。」
「おじいちゃんも〜、おばあちゃんのJK姿見たいでしょ〜!」
「それは………そうじゃな///」
「こらこら梨々花〜、お爺さんを揶揄うんじゃないよ〜。」
「誰が言っとんじゃか!」
こんな日々がいつまでも続くと、思っておりました。
それから1年後のこと。ちょうどあなたに癌が見つかった時でしたね。
「あなた………」
「大丈夫じゃ、小百合。梨々花が大人になるまでワシは死ねん!」
「そ、そうじゃのぅ………」
この時は、なんだかんだあなたなら治して、また元気になると思っておりました。でも、後から冷静に考えると、あなたは80歳。もうそんなに若くなかったのです。
そして、私はそのまま半年後に、あなたと永遠に別れることになってしまいました。
「あなた…………」
呼びかけても、返事がない。もうあなたと会話することもできない。色々充実した日々を送っていたはずなのに、もっと何か言えることがあったんじゃないか。もっと何かできたんじゃないか。梨々花に言われたあの時に受験をしていたら、あなたに女子高生としての姿を見せられたんじゃないか。心の中で、どこか後悔が残ってしまいました。
その後、1人になった私は梨々花たちが住む家に引っ越しました。そして、あなたに見せられなかった高校生の制服姿で、梨々花と同じ高校に通っております。表向きは充実しておりましたが、心の奥底にはぽっかりと穴が空いてしまいました。
「おばあちゃ〜ん!お盆の墓参りなんだけど〜。」
「どうしたのじゃ、梨々花?」
「おばあちゃんはお家で待ってて〜!出来れば制服姿で〜!」
「わ、分かったのぅ。」
そしてそのまま、初盆の時期を迎えました。梨々花に言われるまま、家で待つこと数十分…………
「おばあちゃ〜ん!おじいちゃん連れて帰ってきたよ〜!」
【帰ったぞ、小百合。】
梨々花が持つ提灯の後ろには、なんだか昔のあなたがいるような、そんな気がしました。そして、あなたが亡くなって以降全く聞けなかった声が、なんだか聞こえるような気がしました。
【制服、似合ってるな……///】
「ありがとう……っ!そして、おかえりなさい、あなた///」
それがとても嬉しかったのです。本当に本当に、帰ってきてくれてありがとう。気がついたら涙が止まらなくて、思わず皆をびっくりさせてしまいました。そんな、初盆の初日でした。
奏視点
私は梨々花の家で、線香をあげていた。
「いいの、梨々花?おじいちゃんの初盆に私が来て?」
「いいのいいの〜!私の友達ってことで〜!」
「それに、2人を見てるとなんか思い出すのぅ。」
「何をです?」
「若かった頃のあたしとおじいちゃんじゃ。」
「おお〜‼︎」
「だから付き合ってないですってば‼︎///」
当たり前のことなんだけど、人はいつまでも生きていられるわけじゃない。それに、生と死じゃなくたって、出会いと別れは沢山ある。今の北宇治吹部の皆とも、あと少しでお別れ。そう思うと、ちょっぴり寂しくなった日だった。