たわけ!ドアホ男子   作:スピリタス3世

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練習番号Q いつものオーディション

  奏視点

 

 練習後、私は夕食とお風呂を経て、いよいよオーディションの時間となった。

 

「じゃあ、行ってくるよ。」

「奏先輩、頑張ってください!」

「いや〜、頑張らなくてもいいんじゃないですかね〜。」

「華子はお姉さんの前で恥ずかしい演奏しないようにね。」

「アイツは審査員じゃないですから‼︎」

「あっ、相良君か。」

「大河は関係ないでしょう⁉︎///」

 

 ちなみに外部講師枠で来ている鎧塚先輩と高坂先輩だけは、橋本先生や新山先生と同様に審査員になっている。最早完全にプロとしての扱いだ。大輝もいずれああなるのかと、ふと思った。

 

 

 

 その後、オーディションは無事終了した。6回目ともなると慣れたもので、特に緊張する事なく、いつも通り終えられた。

 

「お疲れ、久石。」

 

 そして、先に終わっていた大輝と遭遇した。

 

「お疲れ、大輝。順調そう?」

「流石に余裕だ。落ちたらケツで笑ってくれ。」

「どうやって笑うの、それ。」

 

 大輝も余裕そうな様子。ソロコンで全国金の男は、流石に格が違うからね。チューバの他の子も上手いけど、大輝と比べると流石に厳しい。無難に2番手や3番手を狙うのが普通だ。

 

「久石は大丈夫か?」

「大丈夫だよ。普段通り吹けた。」

「そっか。」

 

 私も去年とは違って、明確に格上な2人がいない。居るのは同じくらいの華子と、高校から始めた佳穂だけ。だからか、去年よりも落ち着いて臨めたと思う。決して油断はしてないけど。

 

「とりあえず、今夜は俺のナンパに付き合ってくれ。」

「嫌。眠いし寝るよ。」

「ふざけんなよ‼︎俺はお前が居なかったらナンパできねえんだぞ‼︎」

「知らないし。」

 

 それにしても、アホな男だ。どうやら合宿をJKとのお泊まりタイムだと思っているらしい。いずれ捕まるんじゃないかと、不安だ。私も藝大にしようかな?コイツを見張るために。まあ、冗談だけど。

 

「それじゃあ、お休み。」

「おうよ!」

 

 そんな事を思いながら、私は大輝と別れて自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 翌朝、関西大会のオーディション結果が発表となった。

 

「それではこれより、オーディションの結果を発表します。まずはトランペットから。」

 

 昨年同様、関西大会だけは滝先生が発表するようだ。とりあえず、ユーフォの出番はまだだから、しばらく他のパートで誰が受かったかを聞いておくか………

 

 ホルンは今回も5人、コンミスは前回同様義井さん………と、特にびっくりするような起用は無い。順当に上手い人が選ばれてる感じだ。

 

「続いては、ユーフォニアム。」

 

 そんな事を思っていると、私たちの番が来た。順番通りなら、私が最初…………

 

「2年、針谷佳穂さん。」

「はっ…………」

 

 あ、あれ………?私じゃなくて、佳穂?読み飛ばした?

 

「はっ、はい!」

 

 遅れて佳穂が返事をする。あれ?何かの間違い………?

 

「1年、吉川華子さん。」

「はい!」

 

 続いて華子。えっ?嘘でしょ………?

 

「以上、2名です。」

 

 えっ?佳穂と華子………?それじゃあ、私は落選?そんな、嘘でしょ?えっ?確かに華子は上手いけど、佳穂は………あれ?最近かなり上達してたような…………

 

「続いては、チューバ。3年、荒川大輝君。」

「はい。」

「3年、鈴木美玲さん。」

「はい。」

「1年、湊杏奈さん。」

「はっ、はい!」

「以上、3名です。」

 

 もしかして、私…………佳穂に抜かされた…………?

 

 

 

 

 

 オーディションが終わった後も、私はしばらく呆然としていた。

 

「何いつまで座ってるんですか〜?そこ、佳穂先輩の席なんですけど〜。」

「ご、ごめん!」

 

 華子に言われて退き始める。自分の席が無くなった瞬間、改めて落選を実感した。

 

「あの、奏先輩………」

「2人とも、頑張って。」

「はっ、はい!」

「ありがとうございます、久石先輩。」

「あと、華子ちゃんがこっちの席じゃ………?」

「いや、佳穂先輩のが上手いんですからこっちですよ!ねっ♪」

「そ、そうかな………?」

 

 そして、あの華子が初めて佳穂を自分より上手いと言った。あの華子が、だ。もしかして、佳穂の上達に私が気付けてなかった………?いや、上達には気づいていた。でも、ここまでだったとは………正直、微塵も思っていなかった。確かに府大会の前、佳穂の音を華子だと勘違いしたけれど………。あの時、認識を改めるべきだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 去年同様、合奏前に私を心配した大輝が駆けつけてくれた。

 

「久石、大丈夫か?」

「大丈夫。去年と違って、正直混乱のが大きい。だから慰めなくていい。あんまり涙も出てこないし。」

「そうか。」

 

 でも去年と違って、涙が出てこない。悔しいというより、油断したというか、なんで気付けなかったんだというか………

 

「ちなみに、大輝は分かってたの?この結果。」

「3人が横並びになった、とは思ってた。だから誰が選ばれるかは、正直予想つかなかった。」

「やっぱそうなんだ。私だけ感覚おかしかったかも。」

「身近すぎて気付けなかったんだな。」

「うん。」

「それじゃあ、佳穂ちゃんの音をよく聴いてアップデートしてくれ。」

「分かった。」

「それじゃあまた。」

「はいよ!」

 

 私はその事を大輝に話した。すると彼は怒ることもなく、冷静に今後の道を示してくれた。それが本当に、本当にありがたかった。そうして、私は自分の現実を冷静に受け止め、全国で再びコンクールメンバーになれるよう、練習を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 合宿終わりの夜、私の落選を知った他の3年生が駆けつけてくれた。

 

「奏、大丈夫?」

「大丈夫だよ、美玲。自分の現状を知れたし、あとは練習するだけ。」

「奏がいいならいいけど………」

「久石………」

「月永君も頑張って。」

「かなぴ〜、は、さっき言った通り!」

「さつきはさっき一緒に練習したからね。」

 

 そして、ユーフォの2人まで駆けつけてくれた。

 

「奏先輩、あの………」

「佳穂、自分の演奏を誇りに持って。そして、全国の舞台、獲ってきてね。」

「はい!」

「まあ、全国でも私と佳穂先輩のコンビなんですけどね〜♪」

「華子、油断してると叩き落とすから。」

「生憎、1mmも油断してませんから♪」

 

 華子は調子乗ってる風に見えるけど、全然乗ってない。だから次のオーディションでも、全力で挑んでくるだろう。自分と同じ実力のライバルと、いつの間にか抜き去った後輩。この2人を相手に、意地でも全国のコンクールメンバーを勝ち取る。でないと、私はもう、コンクールに乗れないのだから。

 

 

 

 

 その日の夜、私は大輝と一緒にコテージから外を眺めていた。

 

「合宿最後の夜だね。」

「出来れば他の女の子と一緒に眺めたかったんだが………」

「残念だったね♪」

「オーディション落ちたくせに、元気過ぎるだろ。」

「あっ、パワハラだ。ひどっ。」

「よろしい。ならばセクハラだ‼︎」

「もしもし、警察ですか?」

「おい‼︎」

 

 色んな思い出があった合宿。どっちかというと2年連続のオーディション落選で、あんまりいい思い出はないけれど。でも、いつもと違う場所で、いつもと違った時間を、こうして大切な仲間と過ごすことができた。

 

「ねえ、大輝。」

「なんだ、久石?」

「全国の舞台、獲ってきてくれる?」

「もちろんそのつもりだ。最後はお前と吹きたいしな。」

「ありがとう!私も頑張るよ!」

「頼むぜ!」

 

 そして、コンクールもいよいよ最後。もし関西大会で敗退したら、私はコンクールに乗れないまま引退。府大会が最後だった。そんな事がないように、今はただ祈る。そして、全国がもしあるのなら、そこでちゃんと成果を発揮できるように、大輝との最後のコンクールを成功させられるように………ただひたすらに、頑張る。そう誓った、最後の合宿の日だった。

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