たわけ!ドアホ男子   作:スピリタス3世

64 / 64
練習番号Q いつものオーディション

  奏視点

 

 練習後、私は夕食とお風呂を経て、いよいよオーディションの時間となった。

 

「じゃあ、行ってくるよ。」

「奏先輩、頑張ってください!」

「いや〜、頑張らなくてもいいんじゃないですかね〜。」

「華子はお姉さんの前で恥ずかしい演奏しないようにね。」

「アイツは審査員じゃないですから‼︎」

「あっ、相良君か。」

「大河は関係ないでしょう⁉︎///」

 

 ちなみに外部講師枠で来ている鎧塚先輩と高坂先輩だけは、橋本先生や新山先生と同様に審査員になっている。最早完全にプロとしての扱いだ。大輝もいずれああなるのかと、ふと思った。

 

 

 

 その後、オーディションは無事終了した。6回目ともなると慣れたもので、特に緊張する事なく、いつも通り終えられた。

 

「お疲れ、久石。」

 

 そして、先に終わっていた大輝と遭遇した。

 

「お疲れ、大輝。順調そう?」

「流石に余裕だ。落ちたらケツで笑ってくれ。」

「どうやって笑うの、それ。」

 

 大輝も余裕そうな様子。ソロコンで全国金の男は、流石に格が違うからね。チューバの他の子も上手いけど、大輝と比べると流石に厳しい。無難に2番手や3番手を狙うのが普通だ。

 

「久石は大丈夫か?」

「大丈夫だよ。普段通り吹けた。」

「そっか。」

 

 私も去年とは違って、明確に格上な2人がいない。居るのは同じくらいの華子と、高校から始めた佳穂だけ。だからか、去年よりも落ち着いて臨めたと思う。決して油断はしてないけど。

 

「とりあえず、今夜は俺のナンパに付き合ってくれ。」

「嫌。眠いし寝るよ。」

「ふざけんなよ‼︎俺はお前が居なかったらナンパできねえんだぞ‼︎」

「知らないし。」

 

 それにしても、アホな男だ。どうやら合宿をJKとのお泊まりタイムだと思っているらしい。いずれ捕まるんじゃないかと、不安だ。私も藝大にしようかな?コイツを見張るために。まあ、冗談だけど。

 

「それじゃあ、お休み。」

「おうよ!」

 

 そんな事を思いながら、私は大輝と別れて自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 翌朝、関西大会のオーディション結果が発表となった。

 

「それではこれより、オーディションの結果を発表します。まずはトランペットから。」

 

 昨年同様、関西大会だけは滝先生が発表するようだ。とりあえず、ユーフォの出番はまだだから、しばらく他のパートで誰が受かったかを聞いておくか………

 

 ホルンは今回も5人、コンミスは前回同様義井さん………と、特にびっくりするような起用は無い。順当に上手い人が選ばれてる感じだ。

 

「続いては、ユーフォニアム。」

 

 そんな事を思っていると、私たちの番が来た。順番通りなら、私が最初…………

 

「2年、針谷佳穂さん。」

「はっ…………」

 

 あ、あれ………?私じゃなくて、佳穂?読み飛ばした?

 

「はっ、はい!」

 

 遅れて佳穂が返事をする。あれ?何かの間違い………?

 

「1年、吉川華子さん。」

「はい!」

 

 続いて華子。えっ?嘘でしょ………?

 

「以上、2名です。」

 

 えっ?佳穂と華子………?それじゃあ、私は落選?そんな、嘘でしょ?えっ?確かに華子は上手いけど、佳穂は………あれ?最近かなり上達してたような…………

 

「続いては、チューバ。3年、荒川大輝君。」

「はい。」

「3年、鈴木美玲さん。」

「はい。」

「1年、湊杏奈さん。」

「はっ、はい!」

「以上、3名です。」

 

 もしかして、私…………佳穂に抜かされた…………?

 

 

 

 

 

 オーディションが終わった後も、私はしばらく呆然としていた。

 

「何いつまで座ってるんですか〜?そこ、佳穂先輩の席なんですけど〜。」

「ご、ごめん!」

 

 華子に言われて退き始める。自分の席が無くなった瞬間、改めて落選を実感した。

 

「あの、奏先輩………」

「2人とも、頑張って。」

「はっ、はい!」

「ありがとうございます、久石先輩。」

「あと、華子ちゃんがこっちの席じゃ………?」

「いや、佳穂先輩のが上手いんですからこっちですよ!ねっ♪」

「そ、そうかな………?」

 

 そして、あの華子が初めて佳穂を自分より上手いと言った。あの華子が、だ。もしかして、佳穂の上達に私が気付けてなかった………?いや、上達には気づいていた。でも、ここまでだったとは………正直、微塵も思っていなかった。確かに府大会の前、佳穂の音を華子だと勘違いしたけれど………。あの時、認識を改めるべきだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 去年同様、合奏前に私を心配した大輝が駆けつけてくれた。

 

「久石、大丈夫か?」

「大丈夫。去年と違って、正直混乱のが大きい。だから慰めなくていい。あんまり涙も出てこないし。」

「そうか。」

 

 でも去年と違って、涙が出てこない。悔しいというより、油断したというか、なんで気付けなかったんだというか………

 

「ちなみに、大輝は分かってたの?この結果。」

「3人が横並びになった、とは思ってた。だから誰が選ばれるかは、正直予想つかなかった。」

「やっぱそうなんだ。私だけ感覚おかしかったかも。」

「身近すぎて気付けなかったんだな。」

「うん。」

「それじゃあ、佳穂ちゃんの音をよく聴いてアップデートしてくれ。」

「分かった。」

「それじゃあまた。」

「はいよ!」

 

 私はその事を大輝に話した。すると彼は怒ることもなく、冷静に今後の道を示してくれた。それが本当に、本当にありがたかった。そうして、私は自分の現実を冷静に受け止め、全国で再びコンクールメンバーになれるよう、練習を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 合宿終わりの夜、私の落選を知った他の3年生が駆けつけてくれた。

 

「奏、大丈夫?」

「大丈夫だよ、美玲。自分の現状を知れたし、あとは練習するだけ。」

「奏がいいならいいけど………」

「久石………」

「月永君も頑張って。」

「かなぴ〜、は、さっき言った通り!」

「さつきはさっき一緒に練習したからね。」

 

 そして、ユーフォの2人まで駆けつけてくれた。

 

「奏先輩、あの………」

「佳穂、自分の演奏を誇りに持って。そして、全国の舞台、獲ってきてね。」

「はい!」

「まあ、全国でも私と佳穂先輩のコンビなんですけどね〜♪」

「華子、油断してると叩き落とすから。」

「生憎、1mmも油断してませんから♪」

 

 華子は調子乗ってる風に見えるけど、全然乗ってない。だから次のオーディションでも、全力で挑んでくるだろう。自分と同じ実力のライバルと、いつの間にか抜き去った後輩。この2人を相手に、意地でも全国のコンクールメンバーを勝ち取る。でないと、私はもう、コンクールに乗れないのだから。

 

 

 

 

 その日の夜、私は大輝と一緒にコテージから外を眺めていた。

 

「合宿最後の夜だね。」

「出来れば他の女の子と一緒に眺めたかったんだが………」

「残念だったね♪」

「オーディション落ちたくせに、元気過ぎるだろ。」

「あっ、パワハラだ。ひどっ。」

「よろしい。ならばセクハラだ‼︎」

「もしもし、警察ですか?」

「おい‼︎」

 

 色んな思い出があった合宿。どっちかというと2年連続のオーディション落選で、あんまりいい思い出はないけれど。でも、いつもと違う場所で、いつもと違った時間を、こうして大切な仲間と過ごすことができた。

 

「ねえ、大輝。」

「なんだ、久石?」

「全国の舞台、獲ってきてくれる?」

「もちろんそのつもりだ。最後はお前と吹きたいしな。」

「ありがとう!私も頑張るよ!」

「頼むぜ!」

 

 そして、コンクールもいよいよ最後。もし関西大会で敗退したら、私はコンクールに乗れないまま引退。府大会が最後だった。そんな事がないように、今はただ祈る。そして、全国がもしあるのなら、そこでちゃんと成果を発揮できるように、大輝との最後のコンクールを成功させられるように………ただひたすらに、頑張る。そう誓った、最後の合宿の日だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

カリスマチート転生者先輩 in 北宇治(作者:山田太郎)(原作:響け!ユーフォニアム)

カリスマチート転生者先輩を小笠原世代に生やして、早いうちに吹奏楽部を改革します。▼ガールズラブタグは超保険です。必須タグなので入れましたが、殆ど0です。そこを期待している方はすみません。▼テンポ優先のため、アニメで描かれた部分は必要な部分だけ書きます。未視聴の方はアニメを観ましょう。▼原作2年目で完結しました。3年目はあまり書けるパートがなさそうなので、思い…


総合評価:1855/評価:8.49/完結:8話/更新日時:2026年02月20日(金) 20:00 小説情報

世界一幸せな男(作者:トトロのとろろ)(原作:響け!ユーフォニアム)

3年生になり部長になった黄前久美子の前に現れたのは、新入生のサックス奏者だった。ただその新入生の希望する楽器はユーフォニアムだった。そんな新たな仲間達を迎えた北宇治高校吹奏楽部の物語。▼この作品は、アニメ展開を元に原作展開やオリジナル展開を混ぜた話になってます。また一部キャラについては、設定から性格や口調を予想したりしていますが、そもそも性格や口調の予想がで…


総合評価:29/評価:-.--/連載:10話/更新日時:2026年08月10日(月) 10:53 小説情報

いつか途切れた、音の続きを(作者:いつかの音色)(原作:響け!ユーフォニアム)

 中学二年生のあの時、私は間違えた。私の行動一つで部が崩壊してしまうと、あの時の私は知らなかった。そして、私は逃げてしまった。▼ 周囲への気配りが足りなかった。みんなが何を考えているか、なんて全然考えていなかった。何より、心が弱かった。▼ もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。私はもう絶対に、逃げたりしない。▼ ▼△▼ 南中出身、音楽チートの主人公を黄前世代に…


総合評価:3871/評価:9/連載:24話/更新日時:2026年07月26日(日) 21:30 小説情報

響け!元野球部のクラリネットパート!!(作者:桜紅月音)(原作:響け!ユーフォニアム)

中学では野球部だった主人公の工藤浩輔。▼北宇治に入学し、野球部に行くつもりが、気づいたら吹奏楽部に入っていた。▼知識はあるものの、吹部自体は初心者である彼は、無事に吹奏楽部でやっていけるのか▼不定期更新▼*小説タイトル変更有り▼


総合評価:28/評価:-.--/連載:4話/更新日時:2026年06月16日(火) 00:00 小説情報

想いを音色に乗せて(作者:猫柳/nekoyanagi)(原作:響け!ユーフォニアム)

▼ 両親を早くに亡くし、バイトと勉学、音楽の両立に四苦八苦しながら北宇治高校吹奏楽部で己の理想の音色をトランペットで表現しようと頑張る男の子の物語。▼ 原作終了後、大学以降の物語も書きたいなぁと思っております。▼ クロスオーバーは迷っているので念の為です。原作の間に出すことは恐らくないです。▼ キャラタグ一旦消去させていただきます。▼ 青のオーケストラ要素ち…


総合評価:1847/評価:8.96/連載:18話/更新日時:2026年03月09日(月) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>