奏視点
練習後、私は夕食とお風呂を経て、いよいよオーディションの時間となった。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「奏先輩、頑張ってください!」
「いや〜、頑張らなくてもいいんじゃないですかね〜。」
「華子はお姉さんの前で恥ずかしい演奏しないようにね。」
「アイツは審査員じゃないですから‼︎」
「あっ、相良君か。」
「大河は関係ないでしょう⁉︎///」
ちなみに外部講師枠で来ている鎧塚先輩と高坂先輩だけは、橋本先生や新山先生と同様に審査員になっている。最早完全にプロとしての扱いだ。大輝もいずれああなるのかと、ふと思った。
その後、オーディションは無事終了した。6回目ともなると慣れたもので、特に緊張する事なく、いつも通り終えられた。
「お疲れ、久石。」
そして、先に終わっていた大輝と遭遇した。
「お疲れ、大輝。順調そう?」
「流石に余裕だ。落ちたらケツで笑ってくれ。」
「どうやって笑うの、それ。」
大輝も余裕そうな様子。ソロコンで全国金の男は、流石に格が違うからね。チューバの他の子も上手いけど、大輝と比べると流石に厳しい。無難に2番手や3番手を狙うのが普通だ。
「久石は大丈夫か?」
「大丈夫だよ。普段通り吹けた。」
「そっか。」
私も去年とは違って、明確に格上な2人がいない。居るのは同じくらいの華子と、高校から始めた佳穂だけ。だからか、去年よりも落ち着いて臨めたと思う。決して油断はしてないけど。
「とりあえず、今夜は俺のナンパに付き合ってくれ。」
「嫌。眠いし寝るよ。」
「ふざけんなよ‼︎俺はお前が居なかったらナンパできねえんだぞ‼︎」
「知らないし。」
それにしても、アホな男だ。どうやら合宿をJKとのお泊まりタイムだと思っているらしい。いずれ捕まるんじゃないかと、不安だ。私も藝大にしようかな?コイツを見張るために。まあ、冗談だけど。
「それじゃあ、お休み。」
「おうよ!」
そんな事を思いながら、私は大輝と別れて自分の部屋に戻った。
翌朝、関西大会のオーディション結果が発表となった。
「それではこれより、オーディションの結果を発表します。まずはトランペットから。」
昨年同様、関西大会だけは滝先生が発表するようだ。とりあえず、ユーフォの出番はまだだから、しばらく他のパートで誰が受かったかを聞いておくか………
ホルンは今回も5人、コンミスは前回同様義井さん………と、特にびっくりするような起用は無い。順当に上手い人が選ばれてる感じだ。
「続いては、ユーフォニアム。」
そんな事を思っていると、私たちの番が来た。順番通りなら、私が最初…………
「2年、針谷佳穂さん。」
「はっ…………」
あ、あれ………?私じゃなくて、佳穂?読み飛ばした?
「はっ、はい!」
遅れて佳穂が返事をする。あれ?何かの間違い………?
「1年、吉川華子さん。」
「はい!」
続いて華子。えっ?嘘でしょ………?
「以上、2名です。」
えっ?佳穂と華子………?それじゃあ、私は落選?そんな、嘘でしょ?えっ?確かに華子は上手いけど、佳穂は………あれ?最近かなり上達してたような…………
「続いては、チューバ。3年、荒川大輝君。」
「はい。」
「3年、鈴木美玲さん。」
「はい。」
「1年、湊杏奈さん。」
「はっ、はい!」
「以上、3名です。」
もしかして、私…………佳穂に抜かされた…………?
オーディションが終わった後も、私はしばらく呆然としていた。
「何いつまで座ってるんですか〜?そこ、佳穂先輩の席なんですけど〜。」
「ご、ごめん!」
華子に言われて退き始める。自分の席が無くなった瞬間、改めて落選を実感した。
「あの、奏先輩………」
「2人とも、頑張って。」
「はっ、はい!」
「ありがとうございます、久石先輩。」
「あと、華子ちゃんがこっちの席じゃ………?」
「いや、佳穂先輩のが上手いんですからこっちですよ!ねっ♪」
「そ、そうかな………?」
そして、あの華子が初めて佳穂を自分より上手いと言った。あの華子が、だ。もしかして、佳穂の上達に私が気付けてなかった………?いや、上達には気づいていた。でも、ここまでだったとは………正直、微塵も思っていなかった。確かに府大会の前、佳穂の音を華子だと勘違いしたけれど………。あの時、認識を改めるべきだったのかもしれない。
去年同様、合奏前に私を心配した大輝が駆けつけてくれた。
「久石、大丈夫か?」
「大丈夫。去年と違って、正直混乱のが大きい。だから慰めなくていい。あんまり涙も出てこないし。」
「そうか。」
でも去年と違って、涙が出てこない。悔しいというより、油断したというか、なんで気付けなかったんだというか………
「ちなみに、大輝は分かってたの?この結果。」
「3人が横並びになった、とは思ってた。だから誰が選ばれるかは、正直予想つかなかった。」
「やっぱそうなんだ。私だけ感覚おかしかったかも。」
「身近すぎて気付けなかったんだな。」
「うん。」
「それじゃあ、佳穂ちゃんの音をよく聴いてアップデートしてくれ。」
「分かった。」
「それじゃあまた。」
「はいよ!」
私はその事を大輝に話した。すると彼は怒ることもなく、冷静に今後の道を示してくれた。それが本当に、本当にありがたかった。そうして、私は自分の現実を冷静に受け止め、全国で再びコンクールメンバーになれるよう、練習を始めたのだった。
合宿終わりの夜、私の落選を知った他の3年生が駆けつけてくれた。
「奏、大丈夫?」
「大丈夫だよ、美玲。自分の現状を知れたし、あとは練習するだけ。」
「奏がいいならいいけど………」
「久石………」
「月永君も頑張って。」
「かなぴ〜、は、さっき言った通り!」
「さつきはさっき一緒に練習したからね。」
そして、ユーフォの2人まで駆けつけてくれた。
「奏先輩、あの………」
「佳穂、自分の演奏を誇りに持って。そして、全国の舞台、獲ってきてね。」
「はい!」
「まあ、全国でも私と佳穂先輩のコンビなんですけどね〜♪」
「華子、油断してると叩き落とすから。」
「生憎、1mmも油断してませんから♪」
華子は調子乗ってる風に見えるけど、全然乗ってない。だから次のオーディションでも、全力で挑んでくるだろう。自分と同じ実力のライバルと、いつの間にか抜き去った後輩。この2人を相手に、意地でも全国のコンクールメンバーを勝ち取る。でないと、私はもう、コンクールに乗れないのだから。
その日の夜、私は大輝と一緒にコテージから外を眺めていた。
「合宿最後の夜だね。」
「出来れば他の女の子と一緒に眺めたかったんだが………」
「残念だったね♪」
「オーディション落ちたくせに、元気過ぎるだろ。」
「あっ、パワハラだ。ひどっ。」
「よろしい。ならばセクハラだ‼︎」
「もしもし、警察ですか?」
「おい‼︎」
色んな思い出があった合宿。どっちかというと2年連続のオーディション落選で、あんまりいい思い出はないけれど。でも、いつもと違う場所で、いつもと違った時間を、こうして大切な仲間と過ごすことができた。
「ねえ、大輝。」
「なんだ、久石?」
「全国の舞台、獲ってきてくれる?」
「もちろんそのつもりだ。最後はお前と吹きたいしな。」
「ありがとう!私も頑張るよ!」
「頼むぜ!」
そして、コンクールもいよいよ最後。もし関西大会で敗退したら、私はコンクールに乗れないまま引退。府大会が最後だった。そんな事がないように、今はただ祈る。そして、全国がもしあるのなら、そこでちゃんと成果を発揮できるように、大輝との最後のコンクールを成功させられるように………ただひたすらに、頑張る。そう誓った、最後の合宿の日だった。