奏視点
合宿が終わってからというもの、私は大輝と過ごす時間が減った。
「かなぴ〜、寂しい?」
「一緒には練習したかったけど、仕方ない。」
「そっか!」
「他はむしろ今の方がいいかな?」
「素直になろうよ〜!」
「何回も言ってるでしょ。素直素直。」
代わりに、さつきと過ごす時間が増えた。彼女も私と同じく、オーディションに落ちたからだ。
「とにかく、練習しないと。気がついたら府大会が最後だった、とか嫌だし。」
「そうだね!私たちはまだ何回かコンクール出たからいいけど………」
「まだ1度も出てない3年生もちらほらいるね。」
「やる気無くしてる子も出てきた気がする。」
そして、ここに来てとうとう直面した問題。一度もコンクールに出られない3年生が10人くらいいるということだ。去年までの先輩方はなんだかんだ、皆1回は出てた。加藤先輩だって最後にギリギリ間に合ったし。だが、今年はそうはいかない。ただでさえ人数が多い上に、上手い後輩に席を取られがちだ。特に1年生を少数精鋭にしたがために、1年生に3年生が蹴落とされるなんてことも、よく起きていた。
「でも、思い出作りでコンクールに乗せましょう、なんて私は言えないよ。」
「そんなの私も言わないよ!ただ、皆、頭では分かってるんだけどね………」
「気持ちの問題で、割り切れないところはあるよね。」
北宇治は実力主義だから、コンクールにずっと乗れなくてもしょうがない。でもしょうがないで割り切れるほど、適当な練習をしてきたわけじゃない。感情との折り合いをつけるのは、やはりどうしても難しい。
「とりあえず、副部長の私が背中で示さなきゃ。最後まで諦めないぞ、って。」
「私も一緒にやるよ〜!」
「ありがとう、さつき。」
「いえいえ〜。」
正直、この問題の解決策は全然思いつかない。下手に次があると言っても、次確定でメンバーになれるわけじゃない。去年の大輝みたいに上手い人が倒れたらなれるだろうけど、そんなの望んでいいわけがない。幸い、北宇治にはそれをする人は居ないけど。
その日の練習の帰り、私はいつも通り幹部3人で歩いていた。
「奏〜、大輝君をど〜ぞ♪」
「要らない。捨てといて。」
「おいこらカス石ィ‼︎」
こうして練習終わりに歩くのも、長くても1ヶ月半。早くてあと2週間だ。3年生の9月、もうそんなところまで来てしまった。
「ねえ奏〜、サポートメンバーの3年生は大丈夫そうかな〜?」
「大丈夫、と言われると素直にうんとは言えないかも。」
「やっぱり皆、落ち込むよね〜。」
「でも、確実に解決できる方法が無いし………」
「本人たちには頑張ってもらうしかねえな。」
そして、例の3年生問題。梨々花もそれを気にしていた。そして、誰1人解決策が思い浮かばない。脳筋じゃない私でさえ、気合と根性で乗り切ることが最善策だと思ってしまうくらいに。
「どうしよ〜。まだ全国あるよ〜、ってしか言えないし〜。何か考えないと………」
「いや、俺と久石で考えようか?りりりんは正直、ソロのことを優先して欲しい。」
「梨々花のソロ、そんなにダメなの?」
「ダメじゃないが、オーボエの2人が一皮剥けると一気に変わってくる。それこそ、全国出場の当落線上から、全国金が見えてくるほどに。」
「そうなんだよね〜。」
更に、部長の梨々花自身が追い詰められてる。部長としての仕事、難関大進学に向けた勉強、そして超重要な、曲を締めくくるソロ。
「こんな事、他のみんなには言えないんだけどさ〜。」
「何?」
「私、オーディションに落ちることも、ソロから逃げることも許されないんだよね〜。それもそれで、わがままなんだけど、ちょっと大変で………」
オーディションに落ちる悲しみもあれば、絶対に受かってしまう、言い換えると逃げられない苦しみもある。そんな複雑な上に誰にも話せないような心情を、梨々花は抱えていた。
「そう思っても仕方がないと思うぞ。実際に今回は負担がデカすぎる。マジで、ギルガメッシュがラスボスだな。」
「北宇治生活、最後の関門だね。」
「逆に〜、ラスボスを倒せばゲームクリアって思うと〜、なんかいけてきたかも!」
「単純か!」
ギルガメッシュという難曲。私たちもエンキドゥみたいに和解して、仲良くなれる日は来るのだろうか?5ヶ月経っても、そう思わざるを得なかった。
「まあ、りりりんは吹っ切れてもいいんじゃね?」
「あの怒った時みたいに〜?」
「そう。演奏で吹っ切れるというか………」
「鎧塚先輩も実際そうだったしね。」
「お〜!それなら、本人に聞いてみるよ〜!ブチギレるコツを!」
「違う、そうじゃない。」
とりあえず、関西大会は梨々花の覚醒に期待するしかないか。祈ることしか出来ないことが、今は不甲斐ない。だって関西大会のコンクールメンバーじゃないのだから。
「それと〜、サポートメンバーの3年生にはなんて言おうか〜?」
「ありきたりだけど、まだ諦めるな、とか?」
「最後の意地を見せろ、とか?俺たちらしからぬ根性論だな。」
「でもまあ、それしかないでしょ。それから大輝が特別メニューを考えるとか?」
「悪いが、現実的な実力差があって、俺が特別メニューを組んだとしても、全国も厳しい人は何人もいる。口には出さないけど。」
「それを黙って、励ますのか〜。う〜ん。」
「とりあえず、私はさつきと一緒に、背中見せることにしてる。最後まで諦めないように。」
「ありがと〜、奏!それでお願〜い!」
そして、相変わらず解決しない、一度もコンクール乗れない3年生がいる問題。解決しないというか、もはや出来ないのかもしれない。ただ現状、幹部3人の中でなんとかできるとしたら、同じサポートメンバーの私だけだ。
「まあ2人とも、それについては任せておいて。」
「は〜い!」
「俺たちは全国出場を獲ってくるぞ。」
「うん、お願い。」
ということで、私はその役割を引き受けた。
そして、私が最後に頼ったのは…………
「サポートメンバーの皆、聞いて。」
「「「「はい!」」」」
「まだ私たちには全国がある。彼らは獲ってきてくれる。必ず次の舞台を。だから諦めないで。」
根性論だった。私はサポートメンバーでの合奏で、練習前にこう口にした。
「他のみんなは自分より上手いかもしれない。もしかしたら、全国のオーディションでも勝てないかもしれない。でも、急激に成長する人だっている。本当に信じられないくらいに。例えばユーフォ2年の針谷さんとか。現に私はその人に落とされて、今ここにいる。でも、諦めるつもりは全くない。次が最後なんだから。最後くらい自分の手で、全国金を掴みたいんだから。ねえ、まだ終わってないでしょ?こんなもんじゃないでしょ?じゃあ頑張ろうよ!最後の悪あがき、してみよう!」
「「「「「はい!」」」」」
本当にらしくもない。むしろ現実を見て諦めることを推奨することが多いのに。私をこうしたのは、ひとえに北宇治の雰囲気かもしれない。ここに来てから、私は変わったのかもしれない。そんなことを思った日だった。
それから2週間があっという間に過ぎ去り、いよいよ関西大会当日がやってきた。
次の関西大会の話が終わったら、また区切ります。