奏視点
大輝が倒れた………?嘘でしょ………?
「かなぴ〜、大丈夫⁉︎」
「だっ、大丈夫大丈夫。きゅ、救急車は呼んだ⁉︎」
「会場の人が呼んでくれたよ。今から出るとこ!大輝君のお父さんと松本先生が同乗してるかな………」
「私も乗れるかな⁉︎」
「奏〜、落ち着いて〜。救急車に4人は無理だよ〜。」
「でも…………っ!」
そんな、なんで…………?調子悪かったって、そんな、倒れるほどだったの?普通に元気にしてたじゃん?しかも今回は交通事故とかじゃないし………。そんな、急過ぎるって………
「久石さん、居ましたか。」
「はい。」
そんなことを思っていると、滝先生が慌てて私のところへ駆けつけた。
「今から荒川君のお母さんが車で向かうそうです。久石さん、同乗しますか?大輝君もあなたがいてくれた方が嬉しいはずです。」
どうやら私も行けるみたい。今はとにかく隣に居たい。早く大輝の状況が知りたい。
「お願いします!」
「分かりました。」
「奏〜、行っておいで〜。片付けは部長に任せとけ〜!」
「ありがとう、梨々花。」
「かなぴ〜、お願いね。」
「「大輝を頼んだ。」」
「分かった!皆ありがとう!」
梨々花や他のみんなは快く私を送り出してくれた。皆、ありがとう。私が必ず大輝を連れて帰ってくるから。そう心に誓い、私はホールを旅立った。
その後、私は大輝のお母さんの車で病院に行き、そのまま手術室へと辿り着いた。
「荒川さん、お疲れ様です。そして久石、お疲れ。」
「お疲れ様です、松本先生に大輝のお父さん。」
「奏ちゃん、来てくれてありがとねぇ。」
そこには、救急車で同行していた松本先生と大輝のお父さんが待っていた。2人の表情からは焦りが見えており、そこから大輝があまり良くない状態だと察することができた。
「いえいえ!それで、大輝の方は………⁉︎」
「恐らく、急性のくも膜下出血らしい。今手術中だ。」
「「えっ………?」」
急性のくも膜下出血。まだ高校生なのに、そんな事があるのか。でも、どうして大輝なの?そんなに身体弱かったわけじゃないよね?健康診断でも特に何も言われてないよね?そんな、なんで急に………?
「家でも変わった様子はありましたか?」
「いや、そんな事は無いんだけどね………」
「あの子、特に頭痛持ちでも無かったのに………」
「松本先生。ちなみに、倒れる直前は………?」
「猛烈な頭痛からそのまま倒れ込んだんだ。そばにいた月永とアルトの鈴木*1が伝えてくれた。」
「そう………ですか………。ありがとうございます。」
「ちなみに、手術の成功率は2/3。ただその半分で後遺症が残るって言われてな………」
更には大輝のお父さんから告げられる、衝撃的な事実。そんな、嘘でしょ………?大輝が………死ぬ?そんな、なんで、どうして………?さっきまで普通に笑ってたじゃん?ねえ、返事をしてよ?お願い、大輝………!こんな事になるなら、もっと色んなことをしておけばよかった。もっと色々喋っておけばよかった。心なしか、お盆の時の小百合さんの言葉が思い浮かんでしまった。
「大輝…………」
冷たい扉の向こうで、大輝が生死を彷徨っている。そして、こんな時に思い出す。
大輝と初めて会ったのは、中学に入ったばかりの時だったなぁ。
「ねえ、君可愛いね!俺の彼女にならない?」
気持ち悪い顔でニヤリと笑う君は、本当に頭がおかしいのかと思った。もちろん、私の答えは決まっていた。
「いえ、結構です。」
「嘘だろ⁉︎なんでだ⁉︎」
そしたら信じられない、といった雰囲気で返事をしてきた。どうやら、よほど自分に自信があったのだろう。その見た目でよくそう思えたのだと、感心した記憶がある。とりあえず、適当に社交辞令でも言ってあしらうか。そう思った私だったが………
「私よりもいい人がいっぱいいると思うので、是非そちらの人に声かけてください。」
「マジか⁉︎やっぱ俺はイケメンだったんだな‼︎よしっ、次はもっと可愛い子に行こう‼︎」
なんだが無性に腹が立ってきた。なんだよその言い草。もはや誰でもよかったじゃんか。だからか、つい皮肉を口にしてしまった。
「まあ、どうせ失敗すると思いますけどね。」
「はぁ⁉︎何言ってんだお前は⁉︎どう見ても可能性の塊だろ⁉︎」
「はいはい。それじゃあ頑張って。私は応援しないけど………」
「お前なぁ………ホント性格悪いな‼︎」
「アンタには言われたくない。」
そこから、私と大輝の喧嘩生活は幕を開けた。目が合えば喧嘩し、また揶揄い、揶揄われ、そんなこんなで中学の吹部生活を過ごした。なんでこんな奴と出会ってしまったんだ。この時はそう思ってた。
そして、中2のコンクールの終わりのこと。実力主義を謳う学校だったので、当時そこそこ上手かった私は先輩を押し退けてメンバーになった。しかし、コンクールでは結果が振るわなかった。先輩たちのために一生懸命頑張ったからこそ、その事実が悔しかった。のだが………
「こんなんなら、久石じゃなくて明美をコンクールに乗せればよかった〜!」
「それな〜。どうせダメだったんだし、3年生が出るべきだったっしょ。」
あろうことか先輩方は、私をコンクールに出したことを非難し始めた。嘘でしょ?それじゃあ私、頑張らない方がよかったの?それがショックで、流石の私でも落ち込んだのを覚えている。
だが次の瞬間………
「おいおい、ちょっと待って下さいよ〜⁉︎俺たち全国目指してたんじゃないんですか⁉︎それなのに、そんな思い出作りのためだけに、上手い久石を押し退けて下手な明美先輩を乗せたら、やってることチグハグじゃないっすか〜?」
大輝がものすごい勢いで、そして大声で先輩方に毒づき始めた。あまりに急だったので、私もびっくりしてしまった。しかもその先輩は、大輝がいつもナンパしてる先輩方だった。
「はぁ⁉︎荒川、アンタ口の利き方がなってないわよ⁉︎」
「それに、私たちは負けて落ち込んでるのに〜。」
「落ち込んでるなら久石に当たらないで下さいよ!アイツ確かに性格は悪いけど、先輩達のために頑張ったんですよ⁉︎それをなに、結果が出なかったら思い出作りを優先させた方がいいって………アホですか?アホですよね!」
「「はぁ⁉︎」」
「ちょっと大輝、落ち着いて………っ!」
とりあえず、大輝を宥める事にしたけど………。彼の怒りは、全然収まらなかった。
「まあ、そんな人らは居なくなるからオッケー!明日からは俺が本物の全国を目指すバンドを作りますわ〜♪とにかく………次久石のせいにしたら、OGとして来ないで下さいね♪」
「「言われなくてもそうするよ!」」
こうして、大輝は当時の3年生に火の玉ストレートをぶち込んだのだった。そのせいか、先輩方の涙は引っ込み、ただ黙るだけとなったのだった。
その日の帰り、大輝は私に話しかけてくれた。
「久石、スッキリしたか?」
「………多少は。」
「そっか。」
その優しい笑顔に、私は初めて大輝にもいいところがあるのだと、思ってしまったのだった。そしてその日以降、無意識に大輝を見つけたら側に寄り、話しかけることが増えていった。口や気持ちでは嫌々言いながらも、身体は自然と彼の近くに寄っていた。そんな私の状態を、梨々花たちは気づいていたのかもしれない。
そんな彼は、今生死を彷徨っている。まだ高校生だというのに、急性のくも膜下出血になるなんて。ねえ神様、お願い。大輝を生かして。まだアイツには、やりたいことがあるの。アイツには夢があるの。私や他のみんなと一緒に、全国金を獲るという。
そして大輝へ。お願い、生きて戻ってきて。そしてまた一緒に楽器を吹こう。一緒に過ごそう。たわいのない馬鹿話をして、お互い貶しあって助け合って、生きていこう。こんなところで終わりなんて、あんまりだよ。もっと話したいこと、色々あったのに………
病状はネットの記事と、プロ雀士の浅井堂岐さんが倒れた時の記事を参考に書いてます。