一之瀬と別れてから数分。俺と軽井沢は、ケヤキモールへ続く並木道を並んで歩いていた。
「…………」
「…………」
気まずい。
控えめに言って、めちゃくちゃ気まずい。いや、そりゃそうだろ。だって俺と軽井沢だぞ?同じクラスだった期間は長い。
もう丸二年の付き合いになる。でも、本当に「それだけ」だ。クラス内の立ち位置で言えば、軽井沢は完全に一軍女子。女子グループの中心に君臨し、陽キャ側の空気を支配しているタイプだ。一方の俺はというと……三軍? いや、四軍寄りというか、そもそも「軍」という括りに入れているかどうかも怪しい部類だ。
高一の入学当初、クラスの隅っこで地味な男子グループとバカな話ばかりしていた頃の記憶が、不意に脳裏をよぎる。あの頃の俺といえば、思春期真っ盛りの妄想力だけは無駄に一人前だった。「スクールカースト最上位の一軍女子と、一回でいいから一緒に帰れたらなぁ」なんて、今思い返しても吐き気がするくらい気色悪い妄想を本気で膨らませていた時期があったのだ。当時の俺が脳内で描いていた「一軍女子との帰り道」なんて、そりゃもう絵に描いたような青春の1ページだった。
「ねえねえ和泉くん、今日の小テストどうだった〜?」
「全然ダメ。そっちは?」
「私もヤバい〜! 補習になったら一緒に受けてあげるね笑」
……みたいな、キャピキャピとした甘酸っぱい会話を交わしながら、ケヤキモールで新作のフラペチーノでも買って、くだらないことで笑い合いながら歩く――そんな少女漫画かドラマみたいな展開だ。健全な思春期男子なら誰しも一度は通る病気みたいな妄想である。
....そうだよね、通るよね?(震え声)
だが、現実は甘くない。甘いどころか、劇薬レベルで辛口だった。まさか3年生になって、こんな地獄みたいな形で伏線が回収されるなんて聞いてない。神様がいるとしたら、願いの叶え方が壊滅的すぎるだろ。
今の俺たちの間に流れているのは甘酸っぱい青春の空気などでは無い。あるのは失恋直後特有の重苦しい沈黙と、いつ地雷を踏むか分からない緊張感だけだ。
若干斜め後ろを歩く軽井沢からは触れたら切れるカミソリみたいな悲壮感が漂っている。会話のラリーどころか、お互いに視線すら合わせられない。思い描いていた青春のCMみたいな光景と現在進行形で繰り広げられている通夜のような帰り道。理想と現実のギャップが凄すぎて、脳の処理が追いつかない。叶うならもっとマシなシチュエーションで叶えてほしかったし、もっと平和な空気で実現してほしかった。
やっぱり、男子高校生の妄想なんて碌なもんじゃないなと、俺は夕暮れの影を落とす並木道で、一人切なく身にしみていた。そんなクラスメイトというより、“たまたま同じ空間に生息している別の生き物”くらいの距離感だった二人が今、夕暮れの重苦しい空気の中で並んで歩いている。
人生って何が起きるか本当に分からんな。
俺は何か会話をするべきか悩んだ。でも、ここで下手なことを言ったら絶対に事故る。『元気出せよ』とかは論外だろ。軽い、あまりにも軽すぎる。だからといって、深刻そうに気遣うのも違う。俺はそういう、人の繊細な心に寄り添えるようなタイプじゃない。
その結果が、これだ。
「…………」
「…………」
ひたすらに続く沈黙。この空気、たぶん周囲から見たら“今まさに泥沼の別れ話を終えたカップル”くらい気まずいことになっている。なんで俺がこんな目に……綾小路、お前ほんと後でなんか奢れ。そんなことを頭の中で愚痴っていた、その時だった。
――ぐぅぅ〜……
「…………」
「…………」
静かな道に、あまりにも分かりやすい腹の音が鳴り響いた。夕焼け空に虚しく溶けていったその音の出処を確認しようと、俺がゆっくり隣を見ると、軽井沢はピタリと歩みを止めて固まっていた。
耳が真っ赤になり数秒のフリーズの後。
「……今の、聞かなかったことにして」
「……出来る限り努力する」
「絶対に忘れて」
「いや流石に……無理があるだろ」
「うっさい……っ」
軽井沢が小さく睨んでくる。ただ、いつものような鋭いキレはない。どっちかというと、“恥ずかしくて必死に威嚇している猫”みたいな感じだった……いや、猫に失礼か? というか軽井沢に失礼か。
「今日、なんも食ってないのか?」
「……別に」
「その返しで『食ってる』奴はいないと俺は思っているんだが」
「…………」
図星らしい。軽井沢が気まずそうに視線を逸らす。
「コンビニ寄るか?」
「いや、別にいいし」
「腹鳴らしてた人のセリフじゃないだろ」
「うぅ……」
軽井沢は不満そうな顔をしながらも、それ以上の拒否はしなかった。俺はそのまま、近くのコンビニへ向かって歩き出す。ケヤキモール内のコンビニは夕方ということもあって、そこそこ人がいた。制服姿の生徒たちが飲み物を選んだり、立ち読みしたりしている。
そんな中、俺と軽井沢が並んで入店した瞬間。
「…………」
なんか、やたらと周囲からの視線を感じるんだが?
気のせいか? いや気のせいじゃないなこれ。客観的に見たら、スクールカースト上位のギャルと地味男子の組み合わせだ。違和感しかないんだろう。俺はなるべく周囲からの視線を見ないように努めながら、コンビニのサンドイッチコーナーの前で立ち止まった。
「何食う?」
「え、自分で払うし……」
「俺が奢る」
「……なんで?」
「……その...なんか俺の後味が悪い」
「なにそれ……」
軽井沢が呆れたように小さく笑う。 でも、その笑い方は、さっきまで見せていたあの痛々しい張り詰め方よりは、ほんの少しだけ自然だった。それだけで、割高なコンビニ飯の代金を払う価値はあると思えた。
「……じゃあ、これ」
軽井沢が遠慮気味に手を伸ばしたのは、定番のミックスサンドと紙パックのレモンティーだった。 カゴに入ったその二つがあまりにも控えめで、俺は思わず聞き返す。
「それだけでいいのか?」
「……食欲、あんまりないし」
「そうか……悪い。無神経過ぎた」
「……別に」
軽井沢は小さく首を横に振ったが、俺は密かに胃のあたりがズシリと重くなるのを感じ、己の配慮の無さを痛烈に自覚させられた。 恋人と別れた直後だぞ。ショックで喉を通らないどころか、人によっては何日もまともに食事ができないことだってある。さっき腹が鳴ったからといって、普通にバクバク食える状態とは限らないのだ。
そんな当たり前のことすら頭が回っていなかった自分に嫌気が差す。やっぱり俺は、こういう繊細な人の心に寄り添うのにはまったく向いていない。改めてそう思い知らされて、小さく心の中で溜息をついた。
気まずさを誤魔化すように、俺は棚から自分用にマウンテンデューを掴み取り、レジへと向かう。手早く会計を済ませた後、店内奥にあるイートインスペースへ移動した。 表の並木道が見渡せる窓際のカウンター席。席はいくつも空いていたから適当に端の席に腰を下ろす。
軽井沢は少し離れた席に座るだろう――そう高を括っていたのだが、彼女は何故か一つ席を空けるでもなく、ごく自然に俺のすぐ隣の席を引き、静かに腰を下ろした。
隣からかすかに漂う柑橘系の甘い香りと、伝わってくる微かな体温。 俺が密かに動揺しているのにはまるで気づいていない様子で、軽井沢は手元に落とした視線のまま、静かにミックスサンドの袋を開け始めた。
小さく口を開け、一口。もぐもぐと咀嚼し、そして数秒後。
「……美味し」
ぽつりと漏れたその声は、心の底からの実感を伴っていた。本当に何も食べていなかったのだろうか。むしろ三日くらい絶食してたのでは?そんな失礼な疑問さえ湧いてくるほどの、幸せそうな、そしてどこか安堵したような顔。
俺は無言でマウンテンデューのプルタブを開けながら、このわけのわからない非日常の放課後が、もう少しだけ続くことを受け入れかけた瞬間...
(……いや、なんで隣??)
席なら他にもガラガラに空いている。四人がけのテーブル席だって空いている。なのに彼女は、当たり前のような顔で俺の左隣に収まっていた。チラリと横目に視線を滑らせると、軽井沢は小さく口を開けてサンドイッチをハムハムと食んでいる。いつもならバッチリ決めているはずの強気なギャルのメイクも、今日は心なしか控えめで、どことなく無防備だ。
そこで、ふと俺の脳内で客観的な事実が急速に整理され始めた。
1 軽井沢恵は今や3年生の誰もが知る、有名人、綾小路と別れたばかり。
2 メンタルボロボロで絶望的なダメージを負っている失恋直後の女子が一之瀬という修羅場に突入。
3 そこに現れた、今までロクに話したこともない同クラスの男子(俺)が修羅場から強引に連れ出し、「帰るぞ」と手を差し伸べ(そこまで格好良くはない)
5 コンビニで「俺が奢る」とか言って飯を奢り、夕暮れのイートインで、肩が触れ合う距離で並んで座っている……。
……ん?
あれ、傷心中の軽井沢に漬け込もうとしてる最低野郎になってね俺?
脳内で警報が鳴り響いた。
待て待て待て! 違う! 全然違う! 俺はただ! ハンカチを届けようとして事故に巻き込まれて! 途中でお腹が鳴ったクラスメイトに助けただけで!決して弱っている女子の心の隙間にぬるっと入り込もうとする下心があったわけじゃない!
だが、客観的な絵面で見たらどうだ? 「失恋して落ち込んでいる一軍女子に、ここぞとばかりに接近してご飯を奢り、優しい言葉をかけて距離を詰めようとしている卑しい男子」以外の何物でもないだろこれ!!
もし今この瞬間、クラスの連中や他の生徒が店に入ってきたらどうなる?
冤罪100%のヒソヒソ話が校内を駆け巡る未来が、容易に脳裏に浮かんだ。
「……なに?急に固まって」
隣から不思議そうにこちらを覗き込んでくる軽井沢の視線を感じた。サンドイッチを口に咥えたまま、くりっとした瞳が俺を捉えている。
「……いや。なんでもない」
「ふーん...」
俺はダラダラと背中に嫌な汗をかきながら、冤罪の恐怖を振り払うように、マウンテンデューを喉へ勢いよく流し込んだ。
よし、帰ろう。
俺は脳内CUPが高速で弾き出した結論に従い、まだ半分以上残っているマウンテンデューを手に取って立ち上がろうとした。ただでさえ一之瀬の件で寿命を削られたのだ。これ以上、無用な冤罪を被って殺傷能力の高い視線を浴びたくない。俺が荷物を抱えて席を立とうとした、その時だった。
「……待って」
袖口を、キュッと小さく引っ張られた。振り返ると、軽井沢がサンドイッチを噛みしめたまま、上目遣いで俺を見ていた。
「……最後まで付き合ってよ。途中で放置して逃げるとか、マジで意味分かんないんだけど」
「いや、俺にも命の危険が……」
「意味不明な理由で逃げないで」
いつもの強気な語尾に混ざる、かすかな震え。それを見せられたら、もうダメだ。俺の中の数少ない良心が「ここで見捨てたら人として終わるぞ」とブレーキをかけてくる。
「……分かった」
俺は渋々硬い椅子に腰を落とし直した。 マウンテンデューの缶をコトンとテーブルに置き、諦めを込めて背もたれに体重を預ける。それからしばらく静かな時間が流れた。 窓の外ではオレンジ色の夕暮れが少しずつ薄紫色の夜へと溶けていく。コンビニのイートインコーナー特有の独特な静けさの中、軽井沢がぽつり、ぽつりと話し始めた。
「……噂、聞いたでしょ?」
「噂?」
「私がき...綾小路君を振ったってやつ」
「あー……まあ、耳には入ってるな」
「……嘘よ。そんなの」
軽井沢はレモンティーのストローを指先でいじりながら、自嘲気味に目を伏せた。
「アンタはもう察してるから話すけどコッチから振るわけないじゃん……振られたの」
ポツリとこぼれ落ちた言葉には、隠しきれないほどの痛みと未練が詰まっていた。
……やっぱりな
俺は心の中で静かに納得した。 噂を聞いた時からうっすら違和感はあったが、今の姿を見れば一目瞭然だ。振った側の人間が、こんなに擦り切れた顔をするわけがない。別れを切り出したのは、間違いなく綾小路の方だ。
あいつは、いつからかクラスの移籍計画を進めていて、その過程で軽井沢との関係も「清算」したんだろう。効率的で、冷酷で、一切の躊躇がない……相変わらず底知れねぇ奴だ。
それ以上に、俺の中で驚きだったのは軽井沢の反応だった。声を聞いているだけで伝わってくる。軽井沢は綾小路のことを、心から好きだったんだと。ただの強がりなギャルでも、地位を守るための都合の良い依存関係でもなく、一人の男として、愚直なくらい一途に愛していたのだ。
自分が思っている以上に、この軽井沢恵という女子は、繊細で、純粋で、一途だった。
……俺の中の軽井沢のイメージが、音を立てて崩れていった。なにせ俺にとっての「軽井沢恵」の初期印象なんて、最悪以外の何物でもなかったからだ。
思い出してみろ一年生の四月を。 入学ボーナスとして支給された10万プライベートポイント。 普通の感覚なら「毎月10万ももらえるのか!」と浮かれつつも、多少は計画的に使うか、あるいは様子を見るだろ? なのにこいつは、わずか一ヶ月で10万ポイントをキレイさっぱり使い切ったのだ。
しかも、ポイントが尽きて足りなくなったらどうしたと思う? なんと女子グループの中心に居座り、「足りないから頂戴~」みたいなノリで、周りの女子たちからポイントを集りまくっていたのだ。それも申し訳なさそうにするならまだしも、超絶強気な態度で。
あの当時の暴君ぶりと言ったら俺は「うわ、関わりたくねぇ……」と本気で引いていたのだ。地味に思い返しても思うのだが、あの時の軽井沢の蛮行が「まあ女子だしな……」でなんとなく流されていたのが不思議で仕方ない。
これがもし男だったら絶対に許されていないぞ。10万使い切ってクラスメイトに集る威圧的な男なんて、即効でハブられて絶縁確定案件だろ。女子補正って恐ろしいなとつくづく思う。
そんな「最恐のギャル」だったはずの存在が今、俺の隣で、たった一人の男に心を砕かれて、消えそうな声で泣きそうになっている。それから彼女は、自分がかつて中学時代に受けていた壮絶ないじめの過去、そしてそれを隠すために平田の彼女となり、最終的に綾小路に救われ、それに惹かれて付き合い、別れるに至った経緯を静かに語り出した。あの強気な態度もその裏返しだったのは流石に驚いた。
軽井沢の横顔はあまりにも小さくて、儚かった。ただ、
「お前がそこまで真剣に誰かを好きになれたってこと自体は、別に間違ってないんじゃないか……知らんけど」
柄にもないことを言ってしまって、俺は猛烈に恥ずかしくなり、そっぽを向いた。軽井沢は一瞬だけ目を丸くして、それから、ふっと本日一番柔らかい笑みを浮かべた。
「……なにそれ。『知らんけど』って責任放棄しないでよ」
「俺は恋愛カウンセラーでも何でもない」
「ほんと、アンタって面白いわね」
軽井沢はレモンティーを一口飲むと、「ごちそうさま」と小さく呟いた。さっきまでの消えそうな空気は少しだけ和らぎ、そこには傷つきながらも前を向こうとする、一人の女の子の姿があった。
……まあ、ハイエナ野郎だと誤解されるリスクを冒してまで残った甲斐は、ほんの少しだけあったのかもしれない。俺は残り少なくなったマウンテンデューを飲み干しながら、これ以上この学校の女子の「重いドラマ」に巻き込まれないことを切に祈る。
俺は空になったマウンテンデューの缶を指先で弄びながら窓の外へ目を向けた。 すっかり陽は落ち、ガラス越しに見える街灯がぽつぽつと灯り始めている。コンビニの時計を見れば、もうすぐ19時になろうとしていた。
「そろそろ帰るぞ。これ以上遅くなると、『女子と夜まで二人でコンビニにいた』って噂が一人歩きする」
「……あ、うん。そうだね」
軽井沢はレモンティーのパックを小さく折りたたみながら、大人しく立ち上がった。 さっきまでの尖りきった刃物のような気配はすっかり消え、どこか肩の力が抜けた表情になっている。二人でゴミをダストボックスに捨て、自動ドアを潜り抜けて外の空気に触れた。 夜の冷気が、火照った頭を少し冷やしてくれる。
「……送るか?」
「え?」
「また途中で一之瀬にエンカウントしたら、今度こそお前、精神的に持ってかれるぞ」
俺が呆れたように言うと、軽井沢は一瞬だけ目を丸くし、それからくすりと小さく笑った。
「ふふっ……なにそれ。さっきまで『巻き込まれたくない』って顔してたくせに」
「今でも巻き込まれたくない。ただ、ここまで付き合って途中で放り出したら、俺の良心が痛むだろって話」
「相変わらず、変なところで素直じゃないんだから」
軽井沢は小さく肩をすくめると、少しだけ歩幅を狭めて俺の隣に並んだ。帰り道、街灯の光が二人の影をアスファルトの上に長く伸ばす。 行きの通夜みたいな重苦しさに比べれば、今の空気は遥かにマシだった。かといって、高一の頃に妄想していた甘酸っぱい青春の帰り道とも違う。どこか不器用で、妙に落ち着いた、不思議な距離感。
「ねえ、和泉」
「ん?」
「……今日、助かった。ありがと」
正面を見たまま、軽井沢がぽつりと呟いた。 声は小さかったが、街灯の下で見えた彼女の横耳は、昼間の日焼けとは違う赤さに染まっていた。
「別に....ハンカチ拾っただけだぞ」
「……素直に『どういたしまして』って言いなよ」
「俺に多くを求めるな」
「ほんと、可愛げない」
軽井沢はそう言って小さく笑うと、いつもの強気な一軍女子の顔を少しだけ取り戻したように見えた。
「でもさ……私まだ完全には吹っ切れてないから」
「……だろうな。一瞬で消えるような想いなら、最初からそんな顔しないだろ」
「……うん。だから、また泣きそうになったら、また今日みたいにテキトーに話聞いてよね」
「断る」
「えー、ケチ。女の子の頼みを聞けるんだから、光栄に思いなよ?」
「そういう上から目線が戻ってきたなら安心したわ」
軽井沢の寮の敷地手前に差し掛かり、俺たちは足を止めた。
「じゃあね、和泉。あ、サンドイッチ代は明日学校で返……さなくていっか。奢りだし」
「ちゃっかりしてんなお前……まぁいいや。じゃあな」
手を軽く振って女子部屋へ消えていく軽井沢の背中を見送り、俺は深々と息を吐き出した。
「……疲れた」
疲労感が一気に押し寄せてくる。 結局、高一の頃の『一軍女子と二人で帰る』という妄想は、結果として叶ったわけだ。そこにあったのは泥沼の失恋の余波と、一之瀬帆波という男子特攻兵器からの回避行動。
まぁ軽井沢と帰れたのは悪くはなかったが.......
少しだけ軽くなった軽井沢の表情を思い出しながら、俺は自室へ向かって一人歩き出した。