雨降りの約束 ―壊した才能と、もう一度走る理由―   作:九頭T

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第七章:日々の繰り返し

それから、毎日が同じように過ぎていった。

 

 ルイテンキューは、朝六時にグラウンドに来る。

 

 九頭は、六時半頃にやってくる。時には七時になることもあった。

 

 ルイテンキューは走る。九頭は見ている。

 

 それだけの関係。

 

 指導らしい指導はない。九頭は、時々「遅い」とか「フォームが悪い」とか言うだけで、具体的なアドバイスはしない。

 

 それでも、ルイテンキューは走り続けた。

 

---

 

 六月に入った。

 

 梅雨入りが宣言され、雨の日が増えてきた。

 

 雨の日、練習は基本的に中止される。

 

 でも、ルイテンキューは来た。

 

「おい、今日は雨だぞ」

 

 九頭が、屋根のある場所から声をかけた。

 

「……走りたいんです」

 

「風邪引くぞ」

 

「大丈夫です」

 

 ルイテンキューは、雨の中を走り始めた。

 

 九頭は煙草を取り出したが、ライターが見当たらなかった。

 

「……チッ」

 

 ポケットを探る。ジャージの上着を探るが、ない。

 

 仕方なく、九頭は屋根の下にもたれたまま、ぼんやりとトラックを眺めた。

 

 雨の中、ルイテンキューが一人で走っている。

 

 水を吸った地面を踏みしめるたび、泥が跳ねた。

 

「……馬鹿だな」

 

 呟く。

 

 でも、止めはしなかった。

 

---

 

 ある日の朝練後、ダスタンテがルイテンキューに声をかけた。

 

「……最近、毎朝早いね」

 

「うん。練習してる」

 

「トレーナーと?」

 

「……まぁ、そう」

 

 ルイテンキューは、曖昧に答えた。

 

 本当は、一人で走っているようなものだ。九頭さんは見ているだけ。

 

 でも、それでも。

 

 一人じゃない。

 

 誰かが見ていてくれる。

 

 それだけで、少し心が軽くなった。

 

「……頑張ってね」

 

 ダスタンテは、珍しく励ましの言葉をくれた。

 

「ありがとう」

 

---

 

 六月中旬。

 

 学園で小さな模擬レースが開催された。

 

 ルイテンキューも、エントリーした。

 

「出るのか?」

 

 九頭が、面倒臭そうに聞いた。

 

「はい」

 

「……勝てると思ってんの?」

 

「思ってません」

 

 ルイテンキューは、正直に答えた。

 

「でも、走りたいんです」

 

「……そうかよ」

 

 九頭は、観客席に座った。

 

 煙草を吸いながら、レースを見る。

 

 スタート。

 

 ルイテンキューは、いつも通り出遅れた。

 

 中盤、少しずつ遅れていく。

 

 コーナーで、脚が縺れた。

 

 転倒。

 

 九頭は、煙草を吸う手を止めた。

 

 ルイテンキューが、立ち上がる。

 

 また走り始める。

 

 観客席から、ため息が聞こえる。

 

「またか……」

 

「可哀想に」

 

 九頭は、煙草を強く吸い込んだ。

 

 ルイテンキューは、最下位でゴールした。

 

 失格ではなかった。完走した。

 

 それだけが、せめてもの救いだった。

 

---

 

 レース後、ルイテンキューは着替え室で一人座り込んでいた。

 

 膝が痛い。擦り傷だらけだ。

 

 でも、それよりも心が痛かった。

 

「……やっぱり、ダメなのかな」

 

 毎朝練習している。

 

 でも、結果は変わらない。

 

 やっぱり、才能がないんだ。

 

 そう思った時、ドアが開いた。

 

「おい」

 

 九頭が立っていた。

 

「……九頭さん」

 

「帰るぞ」

 

「……はい」

 

 ルイテンキューは、立ち上がった。

 

 二人は、無言で学園を出た。

 

 夕暮れの道を、並んで歩く。

 

「……なぁ」

 

 九頭が口を開いた。

 

「お前、なんで走ってんだ?」

 

「……前にも聞かれました」

 

「答えてなかっただろ」

 

「……分からないんです」

 

 ルイテンキューは、空を見上げた。

 

「走りたい。ただ、それだけで」

 

「勝ちたくないのか?」

 

「……勝ちたいです」

 

「じゃあ、なんでそんな走りしてんだよ」

 

「才能が、ないからです」

 

「……そうかよ」

 

 九頭は、それ以上何も言わなかった。

 

 寮の前で、二人は別れた。

 

「じゃあな」

 

「……九頭さん」

 

 ルイテンキューが、声をかけた。

 

 九頭が振り返る。

 

「……ありがとうございます」

 

「は?」

 

「今日、見に来てくれて」

 

「……別に、暇だっただけだ」

 

 九頭は、背を向けた。

 

 九頭の背中が、遠ざかっていく。

 

 ルイテンキューは、その背中を見送った。

 

 それだけで、少し救われた気がした。

 




一応、なろう投稿だと予約投稿すらできなかった分があるので

25章までくらいあるけど

その先はまだ書いてないから投稿しきった後

反応次第で続き書こうかな…

あと更新ペース遅れてるのは 

なろうの投稿内容に加筆修正行ってるので若干違ってます
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