雨降りの約束 ―壊した才能と、もう一度走る理由―   作:九頭T

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第八章:変わらない日常

六月が終わり、七月に入った。

 

 梅雨も明け、夏が本格的にやってきた。

 

 暑い。

 

 ルイテンキューは、朝練でも汗だくになった。

 

 でも、走り続けた。

 

 九頭は、相変わらず遅刻気味にやってきて、トラックの脇で煙草を吸いながら見ているだけ。

 

 何も変わらない。

 

 ルイテンキューのタイムも、相変わらず遅い。

 

 転倒の回数は、少し減った気がする。

 

 でも、それだけだ。

 

---

 

 ある日、ルイテンキューは食堂で一人食事をしていた。

 

 いつものことだ。

 

 チームメイトはいない。友達もいない。

 

 ダスタンテは、食事時間が違う。

 

 だから、いつも一人。

 

「あ、ルイテンキューだ」

 

 声が聞こえた。

 

 近くのテーブルで、何人かのウマ娘たちが話している。

 

「まだ走ってるんだ」

 

「九頭がトレーナーらしいよ」

 

「九頭? あのクズ?」

 

「クズとクズか。お似合いじゃん」

 

 笑い声。

 

 ルイテンキューは、食事を続けた。

 

 聞こえないふりをした。

 

 でも、心には突き刺さった。

 

---

 

 その日の夕方、ルイテンキューはグラウンドで一人練習していた。

 

 朝練とは別に、夕方も時間があれば走る。

 

 それが、ルイテンキューの日課だった。

 

「おい」

 

 声がした。

 

 振り向くと、見知らぬウマ娘が三人立っていた。

 

「……何でしょうか」

 

「あんた、ルイテンキューだろ」

 

「……はい」

 

「このトラック、今日は私たちが予約してるんだけど」

 

 ルイテンキューは、予約表を思い出した。

 

 確かに、この時間は別のチームの予約だった。

 

「……すみません。すぐ出ます」

 

「待って」

 

 一人のウマ娘が、ルイテンキューの前に立ちはだかった。

 

「あんた、毎回無断でトラック使ってるよね」

 

「……え?」

 

「朝とか、夜とか。予約してないのに走ってる」

 

「あ、それは……誰も使ってない時間だから」

 

「ルール違反じゃん」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝れば済むと思ってる?」

 

 三人のウマ娘が、ルイテンキューを囲んだ。

 

「毎日毎日、邪魔なんだけど」

 

「……ごめんなさい」

 

「朝も夜も走ってさ。意味あんの?」

 

「どうせまた転ぶのにね」

 

 笑い声。

 

「ていうか、まだ辞めてなかったんだ」

 

 ルイテンキューは、何も言えなかった。

 

 否定できなかった。

 

 才能がない。

 

 それだけは、事実だった。

 

「……すみません」

 

 ルイテンキューは、頭を下げた。

 

 そして、グラウンドを出た。

 

 背後から、笑い声が聞こえた。

 

---

 

 寮に戻ると、ダスタンテがいた。

 

「……おかえり」

 

「ただいま」

 

 ルイテンキューは、ベッドに倒れ込んだ。

 

「……どうしたの?」

 

「……何でもない」

 

「嘘」

 

 ダスタンテは、本を閉じた。

 

「……何かあった?」

 

「……大丈夫」

 

 ルイテンキューは、顔を枕に埋めた。

 

 ダスタンテは、しばらくルイテンキューを見ていたが、やがてため息をついた。

 

「……無理しないで」

 

「……うん」

 

 部屋に、沈黙が戻った。

 

 ルイテンキューは、目を閉じた。

 

 涙は、出なかった。

 

 泣くことすら、できなくなっていた。

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