雨降りの約束 ―壊した才能と、もう一度走る理由― 作:九頭T
六月が終わり、七月に入った。
梅雨も明け、夏が本格的にやってきた。
暑い。
ルイテンキューは、朝練でも汗だくになった。
でも、走り続けた。
九頭は、相変わらず遅刻気味にやってきて、トラックの脇で煙草を吸いながら見ているだけ。
何も変わらない。
ルイテンキューのタイムも、相変わらず遅い。
転倒の回数は、少し減った気がする。
でも、それだけだ。
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ある日、ルイテンキューは食堂で一人食事をしていた。
いつものことだ。
チームメイトはいない。友達もいない。
ダスタンテは、食事時間が違う。
だから、いつも一人。
「あ、ルイテンキューだ」
声が聞こえた。
近くのテーブルで、何人かのウマ娘たちが話している。
「まだ走ってるんだ」
「九頭がトレーナーらしいよ」
「九頭? あのクズ?」
「クズとクズか。お似合いじゃん」
笑い声。
ルイテンキューは、食事を続けた。
聞こえないふりをした。
でも、心には突き刺さった。
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その日の夕方、ルイテンキューはグラウンドで一人練習していた。
朝練とは別に、夕方も時間があれば走る。
それが、ルイテンキューの日課だった。
「おい」
声がした。
振り向くと、見知らぬウマ娘が三人立っていた。
「……何でしょうか」
「あんた、ルイテンキューだろ」
「……はい」
「このトラック、今日は私たちが予約してるんだけど」
ルイテンキューは、予約表を思い出した。
確かに、この時間は別のチームの予約だった。
「……すみません。すぐ出ます」
「待って」
一人のウマ娘が、ルイテンキューの前に立ちはだかった。
「あんた、毎回無断でトラック使ってるよね」
「……え?」
「朝とか、夜とか。予約してないのに走ってる」
「あ、それは……誰も使ってない時間だから」
「ルール違反じゃん」
「……ごめんなさい」
「謝れば済むと思ってる?」
三人のウマ娘が、ルイテンキューを囲んだ。
「毎日毎日、邪魔なんだけど」
「……ごめんなさい」
「朝も夜も走ってさ。意味あんの?」
「どうせまた転ぶのにね」
笑い声。
「ていうか、まだ辞めてなかったんだ」
ルイテンキューは、何も言えなかった。
否定できなかった。
才能がない。
それだけは、事実だった。
「……すみません」
ルイテンキューは、頭を下げた。
そして、グラウンドを出た。
背後から、笑い声が聞こえた。
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寮に戻ると、ダスタンテがいた。
「……おかえり」
「ただいま」
ルイテンキューは、ベッドに倒れ込んだ。
「……どうしたの?」
「……何でもない」
「嘘」
ダスタンテは、本を閉じた。
「……何かあった?」
「……大丈夫」
ルイテンキューは、顔を枕に埋めた。
ダスタンテは、しばらくルイテンキューを見ていたが、やがてため息をついた。
「……無理しないで」
「……うん」
部屋に、沈黙が戻った。
ルイテンキューは、目を閉じた。
涙は、出なかった。
泣くことすら、できなくなっていた。