黒執事のアッシュに成り代わった彼の話   作:アルトリア・ブラック(Main)

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幕間の物語2

 

 

ヴィンセントは先代・クローディアの死後、ファントムハイヴ家の爵位を継承した状態で学院に入学した。

 

女王の粋な計らいらしく、爵位は継承するものの、余程のことがない限り女王の番犬としての仕事はないとの事だった。

 

ヴィンセントが生徒になる流れでアッシュも半強制的に教師になり、ヴィンセントが困った際は答えるようになった。

 

基本的にヴィンセントは頭良く、大抵は自分でなんとかしてしまうため問題なかったが、問題はクリケット大会についてだった。

 

「ドイツの忠犬が欲しいから確実に圧勝出来る用意をしろと…まぁ無茶振りですねぇ」

 

ヴィンセントが本に小さくまとめた紙を挟んでアッシュに出して来た。

 

「ルール違反にならないギリギリを攻めますね…」

 

ほとんどはヴィンセントが根回しするらしく、まぁ、その内容もエゲツない。

 

クリケット大会当日、ヴィンセントがどう足掻いても当たらない軌道で振るので、セバスチャンがシエルのナイフを的に当てた時のように、小石を射出し軌道を無理矢理変える。

 

「青寮が勝ったぁ!!」

 

清々しい顔をしているヴィンセントに内心「ほとんどルール違反なのに、あんな大喜びするなんて…」と苦笑いが込み上げてくる。

 

側から見ていたフランシスがエゲツない手法で勝ったヴィンセントに引いたのか、顔を逸らしていた。

 

「欲しかったんだよね、ドイツの忠犬」

 

学校を卒業した後も、デーデリヒをこき使う気満々なヴィンセント

 

ヴィンセントが学園を卒業することになり、ファントムハイヴ家を継いで数日経過した後…

 

「……パーティに仕事の大量の山に、こんなモノの何が良いのかなぁ」

 

ヴィンセントが項垂れながら大量の書類と睨めっこしていた。

 

ヴィンセントに紅茶と軽食を出す

 

「約束された地位がありますから、人は自分より恵まれた人間を羨望し、自分もそうありたいと願う生き物ですから」

 

そう言うとヴィンセントが「私はこれ以上偉くなりたくはないけど」と呟く

 

「それと、坊ちゃん。女王陛下からご依頼がありましたよ」

 

そう言って手紙を見せる

 

明日の正午に女王の宮殿にて女王の番犬としての仕事の話をすることになったらしい。

 

「…明日の正午に…かぁ」

 

ため息をつくヴィンセントが背もたれに寄りかかる。

 

紅茶を入れ直していると…

 

「そういえば、爵位継承の儀の時に陛下、凄いアッシュを見てたけど、あの陛下が色目使おうとするなんてなかなか珍しいよね、アッシュが天使だと言うの知ってそうだよね」

 

そう言うヴィンセントに紅茶のカップを置き

 

「気づいているのでしょうね、私が人ならざるものだと」

 

ヴィンセントと出会う前、やたら女王としか遭遇しなかったのを思い出す。

 

アニメ世界線だとホントつまらないので、あえて無視していたのだ。

 

「へぇ、そうなると不利かな?私」

 

「問題ありませんよ、私は坊ちゃん以外の人間にお仕えするつもりはありませんから」

 

そう言うとヴィンセントが驚いた表情を浮かべる。

 

「…それって本心?」

 

普段のヴィンセントが見せない疑いの目を向けてくることに微笑む

 

「どう思われます?」

 

嗤いながら言うとヴィンセントが数分無言になり

 

「…その質問が一番タチ悪いよ」

 

「そうですか?」

 

そう言って片付けられた仕事の書類を持って別のテーブルに置く

 

「まぁ、ここは本心だと思おうかな」

 

「おや、判断が早いですね」

 

そう言うと「まぁ、少なくとも私が子供の頃からそばにいるからね」と言って来る。

 

ヴィンセントは悪魔みたいな微笑みを浮かべ

 

「女王より贔屓目に見てくれるのは素直に嬉しいかな」

 

キョトンとなるが、ヴィンセントを見て嗤い

 

「貴方の人生の方が面白そうですからね」

 

「面白くなるように頑張るよ」

 

そう言って笑いかけて来るヴィンセントに「大人になったなぁ」と思う

 

 

真シエルの帰還は坊ちゃん(偽シエル)にとってはかなりのツラいことに変わりないだろう。

 

そんな中、アッシュとして立ち回る上で、あまり目立たないようにすることが先決だった。

 

とは言っても、完全に影に徹するのも面白くない。

 

「圧倒的力の前にある程度抗えなければ面白くないもの、少し邪魔させて頂きますよ」

 

真シエルと坊ちゃん側では、形式上は真シエル側が有利でも、実質的に有利なのは坊ちゃんサイドでしかない。

 

ビザードルと化した彼らには当然、死神が向かって来るわけだ。

 

そうなれば、戦闘面では不利になる所があるだろう。

 

「…まぁ、だからといって安易に入れるのもどうにかすべきだとは思いますけど…」

 

アンジェラの姿で安易に死神派遣協会の図書館に入れたアッシュはそう呟く

 

「さてと、それでは帰りますか」

 

お土産を持ちファントムハイブ家に戻り、葬儀屋に見せると珍しく礼を言ってくるが、それ以上のことは言わず、部屋に引っ込もうとする。

 

「やれやれ、もう少し労いという言葉はないのですか?」

 

笑みを浮かべて言うと葬儀屋が

 

「天使や神に礼を言ったって無駄だろう?まぁ、今回はヴィンズからのお土産だと思ってありがたく頂戴するよ」

 

「取って来たのは私なんですがねぇ…」

 

そう言うと葬儀屋が時間を気にしているようなそぶりを見せる。

 

真シエルの輸血時間に差し掛かっているのだろう。

 

「良く言うよ、こっちが手のひらで躍るのが楽しいから協力しているクセに、人の気持ちなんて微塵も分からないのに下手に俗世に入り浸ったらカミサマに殺されるんじゃないの?まぁ、小生からしてみれば嬉しいけど」

 

「ご安心を、神は人間などに興味はありませんから」

 

そう言って背を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

ヴィンセントが伯爵時代、これから起こりうる事は知っており、真シエルと対面した時から既に片鱗は見せていた。

 

真シエルは恐ろしいほど弟にしか関心がなく、ミルクに蜂蜜を入れて渡していたのを見た時は心底ゾッとしたものだ。

 

別邸で仕事をしていたヴィンセントから双子の話を聞くたびに異常性が露骨だった。

 

「将来寝首をかかれますよ?旦那様」

 

アッシュの問いかけにヴィンセントが苦笑いを浮かべ

 

「ほんとにあり得そうだね…まぁ、兄弟思いなのは良いことじゃないか」

 

そう言って紅茶をヴィンセントに差し出す

 

「愛は盲目と言いますよ、旦那様」

 

「それでも愛は素晴らしいものっていうじゃないか、将来何があるか分からない地獄の日々を、兄弟と共に手を取り合って行けたら良いじゃないか」

 

ヴィンセントは番犬の仕事を終え、女王宛に手紙を書き、それを乱雑に前に置く

 

「シエル様が旦那様のようになれればの話ですがね」

 

そう言ってその手紙を取る。

 

「どうなるか楽しみだね、どれだけ覚悟しているのか見ものじゃないか」

 

ヴィンセントの言葉に「悪魔ですね」と返すと「やっと、アッシュのテストにも勝てるようになって来たしね」と返してくる。

 

「では、行ってまいります」

 

そう言って手紙を持って去るアッシュを見届ける。

 

ヴィンセントは椅子に深く腰掛け、青空を見上げる。

 

「…シエルもあの子も初々しいなぁ、あの頃に戻れるのなら、私もそう思えたかな」

 

アッシュが入れたばかりの紅茶を飲み、シエル達から貰ったオモチャを離れた所にあるテーブルに置く

 

「旦那様、失礼します」

 

タナカが入って来る。

 

片付けを始めたタナカが似つかわしくないオモチャを見てどうするか聞いて来る。

 

「捨てといてくれ」

 

そう笑顔で言うと「かしこまりました」と言って袋の中に入れる。

 

 

 

 

ヴィンセントは大人になってならある意味、番犬らしく冷淡で冷酷になれており、綺麗な顔してえげつないことも普通にしていたので着いて行ったら面白いもの観れるだろうなと感じていた。

 

「本当に寝首をかかれるとは…人間というのはつくづくわからないものですね」

 

刺客に殺されたレイチェルと刺された上で首を切られたヴィンセントの手から指輪を拝借する真シエルを遠目から見ていた。

 

使用人一人残さず虐殺される地獄の状態になっている中、シエルが普通にここまで辿り着けるのは黒幕を中から誘き寄せていたからだろう。

 

「誰か!!ねぇ!誰かいないの!?」

 

坊ちゃんの声が響き渡る。

 

逃げ惑う弟の声を聞いたのか、シエルは指輪を握り締め

 

「これさえあれば…」と小さく呟き、立ち上がる

 

「両親よりも弟が大事だと、貴方はある意味人間らしくて好きですよ」

 

「!!」

 

シエルがびくつき、こちらを見て来る。

 

出掛けていたはずのアッシュがこの場にいるのが不思議で仕方ないのだろう。

 

「ですが、もう少し考えて行動した方が良かったですね、シエル様」

 

「…なにを…」

 

白い羽が生えたのを見て驚き、坊ちゃんの声が近づいて来たのを聞いて、少しこちらを見て警戒してはいるが、すぐに持ち場に戻る為に部屋から出て行く

 

アッシュは姿を消し、坊ちゃんがヴィンセントとレイチェルに駆け寄り、大泣きし始めるのを冷静に見つめていた。

 

それから数分後、剣音が聞こえてきて、坊ちゃんがそちらに吸い寄せられるようにして居なくなるのを確認する。

 

それから数分後、刺客が火を放ちにヴィンセント達の遺体の近くにやってきて火をつける。

 

かなり念入りに燃やしているようだったが、アッシュが念入りに隠したおかげでヴィンセントだけは燃えていなかった。

 

それに気づかず居なくなった刺客を見送り、ヴィンセントの周りから火を消す。

 

「さてと、坊ちゃんの遺体を回収して葬儀屋に届けるとしますか」

 

シエルが絶望した表情を浮かべ、人買い達に連れて行かれるのを横目で見送る。

 

 

 

 

 

それから数年後、ヴィンセントがスフィア・ミュージックホールの最奥にて蘇生され、事の顛末をアッシュから聞かされた後、ヴィンセントは一人部屋の中で物思いに耽っていた。

 

「誰にも負けない力なんてこの世にはないんだよ、シエル。大きな力は持ったら最後まで油断したらいけないんだよ」

 

ヴィンセントは切られた首と腹部を触る

 

「…人間はいつでも間違え、転んでしまう。私だってね」

 

アッシュという大きな力だって、いつ飽きて裏切るか分からない。

 

疑う気持ちは正直今でも持っている。

 

だが、それで良いのだろう。

 

家族であろうと裏切るのだから、正直天使の方が信用出来る部分もある。

 

彼らは情によって左右されないのだから

 

「…ま、アッシュに飽きられた時は素直に降参しようかな」

 

ここまで生きれているのも、ある意味奇跡なのだろう。

 

「……お母様に感謝しないとね」

 

そう言って横になる。

 

 

 

ヴィンセントにとって、伯爵というのは心底どうでも良く、代われるのなら代わりたいモノでしかなかった。

 

シエルが伯爵になりたくないと言った時も気持ちは理解したが故に爵位返還ということも視野に入れたのだが、シエルの思いを利用した黒幕達が襲撃事件を手引きしたのは心底嫌な気持ちになったものだった。

 

「息子達の人生を見守るのが親としてあるべきものじゃない?」

 

アッシュからの報告を聞きながらそう呟く

 

「どんな危機であろうと助けないのが父親だと?悪魔ですね」

 

そう嗤うアッシュにヴィンセントは苦笑いし

 

「ミサの時はシエルの決意を確認したかったんだよ、最終的に見殺しにしてしまった私は、親としては失格だらうけど」

 

椅子に深く腰掛けた拍子に、外で雷が鳴り響く

 

「それでも人間の人生は選択し続ける生き物だろう?アッシュからの問いかけにも私は命懸けさ」

 

「むやみやたらに命は取りませんよ」

 

そう言って傍らに座って来る

 

「信じてはいるけどね、さて、あの子の選択がどうなるか見ものだよ」

 

そう言って「第二幕もうすぐだね」と言って来る。

 

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