黒執事のアッシュに成り代わった彼の話 作:アルトリア・ブラック(Main)
[chapter:天使も悪魔も変わらない]
母・クローディアの死後、爵位を継承したヴィンセントは自分と契約したアッシュの存在に最初は警戒していたものの、時が経てば経つほど、彼との契約内容を思い出して苦笑いする。
アッシュとの契約内容は単に遊びのような関係に近い。
魂や肉体の一部を対価として求める悪魔と違い、アッシュは天使らしく残酷に女王の番犬としての仕事に関心を持ってくれていた。
(個人として興味を持ってもらいたかったけどね…)
アッシュが関心があるのはファントムファイヴ家自体なのだろう。
まぁ、今のところヴィンセント個人に関心を持っているからありがたいのだが
「坊ちゃんはなんというか、生まれてくる種族を間違えましたね」
「坊ちゃんはシエル達のことを指してると勘違いするから、せめてヴィンセントと呼んでくれないかい?」
「それこそいろいろ問題になりますよ、旦那様は本当は悪魔として生まれてくるべきだったのではないですか?普通に話してるだけで、人をたらし込むなんて恐ろしい」
全然恐れていないような表情にヴィンセントは笑う
「どんな感情であれ好意を持ってくれるなら有難いよ、仕事がしやすくなる」
「仕事上の付き合いと、どこまで行っても冷淡ですね」
「その冷淡な人間と契約した物好きは誰だい?」
アッシュを見て言えば察したように嗤う
「しかし、その魅力が災いしてこう何度も狙われたら元も子もないのでは?」
窓から入って来た弾丸を手で掴むアッシュ
「それは確かに考えものだね」
弾丸を握り潰したアッシュは狙って来た人間を見ていた。
「それでは行って参ります」
背を向けて玄関の方に行くアッシュ
「うん、行ってらっしゃい」
次の瞬間、目の前から居なくなるアッシュ
「契約内容の変更、ですか?」
その日の夜、誰もが寝静まった際に執務室にアッシュと話を始める。
「変更というか追加だね」
「その追加とは?私はあなた方の家を代々守るとか、そういう契約はしませんよ、何よりつまらない」
「もちろん、私も私以降の代のことは基本的に何も考えていないさ、そんな保守的じゃない」
酷いことを言ったが、実際そうだ
私の母も祖父も、みんな自分が生きるのに精一杯だった。
子供が出来ても、立派な女王の番犬として務められるように多少の教育をするだけだった。
「それでは何を?」
「私の魂を対価に今後の仕事にも関わって欲しいんだ」
「……はい?」
初めて見たアッシュの動揺した顔に少しだけ嬉しくなる。
「魂なんて私には必要ありませんが?人間で言う水を飲むような感覚と同じだと、契約時にもお伝えしましたが?」
「知ってるよ、その上で契約内容変更を言ってるんじゃないか、ぶっちゃけて言うと、私は君の忠誠心に少しだけ不安になってしまってね」
「………」
「だからこそ、最後に魂をあげるから裏切らないという契約を結んで欲しいんだ」
そういうとアッシュは「どこまでも保険をかける方ですね…」と少しだけ考える素ぶりを見せる。
「いいでしょう、乗って差し上げます」
その言葉に嗤う二人
運命の日、双子が誕生日の日に、ファントムファイヴは襲われ、ヴィンセントは命を落とす。
その日まで後数ヶ月だが、アッシュは別に救済のために動くつもりなんてなかった。
理由は原作の流れを変えようなんて思っても居なかったからだ。
「シエル、準備は出来たかい?」
「はい、出来ました。お父様」
今日はシエル(兄)の方と会うことになり、自分はいつも通りの服装でヴィンセントの部屋の前に来ていた。
アッシュ・ランダースという執事がいるということは真シエルとヴィンセント、タナカしか知らない。
使用人の何人かは存在については知っているものの、話したことはあまりないので実質知らないのと変わりないだろう。
「これから、紹介する人は、私の契約者…もとい、女王の番犬としての執事だからね」
「タナカ、とは違うの?」
「タナカはこの家全体を仕切ってもらってる。けど、彼については違う、女王の番犬としての仕事を全部知ってる」
説明が終わるのを待っていると…
「入って来てくれ」
「初めまして、シエル・ファントムファイヴ」
ニコリと微笑み真シエルを眺める。
「!」
(…ガチで驚かれた…)
シエルと対面して感じたことは、子供らしい感情と弟といたいと願うあまりの強烈な感情
(…うーん。あんまり好きじゃない…)
弟と一緒にいるためなら、親兄弟の命なんてどうでもいいと思い、切り捨てようとするだろう。
「………」
自分の中での優先順位というのが下がった。
確かに、真シエルは後々復活するのは確定だが、それは葬儀屋が身体がボロボロになってしまったヴィンセントの代わりとして、仕方なく蘇生したに違いないだろう。
廊下を歩いていると…
「天使風情が出入りするなんて気まぐれも良いところじゃないか」
葬儀屋の声が聞こえてくる。
「おや、アンダーテーカー殿。いらっしゃったのですね」
いつもの笑顔を貼り付けて言うと、心底嫌な顔をされる(解せぬ)
葬儀屋から明らかな殺意を感じ、苦笑いする。
話しかけようとすると、時計が鳴り時間を知らせていた。
「失礼します。この後も仕事がありますので」
そう言って横を通り過ぎようとする
(あ、そうだ)
別に煽るつもりなんてないが、ここは彼との今後の関係のためにもと少し近寄り
「本当に大切なのなら近くで見守っていないからこそ、私のような者に横取りされるのですよ」
「………」
さっきより膨れ上がった殺気に苦笑いしながら歩き去る。
ファントムファイヴ伯爵家襲撃事件
あの運命の日がついに来た。
「これは流石に予想外でしたよ、旦那様」
燃え盛る炎の中、アッシュは白い羽を出しながら歩いていた。
主人を守れないなど、とか言われるかもしれないが、実際この襲撃事件が起こるというのを薄々気づいていたであろうヴィンセントから『シエル達のプレゼントをーーまで買ってきてほしい』と言われた時は「あぁ、なるほど」と理解した。
「まぁ、心臓を刺された上で首まで切られてるなんてのは想定外でしたね、どれだけ恨みを買っているんですか」
ヴィンセントから出て来た魂を手に取ると
「…魂を対価にしての契約は持ちかけられましたけど、死んだ後の魂は私の好きにさせてもらいますよ」
そう言って指輪に魂を入れる
「…さて、彼へのお土産に体を持っていきますか」
ヴィンセントの首を繋げ、血を止めるとお姫様抱っこして外に向かう。
ヴィンセントと手を繋いでいたレイチェルの手がガンッと地面に落ちる。
外に出れば葬儀屋がおり、ヴィンセントの死体を持っているアッシュを見て嫌な顔を浮かべるが、体を渡して話を持ちかける。
話を言えば言うほど嫌な顔をしているものの、ヴィンセントの魂を握っているのがアッシュだと分かれば、仕方ないと話に乗ってくれた。
葬儀屋にヴィンセントの死体を渡し、燃え盛る屋敷を見る
数十年といた屋敷が燃えていても特に何も感じなかった。
(まぁ、天使になった所以だろうけど)
天使も悪魔と大差ないのか、いや、それ以上に人に対しての思い入れが湧かない。
指輪を見て嗤う
「人間は生きている間が地獄なのです。貴方は彼らの最期まで見る責任がある」
青く輝く指輪を見てそう言う
「はぁ…悪魔だけで良いというのに…天使なんてものがここに降りてくるなんて、残業に始末書確定ですよ」
ウィリアム・T・スピアーズはヴィンセント・ファントムファイヴの死が『保留』になったのを見てため息をつく
天使は悪魔と違い、むやみやたらに魂はとらない。
むしろ、天使は死神達をまとめている上と同程度の権力を持っている。
(今まで天から降りてくる天使なんていませんでしたが…あんなイレギュラー、今後どうなるか分からないというのに)
アッシュ・ランダース
天使の一人にして気まぐれに降りて来た天使。
なおかつ、気まぐれにヴィンセント・ファントムファイヴの魂を回収させなかった存在。
離脱組や悪魔なら死神派遣協会の力を持って回収しに行けるのだが、天使となれば話は別だ。
お上は天使のしたことに驚き、なおかつ、裁く範囲外にいる天使を警戒している。
アッシュなんて名前を名乗っているが、あの天使は相当厄介な天使だろう。
「やれやれ、始末書を書きに行きますか」
ウィリアムは保留になったヴィンセントの書類をしまい、歩き始める。
ファントムファイヴ家か襲撃された事件から数ヶ月後、フランシス・ミッドフォードの元に、執事が一人仕えることになった。
「あの事件から数ヶ月経ちましたが、いまだに犯人は見つかっていませんね」
「……」
あの襲撃事件の際に、遠出していたヴィンセントの執事もとい、女王の番犬としての仕事を知っているアッシュが何の違和感もなく、ミッドフォード家に仕えている理由は一つある。
『いずれ、私は死ぬ、近いうちにね、それで一つお願いがあるんだけど、アッシュを来る日までミッドフォード家の執事にさせてくれないかい?』
兄の言葉に何故、と言ったが、兄は笑顔ではぐらかされてしまった。
《来る日》というのはアッシュ自身が知っているから大丈夫だと
「…お前のところにもヤードは来ただろう?例の事件について話したか?」
「えぇ、話しましたよ、しかし、私は旦那様からーーまで行って欲しいと頼まれ、屋敷を離れていたので何も出来なかったとお伝えしました」
「……そうか」
余裕そうなアッシュに『女王の番犬の執事らしい』と感じる。
紅茶のカップを置くと、そこにアッシュが新しい紅茶を注いで来る
「お母様!!シエルが…シエルが帰って来ました!!」
エドワードの言葉に驚き、席を立つ
その後ろを着いて来るようアッシュに言うと「わかりました」と一言いって着いて来る。
包帯を巻き、疲れ切っているシエルと、シエルを抱き締めるエリザベス
そして、その横には真っ黒な燕尾服を着た執事がいた。
「…ほぅ」
後ろにいたアッシュが何か納得したような声を出し、シエルの隣にいた執事が嫌そうな、訝しげな表情を浮かべていた。