黒執事のアッシュに成り代わった彼の話 作:アルトリア・ブラック(Main)
S4が毎日毎日真面目に歌の練習をしているのを眺めるのはさすがに飽きるものの、それでも着々とファントムファイヴの手が及んでいることに少しだけワクワクしていた。
そして、ここは割と空気が良くて好きだ。
(天使になった所為なのか、元からこういうところが好きだったのか…分かんないけど)
人間のありとあらゆる欲望の感情が消えているここは、割と居心地が良い。
「…まぁ、君には気持ち悪いようですがね」
眠っている坊ちゃんのそばに歩み寄る。
血液集めが終わったのか、黒フードの人間たちがそそくさと奥に引っ込んで行った。
「アッシュ」
後ろから声をかけられる。
車椅子に乗ったボロボロのシエルがいた。
「おや、動いて大丈夫なのですか?シエル様」
「今日は体調が良いんだ。それに、僕はシエルじゃない。それは弟のことだろう?」
「失礼しました。シリウス様」
まためんどくさい会話をしてくるシエル。
まぁ、現状においては仕方ないが
「それで…弟は、あの悪魔とは離れられないのか?」
「今のところは、といった所でしょう。そもそも、ファントムファイヴ伯爵は死んだ人間にはなびかないと思いますよ」
挑戦的に言えばシエルは表情は変えないが、瞳の奥に見える感情が分かりやすくて嗤う。
「…それは良いとして…お前は、先代のために仕えているんだろう?なら来るべき日の為に用意したらどうなんだ?」
「まぁ、そうですねぇ、ご忠告痛み入ります」
そう言ってシエルにお辞儀をし、シエルの横を通り過ぎる。
「……あの天使は信用できるのか?」
シエルは車椅子を押している葬儀屋に声をかける
「まぁ、小生は信用してないけど、ヴィンセントの忠実な執事だからその点は信用してるよ、それに、あの天使は無意識だろうけど、ファントムファイヴ家の人間を重宝してるから信用して大丈夫だよ」
「……そうか…」
天使であるアッシュ・ランダースは胡散臭いながらも、先代・ヴィンセントの頃から仕えている執事だ。
「面白いことにねぇ、天使の方が人間に深入りしやすいんだよ、まぁ、深入りして裏切られた時の仕返しはエゲツないけど」
葬儀屋はシリウスの部屋にシエルを戻し、お姫様抱っこしてベットに戻す。
コツコツと歩くアッシュはまっすぐに、白い扉の前に行く
「そうなのか」
「まぁ、悪魔より御し易いし、それにねェ、本気になれば悪魔と契約者の関係を解除してくれるかもしれないから、彼は手駒に置いといた方が良いよ」
「弟のためなら仕方ないか…」
シエルはため息をつく
「今日はもう遅いからおやすみ。伯爵」
アッシュは白い扉の前に立つとノックして、部屋に入る
〜人狼の森の後〜
ディーデリヒから葬儀屋についての話を聞いていたシエル
「俺より先にヴィンセントと関係があったのは、あの白い燕尾服の執事だったな」
「アッシュ・ランダースか?」
「そうそう、そんな名だったな、アイツはヴィンセントが幼少期から仕えていたとか言ってたな」
女王の番犬として仕事する上で、ヴィンセントはエラくアッシュのことを頼りにしていたのを思い出す。
「お前は会った事ないのか?女王の番犬の仕事をする時は必ずいたが」
その言葉にシエルは首を振る。
「"一度も会った事"はない。仕事を教わる前に先代は亡くなってしまったからな…」
「……そうか」
ヴィンセントが存命時期を思い出す。
二人でファントムファイヴ家の温室にて話している際にアッシュの話題になる。
「情報収集についても、あの執事に任せればいいだろ、なんでドイツの時だけは俺に任せるんだよ」
ディーデリヒはサンドイッチを頬張りながらそう呟く
「アッシュをそんな遠距離にまで行かせるわけにはいかないからね、それに、アッシュだけじゃ内まで知らないじゃないか」
「そうだけどよ…」
すると…
「旦那様、ディーデリヒ様、少しよろしいですか?」
アッシュが大量の書類を持って入ってくる。
報告を聞きながらディーデリヒは
「…そんな最深部まで調べられるなら、俺要らねえじゃねぇか…」
「?そうですか?私は流石に、ドイツの軍部までは知りませんが」
そう言うアッシュに『やろうと思えばやれる癖に』と思っていると…
「ご苦労様、アッシュ、少しディーデリヒと二人で話したいから休んでて良いよ」
「かしこまりました」
そう言って部屋かれ退出するアッシュを見るヴィンセントを見て「あぁ…」となる。
「なぁ、ヴィンセント、アイツは単なる執事だよな?」
そう問いかけると
「家族だよ」
そう言って嗤うヴィンセントは黙ってワインを飲む
[newpage]
(…思えば、ヴィンセントと契約してかれこれ30年弱かぁ…まぁ、今を合わせれば35年とか経ってそうだけど…)
スフィア・ミュージックホールのヴィンセントの部屋にて、ベット下にあるソファに座り足を伸ばしていた。
絶対に原作アッシュがしないポーズをする。
空っぽになった指輪を眺めていると、ちょうど血液が空っぽになったのをみて、そちらに行く
「おや、もう無くなりましたか…」
瓶を取り空中で消し、手に新しい血液が入った瓶を出す。
セットし直すと、また動き始める。
さっきと同じ位置に座り、物思いに耽っているとハッとなる。
(…そういえば、原作にヴィンセント居なかったよな…てことは…)
唐突に思い出した原作の流れ
まぁ、原作にアッシュのアの字もないから別に今更なのだが、ヴィンセントがいるのといないのとじゃ、大幅に意味が違うのでは?と感じる。
生きているだけで、あらゆる人間を魅了してしまう紳士・ヴィンセント
彼を子供の頃から見ているからこそ分かること
絶対に生まれてくる種族を間違えているなと思ったことがあった。
ケルヴィン男爵の時だってあれはなかなかだった。
〜ケルヴィン男爵との邂逅〜
ヴィンセント存命時、女王の番犬としての仕事はじゃないのに、珍しくヴィンセントが夜会に誘ってきたので渋々参加することになった。
「ファントムファイヴ伯爵!」
伯爵の一人が声をかけてくる。
貴族の女性方に声をかけられてしまい、相手をしていても、ヴィンセントのいる方向は分かっていた。
「こちらケルヴィン男爵」
「初めまして」
「は、は、初めまして」
「…(魅了してんなぁ、また…)」
ワインを飲みながらヴィンセントが、無意識にケルヴィン男爵も虜にしているのを見て苦笑いする。
「ヴィンセント!元気にしてたか!」
後ろからクラウスが話しかけてきたことにより、ケルヴィン男爵からクラウスに意識が移る。
双子はクラウスと戯れた後、タナカのところに行く!と言って姿を消してしまった。
「ところで、あの執事を連れてきたって言ってたが、その執事はどこにいるんだ?」
機嫌の良さそうなクラウスは辺りを見渡す。
「あぁ、さっきから貴族の女性方に話しかけられてたからそこら辺にいると思うよ」
ヴィンセントが「あ、いた」と言って呼んでくる。
女性達に断りを入れ、そちらに行く
「おぉ、貴殿がファントムファイヴ家の執事かね」
「お初にお目にかかります。クラウス様」
「噂はヴィンセントから聴いていたよ、なんでも出来る執事だと聴いているよ」
「とんでもない。私はただの執事ですから」
そうこう話している中、後ろからの熱い視線に嫌な感覚になる。
(…嫌な感覚だな…)
視線を向けているのはケルヴィン男爵であり、ケルヴィンから愛情やら情景やらいろんな感情が伸びてくるのが分かる。
「………」
ヴィンセントは多分気づかないだろうが、自分の主人がそんな目で見られてるのは、良い気がしない。
少し向きを変えて、ケルヴィン男爵の視線を外すように移動する。
しかし、自分にも視線が降り注ぎ気持ち悪さがこみ上げてくる。
大きな仕事があり、その仕事のためにディーデリヒを呼んで話していると、入り口からケルヴィン男爵が入ってくる。
(…確かに、ここは会員制じゃないから仕方ないとしても、あんな場違いに来れるかぁ…?普通)
頰を赤らめて、まるで少女のように緊張しながらこちらにくるケルヴィン男爵
(…嘘だろ…恋は盲目とか言うけど、俺の殺気にも気づかないなんて…)
悪魔じゃないとしても天使の殺気に気づかないケルヴィン男爵ってなかなかすごいのでは?
「?アッシュ?」
「…失礼致しました」
「そう?なんかあるなら…『ファントムファイヴ伯爵!お久しぶりデスッ!』」
場の空気を読まずに声をかけてくるケルヴィン男爵
「「??」」
ディーデリヒとヴィンセントがん?となる。
「…どうも」
条件反射で挨拶出来るヴィンセントはなかなかだわ
「おい、ここだと話に水を差されそうだ。執事、適当な部屋空いてるか?」
「はい、ここから少し離れた綺麗なところなら空いております」
「んじゃ、そこに案内してくれ」
「かしこまりました」
「ディーデリヒ、君ちょっと短気すぎるよ」
「あ、あの」
ヴィンセントは立ち上がると、ケルヴィン男爵に軽く挨拶して、追いついてくる。
その場にいた別の使用人に、ケルヴィン男爵以外の人間に声をかけて移動するように伝えるヴィンセント。
「大体なんだ、あのおっさん知り合いか?」
「話しかけてきたってことはそうなんじゃない?多分」
「そんなことだろうと思ったよ」
「アッシュは知ってた?」
「さぁ、会ったことなんてありませんね」
そう言って部屋から退出する。
「執事は知ってんだろ、あのおっさん。殺気ダダ漏れだったぞ」
「失礼致しました。ディーデリヒ様、私としたことが下心丸出しで近づいてくるあの方は流石に虫酸が走りました。殺気で追い払おうとしましたが、アレには効かなかったようです」
「アッシュの殺気に気づかないなんてなかなかだなぁ…」
別な意味で感動するヴィンセント
アッシュはヴィンセントを車椅子に乗せ、スフィア・ミュージックホールから離れる。
まぁ、ちょうどセバスチャンが潜入している頃わいだろう。
「しかし、なんというが…あの子も立派にやれてたんだねぇ」
ヴィンセントが車椅子の上で頬杖をついて言ってくる。
「まぁ、少し甘いところはありますが」
そう言うと「手厳しいなぁアッシュは」と返してくる。
「シエルもなかなかすごいことを考えるね」
「シエル様ですか?」
「うん、まぁ、仕方ないとしても割とエゲツない、私としてみればシエルは女王の番犬として、あの子は伯爵としての爵位を渡そうとしたのに、まさかあんなことになろうとはね」
ヴィンセントがやれやれと言ったポーズをとる。
「誰よりも悪魔な貴方がよく言う」
嗤いながら言うと
「そんな悪魔に育てたのは誰かな?」
と嗤い返してくる。
「おや?私の所為ですか?人聞きが悪いですよ、坊ちゃん」
二人で話していると…
偉い人間と話していたシエル達、お星様達が戻ってくる。
「さて、帰りましょう。坊ちゃん」
ーセバスチャンー
四つの星の部屋には誰もおらず、何も分からなかったセバスチャンは帰ろうとすると…
「?(…ここは…)」
一つだけそのお星様の部屋よりも上にある部屋の前に立つ
白い扉にシリウスの白い星があった。
ガチャリと部屋に入ると、室内は青い星の部屋と変わらない室内だが、一つだけ違うのは二人分の椅子と、どこかで見たことある部屋の間取りだった。
「………」
長いは無用だと判断し、血液の入った瓶を持ち、エリザベスを横抱きにするとミュージックホールから退出する。