黒執事のアッシュに成り代わった彼の話   作:アルトリア・ブラック(Main)

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第9話

真シエルが帰還しようとアッシュの生活に変わりはなかった。

 

定期的にシエルの家に帰り、様子を報告する以外に何もなかった。

 

まぁ、唯一の問題は坊ちゃんの方の偵察をしたかったのだが、悪魔がいる手前、むやみやたらに近づくわけにも行かなかったのだ。

 

ヴィンセントから「じゃあ、ニホンにお茶でも取りに行って飲もうよ」と言われた手前、日本に向かうと…

 

「……ちょうど鎖国時代ですか」

 

大きな木の上からキリスト教徒達が迫害されている様子を眺めていた。

 

「…複雑ですねぇ」

 

独り言を呟きながら彼らを見下ろしても、彼らは誰もこちらを見ない。

 

神を祈るような言葉を言いながらも、誰もこちらを見ない。

 

「神や天使はむやみやたらにあなた方を助けたりなどしませんよ」

 

そう言って立ち上がる。

 

木の上から降りて、砂浜を歩く

 

誰もアッシュを見ることもなく、アッシュは人だかりがある町に行くとお茶を複数買い、懐に入れる。

 

先ほど見ていた地点に戻ると、そこには膝をつき、必死に祈る外国人があり、彼の言葉だけは素直に聞こえて来る。

 

「……」

 

必死に祈る姿には素直に認めるが、だから何だと言う態度にしか感じない自分は、もうすでに人でなしなのだろう。

 

ヴィンセントに召喚された日の事を思い出す。

 

ヴィンセントは神を信じはすれど、縋りはしない。

 

現れた天使を使うぐらいの気概はあった。

 

「さて、帰りますか」

 

羽を出し、空に向かって飛んで行く

 

 

ヴィンセントの元に戻ると、日本で見た事を話すと『へぇ、今そんなことになってるんだ』と言って来る。

 

「キリスト教の教えを純粋に信じている人間なんているんだろうかね」

 

ヴィンセントの嘲笑うような言葉に微笑む

 

「意外にいるのではないですか?子供の頃から信じている普通の教徒なら」

 

「上層部は教えを広めると言った建前を取ってるけど、事実、彼らのやってることは侵略みたいなものだしね、武器を持たずに教えという物で内部からじわじわと、その点考えれば日本は賢明な方なんじゃない?」

 

沼地に種巻いたって意味ないのにねと言って来る。

 

お茶を淹れてヴィンセントに出すと、相変わらず慣れないのか『不思議な味だよね、苦い』と言って来る。

 

「その苦味はまだ坊ちゃんには早いですか」

 

そう言って笑うと『私もそこそこな歳なんだけどね』と言って来る。

 

すると、ドアをノックする音が聞こえてくる。

 

出ると、そこにいたのは真シエルからの使用人で、久しぶりに話がしたいとのことだった。

 

アッシュ以外でという話だったが、ヴィンセントが『アッシュが行かないならいかない』とか言うので、使用人が困った顔をしていた。

 

「坊ちゃん。子供ではないのですから行ってはどうですか?久方ぶりの家族の対面じゃないですか」

 

そう言うとヴィンセントが「まぁそうだけどさ、私はあくまで観客、シエル達がいる舞台に上がる訳には行かないじゃないか」と言う。

 

「アッシュも連れて行くなら良いよね」

 

そう使用人に伝えると、使用人は少し考えたそぶりを見せたが頷いてくる。

 

 

 

 

 

ヴィンセントはアッシュと共に家に戻って来るとシエルが出迎えてくる。

 

後ろにいるアッシュを見て少し嫌な顔をしていたものの、何も言わず部屋に案内してくれる。

 

「やぁシエル。最近の調子はどうだい?」

 

「昔よりかはマトモに動けるようになって来ました。お父様はどうですか?」

 

「私の方も問題ないよ、シエルよりだいぶ良くなってるんじゃないかな?」

 

ね?とアッシュの方を見て言うと分かりやすいぐらいの笑みを浮かべ

 

「旦那様は魂があるので、問題ないのですよ、まぁ、首切られた上で刺されてましたからシエル様に比べれば重傷でしたがね」

 

「何もあんな念入りに殺す必要なかったのにね」

 

苦笑いするヴィンセントに何も言わないシエル。

 

「お父様、少しお話したいことがあります」

 

「なんだい?シエル」

 

微笑みを浮かべて言うヴィンセントと対照的にシエルは警戒したような、訝しげな表情でヴィンセントを見る。

 

「ヒースフィールド男爵家炎上の件なのですが、何故始末する命令を?」

 

シエルの言葉にヴィンセントは考えるそぶりを見せる

 

「あの子の為さ」

 

そう言って紅茶を飲む

 

「あの子の為?」

 

「シエルはあの子と喧嘩したいんだろう?それに私が横槍入れるのも野暮な話だとは思ったけど、ケンカというモノは同じ状態でないと喧嘩にならないさ、一方が有利だったら、ただの暴力だよ」

 

「……」

 

不満そうなシエルにヴィンセントは笑い

 

「心配しなくてもこれ以上、こっちの不利になりかねないことはしないさ」

 

「…そうですか」

 

そう言うシエルを見てヴィンセントはアッシュの方を振り返り

 

「アッシュ、馬車の用意してくれないかな?」

 

「かしこまりました」

 

そう言って退出するアッシュを見送る。

 

 

居なくなったのを見て、ヴィンセントはシエルの対面にチェスを出す。

 

「シエル。あの子との幸せな未来の為に必要じゃない駒はなんだと思う?」

 

そう言うとシエルが少し考える素振りを見せる。

 

「…あの子の周りにいる使用人達ですか?」

 

「それも正解。だけど、無条件に全員殺したら意味がないわかるだろう?」

 

「はい」

 

シエルがチェスの前に座る。

 

「シエルはあの悪魔が要らないと思っているかい?」

 

「はい、勿論です。あの子の幸せのために悪魔には離れて貰わないと困ります。そのために、アッシュ・ランダースの"手綱"を持っているお父様の力が必要です」

 

ハッキリと言うシエルにヴィンセントは無言でシエルを見る。

 

「悪魔はあの子を不幸にしかしない」

 

「最終的にはね?でも、下手に始末すればあの子の魂ごと巻き込み自殺しかねないよ」

 

ヴィンセントはシエルの駒を取る。

 

「アッシュを使うのは最終手段」

 

「何故ですか?」

 

「アッシュと私との契約の内容の一つにあるんだよ、それに、アッシュの力は使い勝手は良いけど、それほど良いものでもないさ、それに、アッシュは飽き性だからね、無条件に縋ったところで助けてはくれないさ」

 

「お祖母様の件ですか?」

 

その質問にヴィンセントは微笑み「まさか」と言う。

 

「お母様の件は関係ないさ」

 

そう言って途中のチェスを他所に立ち上がり

 

「考えてごらん。女王の番犬としてやって行くなら何が正しいのか、私もそこまで鬼じゃない。必要とあらば息子の危機に駆けつけるさ」

 

そう笑顔を向け、シエルに背を向ける。

 

 

 

 

 

馬車の前まで行くとアッシュが待っており、開けてくれた馬車の中に乗り込む。

 

アッシュも続けて乗って来たのを見て、杖で天井を叩く

 

動き出す馬車の中でアッシュからの質問に答える。

 

「シエル様は、かなりご不満でしたでしょう」

 

りんごを食べたいと言ったヴィンセントに答え剥き始める。

 

「ご明察の通り、早くあの子に会いたいからアッシュを使わせてとね」

 

「悪魔との契約を解除のために使いたいと」

 

そう言って切り分けたりんごをヴィンセントに差し出す

 

「あんまり聞かなかったけど、アッシュは出来るの?他人の契約を反故にすること」

 

そう言うと「まぁ、出来なくはありませんが」と答える。

 

「あの子とあの悪魔の契約反故は手間がかかる?」

 

りんごを食べ始めるヴィンセント

 

「悪魔と対象者の契約を無理矢理破棄させる事はお勧め致しません。何より、第三者からの無理矢理の契約破棄は悪魔が凶暴化し、周囲を巻き込んだ爆発を引き起こしかねません。そうなれば今までやって来た事が水の泡となるでしょう」

 

「そうかぁ…うーん。それはそれで大変か」

 

「ところで坊ちゃん」

 

ナイフを片手で器用にポケットにしまう。

 

「何故、シエル様に真実をお伝えしなかったのですか?」

 

アッシュの問いかけにヴィンセントは無言になるが、微笑み

 

「あの子との生活の為と言っているんだ、自分で答えを見つけなければね、いくらビザードルとはいえね」

 

「あぁ、なるほど、坊ちゃんは実に残酷なお人だ」

 

嗤うとヴィンセントがリンゴを一回摘み

 

「私がただの子供好きの人だと思ったのかい?」

 

「いいえ」

 

 

地獄の一ヶ月

 

ファントムハイヴ家襲撃事件の翌日、アッシュはヴィンセントの遺体を葬儀屋に引き渡し、葬儀屋が本当に大事そうにヴィンセントの遺体を持って行ったのを見送ってからシエル双子が売られた人身売買の組織に参入する事にした。

 

「…背徳の王ってなんでしょうね」

 

指輪に向けて独り言を呟くように言う

 

目の前でシエル双子が拷問されているのを無言で見ていた。

 

なかなか残酷な様子だが、恐ろしいほど感情が動かなかった。

 

ローブを脱ぎ、適当に返すと外に出る。

 

「…女王の実に悪趣味だ。綺麗にするなら女王から優先だな」

 

独り言を呟くようにして言うと指輪がキラッと煌めく

 

「……」

 

ヴィンセントもなかなかの鬼だが、幼い頃に味わった痛みで変に残酷になってしまったのだろう。

 

ヴィンセントに召喚された日の事を思い出す。

 

ボロボロになったクローディア・ファントムハイヴと死んだ目をして、返り血で汚れたヴィンセント。

 

適度にミッドフォード家に戻り、適度に奴隷売買の現場に行き二人の様子を見ていた。

 

子供二人を痛ぶって歓喜している人間たちに吐きそうになりつつも、ヴィンセントに言われた事を守り、黙って見ていた。

 

そして、運命の日…

 

シエル双子が鎖に繋がれ、牢屋に放り投げられ、粛々と準備が始まっていた。

 

「さぁ!運命の日は来た!!まず最初はこちら」

 

そう言ってシエルを牢屋の中からシエルが引っ張り出され、泣き叫ぶ坊ちゃん

 

そして、シエルが刺され、セバスチャンが、悪魔が出現する。

 

「………」

 

飛んでくる返り血を全部弾く

 

『神にツバ吐く愚か者は?』

 

悪魔が現れたのを確認し、その場から立ち上がり、普通にドアから出ると、背後から阿鼻叫喚が聞こえてくる。

 

「さて、坊ちゃんが生き残りましたよ?運命というのは本当によく分からないですね」

 

シエルの人生はあそこで終わった。

 

故に坊ちゃんの中ではシエルは既に終わった人間であり、決別した存在なのだ。

 

少し離れたところに葬儀屋の馬車が止まったのを見て空に飛ぶ。

 

 

 

 

 

それから数年後、坊ちゃんが伯爵家に舞い戻り、シエルとして過ごす合間、エリザベスがセバスチャンにしつこく絡み、坊ちゃんとアッシュの二人きりになった時があった。

 

「女性というのは実に心変わりしやすい生き物ですね」

 

そう言うと坊ちゃんが「なんだ急に」と言ってくる。

 

「目移りしやすく、実に流されやすい。一部例外はいますが…」

 

フランシスの事を思い出す

 

「貴方が彼女を本当に愛するなら嘘は感心しませんね」

 

そう言うと坊ちゃんが「うるさい」と言い、紅茶を淹れろと差し出してくる。

 

「あの悪魔と手を切りたい時は相談しても良いですよ、いつでも手を貸しますから」

 

そう言って指輪をつけた手で紅茶を淹れる。

 

何も言わずに紅茶を飲む

 

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