もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら 作:名無しのマネモブ
それはイアソンがミュケナイを訪れてから1年後の出来事であった。
「まぁね?私の旦那様に思わず惚れ込んでしまう気持ちはわかるよ?ミュケナイを代表する大勇士で突出した強さを持っているし、性格も優しくて素敵な旦那様だからね!こんな素晴らしい伴侶がいたらいいなって君がマカリオス君を高く評価するのは当然だ!これで酷評してくるような節穴女ならその目玉を抉ってその辺にある石ころを代わりに詰め込むつもりだったよ。私の旦那様の良さがわからない役立たずの目玉なんかいらないよね!」
「ブー!ブブーッ!!」
「でもねー、いくら素敵な男性を見つけたからって既婚者に色目を使うのはよくないなー。なんでそんな事しちゃうのかなー?君さぁ、酷いよ。なんでそんな事するの?私とっても悲しいよ。私の旦那様に手を出そうとするか妻として許せないし何されたって文句は言えないよね?もう殺すしかないよね?というか殺すね?」
「ブーッ!?ブーブーブー!?」
「はぁ?マカリオス君に色目は使ってないし欲情もしてないし寝取る気は一切ない?神々に誓ってもいい?お前は何言ってるのかな?私の旦那様が魅力的じゃないって言うのかよ?アマゾネスでもわかる旦那様の素晴らしさがわからないだなんて面白い事を言うなぁこの泥棒猫が。お前の目は腐ってるみたいだね?アマゾネスみたいに子種しか求めていないのなら私も軽くお仕置きするだけのつもりだったけど気が変わったよ……よし決めた、お前は豚として処分するね」
「ブゥッ!?」
どうしてこうなった、と大魔女キルケーによって豚にされたとある女狩人は呆然としつつ、何故こんな状況になったのかを思い返していた。
「あれが、ミュケナイの守護者なのか」
旅の合間にミュケナイを訪れた女狩人は、ミュケナイ名物となっているマカリオスの鍛錬を見て感心していた。
「私よりも速い男がいるとは。ミュケナイの守護者は大神の子だと言うが流石だな……彼に脚の速さで勝てる者はヘルメス神くらいではないか?」
自分よりも速いマカリオスを見た女狩人は人類最速なのではないかと素直に感心した様子を見せていた……実際はマカリオスより速い大勇士がおり後のトロイア戦争で活躍するのだが彼女が知る由もなかった。
「ふむ、山を動かし稲妻の如き速さで走る大勇士か。ああいう男と結婚したいものだな」
それは何気ない言葉であった。女狩人としてはマカリオスと本気で結婚したいわけではなく、マカリオスが既婚者なのは知っていたので手を出すつもりは一切なかったのだ。なかったのだが……
―そこのキミィ?私のマカリオス君に色目を使ったねぇ?ちょっと大魔女の私とお話ししようか―
「えっ」
何気ない言葉は大魔女キルケーに聞かれており、額に青筋を浮かべた大魔女の魔術によって女狩人は即座に拘束され豚に変えられてしまったのであった。
「じゃあお肉屋さんに引き渡すね。すみませーん!この雌豚あげるんで解体してくださーい!解体したお肉は好きにしていいよ!」
「ブブブブーーーッ!?」
「こらっ暴れないの!」
理不尽すぎる!と元女狩人の豚は必死に抵抗するが大魔女キルケーによって拘束され生殺与奪の権を完全に握られてしまう。
「じゃあよろしくね!」
「えっと、あの奥方様?この豚はもしかして元人間なのですか?」
「そうだよ?ああ心配しないでいいとも!元人間といっても今は完全に豚になってるし死んだ後も豚のままだからお肉屋さんは何時も通り仕事すればいいよ」
「えっ、えぇ……?」
キルケーから豚を引き渡された肉屋の主人は盛大に顔を引きつらせていた。肉屋として家畜を解体するのは手馴れたものだが、元人間とわかっている豚を解体するのは流石に抵抗があるのだろう。
肉屋の主人は助けを求めるように周囲を見回すが、周囲の人間達は同情しつつも自分達にはどうする事もできないと目を逸らしていた。
「あれ、どうしたの?」
「あ、はい!わかりました!すぐ解体しますので!……すまない、許してくれ、俺には妻と子供がいるんだ……!」
「ブブーッ!?」
そして肉屋の主人は申し訳なさそうにしつつも大魔女の機嫌を損ねるわけにはいかないと自分の仕事をする事にした。絶体絶命の元女狩人であったが……
「ここにいたのかキルケー。これは一体どういう状況なんだ?」
騒ぎを聞きつけたマカリオスが駆けつけて来た。ミュケナイの守護者であり大魔女の夫の姿を見た群衆は思わず安堵の溜息をつくのであった。
「ああ私の旦那様、大した事じゃないよ。既婚者に色目を使った雌豚を解体してもらおうとしただけさ!」
「ううむ、説明されてもどういう状況なのかよくわからないが……いきなり姿を消さないでくれ。何かあったのかと心配したんだぞ」
「あっ、ご、ごめんね」
夫を心配させてしまった事に気づいたキルケーは頭が冷えて申し訳なさそうにする。
「君はもう一人の身体じゃないんだ。君と子供の事は俺が絶対に守るからどうか俺の傍から離れないでほしい」
「うーん、確かに私とした事がちょっと短慮だったかもね。旦那様を心配させるなんて妻失格だよ」
「そんな事はない、君は何時も俺を支えてくれる最高の妻だ。君が嫁に来てくれて本当に幸せ者だと俺は何時も思っているよ」
「そ、そっかぁ、そっかー!いやーつらいなー!旦那様から愛されすぎてつらいなー!」
マカリオスの言葉を聞いたキルケーは喜色満面となりデレデレしてしまう。そしてマカリオスは妻を心配して屋敷に戻ろうと提案する。
「さあ俺達の屋敷に一緒に帰ろう。身体を動かして腹が減ったし君の作った麦粥が食べたいな」
「うんうんわかったとも!旦那様の為なら何時でもキュケオーンを作ってあげるさ!」
上機嫌になったキルケーは鼻歌を歌いつつ大好きな夫に抱きつき、マカリオスと一緒に帰宅しようとする。それを見ていた肉屋の主人は勇気を振り絞って話しかける事にした。
「あ、あの!奥方様!この豚はどうすればよろしいでしょうか!」
「ん?あー、もういいよ。冷静になって考えたら私も大人気なかったし人間に戻して解放するよ。迷惑かけてゴメンね?」
「俺からも謝罪しよう。妻が迷惑をかけて申し訳ない。そこの豚になっている貴方にも謝罪したい」
「そ、そうですか」
大勇士と大魔女から謝罪され恐縮しつつも、元人間を解体せずにすんだと肉屋の主人は心底ホッとした表情を浮かべていた。
「た、助かった……!」
そして豚から人間に戻った女狩人……アタランテは緊張が解けてその場にへたり込んでいた。アタランテは命が助かった事に安堵しつつ自分が信仰する女神アルテミスへ感謝の祈りを捧げるのであった。
「……そして人間に戻った私は這う這うの体ですぐにミュケナイを出たのだ。後から聞いた話では当時の大魔女は身重の身でかなり気が立っていたらしい。あの時の事は思い出すだけでもゾッとする。ただ負けて死ぬよりも悲惨な最期を迎えるかもしれなかったのだ。今でも偶に夢で魘される事があるぞ」
「そ、そうか……あの噂は本当だったのだな」
「その、お前も災難だったな」
数年後、イアソンが率いるアルゴー号に参加したアタランテは当時を思い返していた。完全にトラウマになっている様子を見たイアソンとヘラクレスは思わず同情してしまう。
「そういうわけでイアソン、私はこの島には、アイアイエー島には絶対に降りないぞ。私は大魔女に見つからないようアルゴー号にずっと待機しておく」
「あー、そうか。事情は把握した。君がそう言うのならば私は無理に降ろそうとはしないさ」
「すまない、感謝するぞイアソン」
アタランテの事情を把握したイアソンはそういう事なら仕方ないと納得しアタランテを待機させる事にした。
「うむ、船でゆっくり休むといい…………ただなぁ」
―えー、なんでさ?あの時は私が悪かったし折角君がアイアイエー島に来たから謝ろうと思ってたのにさー。特製キュケオーンを御馳走するから船から降りて私の島においでよ!―
「いやだ、行きたくない。ノコノコやって来た私を豚にして食べるつもりなんだろう。騙されないぞ!」
―そんな事しないよー、本当に悪いと思ってるからさー、このキュケオーンを食べて機嫌を直してくれないかなー?―
「いやだ!食べない!部屋に戻る!」
アタランテの存在はアイアイエー島にいるキルケー(分身)も当然把握していた。耳を手で塞いでキルケーの言葉を聞かないようにししつつ、虚空から出てきたキュケオーンも無視したアタランテは自分の部屋に全力疾走していた。
―うーん、取り付く島もないなー。そこのイアソン君、ちょっと私と彼女が仲直りできるよう手伝ってくれないかな?―
「ええわかりました、私もお手伝いしましょう!」
―おお、ありがとう!じゃあよろしくね―
「叔母様!お久しぶりです!」
―うん、久しぶりだねメディア。でも叔母様呼びはやめてくれないかなー?―
イアソンの返事を聞いたキルケー(分身)は感謝しつつイアソンに任せる事にし、姪で妹弟子でもあるメディアと久々に会話する事にした。
「いいのか?気軽に引き受けてしまったが」
「仕方ないだろう。アイアイエー島の支配者である大魔女殿の頼みとあれば断るわけにもいかないのは君だってわかっているはずだ」
「それはそうなのだが」
「まあ安心しろヘラクレス、今回の依頼はただの和解の執り成しだ。君が成し遂げた十二の難行や今までの航海で起こった出来事に比べれば全然大した事ないからな!君は何も心配せず私に任せるといい!」
「そうか、そこまで言うのであれば貴様に任せよう」
アタランテの反応を見たヘラクレスは和解は無理ではないかと思いつつも、イアソンの自信に満ちた態度を見てとりあえず船長に任せる事にしたのであった。
……その後イアソンは予想以上に頑なな態度を取るアタランテに大いに苦戦し軽い気持ちで引き受けるのではなかったと盛大に後悔しつつも奔走し続けた結果、最終的にアタランテとキルケーは和解し友人関係となる。アタランテは自分の為に奔走してくれた船長に少しだけ感謝し、キルケーは意外とやれる男なのだなぁと称賛していた。
あの二人を和解させたイアソンの手腕にヘラクレスや他の英雄達は大したものだと素直に感心しメディアは無邪気に惚れ直していたが、イアソンは「奇跡的に上手く行ったがもう一度やれと言われたら絶対無理だ」と疲れ切った表情を浮かべていたのであった。
この世界のアタランテは豚の耳と尻尾が生えている霊衣があると思います。
FGOでエウリュステウス王が何もいい事なく退場したので書きました。とある掲示板で建てたスレをもっと書きたかったのですがパートスレにするのも嫌なので、折角だし二次小説として書く事にしました。
ちなみにこのオリ主の実力はは0.9ヘラクレスを想定しています。本気になった時の足の速さは0.9アキレウスです。
正面からの殴り合いならアルケイデス相手でも僅かな優位がありますが、でも強いだけのバカで知力デバフが大きいので搦め手を使われると全然ダメな程度の強さです。
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