もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。第一章最後となります。


半神二人の競い合いと別れ

「ふむ、すごい人の数ですね」

 

とある目的の為にミュケナイを訪れた大賢者は周囲を埋め尽くす群衆を見て感嘆の声を上げていた。一大イベントを目的にやって来た人々でごった返すミュケナイを見た賢者は本当によくここまで人が集まったものだと感心する。

 

「ここに集まっている人達は私と同じく二人の競い合いを見に来たのでしょう。ミュケナイの市民達だけではなく、周辺国家からの見物客や各地から訪れた勇士達、それに私と同じケンタウロスの方達まで……ギリシャ全土から人が集まってくるなんて。そしてあちらが大魔女殿によって新たに建てられた大神ゼウスの神殿ですか」

 

大賢者や他の人々がミュケナイを訪れた理由はもうすぐ開催される競技会を見る為であった。大神の血を引く半神の二人……十二の難行を成し遂げたヘラクレスとミュケナイの守護者マカリオスが父ゼウスの名の下に優劣を競い合うという話を聞いた人々は大いに興奮し、是非ともこの目で見たいとギリシャ全土から押し寄せてきていたのだ。

 

「考える事は皆同じですか。これだけ大勢の人集まっていると競技場に近づくのもままなりませんね」

 

予想以上に多い群衆を見た大賢者は近くで教え子の活躍を見るのは無理だと悟り苦笑する。

 

「まあいいでしょう。ちょうど見晴らしのいい山が近くにありますしそこから見守るとしましょうか」

―あっいたいた!おーい!―

 

大人しく遠くから観戦するつもりだった大賢者であったが、虚空から自分を呼ぶ声が聞こえてきたので視線を向ける。

 

「おや、これは……大魔女殿ですか。初めましてキルケー殿、貴方の御高名は私の耳にも届いていますよ」

―へー、あの大賢者ケイローンにも知られてるなんて私も有名になったものだね。いやーつらいなー、良妻賢母で有名な大魔女でつらいなー!―

「ハ、ハハハ……しかし何故私に接触してきたのですか?もうすぐ競技会が始まるというのにただの見物客でしかない私に話しかけていて大丈夫なのですか?」

―大丈夫大丈夫!良妻賢母な大魔女である私ならお茶の子さいさいだからね!貴方に話しかけたのは特等席にご案内する為さ!―

「それはありがたいですが、私だけ特別扱いなのは気が引けますね」

 

大魔女から特等席に招待すると言われた大賢者……ケイローンは感謝しつつも自分だけ特別扱いされるのは申し訳ないと遠慮しようとする。

 

―いいのいいの!貴方は名高き大賢者だし特別扱いしても誰も文句は言わないって!というか貴方が来た事を知ったヘラクレスが会いたがってるし、王様から客人として歓待したいからここまで連れてきてほしいって頼まれてるから大人しく来てくれないかなー?―

「なるほど、わかりました。そういう事なら」

 

教え子やミュケナイの王が自分に会いたがっていると知ったケイローンは大魔女の求めに応じて移動する事にした。

 

 

 

 

「貴方があの有名な大賢者ケイローン殿か、貴方の事はミュケナイでも有名だよ。私は大神ゼウスよりミュケナイの地を任されているエウリュステウスだ。ミュケナイの王として貴方を歓迎しよう」

「お会いできて光栄ですエウリュステウス王よ。王の御高名は山奥に住む私も存じ上げております」

「ほぉ、貴方のような大賢者に知られているとは嬉しいものだ」

 

競技場の貴賓席にてミュケナイの支配者であるエウリュステウス王に謁見したケイローンは冷静に王を観察していた。

 

(ふむ、大器というわけではありませんが……己の限界を把握し無理はせず周囲を頼る事ができる王ですね。ミュケナイの守護者や大魔女がいる限り暴君にはならず賢王のまま後世に名を残す事ができるでしょう)

 

エウリュステウス王はケイローンから為政者としては及第点だと評価されていた。そして二人は和やかな雰囲気で会話をしていたがケイローンは教え子のヘラクレスに会いたいと居場所を確認する事にした。

 

「ところでエウリュステウス王よ。私の教え子であるアルケイデス、いえヘラクレスに会いたいのですが。教え子と久しぶりに話をしたいのです」

「うむ、そうか。あの化けも、ヘラクレスは向こうの部屋で私のマカリオスと一緒に待機しているぞ。話がしたいのならば好きにすればいい」

「ありがとうございます王よ」

 

ケイローンはエウリュステウス王のヘラクレスに対する認識に微妙な気分になりながらも久しぶりに教え子に会う事を優先するのであった。

 

 

 

 

「お久しぶりですヘラクレス。よくぞ十二の難行を成し遂げましたね」

「貴方のお陰だ師よ、師の教えがあったからこそ全ての難行を制覇できたのだ。しかし貴方がミュケナイまで来るとは思わなかったぞ」

「ハハ、私も柄にもない事をしたとは思いますが、貴方がどこまで成長しているのかこの目で見たかったのですよ……それにいい機会ですから貴方が送ってきた手紙に書かれていたミュケナイの守護者をこの目で確かめたくなったのです」

 

ヘラクレスと再会したケイローンは教え子が立派に成長しているのを見て嬉しく思いつつ、部屋にいるもう一人の半神に視線を向ける。

 

「おぉ、貴方がヘラクレス殿の師であの有名な大賢者ケイローン殿なのか。初めましてケイローン殿、俺はエウリュステウス王の臣下であるマカリオスです」

 

名高き大賢者ケイローンと出会ったマカリオスは尊敬の目を向けつつ挨拶をする。大勇士とは思えない程吞気な様子を見せるマカリオスであったが、彼を見たケイローンは沈黙し感嘆の表情を浮かべていた。

 

(なるほど、確かにこれは……素養だけならヘラクレスに匹敵するかもしれません)

 

大賢者として多くの勇士達を育成してきたケイローンから見てもマカリオスは類稀な素質を持っていた。頭の出来はともかく素養だけならヘラクレス並という逸材を見たケイローンは思わず溜息をつくが、大賢者はマカリオスの問題についても把握していた。

 

(身体能力だけならヘラクレス以上かもしれないとは。しかし惜しい事に非常に荒削りです。ヘラクレスの言う通り我流でここまで鍛え上げたのはとても素晴らしい事ですが、改良できる部分は幾らでもありますね)

 

「あの、ケイローン殿?」

「ああすみません。あの有名なミュケナイの守護者に会えて光栄ですよ」

「俺も貴方に会えて光栄です。ケイローン殿はすごく理性的で他のケンタウロス達と全然違うなぁ」

「おい失礼だぞ阿呆」

「あっ、た、確かにヘラクレス殿の言う通りだな。申し訳ない」

「ハハ、別にいいですよ。他の方達からもよく同じ事を言われますからね」

 

気を取り直したケイローンはヘラクレスとマカリオスの三人で会話をするが、競技会が始まる時間が迫ってきたので二人を見送る事にした。

 

「もう時間ですね。ではお二人の健闘を祈りますよ」

「ああ、師の前で無様な姿を見せるつもりはないさ」

「俺だって王や妻と娘の前で負けるつもりはないぞ」

 

 

 

 

「……それでねー、うちの娘のイェラちゃんったら本当に本当に本当に可愛いくてさぁ!旦那様譲りの白い髪と肌がチャームポイントなんだけど、顔立ちは私に似ててとってもとってもとっても可愛くてさぁ!両親のいいとこどりで完璧で究極な娘なんだよねー!これは母親としての勘だけどイェラちゃんは将来すごい美人に育つと思うよー!きっとミュケナイでは求婚者が続出するだろうけど娘に近づく不届き者は旦那様と私が許さないよ。イェラちゃんと結婚したいのなら私と旦那様に勝ってもらわないとねー!王様もそう思うでしょー?」

「うむ、そうだな。娘が可愛いのはわかるが客人の前では黙ってほしかったのだがな……すまないケイローン殿、この大魔女の言葉はどうか聞き流してほしい」

「え、ええ。わかりました」

 

「大神の血を引く旦那様と太陽神の血を引く私から生まれたイェラちゃんなんだけど性格は旦那様に似て穏やかで大人しい子なんだよね。今も私の腕の中でスヤスヤ眠っているし大物だよ!将来有望すぎて今から楽しみだね!旦那様のように勇士として育てるか私のように魔女として育てるか……うーん悩ましいなー!かーっつらいなー!自分の子が優秀過ぎてつらいなー!」

「うむ、そうだな。(性格が貴様に似ると絶対碌な事にならないだろうし)マカリオスに似て穏やかな性格なのは好ましいな」

「ゼウスとヘリオスの血を引く娘さんですか。私も教育者として娘さんがどこまで成長できるか興味がありますよ。どちらの道を行くとしても娘さんは後世に名を残す事でしょうね」

 

「ふふんそーでしょー!見る目があるねケイローン殿は!ご褒美にキュケオーンを食べる権利をあげようじゃないか!それと心の中で失礼な事を考えてた王様は今日一日の間は両脚を豚の足に変えておくから反省するんだよ?」

「ヒィ!?ごめんなさい!」

「……王も苦労されておられるのですね」

「わかってくれるかケイローン殿……!」

 

娘を抱きつつハイテンションな様子で競技会が始まるのを待つ大魔女に振り回されるエウリュステウス王を見たケイローンは思わず同情していた。その後時間となり観客から盛大な歓声が起こるなか二人の半神は競技を始めるのであった。

 

 

 

 

「やはりッ!あの阿呆の方が速いか!」

 

最初は競争から始まった。全力疾走するヘラクレスであったが雷光を纏い走るマカリオスの方が速く距離はどんどんと開いて行き最終的にマカリオスが勝利した。殆どの観客は何が起きたのか見えず困惑していたが、とりあえず両者の健闘を称え拍手喝采する事にした。

 

「よし、最初は俺の勝ちだなヘラクレス殿」

「ああ、貴様の勝ちだ。ケリュネイアの鹿よりは遅いが、私の足では追いつけなかったよ」

「ああ、ヘラクレス殿が捕まえた鹿の事か。確かアルテミス様よりも速いと聞いたが……ヘラクレス殿はそんな鹿をよく捕まえられたものだなぁ。俺には多分無理だ」

「水場に留まっていたのを何とか捕獲したが、もう一度やれるかと聞かれたら難しいだろうな」

 

 

 

 

「いつも持ち上げてる山じゃ証明にならないな」

「うむ、これくらいの山など普通に持ち上げられるし自慢にもならんな」

 

次は力比べとなった。ミュケナイ近くにある大山を軽々と持ち上げる半神達に観客達は感嘆の声を上げるが、二人としては大した事ではなく平然としていた。

 

「では今度は綱引きで優劣を決めようか……大丈夫なのだろうか?」

「どうしたヘラクレス殿?」

「いや、綱が持つか心配になってな」

 

 

 

 

「「あっ」」

 

 

 

 

「まあ予想されていた事ではあったな」

「そうだねー、人間の作った大綱じゃ耐えられるわけないよねー」

「山を持ち上げる半神二人の力は凄まじいですね」

 

ヘラクレスとマカリオスの綱引きは綱が耐えられず真ん中から引き千切れてしまい観客達は大きくどよめく。エウリュステウス王達は何とも言えない顔をしつつもどうやって競技を再開させようか考え込んでいた。

 

「大綱の予備はあるがまた引き千切れるだけだな。いや待てよ、大魔女の貴様が大綱を強化すればいけるか?」

「私としては別にいいけど、それだと旦那様に加担したと思われないかな?」

「確かに、キルケー殿に加担するつもりがなくても観客の中には信じない者が出てくるかもしれません」

 

―これを使うがいい。ヘパイストスに作らせた物だ―

 

「……大神自ら動かれるとはなぁ」

「おぉ~、さすが鍛冶の神が作っただけあってすごい業物だぁ。あれなら二人が全力を出しても余裕で耐えられると思うよ!」

「神々が二人の為に動かれるとは驚きましたね」

 

大神ゼウスからの贈り物である大綱を見たエウリュステウス王は遠い目をしつつも、これなら問題ないと競技を再開させる事にした。

 

「おおおおぉッ!我が王と妻と娘が見ているのだッ!!無様な姿など見せられるかぁッ!!」

「ぬっ、ぬうぅッ!?」

 

そして半神二人が全身全霊で引っ張り合った結果マカリオスが勝利する。勝負に使われた神造製の大綱は綱引きの勝者であるマカリオスがエウリュステウス王に献上しミュケナイ王家の所有物となり、ギリシャの至宝として記録される事になった。ちなみに最初に引き千切られた大綱も回収されていたが長い歴史の中で紛失し現代では行方不明である。

 

 

 

 

その後も様々な競技を行われ最後はパンクラチオンで決着をつける事になった。かつて発狂したアルケイデスとマカリオスの闘いを知るミュケナイの市民達はこの激闘はどちらが勝つのだろうかと期待していたが、実際に試合が始まると予想外の展開となっていた。

 

「ええいあの阿呆め!一方的に押されておるではないか!力と速さはマカリオスが勝っているはずなのにどういう事だ!?」

「そりゃあ仕方ないよ。経験の差が大きすぎるからね」

「ええ、十二の難行を成し遂げた事は彼にとって大きな成長となったようですね」

 

試合はヘラクレスが終始優勢であった。マカリオスが繰り出す雷光を纏った拳や蹴りを紙一重で躱したヘラクレスは、反撃として的確な一撃を叩きこみマカリオスへ確実にダメージを与えていた。ミュケナイに引き籠っていたマカリオスと十二の難行を達成したヘラクレスでは経験の差が如実に出ていたのだ。

 

「や、やはりあの阿呆に一人でやらせるのはまずかったか……そ、そうだ!なぁケイローン殿、暫くの間ミュケナイに滞在して阿呆の指導をしてくれないか!?もちろん報酬は出すぞ!」

「申し訳ありませんがお引き受けできかねます。彼を指導できるというのはとても魅力的ですが、教育者として他の生徒達を放り出す事はできませんから」

「じゃ、じゃあ教え子達もミュケナイに来ればいい!それなら問題ないはずだ!」

「はいはい落ち着こうねー」

「モガァ!?」

 

焦るエウリュステウス王をキルケーが落ち着かせる。そして怒涛の攻撃をくらい大きく怯んだマカリオスにヘラクレスは必殺の一撃を使う事にする。

 

「これで終わりだ」

「ぐぉ、あ」

 

十二の難行を乗り越えた結果編み出したヘラクレスの奥義……後に射殺す百頭(ナインライブズ)と呼ばれる事になる連撃が直撃したマカリオスは大きく吹き飛ばされる。即座に立ち上るマカリオスだったが大きくふらついてしまい、対照的にヘラクレスはまだ余裕を残しておりどちらが勝者なのかは一目瞭然であった。

 

「はぁ、俺の負けか。やっぱりヘラクレス殿は強いなぁ」

「ああ、私の勝ちだ。貴様も強かったぞ。最後の連撃は本気で叩き込んだのだがすぐ立ち上がるとはな」

 

マカリオスは自分の負けを認め勝者であるヘラクレスを笑顔で称える。観客達も素晴らしい試合を見せてくれた二人を称え拍手喝采を上げていた。

 

……後にミュケナイの神前競技と呼ばれる事になる半神二人の競い合いは公正な審議の結果ヘラクレスの優勝となった。力や速さで優れていたマカリオスを下したヘラクレスはギリシャで最強で最優の大勇士として称えられる事になる。とある女神は目論見が上手くいかず不満であったが、夫が観戦している中で干渉できるわけがないのは理解していたので渋々諦めていた。

 

そして二人の息子の成長を確認した大神ゼウスは二人がいれば巨人達との戦争にも勝利できると確信し満足気な表情を浮かべていた。本命のヘラクレスと予備のマカリオスは来るべき決戦の時が来るまで大事にする事を決意し、他の神々に二人への過度な干渉する事を禁じたのであった。

 

 

 

 

「もう行くのか」

「うむ、暫く旅に出るつもりだ。貴様も達者でな」

 

競技会が終わった翌日、夜明け前にミュケナイを出ようとしていたヘラクレスはマカリオスに別れを告げていた。

 

「寂しくなるな。また何時かミュケナイに遊びに来てくれ。俺は歓迎しよう。あ、それと妻から何年も長期保存ができて栄養満点なキュケオーンを渡すように言われてたんだ。ぜひ持って行ってくれ」

「いや、私がミュケナイに来たら王や市民達が怖がるだろうに。まあ貴様の気持ちは受け取っておこう……それとこれは私が食べても大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。そのキュケオーンを食べても俺やヘラクレス殿が豚になる事はないから安心しろとキルケーが言っていたぞ」

「いや全然安心できないのだが」

 

マカリオスの説明を聞いたヘラクレスは微妙な表情を浮かべるが最終的にキュケオーンを受け取る事にした……ヘラクレスの冒険ではキルケー印のキュケオーンが時折登場し、相手に無理矢理食べさせて豚に変えていたという逸話が残っているが真偽は定かではない。

 

「じゃあなヘラクレス殿」

「ああ、さらばだマカリオスよ」

 

そしてヘラクレスはマカリオスに見送られつつミュケナイを出国した。その後ヘラクレスは様々な地域を旅して幾多の冒険をする事になり、マカリオスはミュケナイの守護者として引き続きミュケナイを守り続けていた。そして未来で神々と巨人達との一大決戦ギガントマキアが勃発した時に二人は再会し共に戦う事になるのであった。




この後は番外編をいくつか書いて第二章となる予定です。



FGOでエウリュステウス王が何もいい事なく退場したので書きました。とある掲示板で建てたスレをもっと書きたかったのですがパートスレにするのも嫌なので、折角だし二次小説として書く事にしました。

ちなみにこのオリ主の実力はは0.9ヘラクレスを想定しています。本気になった時の足の速さは0.9アキレウスです。
正面からの殴り合いならアルケイデス相手でも僅かな優位がありますが、でも強いだけのバカで知力デバフが大きいので搦め手を使われると全然ダメな程度の強さです。



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