もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら 作:名無しのマネモブ
「……………」
早朝のミュケナイ郊外にて、とある少年が何か悩んだ様子で考え込んでいた。
「………くっ」
彼は最近ミュケナイを訪れた若き勇士であった。あの名高き大賢者ケイローンに師事し若くして様々な武芸を習得している彼はまだ幼い少年であったが、並の勇士など一蹴できる強さがあった。大賢者から世間を知る為に旅をする事を勧められた少年は、有名なミュケナイの守護者をこの目で一度見てみようと訪ねていたのだ。
「どうすれば……」
少年は大賢者や周囲の人間達からいずれ後世に名を残す大勇士になれると期待されており、彼も大勇士になろうと慢心する事なく自己研鑽に励んでいた。だが今の少年は生まれて初めての挫折を味わっており焦りの表情を見せていた。
「どうすればマカリオスのオッサンのような剛力が手に入るんだ……!」
「ひたすら鍛えるしかないんじゃないか?俺はそうしたぞ」
「な、なるほど!確かに鍛錬あるのみだな!」
山を軽々と持ち上げるマカリオスを見た少年……アキレウスはマカリオスの怪力を羨むと同時に、ミュケナイの守護者を超える大勇士になる為にも更に鍛えなければならないと誓うのであった。
「なぁマカリオスのオッサン、アンタどうやって強くなったんだ?」
「ううむ、そうだなぁ」
その後朝の鍛錬を終えたアキレウスは滞在先であるマカリオスの屋敷にて、キルケーが作ったキュケオーンを食しながらマカリオスに強さの秘訣を尋ねていた。自分に敬意を向けつつ真剣な様子で尋ねてくるアキレウスに好感を持ったマカリオスは腕を組んで考え込むも、やがて困ったような表情を浮かべる。
「小さい頃は遠くから勇士達の鍛錬を眺めて見て覚えるだけで何とかなってしまったからなぁ。初陣でも何も考えず突撃して敵将の首を引き抜いた後暴れたら勝っていたぞ。成人してヘラクレス殿と初めて闘った後は腕力と素早さに重点を置いて鍛えていたな……でもこれじゃあ君の参考にはならないだろうな。すまない」
「お、おぅ。先生の言ってた通り本当に我流でそこまで強くなれたんだな。マカリオスのオッサンはスゲーよ」
誰にも師事する事なくヘラクレスに並ぶ大勇士になったマカリオスに対してアキレウスは素直に感心し称賛する……アキレウスはマカリオスの事をオッサン呼びしていたがマカリオスは笑って受け入れていた。まあそれを聞いていた良妻賢母の大魔女は頬を少しひくつかせていたが大丈夫だ、問題ない。
「うん、このキュケオーン美味しいな!」
「ほうほう、私の作るキュケオーンの良さがわかるとは中々将来有望じゃないかアキレウス君。さっきの無礼な発言は許してあげよう。それにヘラクレスと違って素直にキュケオーンを受け取って食べる姿勢には好感が持てるよ。キュケオーンは"食べる万能薬"と言われるくらい栄養が豊富なのさ。滋養強壮、疲労回復、怪我の早期完治、風邪薬、媚薬、その他諸々といった多種多様な効能がある完全無欠な料理なのだよ。君もキュケオーンの素晴らしさがわかったようでよかった。ミュケナイを離れて大賢者の元に戻る時にお土産としてキュケオーンを持たせてあげようじゃないか。なぁに遠慮はいらないよ」
「おぉ、ありがとなキルケーさん!」
アキレウスの純粋な称賛を聞いたキルケーは機嫌をよくし、アキレウスに腹を下す呪いをかけるのはやめる事にした。その後もアキレウスとマカリオス一家は和やかな雰囲気で食事を続ける事にしたのであった。
「ふぅ、どうすればいいんだろうなぁ」
食事を終えて鍛錬を再開したアキレウスはマカリオスを超えるにはどうすればいいか考え込む。
「大丈夫だよアキレウスさん!脚の速さだけならいずれ父さんよりも速くなれるって父さんにも褒められてたし!」
「いやそうだけどよ」
そんなアキレウスを面白そうに眺めていたアクイラはニコニコと笑顔を浮かべてアキレウスを慰め、アキレウスは何とも言えない顔をしていた。
「お前俺の鍛錬を眺めてるけど自分の勉強とかしなくていいのかよ?」
「ヘーキヘーキ!母さんから課せられた今日の分のノルマは達成済みだから!僕って姉さんよりも魔術の才能が豊かな天才少年だからね!あれくらいの課題なんて姉さんと違って朝飯前なのさ!」
「いや自分で天才って言うなよ。でも俺に構うのはなんでだ?」
「父さんを超えようと必死に頑張っている姿が見てて面白いから!」
ケラケラと笑うアクイラを見たアキレウスはコイツいい性格をしてるなと渋い顔をする。
「ああそうかい、別に見ててもいいけど俺の邪魔をするなよ……でも大魔女から指導されるってスゴいな。お前は将来魔術師になるのか?」
「そうだねー、僕は歴史に名を残す大魔術師で大魔女になろうと思ってるんだー」
「え、いやお前男だろ?」
「大丈夫、母さんから僕はその気になれば大魔女にもなれるって言われたんだよね。魔術を極めれば性別なんて後から自由に変えられるようになるらしいし僕が大魔女になっても問題ないでしょ。フフン、僕は男でも女でもない性別を超越した天才大魔術師になるのさー!」
「お、おぅ……?」
自信満々な様子で胸を張るアクイラに、コイツは何を言ってるんだとアキレウスは困惑しつつも鍛錬を続ける事にした。
「うーん、アキレウスさんは頑張ってるし速さについては問題ないとは思うけど何か物足りないよね。具体的には腕力とか、筋力とか、筋肉とかがさ」
「うるさいな、お前に言われなくてもわかってるんだよ」
その後アクイラの指摘を受けたアキレウスは苦い顔をしつつも否定できないでいた。
「勇士として父さんを超えたいのなら速さだけでなく腕力も必要だと思うよ?」
「やっぱりそう思うか?」
「うん、父さんより優れているっていうヘラクレスさんだってあの大山を軽々と持ち上げてたらしいし、ギリシャ最強の大勇士になりたいのなら筋肉は必要不可欠でしょ。少なくともあそこの大山を持ち上げられるようにならないとダメじゃない?」
「……だよなぁ」
アクイラの言葉にアキレウスは頭を掻きつつ悩んでいた。世界で一番優れた大勇士になりたいという夢を持つアキレウスとしては、山を持ち上げる怪力を持つ二人に対抗するにはこちらも筋力を鍛えるしかないのではないかと考えていた。
「でも先生は今は無理せず基本を押さえる事を優先しろって言ってたしなぁ」
「大丈夫大丈夫!地味な修行を続けるよりも今から筋肉を鍛え上げた方がずっといいって!筋肉は全てを解決する……事はできないけど大体の事は解決できると思うよ!」
悩むアキレウスに対してアクイラはニコニコと微笑みながら地味な基礎修行より筋トレを優先するべきだと唆す。
「圧倒的な筋力と稲妻の如き速さでゴリ押せば何とでもなるでしょ!だって僕の父さんがそうだし!アキレウスさんはいずれ父さんよりも速くなれるらしいけど、その神速に山を持ち上げる怪力を合わせれば最強無敵の大勇士にきっとなれるよ!基礎修行なんて後からできるんだし今から筋肉を鍛えた方がお得だって!」
「む、むぅ……それは、そうなんだが」
アキレウスはアクイラの提案に思わず考え込む。まだ若い少年が勇士として、男として山をも持ち上げる剛力を手に入れたいと思わず揺らいでしまうのは無理もないだろう。
「そうだな、俺もあんな怪力を手に入れたいし今から筋肉を鍛えるのも悪くないか」
「そうだよ!父さんみたいにムキムキになれば向かうところ敵なしだよ!大丈夫、筋肉は絶対に裏切らないからね!」
そして魔が差したアキレウスは師の教えを破り筋肉を重点的に鍛えようと決意しかけるが……
「コラッ!何やってるのアクイラ!」
後からやって来たアクイラの姉のイェラが二人を止めてきたのであった。
「もう!無責任な事を言ったらダメでしょ!」
「えー、僕は本気で勧めてるんだけどなー。父さん見てたら筋肉と速さを極めれば問題ないってわかるじゃんかー」
「そんなわけないでしょう!アキレウスさんの師匠の大賢者さんは数多くの勇士を育てたスゴい人なのよ!私やアクイラみたいな子供なんかよりずっと育成について詳しいんだから素人が勝手に口出ししたらダメよ!」
「はーい。あーあ、姉さんは頭が固いなー。姉さんの腹筋並に頭がカチカチだね。魔女の修行よりも大勇士を目指して鍛錬した方が姉さんは絶対に大成できると思うんだけどなー。今からでも鍛えて大人になったらアマゾネスの女王くらいなら余裕でなれる気がするよ?それ程の素養を溝に捨てるなんて勿体ないし姉さんも優先的に筋肉を鍛えるべきだよ!」
「ぶつわよ?というかぶつわね?」
「……あー、うん、確かにそうだよな。先生の指導に従った方が強くなれるよな」
姉弟がぎゃあぎゃあ騒ぐのを見たアキレウスは頭が冷えて冷静になり、子供の無責任な発言よりも自分の師である大賢者を信じるべきだと思い直していた。
「俺とした事がこんな事で揺らいでしまったぜ。俺もまだまだだなぁ」
「その、弟がすみません。後でお母さんに叱ってもらいますので」
「ヒエッ、ちょっ、ちょっと。やめてよ姉さん。僕悪い事したつもりはないんだけど?」
「アンタさっき私の努力を笑ったでしょ?お母さんにチクってやるわ」
「いや別に俺は全然怒ってないんだが……まあ、人の努力を笑うのはよくないと思うぞ。諦めな」
冷や汗を流して焦るアクイラを見てアキレウスは苦笑しつつ師の教えに従い今しばらく地道な鍛錬を続ける事を決意したのであった。
その後はアキレウスはマカリオスと共に競走に励んだり、キルケーに抱えられ愛でられる子豚を見て憐れんだりしつつ充実した日々を過ごす。マカリオスと出会い勇士として着実に成長しているのを実感するアキレウスであったが、彼としては勇士として活躍し名を挙げたいと思う気持ちもあった。だが自分がまだ未熟な事を自覚している彼は逸る気持ちを抑えつつ鍛錬に勤しむつもりであった。
……だがアキレウスは大神ゼウスが予定していた時よりもずっと早く戦場に出る事になる。とある一大決戦に未熟ながらも無理矢理参加した彼は武勲を挙げギリシャ中に名声を轟かせる事になるのであった。だがアキレウスはその戦いでの武勲について「あの時の武勲は大勇士の二人に比べれば全然大した事がない」と謙遜し一度も鼻にかける事はなかったという。
やはり筋肉……!筋肉は全てを解決する……!
次はアクイラのお話になる予定です。
FGOでエウリュステウス王が何もいい事なく退場したので書きました。とある掲示板で建てたスレをもっと書きたかったのですがパートスレにするのも嫌なので、折角だし二次小説として書く事にしました。
ちなみにこのオリ主の実力はは0.9ヘラクレスを想定しています。本気になった時の足の速さは0.9アキレウスです。
正面からの殴り合いならアルケイデス相手でも僅かな優位がありますが、でも強いだけのバカで知力デバフが大きいので搦め手を使われると全然ダメな程度の強さです。
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