もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら 作:名無しのマネモブ
「……ん、朝か」
夜明け前のミュケナイ王都、マカリオスの屋敷の寝室で目を覚ました大魔女キルケーは隣で眠る夫の寝顔を愛でつつ起き上がる。
「ンフフ、私の旦那様はいつ見ても素敵だなー。私の事を一途に愛してくれるしキュケオーンを美味しそうに食べてくれるし、こんな素敵な旦那様は世界を見回しても他にはいないと確信できるよ。かーっつらいなー!旦那様から愛されすぎてつらいなー!良妻賢母な大魔女でつらいなー!……それにしても旦那様が早起きしないだなんて珍しい。ちょっと疲れてるのかな?とりあえず疲労回復の為にいつものキュケオーンとは別に私の特製キュケオーンも食べさせてあげないとね」
―あ、起きたんですね母さん。おはようございます。じゃあこの拘束を解いて透視を外させてくださいお願いします―
「うん、おはようアクイラ」
夫であるマカリオスを愛でつつも心配するキルケーに息子のアクイラがげんなりした声で朝の挨拶をしていた。
―それと父さんが疲れているのは加齢の影響もあるでしょうが母さんが搾り取ったからだと思いますよ。あんなに激しく愛し合っていたら疲れて当然ですよ。母さんはツヤツヤテカテカになってますが父さんの方はちょっと萎れてるじゃないですか。半神の父さんをそこまで搾り取るとか大魔女怖すぎるでしょう。何時もこんな感じなんですか?―
「いいや違うよ?私も何時ならあそこまで激しく愛し合う事はないんだけど、息子に見られてるとわかって興奮しちゃってさぁ……私と旦那様の愛を見せつけてやろうとつい張り切ってしまったんだよねー。いやー本当に情熱的な一夜だったなー、旦那様すごかったなー、私達の愛を再確認できたし大満足だったよ。あ、そうだ、イェラもアクイラも育ってきたし一人産んでもいいかも。というか産むね。ねぇアクイラ、君は弟と妹のどっちが欲しいかな?え、どっちも欲しいだって?ふーんアクイラは欲張りだなーじゃあ双子にするよ。十ヶ月後を楽しみにしたまえ……ああでもイェラにも聞いておかないとダメだよね。よぉし、朝食の時に聞いてみるかな!」
―僕としてはどっちでもいいですよ。あれ、でもミュケナイにいる間はもう子供を作らないって言ってましたよね?―
「あ、そうだった。じゃあ幸せ家族計画はアイアイエー島に行くまでお預けだね」
キルケーはウキウキ気分で朝食のキュケオーンを作り始めるのを見たアクイラは相変わらずラブラブな両親だなぁと思いつつも早く拘束を解いてほしいと訴える。
―あの、そろそろ拘束を解いてくれませんか?何が悲しくて両親の愛し合う姿を強制的に見続けなければならないんですか?これ虐待じゃないですか?―
「えー、君が勝手に覗いてきたんだろう?私の警告を無視して大魔女の閨を覗くだなんて命知らずにも程があるよ?アクイラは可愛い息子だし、君がただの好奇心で覗いてきたのはわかってたから今回は軽い御仕置ですませてあげたけど、本当なら子豚にしてたからね?好奇心旺盛なのはいい事だけど次から気をつけるんだよ。わかったかな?じゃあ拘束を解くから顔を洗ってきなさいねー」
―は、はぁい……くっそぉ、確かにこの件に関しては一番悪いのは僕ですよねぇ……あーもう昨日の自分をぶん殴ってやりたいです―
拘束を解かれたアクイラはぐったりした様子を見せつつもよろよろと起き上がり身だしなみを整える事にしたのであった。
「という事があったのさ。アクイラが寝不足なのは自業自得だからイェラは気にしなくていいからねー」
「アクイラ、貴方って私より頭がずっといいはずなのに偶にすごく阿呆になるわよね」
「グホァ!?ね、姉さんにそんな事言われるなんて屈辱です……!」
「ぶつわよ?」
朝食を食べ終え朝の鍛錬を終えたマカリオスが宮殿に行った後、キルケーは自分の弟子である子供達の指導を行っていた。
「はいはい無駄口を叩かないの。イェラ、注意が疎かになって結界が揺らいでるよ」
「あっ、ご、ごめんなさい師匠」
「そしてアクイラ、君は流石だね。雑談をしつつも結界は一切揺らいでいない。この結界を破壊するには私でも少し手間取るかなー。アクイラは本当に魔術の才能が抜きん出ているね。かつて教えていた私の姪っ子よりも優秀だよ」
「フフン、ありがとうございます師匠」
子供達の魔術の腕前を見たキルケーは満足そうに頷く。キルケーから見ても姉弟の努力は素晴らしいものであり、特に弟のアクイラは今まで指導してきた弟子の中でも最優であると確信していた。
「アクイラならお師匠様から直接指導してもらってもいいかもしれないねー。これ程優秀な子ならお師匠様も自分の魔術を教えるのにやぶさかでないだろうし。もうちょっと修行したら一度冥界に行ってお師匠様に少し指導してもらうかい?」
「おおっ!それはいいですねぇ!」
「え、でもお母さ、師匠。冥界に行かせて大丈夫なの?アクイラが死んじゃうかも……」
「大丈夫大丈夫、アクイラは器用な子だし死にはしないと信じてるからね」
弟を心配するイェラにキルケーは笑って問題ないと答える。イェラは弟が魔術師として自分よりも遥かに優秀な事を称賛しつつも、どうして自分はダメなのだろうかと思わず自問自答する。
「アクイラはすごいわねぇ、それに比べて私ったら全然ダメだわぁ……」
「いえいえそんな事ないですよ姉さん!姉さんは何時も真剣に頑張っているのは僕も知ってますし、魔術師としては才能は普通にあるって母さんも認めてたじゃないですか!それに姉さんには僕にはない素晴らしい才能があるじゃないですか!そう、その立派な筋肉がね!今こそ姉さんは魔術の修行と並行し筋肉を鍛えるべきなんですよ!大丈夫です!僕の見立てでは姉さんの肉体は父さん並みとはいきませんが圧倒的な才能がありますから!鍛えれば鍛えるだけ強くなれますよ!たぶん軽く鍛えるだけで魔術よりもすぐ上達して強くなれると僕は確信してます!さあ姉さん!その下手くそな擬態をやめて真の素晴らしい姿を晒し、魔術が使えて殴る事もできる万能魔術筋肉使いを目指しましょう!」
「うん、貴方が本気で私の事を褒めてるのはわかるけどぶつわよ?」
真剣な表情で筋肉を鍛えるべきだと進める弟の言葉を聞いたイェラは真顔になって弟を追い回す。ぎゃあぎゃあ騒ぐ子供達を見たキルケーは苦笑して二人の喧嘩を止める事にした。
「こらこら喧嘩しないの。私はこれから宮殿に行って魔術結界の確認をしてくるから二人は仲良くするんだよー?」
「あ、はい。わかりました師匠」
「いってらっしゃい師匠。あーあ、姉さんはどうして自分の筋肉が嫌いなんですかね?」
そして用事があったキルケーは二人を置いて宮殿に向かう事にしたのであった。
「ヨシ!宝物庫の魔術結界は異常なしだね」
「うむ、感謝するぞ大魔女よ」
宮殿にて魔術結界の確認をしたキルケーは結界に一切の綻びがない事を確認する。その様子を見ていたエウリュステウス王は大魔女が味方で本当に良かったと安心していた。
「貴様が宝物庫に魔術結界をかけてくれたお陰で財宝が盗まれる心配をしなくてよくなったのはよい事だ。この調子で引き続き頼むぞ」
「任せたまえよ王様、私がいる限り宝物庫に泥棒が入る事なんて不可能さ……まあオリュンポスの神々が相手だと厳しいけど」
「それでいい、人間の泥棒が入れなくなるだけで十分だ。神々が干渉してこられた場合は諦めるしかあるまいよ」
大魔女キルケーと雑談しながら宝物庫を進むエウリュステウス王は宝物庫の最奥に到着する。そこに安置されている至宝を見た王は感嘆の溜息をついていた。
「ハァ、何度見ても素晴らしい物だなこの大綱は」
「ヘパイストス神が造り上げた神造物だからね、旦那様とヘラクレスの力比べに使うために用意された特注品の大綱……単純な造りだけど人間がこれを造る事は絶対にできないさ」
「ああ、そうだろうな。何度見ても飽きない素晴らしい芸術品だよ。これ程の宝が私の物になるとはな」
ヘパイストス神が造った神造物の大綱を撫でるエウリュステウス王は満足気な表情を浮かべつつキルケーに確認する。
「大魔女よ、ここの魔術結界については特に厳重な造りにしてあるのだな?」
「そうだねー、ここに入れるのはミュケナイの王と私だけだからね、それに王様の指示通り誰にも動かせないようにしてあるし安心していいよー」
「フフフ、そうか。それならいい。これはミュケナイの至宝だ。私が死んだ後も子々孫々に伝えるべき至宝であり絶対に失うわけにはいかないのだ!」
キルケーの返事に満足したエウリュステウス王は神造物の大綱を存分に鑑賞した後宝物庫を出るのであった。
「そうか、我が王は満足されておられたのか。それはよかった、俺が献上した大綱で我が王がお喜びになっているとは俺も嬉しく思う」
「まあ鍛冶の神が造った神造物だからねー、人間が造った芸術品なんてあれを見たら色褪せて見えるだろうし王様が大綱に執着するのは仕方ないよね」
宮殿を出て屋敷に戻ったキルケーはマカリオスと子供達にキュケオーンを振る舞いつつ宮殿での出来事を話していた。
「へー、神様が造った大綱かー。僕も見てみたいなー、ねえ母さん、僕見に行っていいですか?」
「やめときなさい死ぬよ?いや死ぬより酷い事になるよ?王様に命じられてガチガチの魔術結界を構築したからね、覗き見るだけで呪われるし、ミュケナイの王や私以外の他人が入り込んだら死ぬよ?少なくとも今の君じゃ死ぬよ?」
「ヒエッ」
「ア、アクイラ、あのお母さんの顔は本気だわ。行かない方が絶対にいいわ!」
「う、うん、そうですね姉さん」
軽い気持ちで聞いたアクイラだが真剣な表情で止めてくるキルケーを見て本当に危険なのだと理解し顔を青ざめる。姉のイェラからもやめるように言われたアクイラは宝物庫に干渉しない事を誓う事にした。
「うん、それでいいよ。命は投げ捨てる物じゃないからね。どうしても見たいんだったら後十年程修行するんだね。そしたら宝物庫に入れるようにするから後はよろしく頼むよ?」
「めんどくさいから押し付けようとしてませんか?……まあ結界の管理くらいならやっておきますよ」
「イェラもアクイラも賢い子だな。俺に似なくて本当に良かったよ」
「もー、そんな事言ったらダメだぞ旦那様?旦那様は自分の頭の悪さが欠点だと思っているみたいだけど全然そんな事はないさ!私と夫婦をやれるすごい男だとしてお師匠様からお墨付きいただいてるしね!……でも冷静に考えると私バカにされてないかな?ん?あれ?これ褒め言葉として受け取っていいのかなー?うん、ちょっとお師匠様に呪いをかけたくなってきたけど、そんな事しても返り討ちにされそうだしこれ以上考えるのはやめとこうか」
夕食を終え寝室に入ったキルケーは夫のマカリオスと和やかな雰囲気で会話をしていた。
「しかし君は何時も美しいな。君のような素晴らしい女性が妻になって俺は本当に嬉しいよ。良き妻と子供達に囲まれて俺は幸せ者だ。女神ヘラ様には感謝しなければ」
「ウフフ、私も旦那様に愛されて幸せだよ……………でもヘラ様に祈るのはやめた方がいいんじゃないかなー?」
「ん?何故だ?よき家庭にめぐり合わせてくれたヘラ様に感謝の祈りを捧げるのは当然ではないか?」
「う、うーーーーーん?それはぁ、そうなんだけどぉ……ま、まあいいか!うん、じゃあ私も一緒に祈る事にするよ!」
「おお、そうだな。では一緒に祈りを捧げよう」
夫から誘われたキルケーは何とも言えない表情をしつつも家庭を司る女神ヘラに感謝の祈りを捧げる事にした……天からそれを見ていた女神は何故か苦い表情を浮かべるが最終的に渋々といった様子で祈りを受け入れていたので大丈夫だ、問題ない。
「よし、じゃあ寝ようか。おやすみキルケー」
「うん、おやすみ私の旦那様」
そして祈りを捧げ終えた二人はベッドに入り就寝する事にした。夫の逞しい身体に抱き着き満足気な表情を浮かべるキルケーは、いつか絶対に夫を豚にして愛でてみせると心中で誓いつつ今の平穏な生活に満足していたのであった。
「……ヨシ、魔術結界の補修完了です。これで最低でも五百年の間は放置しても大丈夫ですね」
「ほぉー、大したものだなアクイラ殿よ。流石はかの大魔女の御子息だ」
その後、遠い未来ではキルケーの息子のアクイラがミュケナイの宝物庫にて魔術結界の補修作業を行っていた。アクイラの作業を眺めていたとある大王は流石大魔女キルケーの息子だと感心した様子であった。
「本来は他人に見せていいものじゃないんですけどねー、大王様がどうしても見たいっていうから宝物庫の最奥に案内するついでに補修作業をしてたんですが……どうでしたか?神造物の大綱を見たご感想は?」
「うむ!素晴らしい物が見れて余は満足である!確かにあれは厳重に保管するべき秘宝だ……なぁ、アクイラ殿。やはり持ち帰ってはダメだろうか?」
「死にたいんですか?あれを持ち出したら母さん特製の呪いがかかりますよ?もし呪いにかかったら大王様が死ぬだけじゃなくて大王様の御家族や臣下達、それに子々孫々に至るまで呪われる恐ろしい呪いがかかりますよ?僕でも解除するのは難しいですし呪いを解く前に大王様が死にますけど本当にいいんですか?」
「ぬぅ、そうかぁ。かの大魔女の呪いを受けるのは余も怖いしやめておくか」
真剣な表情で止めてくるアクイラに大王は渋々といった様子で神造物の大綱を持ち帰るのをやめる事にした。
「おお、大王様が素直に諦めるとは珍しい。やっぱり僕の母さんって滅茶苦茶怖がられてますよね。世界的に有名な"大魔女キルケー"は良妻賢母を気取っていましたが、まあ客観的に見れば異常キュケオーン愛者で異常性愛者な危険人物ですからねー。あ、これは息子の僕だから許される発言であって、大王様が同じ事を言えば即座に呪われるので絶対にやめてくださいね」
「うむ、肝に銘じておこう。では当初の予定通りこの大綱の方を持ち帰るか!」
「ええ、それなら大丈夫だと思います。人間が造ったただの引き千切れた大綱ですし。でもそんなガラクタをわざわざ持ち帰るとは物好きですね」
「何を言っておる!かの神前競技で使われた大綱をこうして持ち帰る事ができて余は実に嬉しく思っているぞ……まあ本音を言えばヘパイストス神が造った大綱も持ち帰りたかったがな!」
「うーん強欲な人だなぁ。こんなに強欲な王様は初めて見ますよ」
何処までも強欲な大王を見てアクイラは思わず感心してしまう。それを見た大王は大笑して断言する。
「当然だ!世界を征服しようと考えてる男など強欲に決まっている!このイスカンダル、世界の果てオケアノスに到着するまでは絶対に立ち止まらんぞ!」
「わぁ、すごい自信だぁ。これは付いて行くだけの価値がありそうですね!大王様、面白そうですし僕も一緒に行っていいですか?」
「うむ、アクイラ殿なら喜んで迎え入れよう!よろしく頼むぞ!」
アクイラの事を笑って受け入れた大王……イスカンダルは呵呵大笑しながら世界の征服に乗り出そうとするのであった。
「そうだアクイラ殿、貴殿の話を聞かせてくれないか?神代から生きている大魔術師から話を聞ける機会など滅多にないからな」
「うーん、そうですねー。適当にぶらぶらしてただけなんで面白い話とかは期待しないでくださいね?あ、でもトロイア戦争の一部始終を記録した映像記録がありますので夜になったら見せてあげ……」
「今!ここでッ!見せてくれないかッ!?」
「え、まだ昼間ですし行軍中なんですけど……あ、これダメですね、すっごい目がキラキラ輝いてますね。見せない限り一歩も動かない感じですね。うーん本当に純粋で強欲だなぁー、まあいいでしょう、とりあえずここに野営して人払いの結界を張ってからお見せしますのでほんの少しだけ待っててくださいねー。あ、そうだ、臣下の方達も一緒に見ますかー?……うっわ、すっごい食いつきだぁ。プトレマイオスさん落ち着いてください」
三日間ぶっ通しでトロイア戦争の記録を観戦したイスカンダル王のコメント:最高だった!もういつ死んでもかまわんぞ!
この世界のキルケーは良妻賢母だけど呪いをかけてくる恐ろしい大魔女として恐れられています。
FGOでエウリュステウス王が何もいい事なく退場したので書きました。とある掲示板で建てたスレをもっと書きたかったのですがパートスレにするのも嫌なので、折角だし二次小説として書く事にしました。
ちなみにこのオリ主の実力はは0.9ヘラクレスを想定しています。本気になった時の足の速さは0.9アキレウスです。
正面からの殴り合いならアルケイデス相手でも僅かな優位がありますが、でも強いだけのバカで知力デバフが大きいので搦め手を使われると全然ダメな程度の強さです。
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