もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら 作:名無しのマネモブ
「へぇ~、ここがミュケナイの王都かぁ。かなり賑わっているな」
ミュケナイ王都に入ったとある国の王子は自分の国よりも繁栄しているミュケナイを見て嫉妬する事なく素直に感心していた。
「治安もいいし、市民達も皆笑顔で明るい。なるほど、ミュケナイを治めているエウリュステウス王の手腕は確かみたいだ」
王子は感心した様子で王都を探索する。彼はとある都市国家の王子であり本来は国に留まって王を補佐する立場なのだが、父親から若い内に世間を見ておけと旅に出るよう勧められた結果、身分を隠してミュケナイを訪れていたのだ。
「まあ、エウリュステウス王だけの功績だけじゃないだろうけど。さて、噂の大勇士に見る為に明日の早朝になるまで時間を潰しますか」
王子がミュケナイを訪れた目的はギリシャでも有名なミュケナイの守護者を見る為であった。かの大勇士ヘラクレスに迫る実力を持つというマカリオスを一目見てみたいという王子は、マカリオスの鍛錬を見る為に翌朝まで時間を潰そうと考えていた。
「本当は屋敷を訪問してみたかったが、大魔女の噂を聞く限り突然の訪問は歓迎されないだろうし諦めるか。俺もまだ命は惜しいからね……ん?」
「う、うぅ…………グズッ」
「ああもう、泣かないでくださいよ姉さん」
王都で一番大きな広場で考え事をしていた王子は、すぐ近くで姉弟が話し合っている事に気づく。
「ほらほら、この串焼きを奢ってあげますから機嫌を直してくださいよ」
「うぅ、美味しい……後十本くらい食べたいな」
「うーん欲張りだなー、まあいいでしょう!姉さんの筋肉の成長に繋がるのなら串焼きの十本や二十本くらい喜んで奢りますよ!さあ姉さん!この串焼きをどんどんどんどん食べて、その美しい筋肉を更に大きくしましょうね!食べれば食べる程筋肉が大きくなりますし遠慮せず食べてください!」
「や、やだぁ……やっぱり食べないぃ……」
「えー!?なんでですか勿体ない!鍛え始めてすぐに結果が出てきているのに姉さんは一体何が気に入らないんですか!?」
「……あー、君達大丈夫か?」
泣きじゃくる姉を弟が慰めている光景を見ていた王子は何がおきたのかと善意で尋ねる事にしたのであった。
「そうか、君のお姉さんは悩みがあるのか」
「ええ、僕からすれば何故そんな事で悩むのか理解に苦しみますがね。あの美しい肉体を磨き上げる事の何が不満なのでしょうか?あれ程の筋肉を自分が気に入らないからって鍛えないのは筋肉に対する侮辱であり冒涜だと僕は思います」
「う、うるさぁい……ぶつよぉ……」
「すぐに暴力に訴えようとするのはよくないですよ姉さん」
きゃあきゃあ騒ぎながら追いかけっこをする姉弟を見て苦笑する王子であったが、可憐な見た目をした姉の方を見て一体何がそこまで悩むのかわからず首を傾げていた。
「気にしすぎたと思うけどなぁ?そんなに細い身体してるのに」
「あ、その姉さんの姿は偽物ですよ。魔力を使って無理矢理身体を縮めているだけですので」
「えっ?」
「え、ちょ」
弟の暴露に困惑する王子と顔を青褪める姉であったが、弟は気にせず言葉を続ける。
「なんなら姉さんの真の姿を見ますか?お兄さんは純粋に心配して僕達に話し掛けてきたいい人みたいですし、姉さんの美しい肉体を特別に見せてあげてもいいですよ!明日の夜明け前にあちらの大山の麓まで来てください。本当の筋肉をお見せしましょう」
「ア、アクイラァ!」
「おぉ怖い怖い。ではまた明日会いましょうねお兄さん」
「お、おぅ……?」
姉の鉄拳を危なげなく躱した弟は手を振って別れを告げた後その場から消え去り、姉も消えた弟の後を追って走り出すのを王子は困惑しつつ眺めていたのであった。
「……という事があったのさ。弟さんの言葉に従って麓まで来たけど本当に通してくれるとは驚きだよ」
「ふーん、アクイラの紹介でここに来たのかぁ。運がよかったなお前、普通はキルケーさんの結界に阻まれてここまで来れないんだ。特等席で大勇士の鍛錬を見れるだなんて幸運だぜ」
「うん、確かにそうだね。故郷の家族にいい土産話ができたよ。しかし本当に大山を持ち上げられるだなんてスゴいなぁ……流石は大神の血を引く大勇士殿だ。俺じゃなす術なく叩き潰されるだろうねぇ」
「そうか?俺が見た所お前ならそれなりに耐えられそうだと思うけどな?お前は動きに隙がないしマカリオスのオッサンを見てただ驚くだけじゃなく冷静に分析している。その気になればあらゆる手を使ってオッサンの攻撃を凌げそうだがな」
「おいおい煽てないでくれ。あの大勇士と正面から闘うだなんてゾッとするし考えたくもないよ……できるなら味方にしたいものだね」
「へぇ、やっぱりそうだ。今のお前は軍を指揮する将軍の目をしてたぜ。お前ただの旅人じゃないな?何処ぞの国の王子様か?」
「アハハ、やっぱりわかっちゃう?」
翌日の早朝、大山の麓でマカリオスの鍛錬を見て感嘆する王子は隣にいる若き勇士の少年と会話しつつ一緒に鍛錬を行っていた。
「いや強いなぁ君、俺も武勇にはそれなりの自信があったんだけどまさか押されるとはなぁ。世界は広いねぇ」
「謙遜するな、お前も見事な腕前だぜ。先生に師事せずここまで強いとは大したもんだ。ケイローン先生に師事すればもっと強くなれるだろうぜ。よければ紹介しようか?」
「う、ううーん、すごく魅力的な提案だけど……ゴメンなぁ、俺は第一王子として国を長く空けるわけにはいかないんだよねぇ。父上は笑って許してくれるかもしれないけど国を放ったらかしにするのは流石にダメだと思うし」
「ああ、それじゃ仕方ないな」
二人は互いの腕前を認め称賛しつつ大山の隣にある小さな山を見る。
「ううぅ……本当に持ち上がっちゃったぁ」
「素晴らしいです姉さん!やはり僕の見立ては間違っていなかった!たった数ヶ月軽く鍛えただけで小さいとはいえ山を持ち上げられるなんて流石父さんの娘ですね!僕もこんな立派な筋肉を持った姉がいて誇りに思いますよ!さあ更なる進化を目指して筋肉をどんどん鍛えましょう!大丈夫です姉さん!姉さんならいずれあの大山だって持ち上げられますとも!姉さんには素晴らしい筋肉の才能がありますからね!僕としては魔術の修行よりも優先的に筋肉を鍛えるべきだと思いますよ!」
「う、うるさぁい!うえぇ……」
「うわぁ、山を持ち上げちゃったよ。あの子スゴいなぁ……確かに弟さんの言う通り素晴らしい肉体だ」
「うん、アクイラの奴が絶賛するのもわかるぜ。あれ程の才能を捨てるのは確かに勿体ないよな」
魔術を解除し本来の力を解放したイェラが小さな山を持ち上げたのを見た二人は素直に感心して称賛する。後の未来では敵対し死闘を繰り広げる事になる二人であったが、この時ばかりは意見が一致したのであった。
「グズッ……ヒック」
「ねえ姉さん、何度でも言いますけど魔術よりもその筋肉を優先的に鍛えるべきですよ。姉さんがその気になれば父さんやヘラクレスさんに次ぐ大勇士になれますよ?その素晴らしい肉体をどうして嫌がるんですか?世の勇士達が涎を垂らして羨むであろう筋肉を隠すだなんて本当に勿体ないですよ。むしろ見せ付けるべきだと思います!その場合は僕が全力で姉さんを応援しますから安心してくださいね!」
「う、うえぇん……」
「な、なにもそんなに泣かなくてもいいじゃないですか……僕が悪いのですかこれは?」
泣きじゃくる姉を弟のアクイラが慰めようとするも、もっと泣きじゃくるのを見た王子は意を決して言葉をかける事にした。
「あー、その、弟君?君が善意で言ってるのはわかるんだけど逆効果だよそれは。確かにお姉さんは恵まれた才能があるけど本人がどうしたいのかが大事だし、本人が嫌がっているのに他人がしつこく口出しするのはよくないと思うぜ」
「む、むぅ」
「それとお姉さん、君はその姿が気に入らないみたいだけど、俺はいいと思うぞ。確かに厳つい体格かもしれないけど恥じらいがあって俺としてはとても可愛く見えるよ」
「グズッ……そ、そうかな?」
「ああ、そうさ。もっと自分の姿に自信を持ちなよ」
王子が本心から自分の本当の姿を褒めている事を察したイェラははにかみつつも感謝の言葉を述べる事にした。
「あ、ありがとうございます。そう言ってくれたのは貴方が初めてかもしれません。少し自信がついたかも……そうよね、父さん譲りのこの身体もいい所はいっぱいあるわよね。それに自分がどれだけ強くなれるのか興味があるし鍛えるのも悪くないかもね」
「やっとわかってくれましたか姉さん!僕も説得を続けた甲斐がありましたよ!これからは最高の筋肉になれるよう全面的に協力しますね!」
「うん、それは別にいいかな。それとアクイラが散々好き勝手な事を言ってた件については許してないからお母さんに言いつけてやるわ」
「えっ、いやちょっと待ってくださいよ、母さんに告げ口するのはルールで禁止ですよね?」
「そんなルール知らないわよ。お母さんにたっぷり愛でられるといいわ。それで許してあげる」
「ヒエッ」
大魔女に言いつけると聞いたアクイラは青い顔をしてその場から逃げ出す。姉弟が仲良く喧嘩しているのを見たマカリオスはホッとした様子で王子に感謝していた。
「うむ、これなら大丈夫そうだ。アクイラが暫くの間子豚にされるかもしれないが一件落着だな。すまない、君には助けられたよ」
「いや俺は軽い気持ちで言っただけで、そこまで感謝されるような事はしてませんが……」
「そんな事はない、子供達の仲を取り持ってくれて感謝する。この恩はいつか必ず返そう」
「は、はぁ、どうも」
真剣な表情で感謝するマカリオスに恐縮しつつも王子は素直に感謝を受け取る事にした。そしてその後王子はマカリオス家に招かれてキュケオーンに舌鼓を打ったり、大魔女に抱えられた子豚を見て少年と一緒に憐れんだり、少年と友人関係になっていずれ再会しようと約束したするなど短いながらも充実した日々を過ごすのであった。
「……そういえばそんな事があったよなぁ。うん、あの時はオジサンも若かったよ。アキレウスの奴と無邪気に修行したり、自分も山を持ち上げられないか頑張ったりしてたっけ。今じゃ考えられないよなぁ」
数十年後、トロイアにて当時の事を思い返していた王子……ヘクトールは昔は無邪気だったなぁとしみじみと感じていた。
「あーあ、あの時アキレウスの奴をトロイアに仕えさせる事ができてたらなぁ。アキレウスがこちら側にいればギリシャ連合軍なんて鎧袖一触だろうに……いや無理か。アイツが大人しくトロイアに仕えてる姿が想像できないな、うん」
色々と考えていたヘクトールであったが、最終的に溜息をついて弟のパリスの顔を見る事にした。
「で、本当に呼ぶつもりか?ミュケナイの守護者殿にわざわざトロイアまで来てもらって自分達を守ってもらうと?」
「え、ええ、僕としてもかなり無理があるとはわかっていますが、少しでも可能性があるのなら試してみるべきです」
真剣な表情でマカリオスを呼ぶ事を提案する弟のパリスにヘクトールは頭を掻きつつそれは不可能だと諭す。
「確かにマカリオス殿は俺に対して恩があるかもしれないし、いつか必ず恩を返すとも言われたよ。だがその恩というのは姉弟に助言した程度の本当に軽いものだ。ただの口約束でしかないしマカリオス殿はその事を既に忘れててもおかしくはないんだぞ?」
「で、でもミュケナイの守護者は真面目で優しい方だと聞いてますが」
「いやまあノンビリとした優しい人だったが、口約束の為にわざわざ他国に出張してくれると思うのは楽観的すぎるぞ……というかマカリオス殿の主君であるエウリュステウス王はミュケナイの守護者を他国に貸す事は絶対にしないだろうな」
「う、うぅ」
ヘクトールの言葉に反論できず言葉に詰まるパリスであったが、予想外の方向からパリスを援護する存在がいた。
―ああ、それは心配しなくてもいい。私の方からミュケナイの王に言っておくからね―
「「えっ!?」」
パリスを庇護する太陽神……アポロンの言葉を聞いた二人は驚き恐縮する。
「ア、アポロン様。御気持ちはとても嬉しいのですが、わざわざ僕達の為に動かれるなど恐れ多いです」
―遠慮しなくてもいいともパリス。君がトロイアを守る為に動くのならば私も喜んで協力するさ。マカリオスは年老いて衰えているがそれでも万夫不当の大勇士だし頼もしい援軍になるだろうね。ヘクトール、君もそれでいいかな?―
「え、ええ。わかりました」
アポロン神がマカリオスを呼ぶ事に乗り気なのを察したヘクトールは神の意向を無視する事はできないと理解し思わず頭を抱えてしまう。
「う、うわぁ……何の関係もない人を巻き込む事になってしまったぞぉ。いや援軍としては滅茶苦茶頼りにはなるけど、いや本当に申し訳ない気持ちなんですが。というか大魔女殿に呪われそうで怖いんですが」
―安心したまえ。パリスは私が守るから呪いの事は心配無用だよ―
「あ、はい」
自分は対象外なんだなと悟るヘクトールは遠い目をしつつもマカリオスへ手紙を書く事にした……その後紆余曲折を経てマカリオスが援軍として参加しトロイア軍は大いに士気を高める事になる。マカリオスを迎え入れたトロイア王のプリアモスや王子のヘクトールとパリスは無関係な人を無理矢理巻き込んでしまったと申し訳なさそうに謝罪するも、マカリオスは全然気にしておらずこれで恩返しができると笑っていたという。
イェラは魔術を捨てて鍛錬に全振りすれば最終的に0.7ヘラクレスになれるポテンシャルがあります。
FGOでエウリュステウス王が何もいい事なく退場したので書きました。とある掲示板で建てたスレをもっと書きたかったのですがパートスレにするのも嫌なので、折角だし二次小説として書く事にしました。
ちなみにこのオリ主の実力はは0.9ヘラクレスを想定しています。本気になった時の足の速さは0.9アキレウスです。
正面からの殴り合いならアルケイデス相手でも僅かな優位がありますが、でも強いだけのバカで知力デバフが大きいので搦め手を使われると全然ダメな程度の強さです。
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