もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


ヘラクレスのミュケナイ訪問②

「なぁ聞いたか?ヘラクレス様がミュケナイにいらっしゃるって話」

「ああ知ってるよ、もうすぐ近くまで来ているそうじゃないか」

 

ヘラクレス一行がミュケナイに入国しマカリオスに出迎えられてた頃、ミュケナイ王都では市民達がヘラクレスが久々にミュケナイを訪れると聞いて顔を見合わせて雑談していた。

 

「ヘラクレス!あの大勇士のヘラクレスがミュケナイに来るの!?僕見てみたーい!」

「ヘラクレス様って昔ミュケナイで王様に仕えていたんだよね。マカリオス様よりも強い勇士って本当なのかなぁ?」

「本当らしいよ、昔ミュケナイでヘラクレス様とマカリオス様はどっちが優れているか競争したんだけどヘラクレス様が勝ったんだって。あの神前競技はスゴかったって僕のお爺ちゃんが話してくれたんだ」

「へぇーそうなんだ!」

 

「……大丈夫なのかのぅ?また王都で暴れ出したら大変じゃ。もし儂の可愛い孫が巻き込まれたらと思うと眠れないわい」

「落ち着けよ爺さん。その時はマカリオス様が何とかしてくれるさ」

「そうだよ父さん、それに今のヘラクレス様は死病に蝕まれて痩せ衰えてるらしいし暴れる気力なんてないと思うけどな」

「そうじゃのぅ、そうであってほしいんじゃがのぉ」

 

十二の難行を達成しその後も様々な偉業を成し遂げた伝説の大勇士がミュケナイに来るとわかり子供達は無邪気に目を輝かせるが、対照的に大人や老人達は難しい顔をして話し込んでいた。

 

「あれ?お爺ちゃん達は何が心配なの?大勇士様が折角ミュケナイに来てくれたのに」

「ううむ、いや、確かにヘラクレス様は素晴らしい御方なんじゃが、怖いものは怖いんじゃよ」

「えーなんで?」

 

ヘラクレスが怖いと言う老人の言葉を聞いた子供達は不思議そうな表情を浮かべて疑問に思い尋ねる。

 

「なんでって、そりゃあなぁ。あのヘラクレス様の大暴れする光景を見たらなぁ」

「ああ、あれは本当に怖かった。あの時俺はまだ子供だったが、あの時の光景は今でもはっきりと覚えているよ。あのヘラクレス様の血走った目とミュケナイ王都中に響きわたった咆哮、そして激しく揺れる大地をな」

「坊主共、あそこの荒れ地が見えるか?昔は普通の平原だったんだがなマカリオス様とヘラクレス様が三日三晩闘い続けた結果、荒廃した荒れ地になっちまったんだよ……二十年以上経っても草木一本生えてこないなんてな」

「マカリオス様が必死に抑えてくれたから王都の被害は殆どなかったのじゃが、もしあの時マカリオス様がいなかったらと思うと……恐ろしいのぅ」

 

当時を思い返して揃って深刻な顔をする大人達を見た子供達はヘラクレスは本当にスゴい大勇士なんだと呑気に感心していたのであった。

 

「ふーん、ヘラクレス様って昔からスゴかったんだね!スゴいなー!一度会ってみたいなー!」

「あ、僕も!ヘラクレス様のサインが欲しい!マカリオス様のサインと一緒に飾りたいな!」

「おいやめとけやめとけ、マカリオス様はお優しいからお前達のような子供にも優しいけど、勇士って連中は基本的に気が荒い奴が多いし本来は近寄るべきじゃないんだぞ?」

「そうじゃ、姿を見ても近付くんじゃないぞ?わかったかのぅ?」

「……はーい」

 

 

 

 

 

大人達に釘をさされた子供達が渋々ながら諦めていた頃、ミュケナイの宮殿ではヘラクレス一行がエウリュステウス王と謁見した後、穏やかな様子で雑談していた。

 

「……父上は僕の自慢の父親です。誰よりも強く何時でも優しくて、この世界で最も優れた大勇士は父上だと僕は確信しています」

「うむ、そうか」

 

「僕は今の穏やかな性格の父上しか知りません。若い頃の父上は血の気が多くて気に入らない事があればすぐ暴れていたと言われてもピンとこないのです。父上がそんな事をするわけがないと信じておりますから」

「うむ、そうか。まあ今の奴は大分落ち着いておるからなぁ」

 

「そして父上が昔ミュケナイで狂乱して暴れた一件について聞かされた時は大袈裟な話だと信じておりませんでした。噂に尾ひれがついたのだろうと考えていたのですが……」

 

 

 

 

「うおっ!?おい、大人しくしろこの気狂いがッ!」

「■■■■■ーーーッッ!!」

 

「おぉー、懐かしいなぁ。この時のヘラクレス殿、いやアルケイデス殿は本当に強かったよ。何度も死ぬかもしれないと思ったものだ」

「ううむ、若い頃の自分が見苦しく発狂している姿を見るのは何とも言えない気持ちになるな。あの時は迷惑をかけてまなかったなマカリオス」

「別に謝らなくてもいい、もう昔の話だからな」

 

 

 

 

「なるほど、確かにあれは恐ろしいですね。当時を知るミュケナイの民達が父上を恐れるのも無理はないですね……」

「うむ、そうだろう。あの狂乱した姿を見て民が怯えるのは当然だ……しかしそれがああなるとはなぁ」

 

大魔女キルケーの魔術によってマカリオスの記憶から当時のヘラクレスの狂乱した姿を映した映像を見たヒュロスは、ミュケナイの市民達が自分の父親を恐れるのも当然だと思わず納得していた。エウリュステウス王はヒュロスの言葉に相槌を打ちつつ、今の痩せ細ったヘラクレスを見て何とも言えない顔をしていた。

 

「あの男があそこまで痩せ衰えるとは憐れな事だ。大魔女の言う通り確かにあれは長くないだろうよ。貴様等は思い出作りの為に世界各地を巡っているそうだが、私も少しばかり援助しようではないか。何か必要な物があれば用意させるから遠慮なく申すがよい」

「格別な御配慮をいただき感謝いたしますエウリュステウス王よ」

「ハハ、礼はいらぬぞ。かつて臣下だった者に配慮してやるのは王として当然の事だからな」

 

特別な対応を受けてヒュロスは恐縮するがエウリュステウス王は礼はいらないと笑っており、その姿は王として相応しい立ち振舞であった。

 

(この人が父上の代わりにミュケナイの支配者となったエウリュステウス王なのか……いい人だなぁ。善意で父上を支援しようと提案してくれてるみたいだ。それに王としての評判も悪くないし御祖母様もこの人の政治手腕を否定してなかった……父上の言う通りミュケナイの王はこの人が相応しいのだろうなぁ)

 

自分達に色々と配慮してくれるエウリュステウス王に対してヒュロスは好印象を持つ。まだ若い勇士は王の厚意を特に疑わず素直に感謝していたのだ。そんなヒュロスを他所にマカリオスとヘラクレスは過去の映像を鑑賞しつつ過去の思い出話に花を咲かせていたが、途中でマカリオスが何かを思い出した様子で慌ててヘラクレスに話しかけていた。

 

「ああそうだ、すまないヘラクレス殿、今ミュケナイの宮殿には客人がいらしているのだが、その方はイアソン殿といってヘラクレス殿の親友だそうだな。折角の機会だしイアソン殿と旧交を温めてみてはどうだろうか?」

「おお、あの男が、イアソンがミュケナイに来ていたのか!何という僥倖だ、まさか奴と再会できるとは!それを早く言ってくれマカリオス」

「す、すまない。ヘラクレス殿と久々に話すのが楽しくてつい忘れてしまっていたのだ」

「……相変わらず貴様は阿呆だなぁ」

 

各地を放浪している親友が偶然ミュケナイに滞在していると知ったヘラクレスは興奮した様子で立ち上がりイアソンに会う事にした。

 

「アルゴノーツ達を率いた伝説の勇士イアソン……父上の親友だと聞いておりましたが、まさかイアソン殿もミュケナイに滞在していたとは。よかった、父上があんなに嬉しそうな顔をするなんて。この巡り合わせは神々の御配慮なのかもしれません」

「ふむ、あの男は親友に会うつもりのようだな。では部外者の私は席を外そう。存分に旧交を温めるがよい」

「何から何まで御配慮していただき本当に感謝いたします王よ。この御恩はいつか必ずお返しいたします!」

「ハハハ、大袈裟な奴だな。こんな事で一々恩に感じなくてもよいだろうに」

 

気を利かせて退出しようとするエウリュステウス王に対してヒュロスは深く頭を下げて感謝していた。愚直で真面目なヒュロスを見た王は生真面目な若者だなと苦笑しつつ部屋を退出するのであった。

 

 

 

 

 

「よし、誰もいないな。キルケーよ、ここには誰もいないのだな?」

―うん、この部屋は王様以外誰もいないし盗み聞きの心配もないから安心していいとも―

「そうかそうか、ふぅ」

 

何気ない顔で自分の寝室に戻ったエウリュステウス王は大魔女に確認を取った後一息つき……

 

「よおぉし!」

―大袈裟だなぁー、王様喜びすぎでしょ―

「ハハハ何とでも言うがよい!長年の不安が完全に解消されたのだぞ!これで喜ばない奴はおらぬわ!」

 

自分の地位が安泰だと確信し歓喜のガッツポーズを取ってキルケーを呆れさせていた。もう少し若ければ踊りだしそうなくらい上機嫌になったエウリュステウス王は心から喜んでいた。

 

「貴様に協力してもらいヒュロスの心を覗かせてもらったが、あの小僧はミュケナイの王に取って代わろうとする野心がなかったのが確認できた!化け物が死んだ後はテーバイの王に仕えて将軍として生きるつもりのようだ!よい!よいぞ!私の地位を狙わないのは実によい!」

―うんうんそうだね、今のヒュロス君はヘラクレスの後継者としてテーバイで厚遇されてるしテーバイ王からの提案で王女を嫁にもらう予定みたいだねー、まあこのまま行けばテーバイ王家に婿入りして将来はテーバイの王になるだろうね!―

「フフフそうか!好きにすればいいさ!ミュケナイを狙わないのならそれでよい!」

 

エウリュステウス王はヒュロスと雑談している間キルケーの協力の下で彼が野心を持っていないか探っており、ヒュロスにミュケナイを手に入れる野心がない事を知って安堵していた。そしてエウリュステウス王を何より安心していたのは、ヒュロス個人の力が父親に遠く及ばないのが確認できた事であった。

 

「それにあの小僧は弱い。仮に攻めてきたところで脅威にはならんとわかってよかったぞ」

―いや弱いは言い過ぎだよー、このギリシャ世界の中でも上位の強さがあるよ?―

「まあ確かに勇士としてはかなり強いのだろう。だがあの化け物のような理不尽な強さではない。あれなら私のマカリオスの敵ではないだろうさ!」

 

自分のマカリオスならヒュロスなど鎧袖一触できると確信したエウリュステウス王は余裕の笑みを浮かべていた。

 

「ククク、私は安心したぞ。少なくとも私が死ぬまではミュケナイは安泰だとわかったからな。化け物は大人しく死を受け入れており、ヒュロスは父親程の強さはなく野心もない……実に素晴らしい!私が死んだ後もミュケナイは私の子供達が王となり繁栄を続けて行く事が確信できた!」

―うんうんそうだね、このままなら王様の地位は死ぬまで安泰だし、王様の死後も王様の息子達がミュケナイを切り盛りしていくだろうね!本当によかったね王様!―

「うむ、ありがとう!フハハハハハハ!」

 

キルケーからお墨付きを得たエウリュステウス王はやはり自分は大神に選ばれた生まれながらの王なのだと確信して思わず高笑いするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―……………まあ残念だけど王様の望む未来にはならないだろうけどねー。『今の』ヒュロス君に野心がないのは確かだけど、彼のおばあちゃんや神々から命じられたら彼も従うしかないよねー。将来予定されている大戦争に旦那様が呼ばれるのは確定事項だし、ヒュロス君は旦那様がいない時を狙ってミュケナイに攻めてくるだろうねー……まあ王様には教えなくてもいいか!自分が知ってはいけない情報を教えるんじゃないって怒ってたし、私としては王様が死んでも別にどうでもいいしね!でも王様とはそれなりに長い付き合いになったし、なにより王様を放置したら旦那様も悲しむよねぇ……なら少しくらい特別サービスしてもいいかなー?―




ヒュロス:両親から大切に育てられた結果、真面目な好青年となる。実力は0.25ヘラクレス。この世界ではテーバイでの評価も高く半神の大勇士の血を取り込みたい王家が熱心にアプローチをしておりヒュロスも満更でもないので婿入りは確定事項のようだ。エウリュステウス王にはいつか恩返しをしたいと考える人間の鑑である。

エウリュステウス王:ヒュロスの事をさり気なく探り自分の地位が安泰だと確信してガッツポーズを取っていた。上機嫌になった王はヘラクレス一行に対して手厚い援助を行い感謝されていたとか。



というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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