もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


ヘラクレスのミュケナイ訪問③

「久しぶりだなイアソン。私と違い元気そうでよかった。呪いと病で死ぬ前に貴様と再会できて嬉しいよ」

「そ、そんな事を言うなぁヘラクレスゥ……君ともあろうものがそんな弱気な事を言うなよぉ……」

「コラ、泣くんじゃない。いい歳した男が無様に泣くなどみっともないぞ」

 

エウリュステウス王が自分の勝利を確信していた頃、久しぶりに親友と再会したヘラクレスは恥も外聞もなく泣くイアソンを見て思わず苦笑していた。もう会う事はないだろうと思っていた親友と再会できた事をヘラクレスは喜びつつイアソンと会話を続ける。

 

「メディアとは上手くやっているようで何よりだ。貴様のことだから彼女を捨てるかもしれないと心配していたのだが」

「いやそんな事するわけないだろう、俺に長年尽くしてくれている彼女を捨てるだなんて最低な事はしないさ……いやまあ、コリントスの時は少し揺らいだがね」

「おいおい、そこは嘘でも揺らがなかったと言うべきだろうに。後ろでメディアが怖い顔をしているぞ?」

「えっ?あっ」

 

「貴方?」

「い、いやその、ご、誤解だよメディア!俺が君を捨てるわけないだろう!?」

 

失言をした夫をジト目で見るメディアに対してイアソンは慌てた様子で言い訳をしており、二人の夫婦漫才を見ていたヘラクレスは思わず笑ってしまう。

 

「ク、ククッ、夫婦仲がよくて何よりだよ。すっかり尻に敷かれているようだなイアソン。メディアも随分と逞しくなったようだ」

「ええ、私だっていつまでも夢見る乙女じゃいられないもの」

「それはよかった、アルゴー号の時は見てて危なっかしい小娘だったが、今では見違えるほどしっかりしているな。その調子で今後もイアソンを支えてやってくれよ」

「ッ」

「……貴方に言われなくても夫を支えていくつもりだから安心しなさい」

 

微笑みながら話すヘラクレスにイアソンは言葉を詰まらせ、メディアは形容し難い表情を浮かべて返事をする。ギリシャ世界を代表する大勇士が見る影もない程病み衰え、自分の死期を静かに受け入れている様子を見た二人はヘラクレスが近い内に死ぬ事を心で理解していた。

 

「そんな顔をするな二人共、私は死を恐れていないさ……十二の難行にアルゴー号の冒険、そしてギガントマキアと竜退治……数多くの試練を乗り越えてきたがよく途中で死ぬ事なく生きてたものだと我ながら感心しているよ」

 

今までの試練の数々を思い返したヘラクレスはこうして生きているのが奇跡だと笑う。

 

「私はもう十分に生きた、息子のヒュロスが勇士として立派に成長したのも見れたし満足しているよ」

「い、いやまだ諦めるなヘラクレス!そんな簡単に諦めるなんて君らしくないぞ!その呪いと病を解く方法がきっとあるはずだ!俺がアルゴノーツ達を招集してアルゴー号を再び動かして、君の呪いと病を完治する手段を探してみせるとも!そうだ、君とヒュロス君も参加した新生アルゴノーツならどんな困難だって乗り越えられるだろうさ!」

「いやそこまでしなくてもいい。無関係な人間を巻き込んでまで見苦しく足掻くつもりはないからな……というかアルゴー号はあの航海の後ずっと放置されているらしいが動かして大丈夫なのか?」

「あっ」

 

「……魔術で確認したけど今のアルゴー号は長年放置された結果かなり朽ち果てているわねぇ。航海には到底耐えられないわよ?ここまでボロボロだとアルゴノーツ達が乗った時点で沈みそうだわ」

「そ、そんなぁ、す、すまないヘラクレス。俺はなんて無力なんだ……!」

「落ち着けイアソン、貴様の気持ちは嬉しく思うよ」

 

諦められないイアソンはアルゴノーツを招集しアルゴー号に乗って再び冒険に出ようと提案するも、妻のメディアから長年放置されたアルゴー号が残骸と化している様子を見せられ思わず膝から崩れ落ちてしまう。そんな親友を見たヘラクレスは自分の為にそこまでしようとしてくれる事を嬉しく思いつつイアソンを慰めていたのであった。

 

 

 

 

 

その後イアソンをどうにか落ち着かせたヘラクレスは穏やかな様子で会話を続けていた。

 

「なるほど、娘の教育に手を焼いているのか」

「うん、ソフィアはいい子なんだが思い込みが激しいというか、行動力がすごいというか、メディアの若い頃にそっくりなのさ、うん。妻はよく頭を抱えているよ」

「そうなのよ……あの子ったら本当に世話が焼けて……自分の小さい頃を思い出してしまって……叔母様に申し訳ない気持ちが何度も湧いてくるわ……」

「ハハハ、苦労しているのだなぁ。貴様らはこの後ミュケナイに滞在するのか?」

 

「ああそうだ、ソフィアはまだ子供だからね。暫くの間はエウリュステウス王の客将としてミュケナイに使える事にしたんだ」

「あの子の魔女としての素質は叔母様も認めていたし、いい機会だから叔母様に指導してもらう予定よ。私も魔女としてミュケナイに貢献する事にしたわ」

「うむ、それがいいと思う。貴様等は放浪の旅を続けていたが、一度腰を据えて子供を育てる事を優先するべきだ」

 

イアソン夫妻がエウリュステウス王に仕える事にしたと聞いたヘラクレスは二人の判断を肯定する。ヘラクレスから見てエウリュステウス王は主君としては凡庸な人物であるが、二人を粗略に扱う事はないだろうと信頼はしていたのだ。

 

「ヘラクレス、君はこの後すぐミュケナイを出発するらしいが何処に行くつもりなんだ?」

「そうだな、ケイローン殿に会おうと思っているのだ」

「おお、それはいいな!じゃあ私の事についてもケイローン殿によろしくお伝えしてくれないか?」

「いいとも、お安い御用だ。貴様が家族を持って上手くやっている事を伝えておくよ」

 

ヘラクレスは大賢者ケイローンと再会する事を今から楽しみにしていたが、ある人物の事を思い出して彼は現在何をしているのかと思いを馳せていたのであった。

 

「どうしたヘラクレス?」

「いや、あの少年、いやもう大人か……アキレウスは元気でやっているのかふと気になってな。大勇士として名を馳せてるのは知っているのだが」

 

 

 

 

 

「アキレウス様、感謝いたします!この地域一帯を悩ませていた竜をたった一人で討伐されるだなんて流石は大勇士様です!」

「おう、ありがとな」

 

ヘラクレス達がのんびりと雑談をしていた頃、ギリシャのとある辺境の地ではその地域一帯を脅かしていた竜がたった一人の大勇士によって打ち倒され民衆が拍手喝采していた。竜殺しを成し遂げた大勇士……アキレウスは民衆から称賛と尊敬の目で見られつつも調子に乗らずいつも通りの態度を取っていた。

 

「なんと、竜が蓄えていた財宝はいらないと!?」

「ああ、俺は別に財宝が目当てじゃなからな。腕試しとしてちょうどいい機会だから竜と戦ってみたかっただけだ。竜の財宝はお前達に全部譲るさ。お前達は以前から竜に搾取されて困窮していたんだろう?財宝はこの地域の復興の為に使えばいい」

「こ、この巨大な竜が腕試しとは……それに財宝に執着せず私達に譲ってくださるなんて……!なんて高潔な御方なのだろう!アキレウス様!我々は貴方様が成し遂げられた偉業について永遠に語り継ぐ事を誓います!」

「おいおい大袈裟だな。まあ好きにすればいいさ。ああそうだ、身体を動かして腹が減ったんで飯と水をくれないか?」

「あ、はい!ただいま用意いたします!おいお前達!宴の用意を!」

 

民衆が慌てて宴の準備をするのを眺めつつアキレウスは今回の戦いで得た物を思い返し笑みを浮かべる。

 

(この竜は強敵だったな。だがそれに見合うだけの物が手に入った……竜の血と心臓は俺を更に強くしてくれた。残った鱗と皮は持ち帰って鍛冶屋に引き渡すか、いい鎧になりそうだしな……ああもう、心配しないでくれ母上。この程度の怪物相手に死ぬような軟弱者じゃないぞ俺は)

 

「そうだ、俺はあの二人に並び立てる、いやあの二人を超える大勇士になるまでは決して立ち止まらないからな」

「えっ?」

「何でもない、ただの独り言だ」

 

ヘラクレスとマカリオスを超える大勇士になる事を諦めていないアキレウスは母親である女神テティスの制止を振り切って世界各地を旅していた。各地にいる怪物達はアキレウスからしても強敵であり、彼らを打ち倒す度に成長を実感していたアキレウスは、更に強くなる為に引き続きギリシャ全土を巡り武者修行の旅を続ける事を決意するも渋い顔をする。

 

(でも最近は勧誘がしつこいんだよなぁ……私に仕えてくれとか、ここの王になってくれとか、私と結婚してくれとか。ハァ、俺の都合も考えてほしいもんだ。俺はあの二人に勝てるようになるまでは仕官とか結婚とかに興味はないんだよ)

 

ストイックに鍛錬を続けているアキレウスは富や権力、美女についても一切興味を持たず勧誘を全て断っていたのだが、最近になって勧誘や求婚が一段と激しくなっており辟易していた。

 

(どうするかねぇ、今じゃ行く先々で仕官の誘いを受けるし、結婚を迫る魔女や女神達もしつこく追ってくるしさぁ……………っておい、もう近くまで追ってきてるじゃないか!)

 

「あー、悪いな爺さん達、ちょっと急ぎの用事を思い出したから宴には出れなくなった。水と保存食だけすぐに貰えないか?」

「えっ、あっはい!」

「すまないな、宴はお前達だけで楽しんでくれ。もうお前達を脅かす竜はいないし、存分に祝えばいいと思うぜ。じゃあな!」

 

遥か遠くで追手達が近づいてきているのに気付いたアキレウスは慌てて必要な分の水と食料を確保した後、自慢の脚を使って急いでその場から離れる事にした……風のように去っていったアキレウスを見送った民衆達は弱きを助け強きをくじく高潔な精神を持った勇士の中の勇士と感動してアキレウスを称え、彼の偉業を語り継ぐ事を固く誓っていた。

 

アキレウスが各地で成し遂げた怪物退治は後にヘラクレスの十二の難行に並ぶアキレウスの怪物退治として有名となる。各地で人々を悩ませていた竜や巨鳥、山のように大きい象や人喰い巨人といった強大な怪物達に勇気と知恵を使って立ち向かったアキレウスの物語は後世でも高い人気を誇る事になるのだがそれはまた別の話である。

 

 

 

 

 

「よし、追手は無事振り切ったみたいだな……これからどうしようか。そうだ、久々に先生の顔を見るのもいいかもしれないな。まだ二人には遠く及ばないが俺も大分強くなってきたと思うし先生に俺の成長を見てもらうか!」




ヘラクレス:イアソン夫妻が上手くやってるのを見て安心しミュケナイを出る。次は自分の師である大賢者ケイローンに会うつもりのようだ。

イアソン夫妻:エウリュステウス王の客将として仕える事にした。娘が成長するまでミュケナイにいる予定。次の話で書くつもりです。

アキレウス:ギガントマキアで見せたヘラクレス達の強さに憧れ、彼らに並び立てるようストイックに武者修行を続けている。怪物退治を複数成し遂げた結果滅茶苦茶強くなっているが大神ゼウスは「いやちょっと待てよ」と難しい顔をしておりそろそろ止めるべきだと考えている。久々に師の下に帰ってゆっくりするつもりのようだ。

竜:いやぁ竜は強敵でしたね……竜の血と心臓を喰らったアキレウスは不死身の肉体が更に強化され、並みの武器では踵を攻撃しても弾き返されるくらい固くなっている。まあ神々の助力があれば何とか攻撃が通るだろう。



というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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