もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら 作:名無しのマネモブ
「よし、では貴方の嫁になりたいという女性達を見ていきましょう。まずは辺境の村娘さんからですね。村娘さんが住んでいた地域は竜によって苦しめられていましたが、アキレウスが竜を倒した事で圧政から解放されたそうです。報酬を要求せず立ち去った高潔な貴方の姿に一目惚れしたとか」
「ほう、やるじゃないかアキレウス。財宝に興味はなく人助けだけして颯爽と立ち去るとは。あの娘さんが貴様に惚れるのも無理はないな」
「……………」
「続けていきましょう。次はアマゾネスの方です。今この世界で話題になっている大勇士の子種が欲しいという事ですね。彼女は子種さえ貰えれば嫁に選ばれなくても別にかまわないそうです。アキレウスがダメならヘラクレスの子種でもいいと言っています」
「ハハハ、相変わらずアマゾネス達はブレないな。こんな死にかけの病人の子種を求めるとは。かつて女王の仇と私を敵視しつつも子種を欲してきた彼女を思い出す……彼女は元気にしているだろうか?」
「……………」
「今度はテーバイの王女ですね。宮殿から外を眺めていたら偶々テーバイを訪れていたアキレウスを見て恋に落ちたと。そして居ても立っても居られず宮殿を飛び出しアキレウスを追いかけ続けて現在に至るそうです」
「おお、テーバイ王家の家出娘か。彼女は何処に行ったのかと王は心配していたが、まさかアキレウスの追っかけをしていたとは。深窓の姫が宮殿から飛び出して生きていけるわけがないと思っていたがすっかり適応しているようだ。恋に落ちた少女は逞しいな」
「………なあ」
「お次は海のニンフ、ネレイデスの方です。自分に言い寄っていた怪物を退治してくれたアキレウスに惚れて結婚しようとしたら逃げ出したので追いかけてきたと。逃げ出す時に水面を走って去っていった姿にますます惚れ込んだそうです。アキレウスの母君であるテティス神に直談判し結婚の許可をいただいていると言ってます」
「ほぅ、水面を蹴って逃走するとはスゴいな。流石アキレウスだ。今の私には到底無理だ……まあマカリオスならいけそうだが。しかしテティス神から結婚の許可をもらっているとは強いな。これは決まったようなものか?だがアキレウスの意思も大事だし他の娘さん達にも機会を与えなければ……」
「おい二人とも」
「そして次は……どうしましたアキレウス?」
「何をそんな不貞腐れているのだアキレウス。貴様の結婚相手を決める大事な話し合いなのだぞ。子供みたいに不貞腐れるのはやめろ」
「いやおかしいだろ!なんで先生とヘラクレスが俺の結婚相手を見繕おうとしているんだよ!?」
とうとう我慢できなくなったアキレウスは自分の師である大賢者ケイローンと、自分が尊敬する大勇士の一人ヘラクレスに思わずツッコミを入れてしまう。そんなアキレウスのツッコミに対して二人は真顔になって答える。
「貴方が何時まで経っても結婚しようとしないから私達が手伝っているのですよ。今回の件は大神や貴方の母君からも依頼されているので諦めてください」
「そういう事だ、今の貴様は縛られて逃げられないし、いい加減腹を括れ」
「ぐぬぬうっ!」
縄でぐるぐる巻きにされたアキレウスは脱出しようと藻掻くも、アキレウスを拘束する縄は非常に頑丈で逃げ出す事ができず絶体絶命の状況であったが、勇士らしく諦めず抗うアキレウスは何故こんな状況になっているのか数日前の出来事を思い返すのであった。
「お久しぶりです先生。お元気そうでよかったです」
「ええ、お久しぶりですアキレウス。暫く見ない内に随分と逞しくなりましたね」
竜退治を終えたアキレウスは自分を追いかけてくる女性達から全力で逃げ出した後、久しぶりに自分の師であるケイローンと再会していた。自分が尊敬する師が相変わらず元気そうでよかったと喜ぶアキレウスだがケイローンは何とも言えない表情をしていた。
「アキレウス、貴方の噂についてはこの山奥で隠遁している私の耳にも届いています。世界各地を旅して怪物退治をしているとか」
「はい、その通りです。俺はあの二人を超える大勇士になる為に修行を続けています。各地にいる怪物達との戦いは俺を強くしてくれました。こんな……ふうにっ!」
「ッ」
ケイローンの言葉を笑顔で肯定したアキレウスは近くにあった山の一つに近付くと、その山を両手で掴んで持ち上げてしまう。以前のアキレウスにはなかった怪力を見たケイローンは、アキレウスが怪物達の血肉を喰らって己の力にしているのを察する。
「どうです!まだまだあの二人には及びませんが、俺も怪力を手に入れました!」
「……なるほど、スゴいですね。貴方のその強くなる事への飽くなき探求は素晴らしいですし称賛に値します」
「そうですか、先生にそう言われるなんて俺は嬉しいです!」
師の称賛を素直に喜ぶアキレウスに対してケイローンは今のアキレウスは危ういと考える。
(これは、危ういですね。幾多の怪物達を取り込んで力を得たようですが、このまま怪物の血肉を取り込み続ければいずれ半神の器でも耐えられなくなるでしょう。そうなればアキレウスは大勇士ではなく、勇士に討ち取られる怪物となってしまう……大神ゼウスがアキレウスを止めるようお命じになられた理由がわかりました。確かにこれは止めなければなりませんね)
師としてアキレウスを止めなければならないと確信したケイローンは、弟子に悟られないよう表面上はにこやかに応対しつつ様子を探る事にした。
「そういえばアキレウス、貴方は結婚する気はないのですか?今の貴方なら世界中の女性達が放っておかないでしょうに」
「あー、そうですね。今の俺は結婚する気はないですし女にも興味はあまりありません。怪物退治をしてる方がよっぽど楽しいですからね!」
「……………ふうむ、なるほど。貴方が非常に充実した日々を送っているのはわかりました。折角の機会ですしもっと貴方の話を聞かせてください。貴方が各地でどんな活躍をしたかは噂である程度把握してますが、貴方の口から聞きたいのです」
「わかりました。そう言う事ならお安い御用ですよ!」
「そうだった!先生や弟弟子達と一緒に楽しく飲んだ後に意識がなくなって……クッ、クソッ!今の俺が全力で藻掻いても引き千切れないなんて!この縄ただの縄じゃないな!?ってかヘラクレスは何時からここに来てたんだ!?」
「ええ、大神から賜ったその縄はヘパイストス神が造りたもうた縄です。その縄を引き千切るのはヘラクレスやマカリオス殿でも非常に苦労するでしょうね。ああそれとヘラクレスは昨日からここに滞在していますよ」
「久しぶりだなアキレウス、ギガントマキア以来だな。あの小さかった小僧が立派になったものだ……ちなみに貴様を酔い潰した酒はディオニュソス神が贈られた酒らしいぞ」
「ヘパイストス神とディオニュソス神から!?神々が俺の為にわざわざ動いたのか!?」
憧れの大勇士との再会と神々が自分の為に動いたという衝撃の事実にアキレウスは困惑しつつも何とか現状を把握していた。
「いや俺の結婚の為にそこまでしなくてもいいだろ!?母上はともかく無関係な先生やヘラクレスまで世話を焼こうとしないでくれ!というか俺は独身でもまったく問題はないから、この縄を解いてくれないか?」
「いえいえ、それはダメですよ。貴方を慕ってここまで追いかけてきた彼女達が可哀想じゃないですか」
「うむ、師の言う通りだ」
自由にしろというアキレウスの要求に対して二人は笑って拒否し、アキレウスを説得しようとする。
「アキレウス、今の貴方はこの世界を代表する大勇士なのです。勇士たるものが女性達の一途な愛を無下にするのはよくない事だと私は貴方に教えていたはずですが?」
「ぬ、ぬぅ」
「そうだ、貴様もそろそろ結婚してもいい歳だし独身のままではマズいだろう。戦友の貴様が独身のままだと私が安心して死ねんのだよ」
「ッ!……アンタがそんな事を言わないでくれよ」
ヘラクレスの言葉を聞いたアキレウスは形容し難い表情を浮かべてしまう。自分が憧れ追いつこうと目指した大勇士が見る影もなく痩せ衰えたのを見るだけでも心苦しいというのに、ヘラクレスが己の死期を悟り静かに受け入れている姿はアキレウスの心にくるものがあった。
「アンタが、あのヘラクレスがそんな弱気な事を言うなんて聞きたくなかったよ。アンタなら呪いをかけた異国の女神なんか簡単に返り討ちにできるだろうに!」
「おいおい、買い被りすぎだよ」
沈痛な表情を浮かべたアキレウスに対してヘラクレスは苦笑しており自分の運命を受け入れていた。
「大神の血を引くとはいえ私だって人間なんだ。少しずつ年老いていくし神の呪いや病には勝てないさ。それに呪いと病に冒されているが身体が萎んだだけで苦しいわけじゃないし世界各地を旅する余裕もある。すぐ死ぬわけでもないから心配無用だ……さてアキレウスよ、これ以上駄々をこねて死にゆく私を心配させないでくれ」
「ッ、ああもう!わかった、わかったよ!あの中から嫁を選ぶさ!それでいいだろ!?」
ヘラクレスから真剣な表情で促されたアキレウスは不承不承ながらも、尊敬する大勇士の説得を受け入れ自分の嫁を決める事にしたのであった。
「うむ、それでいい。大人しく聞き入れてくれて安心したよ。貴様は結婚を強制される事が気に入らないだろうが、自分の家庭を持つというのはとてもいい事だぞ。そうだ、後で私の息子のヒュロスと会わせよう。貴様程ではないが勇士として中々優秀だと私は思っているよ」
「アキレウスが落ち着いてくれてよかったです。で引き続き女性達を見ていきましょうか。貴方の気に入る女性が見つかるといいですね……ちなみにヘラクレス、ヒュロス君を私の弟子にしてもいいですか?貴方から見ても優秀だというのなら是非指導してみたいのです」
「おお、それはいい!師から指導されるとはヒュロスも喜ぶだろうな」
「……まぁそういうわけで先生とヘラクレスの勧めもあって俺は今の妻と結婚し、その後お前が生まれたってわけさ」
「へーそーなんだ!」
そして十年後、家庭を持ったアキレウスはしみじみとした表情で当時の事を一人息子に話していた。半ば強制された形で結婚する事になったがアキレウスは今の結婚生活に一切不満はなく、妻と一人息子を愛するよき夫でよき父親となっていた。
「お父さんはどうしてお母さんと結婚したの?他にも綺麗な女の人いっぱいいたんでしょ?」
「あー、そうだな、あの場所にいた女性達は皆俺に対して一途な愛を向けてきていたよ。でも最終的に母上から結婚の許可をいただいていたお母さんを選んだのさ」
「へぇー」
アキレウスは当時を思い返し、他の選ばれなかった女性達には申し訳ない事をしたとは思いつつも、自分に献身的に尽くしてくれる今に妻には深く感謝しており夫婦仲は良好であった。
「ケイローン先生とヘラクレスお爺さんのお陰で僕は生まれる事ができたんだね!今度お二人にお礼を言わなくちゃ!」
「ハハッ、そうだな。あの二人のお陰でお前はここにいるのは確かだからなぁ」
一人息子の頭を撫でつつアキレウスはヘラクレスの言う通り自分の家庭を持つのは素晴らしい事だなとしみじみと思うのであった。
「あれ?でもお父さん、お父さんの話だとヘラクレスお爺さんって近い内に死ぬって感じだったけど、お爺さんはまだ生きてるし結構元気そうだよ?どうして?」
「どうして呪いと病に冒されたヘラクレスが今も生きてるのかって?……どうしてだろうなぁ……医者の連中が何故生きてるのかわからないと困惑してたそうだが……ヘラクレスだからかなぁ……?」
「へぇー!ヘラクレスお爺さんって本当にスゴいんだね!」
アキレウス:ケイローンとヘラクレスに説得され諦めて結婚する事にしたが、今の結婚生活については満足している。尊敬する大勇士達に倣って妻に一途で浮気は一切しない夫の鑑。自分によく似た一人息子の事は可愛がっている。ヘラクレスが今も生きている事については「まあヘラクレスだし」と深く考えない事にしたようだ。それとヒュロスと知り合って友人関係となった。
アキレウスの妻:ネレイデス。アキレウスの母上であるテティス神に直談判して結婚の許可をもらった強き者。夫の事が大好きで一人息子を溺愛している良妻賢母である。
一人息子:半神とネレイデスの子供で0.8アキレウスの素質がある強き者。ケイローン先生の下で修行を頑張っている。
ケイローン:アキレウスが無事に結婚したのを見て安心する。ヘラクレスが今も生きている件については「流石ヘラクレスですねぇ」と呑気に感心しているようだ。
ヘラクレス:年老いて衰弱しているが十年後もまだまだ健在である。身体を蝕む呪いと病気については慣れた模様。まあヘラクレスだし別におかしい事ではないだろう。ここまできたら曾孫の顔を見るまでは死にたくないなぁと今は考えているようだ。とある女神も困惑しているらしいが大丈夫だ、問題ない。ちなみに十年後のヘラクレスでも並の勇士で瞬殺されるくらい強いままである。
というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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