もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


トロイア戦争の始まり

「では王様、僕は諸国漫遊の旅に行ってまいります!」

「いや待たんか」

 

メネラオス王がヘレネーという美女と結婚したという報告を受けた翌日、満面の笑みを浮かべ旅に出ると言ったアクイラに対してエウリュステウス王は思わず真顔でツッコミを入れていた。

 

「貴様がふらふらと出歩くのはもう諦めておるし好きにすればよいが、今朝帰国したのにすぐ出て行くとは急すぎるのではないか?もっとゆっくり休めばよいだろうに」

「いえいえご心配なく、僕は全然疲れておりませんので!というか僕は大きな祭りの予感を察してワクワクしてるんですよ!」

「は?」

 

キラキラと目を輝かせるアクイラを見てエウリュステウス王は困惑する。アクイラは何か期待した様子でソワソワしているのを見た王は、何がここまでアクイラを期待させているのかと不思議に思い確認する事にした。

 

「どうしたのだ、一体何が貴様をそこまで期待させているのだ?」

「戦争ですよ!このギリシャ世界を巻き込んだ大戦争が近い内に起こると僕は確信しておりまして!このお祭りを見逃したくないので僕は今から特等席で待機しようと考えているのです!」

「はぁ?大戦争?一体何故そうなるのだ……いや待て、それは私が聞いていいものなのか?ダメならすぐに私の記憶を消せ」

 

近い内に大戦争が起こるというアクイラの言葉を聞いたエウリュステウス王は大いに困惑するも、もし神々が関与しているなら自分が知るのはマズいのではないかと考え顔を青褪める。

 

「んー、多分大丈夫です。もう大戦争は止められないでしょうから。王様の親戚であるメネラオスさんがヘレネーさんという方と結婚したのは王様もご存知ですよね?」

「えっ?……………あっ、あー、うむ、そういえば昨日そんな報告を受けておったな。貴様に言われるまですっかり忘れておったわ」

「え、あんなに盛り上がっていた騒動について忘れてたんですか?ギリシャ各地から求婚者が集まってスゴい事になってましたよ?僕も現地で見てましたがスゴく盛り上がっていましたねー!」

「貴様現地におったのか。わざわざ野次馬するために現地まで行くとは物好きな奴め……しかしそのめでたい結婚が何故大戦争の切っ掛けとなるのだ?」

 

メネラオスとヘレネーの結婚について思い出した王はそれが一体何故大戦争に繋がるのかわからず首を傾げる。

 

「あれ、ご存知ないのですか?結婚の際に【ヘレネーさんが他人に奪われた時は求婚者達は全員協力してヘレネーさんを取り返す】っていう誓約が求婚者さん達全員に課せられたんですよ」

「ああ、そういえばそうであったな。しかしそれがどうした?まさかそのヘレネーという小娘を奪おうとする阿呆がいるとでも言うのか?」

「はい、恐らくそうですよ!」

 

ニコニコと笑顔で肯定するアクイラだがエウリュステウス王は信じられずにいた。

 

「いやいや、それはありえんだろう。ヘレネーとかいう小娘の元にはギリシャ中から求婚者が集まったと聞いておるが、つまり小娘を奪えば世界をほぼ全て敵にまわすという事ではないか。いくら小娘が絶世の美女だといっても世界を敵にしてもよいと考える阿呆がいるとは思えんが。いやまあ、いるかもしれんがすぐに奪還されるだろうな」

「まあそうですねー、ヘレネーさんを誘拐したのが個人ならすぐ解決しますよねー。でもそれが国の王だったりしたらどうなるでしょうか?」

 

「……それこそありえんだろう。たかが人間の女一人の為に国を巻き込んで心中する?なんだそのどうしようもない愚か者は?まともな思考があれば女一人と国一つが釣り合うわけがないとはわかるだろうし、仮に乱心したとしても周囲が絶対に止めるぞ。本人からすれば小娘を奪ったのは美談なのかもしれんが、巻き込まれる人間達からすれば知った事ではないしな。少なくとも私が巻き込まれる立場だったら、巻き込もうとする阿呆を即座に殺し小娘を送り返すだろうよ」

「ですよねー、王様の考えは至極当然だと僕も思いますよ」

 

そんな阿呆な事をする奴など存在するわけがないし周囲も許すわけがないだろうと真顔になって言うエウリュステウス王にアクイラも苦笑しつつ同意する。

 

「まっ、王様の仰る通り普通に考えれば大戦争が起こる可能性は限りなく低いでしょうが、とりあえず現地に行って様子を見ようと思います!それでは!」

「ああもう、好きにしろ。どうせ私が何を言ったところで貴様は聞く耳を持たないだろう……仮に大戦争が起きたとしても私には関係のない事だしな」

 

強情なアクイラの様子を見たエウリュステウス王は溜息をついてアクイラの好きなようにさせる事にしたのであった。

 

「あ、それと少し気になったのですが。メネラオスさんとヘレネーさんの結婚を忘れてたそうですが一体何があったのですか?」

「いや、あの化け物が初孫相手にデレデレになっている様子を見たら衝撃的すぎてな……あんな顔した化け物を見たら忘れても仕方ないだろうが」

「えっ、なんですかそれは。滅茶苦茶見たいんですけど」

「貴様の母親が記録映像を残しておるはずだかそれを見ればいいだろう。別に急ぐ旅でもあるまい」

「あー、そうですね。ちょっと母さんに見せてもらってから行く事にしますね!」

 

……その後大魔女キルケーから映像を見たアクイラは「え、誰ですかこの人は」と大いに困惑していたという。

 

 

 

 

 

「ッ……クズッ……」

「……………」

 

 

 

「クズッ……ヒグッ」

「……………」

 

 

 

「ウッ、ウウッ……」

「……メネラオスさんの正体見たり!絶世の美女ヘレネーさんと結婚したメネラオスさんの本性は妻への愛情がない鬼畜のような人だったのですかあっ!」

 

ミュケナイを出てアカイアまで旅をしたアクイラはスパルタの宮殿の奥深くの部屋にて、涙を流して啜り泣くヘレネーを見て義憤に駆られていた。

 

「いやちょっと待ってくださいよ、折角結婚した妻のヘレネーさんを虐待するなんて何を考えてるんですか?虐待するくらいなら結婚しなければいいじゃないですか?あの場にいた求婚者達が今のヘレネーさんを見たら義憤に駆られてメネラオスさんに殴りかかると思いますよ?というか何名の方はヘレネーさんを連れ出して保護するでしょうね……ヘレネーさんもあんな人と結婚してしまうだなんて運がなかったですねぇ」

 

メネラオスから虐待されているヘレネーに同情しつつアクイラは自分に何かできないか考える事にした。

 

「恐らくヘレネーさんはこれから起こる大戦争の引き金になるでしょう。僕がここから連れ出す事は大神も許さないでしょうし、何より父さん達や王様にも迷惑がかかりますよねー……僕の我儘に巻き込むわけにはいきませんね。ですが僕にもできる事はあります」

 

そう言ったアクイラは啜り泣くヘレネーを肖像や映像など様々な方法で記録し始める。

 

「よし、ヘレネーさんにはこの小鳥さんをプレゼントしましょうか」

 

そしてアクイラは懐から可愛らしい小鳥を取り出して飛び立たせると、小鳥はヘレネーの傍に着地して啜り泣く彼女を静かに見上げていた。

 

「……?……!……フフッ」

「よしよし、僕が造った歌って踊れるお喋り小鳥さんはヘレネーさんの御眼鏡に適ったようですね!以前造った小鳥さんは王様にも好評でしたからね、運命の時が来るまではヘレネーさんの傍にいて慰めてあげるように命じましたし大丈夫だと思いたいですねー」

 

ヘレネーの気を紛らわせる為に小鳥をプレゼントしたアクイラは一仕事終えた表情を浮かべて宮殿を立ち去るのであった。

 

「さて、小鳥さんとは視界を共有できますから暫く様子を見る事にしましょうか」

 

 

 

 

 

「あ!またヘレネーさんに手を上げてる!……ムカつきますねぇ……殴りたいですねぇ……ブッ呪ってやりたいですねぇ……あんな綺麗な人に手を上げるなんて男として失格だと思いますよ。王様だって自分の家族はそれなりに大切にしているのに」

 

 

 

 

「んー、そろそろですかね?戦場となる場所は予定通りトロイアで決まりでしょう……小鳥さんももうすぐお役御免ですねー。ヘレネーさんは小鳥さんの事をすっかり気に入ったようでよかったです。でもヘレネーさんを連れ去る運命の人はどんな人なのでしょうかね?メネラオスさんみたいな人じゃなければいいのですが」

 

 

 

 

「おおっ!?こ、これは……なんという素敵な王子様なのでしょうか!筋肉は全然ないですしかなり頼りない感じですがパリスさんはとても優しい方みたいですね!虐待されるヘレネーさんを放っておけないようです!あっ手を差し伸べました……………ヨシ!そうです、それでいいんですよヘレネーさん!世間がどう言ようとも僕はお二人を祝福しますよ!では小鳥さんは静かに立ち去りましょ、ってあれ?ヘレネーさんが小鳥さんを掴んで話さないのですが……まあいいでしょう。小鳥さんは引き続きヘレネーさんの傍に置いておきますか」

 

そして各地を旅しつつヘレネーの様子を見ていたアクイラは、ヘレネーがトロイアの王子パリスに連れられて逃げ出したのを確認し、遂に運命の時が来たと察していそいそと準備を進める事にした。

 

「では分身の僕はここに残ってギリシャ連合軍が結成される様子を記録してもらって、それで僕本体はトロイアに移動して待機すると。トロイアに行くのは初めてですねーヘクトールさんは元気にしてるかなー?……うーん、でもこれ客観的に見てトロイア側に肩入れしちゃってますよね僕。これバレたら父さん達が責められそうですねー……………まあいいか!僕の占いでは父さんはトロイア側で参戦するそうですし、息子の僕がトロイア側に肩入れしても大丈夫でしょう。それに何よりメネラオスさんが気に入らないので僕はトロイアに味方しますよ!」

 

トロイア側に加担する事を決めたアクイラは魔術師として、魔女として本気を出す事にした。

 

「しゃあっ!小鳥さんの大量生産!よーしいいですか小鳥さん達!今から貴方達は世界中に飛んでいきメネラオスさんの所業と虐待の一幕を宣伝するのです!いけーっ!」

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

アクイラに命じられた小鳥達は一斉に飛び立つと世界各地へ移動していくのであった。

 

「ふぅ、メネラオスさんがヘレネーさんを虐待する場面は音声も映像も記録済みですし、小鳥さん達で虐待の証拠を世界中にバラ撒いてやりますよぉククク。 大戦争に勝っても負けてもメネラオスさんは恥の上塗りになるでしょうがいい気味ですね!これならただの嫌がらせですから大神も怒らないでしょう。じゃあ僕もさっさとトロイアに行きましょうか!」

 

 

 

 

 

 

……後にトロイア戦争と呼ばれる事になる大戦争はこうして始まる事になった。後世に残された神話の記述では、この世界で一番の美女であるヘレネーは世界中を魅了し男達はこぞって求婚していたが、男達以外にも名もなき魔女の一人がヘレネーの美貌に魅了されていたという。魔女はヘレネーを陰から見守っていたがヘレネーに対するメネラオスの残酷な仕打ちを見て怒りを覚え彼女の味方になる事を誓った。

 

名もなき魔女は小鳥に変身しヘレネーの傍にいて彼女を慰めていたが、やがてトロイアの王子パリスがヘレネーと出会い二人が恋に落ちたのを知ると魔女は大人しく身を引く事にする。そして最後に名もなき魔女は数千の小鳥達に変身して世界中を飛び回りメネラオスの所業について人々に暴露し彼の名誉を徹底的に貶めた後、小鳥達は全て消え去ったと神話では言われている。

 

パリスとヘレネーの駆け落ちについては当時から非難されていたが、メネラオスから虐待されていたヘレネーを助けたパリスを一部の人間達は人間の鑑だと称賛していたという。




エウリュステウス王:ヘレネーについては心底どうでもいい様子。若ければ魅了されていたかもしれないが、ミュケナイ王の地位と引き換えにするかと言われれば即座に断る王の鑑である。ある時世界中に飛び回っていた喋る小鳥を見て何故か盛大に冷や汗を流していたが、最終的に見なかった事にしトロイア戦争に一切干渉しない事を決断する。その後何故かマカリオス一家を詰っていたが笑顔を浮かべる大魔女を見てそれ以上追求するのを諦めた模様。

ヘレネー:ギリシャ世界で一番の美女。この世界ではメネラオスに虐待されていたが謎の小鳥さんに慰められ、小鳥さんを心の励みにしていた。運命の人であるパリスと出会い、小鳥さんの勧めもあってパリスと駆け落ちする事にした。

メネラオス:ヘレネーを虐待してた件が暴露された。己の悪因悪果を呪え。でもまあ誓約は守られヘレネーを取り戻す為に求婚者達が集まったから大丈夫だ、問題ない。求婚者達から白い目で見られたり一部から露骨に軽蔑されたりしているが味方なのは変わらないので大丈夫だ、問題ない。

アクイラ:野次馬根性でトロイア戦争を見学しようと思ったが、虐待されているヘレネーを見て彼女の助けになろうと善意で動いた人間の鑑。でもその後開き直って好き勝手し始めた人間の屑でもあり魔女の鑑でもある。



というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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