もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


マカリオスとトロイア戦争②

「す、すごい……!」

 

 マカリオスが単身で連合軍に突撃し盛大に暴れているのをトロイアの城壁から様子を見ていた王子パリスは伝説の大勇士の活躍を見て感嘆の声をあげていた。

 

「見てますか兄さん!本当に、本当にマカリオスさんが、ミュケナイの守護者さんが援軍に来てくれましたよ!」

「落ち着け、お前さんに言われなくてもわかってるよ。でも本当にマカリオス殿が来てくれるとはなぁ」

 

 パリスと一緒に外を眺めていたトロイアの第一王子ヘクトールは苦笑しながら興奮して喜ぶ弟を宥めつつも、冷静な目で連合軍の様子を観察していた。マカリオスの襲撃によって連合軍が甚大な被害を受けているのを確認したヘクトールは流石伝説の大勇士の一人だなと感心する。

 

「うん、連合軍の奴等は恐慌状態だな。特に兵士達の方は半狂乱になっていてまったく統制が取れていない……まあ当然だな、勝ち戦だと思って油断していたら突然山が降ってきて大勢の仲間が押し潰されたんだ。これで冷静な思考を保てるわけがない」

「兄さん、連合軍の兵士達が逃げ出しています!」

「そりゃあそうだ、マカリオス殿が暴れているのを見て恐怖に屈して逃げ出すのは当たり前の事だよ。誰も責める事はできないな」

 

 蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた連合軍の兵士達を見てヘクトールは当然だと頷く。ただの人間達が大神ゼウスの血を引く半神を止める事など不可能だと理解しており、恐怖に震え我先に逃げ出した兵士達を笑う事はなかった。

 

「うわぁ、連合軍の勇士さん達を圧倒していますよ。マカリオスさんって本当にスゴイですね!」

「確かにスゴイな。世界各地から集まった勇士達を薙ぎ払ってるぞ……ううん、このままマカリオス殿だけに戦わせるのは申し訳ないし俺も急いで出撃するか」

 

 そしてマカリオスが連合軍の勇士達を腕力と足の速さで圧倒するのを見たヘクトールは自分も戦いに参加するべきだと判断する。

 

「マカリオスさんに加勢するのですか?では僕も!」

「いやダメだ。パリス、お前さんはここで待機してくれ。俺はこの混乱に乗じて連合軍の将を暗殺できないか試してみる事にするよ……アクイラ殿、聞こえているか?俺に隠密の魔術をかけて姿を消してくれ」

―はいわかりました!しゃあっ隠・形!―

「よし、じゃあ行きますかね。こそこそ隠れて暗殺するなんて勇士の戦い方じゃないが、この戦争が終わるのなら俺は卑怯者の謗りを甘んじて受け入れるさ……ではパリス、俺がいない間父上を守ってくれよ」

「わかりました、兄さんもお気をつけて」

 

 トロイア側に加担しているアクイラから隠形の魔術をかけられたヘクトールはこの好機を活かすべくトロイアの城壁から飛び降り、混乱に乗じて連合軍の陣地に潜入したのであった。

 

 

 

 

「……これで23人目か。いや多いなぁ、流石世界各地から集まっているから勇士達も大勢いるんだな」

 

 ヘクトールが連合軍陣地に無事に潜入した頃、自分から距離を取ろうとした勇士に一瞬で接近し勇士の頭を掴み握り潰したマカリオスは返り血を浴びながらも傷一つ負わず呑気な様子で戦い続けていた。

 

「しかしここの勇士達はもう戦う気はないようだ、なら本陣に行くとするか。アガメムノン殿を殺すか捕まえればこの戦争を終わらせる事ができるかもしれない……おお、今の俺は実に冴えているな!」

 

 周囲にいる勇士達が先程までとは一転し戦々恐々とした様子で自分を遠巻きに見ているのを確認したマカリオスは、このままここで戦うよりも連合軍の本陣に行き総大将アガメムノンを討ち取るべきだと考える。

 

「よしそうしよう、ええと本陣の方向はあちらか。では一気に行くぞ!」

 

 この戦争を終わらせ王や家族が待つミュケナイに早く帰ろうと考えたマカリオスは本陣に向かって一気に加速する。途中でマカリオスを止めようと勇敢な勇士が立ち塞がったが、マカリオスがすれ違いざまに片手を振ると勇士は胴体を両断させ地面に倒れ伏していた。そしてマカリオスは本陣に乗り込むと周囲を見回しアガメムノンがいないか探す。

 

「むぅ、アガメムノン殿は何処にいるのだろうか?……そういえば俺はアガメムノン殿の顔を知らないなぁ。そこの君、アガメムノン殿は何処にいるかわかるか?」

「ヒィッ!?……し、知りませんし言いませぇん!仮に知っていたとしても総大将殿の居場所を敵に教える事は出来ませえぇぇんっ!?」

「あ、確かにそれはそうだな。すまない」

 

 アガメムノンの姿が見当たらないので近くにいた兵士に尋ねるマカリオスであったが、恐怖で色々と漏らしつつもアガメムノンが何処にいるか教えるのを拒否した兵士を見てマカリオスは苦笑して謝罪する。

 

「うーむ、じゃあ自分で探すとするか。まあしらみつぶしに見て回ればいずれ見つかるだろうさ」

―いやその必要はありませんよ父さん。僕が教えますので。えーとアガメムノンさんはあちらの方にいますね。ほらあそこです。気絶したアガメムノンさんを勇士達が慌てて後方に護送しています―

「おぉ本当だ、何故気絶しているのかはわからんが殺るか!」

 

 アクイラにアガメムノンの居場所を教えてもらったマカリオスは身体に雷光を纏い一気に加速する。そしてアガメムノンを一撃で仕留めようとするも、とある勇士の盾によって防がれてしまい、同時に飛来してきた矢をマカリオスは危なげなく躱す。

 

「ッ!」

「むっ、おぉ!かなり頑丈な盾だな。そして君も中々強いな。今のは殺すつもりで殴ったのだが耐えられるとは大したものだ。それに今の矢は少しヒヤリとしたよ。君達の連携は素晴らしいな」

「……テウクロスの必殺の一撃をあっさりと躱すとはな。しかしあのミュケナイの守護者にそう言われるとは光栄だ」

 

 自分の本気の一撃を受け止めて大きく後退し、肩で息を切らしつつも五体満足で耐えた勇士……大アイアスを見たマカリオスは強き者だと感心して称賛する。大勇士からの純粋な称賛に大アイアスも悪い気はしなかったが、自分の想像以上に強いマカリオスに対して思わず冷や汗を浮かべる。

 

(なるほど、これは本当に強い。単純に力と速さが俺達とは桁違いだ……この盾でも攻撃を受け止め続けるのは厳しいかもしれない)

 

 自分の自慢の大盾がマカリオスの一撃を受けて大きなダメージを負ったの確認した大アイアスは戦慄していた。そして大アイアスが何よりも驚いていたのは大盾を傷つけたのが素手での一撃だという事であった。

 

「素手で俺の盾に傷をつけるとは!この盾は城壁と同じかそれ以上に固いはずなのだがな……!」

「え?城壁なんて殴れば壊せるだろう?少なくとも俺やヘラクレス殿ならいけるぞ?」

「ッ……クッ、ハハハハハハ!まあ貴方やヘラクレス殿ならそうなのだろうな」

「いや笑ってる場合か兄者!」

「ああすまんすまん」

 

 不思議そうな顔をするマカリオスの言葉を聞いた大アイアスは思わず笑ってしまうが、異母弟で相棒の勇士であるテウクロスから 咤され気を取り直し大盾を構える。

 

「マカリオス殿、かの大勇士と戦う事が出来て光栄だ。だが俺達がいる限りアガメムノン殿には指一本触れさせな……」

 

 

 

 

 

「大変だあっ!メネラオス殿が、メネラオス殿が何者かによって殺されたあっ!?」

 

 

 

 

 

「え、メネラオス殿が死んだ?しかし俺はメネラオス殿には何もしてないのだが?」

「あー……この混乱に乗じて殺されたか?」

「まあ絶好の機会だものなぁ。でもメネラオスの野郎が死んだのは俺達の責任じゃないし別に気にしなくてもいいだろ兄者」

「うむ、そうだなテウクロス。今はマカリオス殿と戦う事に集中しよう」

 

 ヘレネーの夫であるメネラオスが何者かによって暗殺されたと聞いたマカリオスは困惑するも、大アイアスとテウクロスのコンビや周囲にいた勇士達はどうでもよさそうに聞き流し、総大将アガメムノンを守るべくマカリオスと戦う事にしたのであった……一部の勇士達は薄っすらと笑みを浮かべていた気がするが恐らく気のせいだろう。

 

「いや君達はそれでいいのか?」

「まあ俺達には関係のない事ですので」

「俺個人の意見としてはヘレネーを泣かせたあの野郎を殺してくれた奴に感謝してるぞ。なあ兄者」

 

 

 

 

 

「……ううん?なんかあっさりやれちゃったぞ?」

 

 本陣に潜入し総大将アガメムノンの弟であるメネラオスを串刺しにしたヘクトールは、連合軍の重要人物をあっさりと暗殺できてしまった事に困惑していた。

 

「仮にも重要人物なのに護衛の勇士が少なすぎるだろう……え、これもしかして罠だったりするのか?」

―いえ安心してください。罠ではありませんよ。今ヘクトールさんが殺した人は本物のメネラオスさんです。メネラオスさんの護衛する人が少なかったのは他の勇士さん達が総大将アガメムノンさんを守るのを優先したのもありますが、求婚者さん達がわざとそうなるように仕向けたからですね―

 

 あまりの手ごたえの無さに罠を疑うヘクトールであったが、アクイラの説明を聞いて何とも言えない表情を浮かべる。

 

「ああ、ヘレネーを虐待してた件で恨まれてたのね」

―そうですねー、ヘレネーさんの件を僕が世界中に言いふらした事で求婚者さん達から白い目で見られてましたからねー。メネラオスさんもトロイア軍より味方の方を警戒してましたし……あ、勇士さん達が来ますから急いでそこを離れてください―

「はいはいっと」

 

 アクイラの指示に従いその場を離れたヘクトールであったが、ふと気になって後ろを振り返る。

 

 

 

 

「……おぉ何という事だ!メネラオス殿が何者かによって暗殺されてしまったぞ!素晴らしい!」

「ああ一体誰がこんな事を、あの美しいヘレネーを虐げていたクソ野郎を暗殺するなんて!恐らくトロイアの連中の仕業に違いない!メネラオス殿の仇を討たなければならないな!いや別にいいか!うん!」

「おいお前達!今は非常事態なんだぞ!ニヤニヤ笑っている場合か!?気持ちはわかるがミュケナイの守護者を迎撃する事を優先しなければ!そんな奴の死体などほっとけ!」

「おっとそうだったな」

 

 

 

 

「……うん、メネラオス殿の事がほんの少しだけ可哀想になってきたよ」

―敵に同情するなんてヘクトールさんは優しいですねー。まあ死体を足蹴にされて唾を吐きかけられるのを見たら僕も少しメネラオスさんに同情しましたけどね―

 

 求婚者達から死を喜ばれているメネラオスに対してヘクトール達は思わず少し同情してしまうのであった。

 

「さて、このまま総大将アガメムノン殿も暗殺できれば万々歳なんだがねぇ」

―あー、それは残念ながら難しいですね。()()()がもうすぐ戦場に到着しますので―

「やっぱりそうだよねぇ……マカリオス殿がこれだけ派手に暴れたら()()()も気付いて急行してくるよねぇ」

―はい、ですのでヘクトールさんはすぐにトロイアに戻ってください―

「はいはいわかりましたよ」

 

 

 

 

「……まずいぞオデュッセウス、アイアス達が押されているぞ」

「ああ、見えてるさ。だがまだヒュドラの毒矢を使うなよ」

 

マカリオスが連合軍の総大将アガメムノンを討ち取ろうとするのを大アイアス達が必死に押しとどめているのを遠くから眺めていたピロクテーテスは不満げな表情を浮かべつつもオデュッセウスの指示に従っていた。

 

「クソ、絶好の機会なのになぁ、気絶している総大将を囮にしてミュケナイの守護者殿が気を抜いた瞬間を狙う案は悪くないと思うんだがなぁ!」

「落ち着いてくれ、俺も貴様の提案については悪くないと思っている。だが今すぐ狙う必要はないのは貴様も理解しているはずだ」

「それはそうなんだが」

 

 不満たらたらな様子のピロクテーテスをオデュッセウスは苦笑しながら宥める。オデュッセウスが比較的余裕を見せているのは頼もしい援軍がすぐに来ることを神々から聞いていたからだ。

 

「今この場で毒矢を使うよりも()と協力して戦った方がいい。切り札は安易に使う物ではないからな」

「いや、うん、お前の言い分はわかるぜ?確かにその方が成功する可能性が高いし今はヒュドラの毒矢の存在を秘匿して温存したほうがいいと判断したのは間違ってないとは俺も思う。でもその前にアイアス達が死ぬぞ?」

「大丈夫だ、心配しなくていい……………ほら、もう来たみたいだぞ」

「ん?おぉ本当だ!」

 

 遠くにて山の一つが持ち上がり()()()()()()()()投げつけられたのを確認したオデュッセウス達は()が到着したのを知る。そして勇士達を圧倒していたマカリオスが踵を返してトロイアに向けて駆け出したのを見て安堵するのであった。

 

「よし、とりあえず一旦帰ってくれたみたいだな。んで、この後どうするんだ?アイツが来たから連合軍はギリギリ踏みとどまれるだろうがズタボロだぞ?総大将殿は気絶したままだし、お前が何とかするしかないんじゃないか?」

「……心配するな、何とか立て直して見せるさ」

 

 

 

 

「おぉ、アキレウス君か。君も連合軍に参加していたとは。暫く見ない内に随分と立派になったなぁ」

「久しぶりだなマカリオスのオッサン。いやもう爺さんと言ってもいい歳か。それと俺はもう大人なんだから君をつけて呼ぶのはやめてくれないか?」

「ああすまない。確かに失礼だった。しかしアキレウス、本当に立派になったな!」

「……ハハッ、アンタも相変わらず吞気だなぁ」

 

 トロイアに飛来していた山を受け止め遠くに投げ飛ばしたマカリオスは久しぶりに再会したアキレウスが立派に成長したのを見て我が事のように喜んでいた。そんなマカリオスを見てアキレウスも思わず笑ってしまう。

 

「しかし君が連合軍に参加するとは。もう怪物退治はやらないのか?」

「母上と嫁に止められててな。もう怪物退治はやらない事にしてるんだ。まあ息子がやりたがってるしこの戦いが終わったら一緒に怪物退治に行ってもいいと考えてるんだが……正直言ってこの戦争には何も期待してなかったしやる気もなかったんだが、まさかアンタがトロイアに加勢するとはなぁ。オデュッセウスやパトロクロスの説得に応じてよかったよ」

 

 尊敬する大勇士の一人が敵として現れたのを知ったアキレウスは大いに興奮していたが、周囲を見回して少し考えた後に決闘は翌日以降に行う事を提案する。

 

「おいマカリオス、もうすぐ日が暮れるし今戦うのはやめておこうぜ。アンタとは万全の状態で戦いたいからな」

「うむ、わかった。君の提案を受け入れよう。とりあえず山を元の場所に戻さないとな」

「ああ確かに、アンタが大量に投げつけた山のせいで地形が変わっているもんなぁ。じゃあ俺も手伝うさ、俺はあっちの山を片付けるからアンタは反対側を頼む」

「おぉ、ありがとう。ではさっさと片付けようか。ところでアキレウス、折角だし君が以前送ってくれた手紙に書かれてた一人息子のネオプトレモス君の事を教えてくれないか?君に似て将来有望な子だと書かれていたが」

「ああそうだ、俺の息子は中々見所があるって先生も太鼓判を押してたんだ。たとえばだな……」

 

 そうして二人はどこか呑気な会話をしつつ戦場に撒かれた山の数々を全て元の場所に戻した後、アキレウスは連合軍の本陣に向かい、マカリオスはアクイラとヘクトールの案内の下トロイアに入ったのであった。




パリス:アクイラによってヘレネーが虐待された件が広く知られている為、ヘレネーを連れ帰った事は一国の王子としてはともかく男としては理解できるとトロイアでも評価されている。マカリオスを出迎えた時は自分の我儘に巻き込んで申し訳ないと謝っていた模様。

ヘクトール:マカリオスだけに戦わせるのはよくないと混乱に乗じてメネラオスを討ち取るも、アキレウスが山を持ち上げぶん投げてきたのを見て引いていた。

アクイラ:父親とヘクトールのサポートをしている。アキレウスさん本当に強くなったなぁと素直に感心していたとか。

マカリオス:とりあえず適当に暴れた結果連合軍に甚大な被害を与えていた。でも全盛期のヘラクレスならもっと上手くやってそのままアガメムノンを討ち取り、連合軍を敗走させていただろう。

大アイアス達:素手で大盾にダメージを与えてくるマカリオスにドン引きしつつも逃げる事なく立ち向かっていた勇士達の鑑。大盾は大ダメージを受けたが修理されるから大丈夫だ、問題ない。

メネラオス:ヘクトールに暗殺された。まあトロイアで一番の勇士であるヘクトールに不意打ちされて死なない人間など殆どいないだろうから仕方ない。

ピロクテーテス達:アキレウスがすぐに来るとわかったのでヒュドラの毒矢を温存する事にした。あっさり山を持ち上げて元の場所に片付けていくアキレウスとマカリオスを見てギガントマキアを戦った大勇士達ってスゴイな……と思わず感心していたとか。

アキレウス:人間達の戦争に興味はなかったが親友のパトロクロスやオデュッセウスの熱心な説得もあって渋々参加していた。そしてマカリオスの参戦を知って歓喜しトロイアまで全速力で走って間に合った大勇士の鑑である。ちなみにパトロクロスはアキレウスの息子ネオプトレモスをかわいがっており、ネオプトレモスも懐いているようだ。

連合軍:アキレウスが到着したのでギリギリ敗走する事はなかったが被害は甚大である。気絶から回復したアガメムノンとオデュッセウス達が頭を抱えつつも何とか立て直す事だろう。



というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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