もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


トロイア戦争を観戦するエウリュステウス王

「ええいマカリオスめ、何をグズグズしておるのだ!たかが小僧一人にそこまで梃子摺るとは!」

「王様落ち着きなよ、これは仕方ないんじゃないかな?」

 

 トロイア戦争にマカリオスが参戦して一週間が経過していた。大魔女キルケーの魔術によってミュケナイからトロイア戦争の様子を見ていたエウリュステウス王は自分の想定より長引いている状況に苛立ちを見せており、キルケーは膠着状態になるのも無理はないと王を落ち着かせようとしていた。

 

「旦那様が出撃したら即座にアキレウス君が出てきて一騎打ちになるからねー。多くの怪物を討ち取って血肉を取り込んだ今のアキレウス君は本当に強き者だし、いくら旦那様でも簡単には倒せる相手じゃないよ?」

「ぬぅ」

 

 当初トロイアに到着した直後のマカリオスは連合軍を撃滅せんと縦横無尽に暴れて壊滅的な被害を与えていたが、アキレウスが駆けつけた事で連合軍はどうにか立て直す事ができていた。マカリオスからしても今のアキレウスは強敵であり一筋縄ではいかなかったのだ。

 

「しかしあの小僧め、蝿のように小賢しい動きをしおってからに!一度小僧を掴む事ができれば私のマカリオスならすぐ八つ裂きにできるだろうに!」

「そうだねー、王様の言う通り腕力については旦那様が勝ってるから一度身体を掴んで拘束すれば旦那様の勝ちは確定だろう。でもそれはアキレウス君も当然理解してるから絶妙な距離を保って戦い続けてるね」

 

 アキレウスはヒットアンドアウェイを徹底しておりマカリオスの攻撃を躱し続け、マカリオスもアキレウスの繰り出す一撃を回避し続けた事で両者共に決定打を与えられない状況であった。だがキルケーは近い内に戦争が終わると確信していた。

 

「まあ大丈夫だよ王様!旦那様がアキレウス君を引き受けているお陰でフリーになったヘクトール君達が連合軍を翻弄して痛手を与え続けるからね。この調子なら連合軍が先に音を上げるだろうさ……でもヘクトール君も強いよねー、私の息子アクイラの魔術で強化されているとはいえ連合軍の勇士達を次々と討ち取っているなんて。トロイアの次期国王になる第一王子がこんなに優秀だなんて私もビックリだよ。トロイアの未来は明るいみたいだね!」

「うむ、確かにそうだな。貴様の言う通りヘクトールは人間の中ではかなり優秀な勇士のようだ」

 

 キルケーの言葉にエウリュステウス王も素直に同意する。ヘクトール達の襲撃によって連合軍は少なくない被害を受け続けており、軍事にそこまで詳しくないエウリュステウス王から見ても連合軍がこれ以上戦意を維持できるとは思えなかった。

 

「だがアガメムノン達もさっさと帰ればいいだろうに。いくら誓約をしていたとはいえ、たかが小娘一人を取り戻す為ここまで犠牲を出してまで続ける必要があるのか?まったく割に合わないと思うのだがなぁ」

「アハハ、割に合わなくても意地を張って戦い続けるなんてよく聞く話じゃないかなー?まあ()()()戦いは近い内に終わるだろうから王様も安心していいと思うよ!大丈夫、良妻賢母な大魔女のお墨付きだからね!はいお水」

「おおそうか。大魔女の貴様が言うのならばそうなのだろうな。早くマカリオスには帰ってきてほしいものだ」

 

 大魔女の言葉を信じる事にしたエウリュステウス王は一安心した様子で肩の力を抜き、キルケーから差し出された水を飲み干すのであった。

 

「しかしマカリオスも当初のように山を投げつけたりしないのだな」

「それは仕方ないよ。アキレウス君相手に山を投げても当たるわけがないし、当たったところで不死身の肉体にはまったく通用しないからねー。それに山を投げるのは神々から禁止されちゃったし」

「そういえばそうであったな。まあ山を投げる度に大地が揺れていたし地形も変わっていたからなぁ……神々が止めるよう命じるのは当然か」

 

 

 

 

 

「……ああもしもし?そっちの状況はどうかな?うん、準備は完了したみたいだね。こちらも予定通り準備は終わっているよー。王様も油断してお薬を飲んだし旦那様も留守だからミュケナイを攻めるのは絶好の機会だね!イェラもソフィアちゃんに任せてあるから安心していいよ!あれ?なんか申し訳なさそうにしてるけど別に気にしなくていいからね?この展開は神々がそう望んでいるからであって君は何も悪くないから!え?旦那様と王様が死ぬんじゃないかって?あー、それは私が対応しておくから心配しないでいいとも!君は神々に命じられた通り君の父親と一緒にミュケナイを攻めればいいのさ!それじゃあねー!」

 

 

 

 

 

 

「……クソッ、また押し切れなかった!やっぱりマカリオスは強いなぁ!自分がまだまだ未熟だと突きつけられて悔しいぜ」

「おうお疲れ、でも笑顔で悔しいと言っても説得力ないぞ?」

 

 トロイア戦争にマカリオスとアキレウスが参戦して十日程経過していた。夕方となり今日もマカリオスと決着をつけられなかったと笑顔で悔しがりながら帰還したアキレウスを見てピロクテーテスは思わずツッコミを入れる。

 

「おっと悪い、顔に出てたか」

「ああ、滅茶苦茶いい笑顔だったぜ。お前にとってミュケナイの守護者殿は素晴らしい好敵手みたいだな」

「そうだ。俺と互角に戦える相手なんて滅多にいないからな!殆どの奴とは戦いが成立しなくて最近は本当に退屈だったんだ」

「まあそうだろうな、普通の勇士じゃそもそも攻撃が通じないんだからなぁ。今のお前に対抗できる勇士なんてマカリオス殿くらいだろうさ……いや、ヘラクレス爺さんもギリギリいけるか?」

 

 アキレウスは久しぶりに血湧き肉躍る闘いができて非常に満足気な様子を見せていた。今のアキレウスはギリシャ世界を見ても最上位の強さがあり、彼に対抗できる勇士は片手で数えられる程しか存在しなかった。尊敬する大勇士の一人とほぼ互角に戦えている事にアキレウスは喜びつつ、マカリオスをこの手で討ち取って更なる高みに昇ってみせると改めて決意する。

 

「よし、マカリオスの戦いの癖は大体把握した。やはり我流だからか動きが荒削りで付け入る隙は幾つかあった……明日だ、明日こそ奴を討ち取ってみせるぜ!」

「おお頼もしいな。期待してるぞアキレウス!……いや本当に頼むぜ?お前は全然大丈夫そうだが他の奴等がかなりキツいからな。今日もまた王の一人が殺されたしこの状況が続けば連合軍が瓦解しそうだ」

 

 アキレウスの宣言を聞いたピロクテーテスは頼もしく思いつつも周囲を見回して確実に決着をつけてほしいと頼む。連合軍はヘクトール率いるトロイアの遊撃部隊によって大きな被害を受けており、これ以上長引けば連合軍が崩壊するかもしれないと危機感を抱いていたのだ。

 

「ああ、またヘクトールにやられたのか。アイツは昔から優秀な奴だった。あの卓越した戦術家に対抗できるのはオデュッセウスくらいだろう。でもいくらなんでも連合軍が不甲斐なさすぎるぞ?」

「あー、オデュッセウスも頑張っているんだがなにせこちらは誓約で集まっただけの寄せ集めだからオデュッセウスの指示をあまり聞かないし、マカリオス殿が大暴れしたせいで士気も低い。対してトロイアの連中は祖国防衛という事でヘクトールの指揮下で一致団結してて士気も高いから小競り合いでも連合軍が押されててなぁ……アキレウス、お前が連合軍の最後の希望なんだよマジで」

 

 ピロクテーテスは頭を掻きつつ連合軍の不甲斐なさを認める。連合軍が辛うじて存続しているのはアキレウスが味方にいるからであって、彼がいなければ連合軍は崩壊し敗走するだろうという確信があった。

 

「このままだとお前だけ残して連合軍は撤収する事になるかもしれないな」

「ハッ、別にそれでも構わないぞ。俺はマカリオスと一騎打ちで決着をつければ満足だからな。足手まといは要らないさ」

 

 そうして雑談しながら連合軍の本陣に向かう二人であったが、本陣に到着すると総大将アガメムノンとオデュッセウス達が顔を見合わせ話し込んでいるのを見て、何かが起きたのだと即座に察する。

 

「おい何が起きたんだ?」

「ああアキレウスか。うむ、そうだな、お前も知っておくべきだ」

 

 アガメムノンは少し困惑した表情を浮かべつつも、先程知らされた情報をアキレウスに共有する事にした。

 

「……ミュケナイが他国の軍に攻められて占領されたそうだ。エウリュステウス王は討ち取られ、大勇士ヘラクレスの息子ヒュロスが新たなミュケナイの王になったという事だ」

「はぁ?」

 

 アガメムノンから知らされた情報を聞いたアキレウスは突然の知らせに思わず困惑してしまう。周囲を見渡せばアキレウス以外にもピロクテーテスやオデュッセウス、それに諸国の王や勇士達も困惑した様子で顔を見合わせていた。

 

「は?ミュケナイが、陥落した?ヒュロスがミュケナイ王に?いや待てよ、アンタの指図でやったのか?」

「わ、私は知らない!あの化け物が来た事についてエウリュステウス王に抗議の書簡を送ったが軍勢を差し向けてはいないぞ!ミュケナイに兵を送る余裕などないし、そもそも十日でここからミュケナイに到達して占領できるわけないだろう!?皆がお前や化け物のような俊足を持っているわけではないのだぞ!?それにヒュロスは誓約には参加していないから連合軍とは無関係だ!」

 

 心底困惑した様子を浮かべるアガメムノンを見てアキレウスは彼が嘘をついていないのを察するが、念の為オデュッセウスにも確認する事にした。

 

「オデュッセウス、連合軍に別働隊はいないのか?」

「いいや、いないな。神々にかけて誓うぞ。ここに集結しているのが連合軍の全てだ……連合軍を抜けて帰国している連中はいるが、帰国の途中でわざわざミュケナイに手を出す愚か者などいるわけがない。そんな事をすればミュケナイの守護者に報復されると子供でも理解できるはずだ」

 

 何が起きているのか冷静に分析しようと考え込むオデュッセウスの言葉を聞いたアキレウスはまだ状況を完全に受け止められずにいたが、ふと何かに気づいた様子で顔を上げて臨戦態勢に入る。

 

「アキレウス?」

「お前等、すぐに武器を構えろ。その情報が事実なら……」

 

 アキレウスが緊張した表情を浮かべるのを見て周囲の勇士達は瞬時に警戒態勢を取る。そしてその直後トロイアから一筋の稲妻が走り連合軍の本陣に突き刺さるのであった。

 

 

 

 

 

「うわぁ、旦那様のあんな顔初めて見たよ。これなら大神の想定通り勇士達の間引きは問題なさそうだね…………はぁ、すべてが終わった後に説明されたら旦那様も流石に怒るかなぁ……怒るよねぇ……ちょっと憂鬱だなぁ」




エウリュステウス王:油断していたらヒュロス達に攻められて討ち取られた。詳しい話は次話にて。

キルケー:計画は順調に進んでいるが、夫にどう説明しようか今からちょっと憂鬱になっている。でもやった事については後悔していない大魔女の鑑である。

山:トロイア戦争で出禁になった。大地を揺らすなと女神ガイアがキレた模様。

アキレウス:突然の急展開に困惑するも迎撃に出る。

連合軍:ミュケナイの件を知り困惑するが、直後にブチギレた化物に襲撃される。八つ当たりされる彼等の運命やいかに。

ヒュロス:新たなミュケナイ王になったが渋い顔をしていた。詳しくは次話にて。


というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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