もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


エウリュステウス王の最期

「……ハァ〜〜〜ッ、油断しておったわ。あの大魔女から差し出された水を飲んでからの記憶が曖昧だ。一服盛られたか」

「ああ、エウリュステウス王よ。正気に戻られたのですな」

 

 曖昧だった意識を覚醒させたエウリュステウス王は大魔女に謀れたのを察して盛大に溜息をついた後、すぐ近くにいた客将イアソンに状況を確認する事にした。

 

「イアソン殿、ここは何処だ?今はどうなっておる?それとイアソン殿は大魔女と共犯なのか?いや違うか。その顔を見るにイアソン殿は加担していないようだな」

「ええ、私は無関係です。こんな茶番には加担しておりませんよ……現在我々はミュケナイの郊外にて軍を展開しており敵軍と対峙しております。敵はアテナイとテーバイの連合軍です」

「ほう、あれか。かなりの規模だな。この短時間でよくここまで集められたものだ。いや、事前に用意されてたのだろうな……一応聞いておくが我が軍の勝機はあるか?」

 

 ミュケナイ軍と対峙するアテナイとテーバイの軍勢を見たエウリュステウス王はよくぞあそこまで集まったものだと他人事のように感心しつつ、イアソンにミュケナイ軍に勝ち目があるか尋ねるが、イアソンは申し訳なさそうに目を伏せ首を振る。

 

「残念ですが勝機は殆どないでしょう。敵軍は百戦錬磨の精鋭が集められたようですが、対する我が軍は戦争を知らない弱兵ばかりです。経験の差が大きすぎます」

「そうか、まあそうだろうな。ミュケナイは数十年もの間一度も戦争が起きず平和だったからなぁ。戦いを知らない腑抜け揃いと言われても否定できん」

 

 イアソンの言葉を聞いてもエウリュステウス王は怒る事なく素直に納得する。大勇士マカリオスの存在によってミュケナイは長い間平和が続き大いに繁栄していたのだが、戦争を体験した事がない者達が増えた結果、軍の練度は他国と比較して大きく劣っていた。

 

「マカリオスがいたからこそ他国もミュケナイに干渉しなかったのだ。マカリオスがいなくなれば豊かなミュケナイを手に入れようと動く連中が出てくるのは当然だな。イアソン殿、敵軍を率いているのは何者だ?」

「テーバイの将軍ヒュロスです。それとヒュロス以外にも大勇士の一人が敵軍に参加しているようで、それが致命的に問題ですな」

「おお、なるほどあれか。息子が心配で参加したのか?死にかけの爺の癖に元気すぎるだろう。半死人が気軽に山を持ち上げるのはおかしいと思うのだがなぁ?」

「ハ、ハハハ、まぁ、私の親友ですから」

 

 遠くで大山の一つが持ち上げられ移動するのを見て相変わらず化物だなとエウリュステウス王は思わず乾いた笑みを浮かべつつ周囲を見回す。周囲の将軍や兵士達は完全に怯えて萎縮しており、とても戦える精神状態ではないのを悟った王は溜息をつく。

 

「ハァ、情けない連中だ。いや、これが当然の反応か。普段の私なら同じような反応をして恥も外聞もなく逃げ、宮殿の宝物庫に籠城していただろう。まあ籠城したところで逆転の目はないし餓死するだけだが……チッ、我ながら気味が悪いくらい冷静なままだな。大魔女め、私に一服盛ったのは慈悲のつもりか?」

 

 この絶体絶命な状況であっても動揺せず冷静な思考ができる事に対して、エウリュステウス王は自分が見苦しく足掻いて死ぬ事なく名誉な戦死ができるよう大魔女なりに配慮してくれたのだろうと推理する。

 

「これは大魔女だけの仕業ではあるまい。奴は常人には理解できない思考をした異常者だがマカリオスへの愛は間違いなくあるし、夫を悲しませる事はしないはずだ。夫をミュケナイから連れ出してアイアイエー島で一緒に暮らすだけならここまで大掛かりな事をする必要はないし、わざわざ私を殺す理由もない。私に何かあればマカリオスがそれを許すわけがないのだから」

「……」

「ならば私の死を望んでいるのは、大神か?神々が何故私の死を望んでおられるのかはわからぬが、ここまで来たらもう逃げる事はできないようだ……兵士達は完全に怯えておるし、もし戦いが始めれば一方的に虐殺されるだろうな。戦うだけ無駄か。イアソン殿、そういえばイェラは何をしているのだ?」

 

 冷静に考えた結果、大神が、神々が自分の死を望んでいるのを悟ったエウリュステウス王は天を仰ぎつつ目を閉じていたが、マカリオスの娘イェラは何をしているのかと不思議に思い確認する。

 

「その、彼女は敵軍を迎撃しようとしたのですが、私の娘によって拘束されています」

「そうか、道理で姿が見えぬわけだ。恋人に不意打ちされたらどうしようもないよなぁ……ああイアソン殿、そんな申し訳なさそうに頭を下げなくてもよい。イアソン殿の娘が恋人の命を助けようとするのは当然だ。こんな負け戦に最後まで付き合って死ぬ事はないのだからな。よし、では行くか」

 

 娘の行動をについて謝罪するイアソンを見てエウリュステウス王は軽く笑った後、軍の前に出てヒュロスと対峙する事にしたのであった。

 

「おお、ヒュロスの小僧に渡す引き継ぎ用の国璽や資料まで用意してくれてたようだ。大魔女め、奴は変な所で真面目な女よな」

「泰然としてますなぁ。覚悟を決めて行くその御姿は間違いなく賢王そのものだと俺は思いますよ」

「フンそうか、まあここまで冷静でいられるのは大魔女の薬の影響のお陰であって、普段なら見苦しく泣き喚いておっただろうがな」

 

 

 

 

 

「お久しぶりですエウリュステウス王よ。この様な形で再会する事になってしまい申し訳ありません」

「いや申し訳なく思うのならば回れ右して帰ってくれんか?」

「……残念ですが、それはできません。神々から新たなミュケナイの王になれと命じられたのです」

「そうか、それならば仕方ないな」

 

 ヒュロスと対峙したエウリュステウス王は淡々とした様子で引き継ぎ用の玉璽や資料などをあっさり引き渡していた。

 

「よし、これで全部だ。後は自分で頑張るのだな……おい、そんな顔をするでない。ミュケナイの王になれるというのになんだその苦虫を噛み潰したような表情は。もっと喜ばんか」

「こんな形で王になっても嬉しくなどありませんよ。恩を仇で返すような真似をするなんて勇士のやる事ではありません」

「貴様は真面目な奴だなぁ。そんな事気にせず素直に喜べばいいだろうに」

 

 拳を震わせるヒュロスを見てエウリュステウスは苦笑しつつある頼み事をする。

 

「ではヒュロスよ、最期に頼み事をしたいのだが頼めるだろうか?」

「なんなりと」

「うむ、ではこれから私と決闘してくれんか?ああ、できれば苦しみたくないので一撃で殺してくれよ?」

「ッ!?しかしそれは」

 

 エウリュステウス王から決闘の申し込みを受けたヒュロスは驚きつつも止めようとするが、エウリュステウス王は静かに笑っていた。

 

「いや、これは必要な事なのは貴様も理解しているはずだ。私が生きたままだとミュケナイの民は貴様に従わず抵抗するだろうし、神々も貴様を新しいミュケナイの王だと認めないはずだ」

「ッ」

「それに貴様は私を生かしておき穏便な形で事を収めたいようだが……ナメるなよ小僧が、私は大神より認められしミュケナイの王であり生まれながらの支配者なのだ。化物ならともかく貴様のような小僧なんぞに情けをかけられて惨めに生き延びるよりも私はミュケナイの王として死ぬ事を選ぶぞ!」

 

 そう叫んだエウリュステウスはミュケナイ王家に伝わる宝剣を抜いて構える。

 

「さあ来いヒュロスよ!貴様も勇士ならば私の決闘を受け入れて戦え!」

「……………わかりました、お相手します!」

 

 そしてエウリュステウス王の決闘の要求に応じたヒュロスは一人の勇士として王と決闘する事にした。両軍が見守る中で両者は斬りかかり……

 

 

 

 

 

「おぉぼろあっ……」

「お見事でした、エウリュステウス王よ」

 

 

 

 

 

 勝負は一瞬で決まってエウリュステウス王は斬り裂かれて地面に倒れ伏していた。大勇士である父親に憧れ幼い頃から鍛錬に励んでいたヒュロスと、生まれながらに病弱でろくに身体を鍛えてこなかったエウリュステウス王では勝負にならないのは当然の事であった。

 

 エウリュステウス王が地に倒れた直後強い風が吹いて砂埃が巻き上がりヒュロスの視界を奪う。そして視界が晴れた後エウリュステウス王の遺体を見たヒュロスは一瞬だけ訝しむも、何か納得した様子で頷き声を張り上げる事にしたのであった。

 

「エウリュステウス王は死んだ!これより私が新たなミュケナイ王となる!エウリュステウス王の遺体はミュケナイ王家の墓に埋葬せよ!丁重に扱え!ミュケナイの兵士達よ、我々を恐れる事はない。我々は貴様らを殺すつもりはないから大人しく投降せよ!……………よし!では我々はこれよりミュケナイ王都に進軍する!略奪は暴行は一切許さぬ、違反した者は全て例外なく処刑する!」

 

 

 

 

 

 

「おお、ヒュロス君は堂々としてるねぇ。王として立派な振る舞いをしているし神々も満足しているだろうね。引き継ぎ用の道具は全て渡してあるし、文官達にもヒュロス君に大人しく従うよう暗示をかけてあるから特に大きな混乱もなく国を統治できるだろうさ。ああそれと宝物庫に入る権限もヒュロス君に移譲してあるからこれでミュケナイは大丈夫だね!……多分ね」

「うむ、そうか。ヒュロスの小僧がどうなろうとかまわんが、それはそれとして貴様を殴ってもよいか?いや貴様をこれから殴る」

「落ち着いてよ王様、今の王様は仮死状態で身体を動かせないから私を殴る事はできないよ?」

 

 ヒュロスがミュケナイ軍の投降を受け入れ王都に進軍しようとするのを遠くから眺めていた大魔女キルケーは、計画通りにいったと安心しつつ、真顔で自分に殴りかかろうと藻掻くエウリュステウス王を落ち着かせていた。

 

「今の王様はすっぱり斬られて致命傷を負っているから仮死状態にしないと死んじゃうんだよー。旦那様を回収してアイアイエー島に戻ったら新しい身体を用意するからそれまで我慢してよ」

「その新しい身体とやらは大丈夫な物なのか?人間以外の身体は要らんぞ」

「安心しなよ、ちゃんと健康体で今の身体よりもずっと若々しい人間の身体を用意してあるから王様は期待していいとも!」

「む、そうか。まあ今は貴様の言葉を信じるしかないか。では新しい身体になってから貴様を殴る事にしよう」

 

 キルケーの言葉を聞いたエウリュステウス王は不満気ではあるが、若返りできるのならいいかと少し落ち着いたのでキルケーに確認する事にした。

 

「しかしもう少しやりようはなかったのか?私に何かあればマカリオスが黙っているわけがないのは貴様も当然理解しているはずだろうに……いや、今回の一件は神々の意向だし貴様なりに私に配慮していたのはわかるがな?」

「う、うーーーん、まあ、そうだよねぇ、温厚な旦那様も絶対怒るよねぇ?……どうしようかなぁ、ちょっと怖いなぁ」

「おいどうした、貴様らしくないぞ?いつものような余裕のある笑顔を浮かべてないとは珍しいものだな」

 

 目を泳がせているキルケーを見たエウリュステウス王はあの大魔女がこんな態度を取るとは珍しいと思い怒りを忘れて困惑する。

 

「まさかマカリオスに怒られるのが怖いのか?」

「な、なんだよぅ、旦那様に嫌われたくないと思うのは当然だろう!?」

「いやここまで色々とやってた癖に今になって怖がってどうするのだ。今更止めるわけにもいかんだろうに。そもそも嫌われたくないのならば最初からこんな事をするでない」

「うぐぅ!」

 

 エウリュステウス王に真顔で言われたキルケーは言葉に詰まってしまう。そんなキルケーをエウリュステウス王は珍獣を見るような目で見ていたが、やがて溜息をつくとキルケーに話しかける。

 

「……ハァ、おい大魔女よ、キルケーよ。そんな顔をするな。全てが終わってマカリオスに説明する時が来たら、その時は私も援護してやるから安心するがよい。私の口添えがあれば奴も納得するだろうさ」

「えっいいの?……………いやー助かったよー!確かに王様が説得してくれるなら旦那様も絶対納得してくれるよねー!ありがとう王様!その時はよろしくお願いするね!気を利かせてくれた王様にはお礼にキュケオーンを食べさせてあげるよ!」

「いや礼はいいぞ。そのキュケオーンも要らん……私も新しい住処で貴様ら夫婦がギスギスするのを見続ける事になるのは冗談ではないからな。貴様らは何時も通り仲良くしていればいいのだ、フン!」

 

 一転して笑顔を浮かべ感謝の証としてキュケオーンを押し付けてくるキルケーを鬱陶しそうに断りつつ、エウリュステウス王は早くマカリオスが回収されないかと待つ事にしたのであった。

 

「そういえばマカリオスは今どうしておるのだ?」

「あー、アクイラから王様が死んだ事を聞いて呆然となってるねー。あ、八つ当たりする為に連合軍に吶喊した」

「おぉ、うむ、連合軍も気の毒にな。マカリオスの八つ当たりに付き合わさせるとは……ヒュロスの小僧は連合軍から恨まれるだろうなぁ」




エウリュステウス王:キルケーのお薬のお陰でミュケナイ王として毅然とした態度を取ってヒュロスに討ち取られたが死んだわけではなく仮死状態でキルケーに回収されていた。キルケーなりに配慮してくれたのはわかるがそれはそれとして殴りたい模様。早くマカリオスが回収されないかと呑気に待っているが、自分を倒したヒュロスに対して段々と腹が立ってきたようだ。それとマカリオス夫妻の仲を取り持つ事にした主君の鑑である。

イアソン:最後まで誇りを貫いた王を見て流石はエウリュステウス王だと感心していた。久しぶりに親友に会うつもりのようだ。彼等の話は次話にて。

ヒュロス:渋い顔でミュケナイ王都に進軍して無事にミュケナイ王となる。エウリュステウス王の遺体が偽物に入れ替わっていたのを察していたが何も見てない事にした模様。

大勇士:死にかけの病人なのに大山を持ち上げていたスゴい大勇士である。一体誰クレスなんだ……詳しくは次話にて。

キルケー:今更になってマカリオスに怒られないか心配していたがエウリュステウス王が口添えしてくれるとわかり一安心していた。キルケーとしてはそれなりに長い付き合いになった知人を気紛れで救出していたのだが思わぬ形で役立ったのでハッピーハッピーである。エウリュステウス王には感謝しているようだ。



というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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