もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


息子を心配するヘラクレスと覚悟を決める連合軍

「やあヘラクレス、久しぶりだね。相変わらず呪いと病に蝕まれているが元気そうで何よりだよ」

「ああ、久しぶりだな。イアソンも元気そうでよかった」

 

 ミュケナイにある大山の麓にて、ミュケナイの客将イアソンは敵軍の大勇士……ヘラクレスと再会していた。いつ死んでもおかしくないはずの半死人の親友がまだまだ元気な様子を見てイアソンは流石ヘラクレスだなぁと笑ってしまう。

 

「しかし君は相変わらず強いなぁ、そんなに痩せ細っているのにまだ大山を軽々と持ち上げられるだなんて流石は俺の親友だよ」

「いや、貴様には正直に言うが昔に比べてかなり衰えていてな。この軍神の軍帯で腕力を底上げしなかったら持ち上げるので精一杯だっただろう。情けない老いぼれだと笑ってくれ」

 

「いやいや素の状態で山を持ち上げられる時点でおかしいからな?普通の勇士では軍帯があっても大山を持ち上げる事なんてできないんだぞ?……その軍帯は君が十二の試練で手に入れていた逸品だね。確かエウリュステウス王に献上していたはずだが何故君が持っているんだ?」

「あの大魔女が無理矢理押し付けてきたのだ。精巧な偽物を置いてきたから大丈夫だと宣っていたな」

「あー……」

 

 ヘラクレスが軍神アレスの軍帯を持っている理由を知ったイアソンは何とも言えない顔をしつつも、山の麓からミュケナイ郊外を確認する。エウリュステウス王がヒュロスに討ち取られた後、ヒュロスが率いるアテナイとテーバイ連合軍はミュケナイ軍の投降を受け入れており、その様子を眺めていたイアソンは無駄な人死にが抑えられてよかったと安堵する。

 

「うん、よかった。ミュケナイ軍は全て無事に投降したようだ。余計な戦いをしなくてよかった。あのまま戦っていたらミュケナイ軍が虐殺されていただろうからな……君のお陰だよヘラクレス。君の大山を持ち上げる勇姿を見てミュケナイ軍は戦意を喪失していたからね」

「世辞はいい、確かに私の働きもあるだろうが、戦いが起きなかったのはエウリュステウス王のお陰さ」

 

 イアソンの称賛を聞いたヘラクレスは首を振って否定する。無駄な争いが起きなかったのは自分がやった山を持ち上げるパフォーマンスの効果もあるが、エウリュステウス王が決闘を提案しヒュロスに殺されてくれた事で権力の譲渡がスムーズに行われたのだとヘラクレスは理解していた。

 

「エウリュステウス王には頭が上がらんよ。王は大魔女に回収されたようだし、今後は静かに余生を過ごしてほしいものだ」

「ああ、そうだね。そしてヒュロス君はこれからミュケナイ王として色々と忙しくなるだろうが頑張ってほしいよ……おいおいどうしたヘラクレス。折角ヒュロス君がミュケナイ王になれたというのに、親子揃って渋い顔をしているなんて。もっと喜ぶべきだろうに」

 

「喜べるものか、最悪な気分だぞ。こんな事しなくてもヒュロスはテーバイの次の王の地位が約束されていたし、私はテーバイで静かに余生を過ごすつもりだったのだ。それなのに神々からミュケナイを攻める事を強制されて納得できるわけがないだろう……マカリオスには会わせる顔がないな」

「うん、愚痴を吐きたい気持ちはよく分かるがそこまでにしようか。神々に聞かれていたら問題だからね」

 

 ヘラクレスがとても渋い顔をしているのを見たイアソンは苦笑し、親友がこれ以上愚痴を零すのを止める事にした。

 

「まあやってしまった事は仕方ないさ。マカリオス殿については大魔女殿が宥めてくれるだろう。君達はミュケナイの統治に集中すればいいさ」

「ああ、そうしよう。イアソン、息子の統治は上手くいくと思うか?」

 

「んー……親友の君にこんな事言いたくはないが難しいのではないかなぁ?」

「そうか」

 

 ヘラクレスの質問を聞いたイアソンは少し考えた後ヒュロスの統治は前途多難だと推測し、それを聞いたヘラクレスも驚く事なく納得していた。

 

「エウリュステウス王や大魔女殿が色々と融通してくれたお陰でヒュロス君は滞りなくミュケナイ王になれるだろうが、その後が問題だよ。前任者がミュケナイを何十年も統治し平和と繁栄を齎してくれた名君エウリュステウス王だし、ヒュロス君は事あるごとにエウリュステウス王と比較されるだろうね」

「それはそうだろうな」

 

「それにミュケナイを無事に統治できても他の国が確実に干渉してくだろうしなぁ。ミュケナイの守護者マカリオス殿という抑止力がいなくなってしまったからね。まあ今回協力してくれたアテナイとテーバイとは友好関係を築けるだろうが、ヒュロス君の今後は残念ながら順風満帆とはいかないだろうな」

「そうか、なるほど。やはり私はまだ死ぬわけにはいかないようだな。ヒュロスの、息子の危機を父親として見逃す事はできん」

 

 イアソンの推測を聞いたヘラクレスは怒る事なく静かに聞いていたが、ならば私も死ぬわけにはいかないと真剣な表情で決意する。

 

「イアソン、私は決めたぞ。ヒュロスの統治が安定するまで私はミュケナイを守護し、マカリオスのように抑止力となってミュケナイを守り抜くとここに誓おう。いや、ここまで来たら曾孫の顔を見るまで死ねるものか」

「えっ?い、いや、流石にそれは厳しいのでは?……………いや、うん、君なら、ヘラクレスなら本当にできそうだなぁ……うん」

 

 ヘラクレスの決意に満ちた目を見たイアソンは、ヘラクレスがいる限りミュケナイは大丈夫かもしれないなと思わず遠い目をしてしまうのであった……その後ヒュロス王が統治するミュケナイは様々な困難に見舞われたが、ヒュロス王の迅速な対応と、年老いた大勇士の活躍によってミュケナイは滅亡を免れ、ヒュロス王は前任者には劣るものの優秀な為政者として名を残す事になったのであった。

 

「ところでイアソン、貴様はミュケナイに残らないのか?貴様が残ってヒュロスに仕えてくれたら私も嬉しいのだが」

「あー、いや、その、君の言葉は嬉しいが、私達はミュケナイには残れないよ。私の娘がイェラちゃんを不意打ちして拘束した件がミュケナイの市民達にも知られていて私達は裏切り者扱いしされてるのさ。まあ実際裏切り者と言われても仕方ない事はしているからねぇ」

「おお、そうか。それは仕方ないな」

 

 

 

 

 

「……なあオデュッセウスよ、この戦争で一番の勝利者はヒュロスなのではないだろうか?」

「はい、アガメムノン殿の仰る通りです。マカリオス殿がいなくなったミュケナイを攻め落とし、労せずして新たなミュケナイの王になったヒュロスは客観的に見て一番の勝利者と言えるでしょう」

 

 ヘラクレスがこれからも息子や家族を守ると決意していた頃、トロイアを包囲している連合軍の総大将アガメムノンは、トロイア戦争の真の勝利者はヒュロスなのではないかと他人事のように考えていた。

 

「うむ、我々があの化物によって甚大な被害を受けたのに対して、ヒュロスはほぼ無血でミュケナイの王になったというではないか。さしずめ我々はヒュロスにミュケナイを献上する為に動いた事になるのか。しかし展開があまりにも早すぎる。事前に展開を予想し戦力を用意してなければこんなに早く決着がつくわけがない。もしや我々は利用されていたのか?」

「……」

 

「なんだそれは、ふざけるなよ?我々はトロイアのパリスに奪われたヘレネーを取り戻すという神聖な誓約によって集まったのだ。連合軍に参加せず、そもそも誓約にも参加していない若造に美味しい思いをさせる為に集まったわけではないのだぞ?」

「……心中お察しします」

 

 放心した様子のアガメムノンの呟きを聞いたオデュッセウスや周囲の勇士達は気持ちはよくわかると内心で同意していた。自分達を利用し労せずしてミュケナイの王になったと聞けば彼等が不愉快になるのも仕方のない事だろう。

 

「それに、それにだ。あの若造は我々にとんでもなく損な役割を押し付けてきおった。主君を失って怒り狂う化物と戦えだと?いや本当にふざけるなよ?」

 

 アガメムノンが見つめる先には目が眩む程強い雷光を纏い、激しい怒りを見せるマカリオスがいた。何時も呑気な表情をしているマカリオスが激しい怒りを見せるなど異常事態であり、彼をよく知るアキレウスは冷や汗を一筋流しつつ何時でも迎撃できるよう構えていた。

 

「これは、ヤバいな。後先考えず全力を出すつもりのようだ」

「おおそうか。アキレウスが危機感を覚える程恐ろしいのか……なあオデュッセウスよ、我々もヒュロスに利用された被害者だと訴えてみればあの化物も落ち着いてはくれないだろうか?」

「残念ながら、それは難しいかと。どう見てもマカリオス殿は怒り狂っておりますし、我々の言葉に耳を傾けるとは到底思えません」

 

 一縷の望みをかけてマカリオスを説得できないかと確認するも、それは不可能だとオデュッセウスに断言されたアガメムノンは天を黙って見上げた後、真顔になって宣言する。

 

「よし、決めたぞ。私はこの戦いを生き延びたらヒュロスの若造を絶対に制裁するぞ。正直言ってあの若造にはヘレネーを奪ったパリスよりも怒りを覚えているのだ。諸君らもどうだ?我々連合軍に化物の処理を押し付けた若造を一緒に制裁しないか?」

「あー……まあ俺も思う所はあるし一応参加するよ」

「俺もだ。生きていたら参加するぜ」

「アキレウスとピロクテーテスが参加するのか。じゃあ俺達も参加しよう。オデュッセウスはどうする?」

「申し訳ない。俺も思う所はあるが、妻が帰りを待っているのだ」

 

「……………よし、殆どの者が参加してくれるようだな。では諸君、皆であの化物を討ち取ろうではないか」

 

 アガメムノン達は怒り狂うマカリオスを前に戦う覚悟を決める。そして皆で生き残ってヒュロスを制裁する為に一致団結してマカリオスに対抗しようとするのであった。

 

 

 

 

 

「しかし妙に冷静だな総大将殿、前回マカリオス殿に睨まれた時は無様に気絶していたのによ」

「いや、ヒュロスのせいでこんな窮地に陥っているかと思うと恐怖よりも段々と怒りが湧いてきてな」




ヘラクレス:息子の行く末を心配し今後も助けてやろうと決意した父親の鑑。どうせなら曾孫の顔を見て死ぬかと考えているようだ。ちなみに今のヘラクレスは戦闘時にはマルミアドワーズとネメアの獅子の毛皮とアレスの軍帯を持って襲ってくる模様。

イアソン:ヘラクレスがいるなら新生ミュケナイも大丈夫かもしれないと考える。今後は妻と娘夫婦一緒に各国を放浪しつつ最終的にアイアイエー島に行く予定。イェラ達については番外編で書く予定です。

アガメムノン:怒り狂うマカリオスを前にしてほんの少しだけ覚醒した。この戦いが終わったら必ずヒュロスを制裁すると誓う。

連合軍:ヒュロスのせいで怒り狂うマカリオスと戦う事になったと思い「ふざけんなよボケが」と全員が意見を一致させていた。そして生き延びる為に一致団結してマカリオスに立ち向かう事にした勇士達の鑑である。

マカリオス:ミュケナイに戻りたいが連合軍を放置する事もできないので八つ当たりも兼ねて戦う事にした。


というわけで最終章となりました。今後も毎日投稿できるよう頑張ります。
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