もしエウリュステウスの側近にヘラクレス並の化物がいたら   作:名無しのマネモブ

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続きです。


マカリオスの足掻きと第一次トロイア戦争の終結

「グッ、ヌゥゥ……!」

 

 ヒュドラの毒矢に刺されたマカリオスは地面に膝をつき、身体を襲う尋常ではない激痛に耐えながらも周囲を見回す。ヒュドラの猛毒による凄まじい痛みによって先程まで猛り狂っていた激情は収まり、マカリオスは冷静な判断力を取り戻していた。

 

(ああ、彼が射ったのか。弓矢使いなのに俺が躱せない距離まで恐れる事なく近づいて、自分が雷で焼かれても毒矢を射るのを優先するとはスゴい勇士だ。というか彼が持っている大弓はヘラクレス殿の得物じゃないか。なるほどヘラクレス殿から譲られたのだな)

 

 黒焦げになって倒れているピロクテーテスを見つけたマカリオスは彼がヒュドラの毒矢を射ってきたのだと理解し、敵ながら大した男だと思わず称賛する。

 

「そこの君、生きているか?名前は?」

「……ピロク……テーテ、ス、だ」

「おおそうか、ピロクテーテスというのか。君はスゴい奴だな、ヘラクレス殿がその大弓を譲るだけの事はある。素晴らしい勇士だ」

「へ、ヘヘ、そいつぁ、どうも……」

「む、気絶したか。黒焦げだが治療すれば助かるな……アキレウス、彼を安全な所まで運んでやってくれないだろうか?」

 

 マカリオスの称賛を聞いたピロクテーテスは大勇士に認められたと誇らしい気持ちを抱きながら気絶する。ピロクテーテスが気絶したのを見たマカリオスは彼を輸送してほしいと傍に降り立ったアキレウスに依頼する事にした。

 

「それは別にかまわない。俺としては一騎打ちを邪魔された事に不満はあるが、アンタに恐れず立ち向かい成し遂げたコイツの勇気について否定するつもりはないからな。でもアンタ普通に会話できてるけど毒矢は平気なのか?」

「いや、全然平気じゃないが?痛いを超えて痛いし気を抜けば泣き叫びたくなるのを気合いで我慢しているだけだ。こう見えて痛みに耐えるのに必死だ」

 

「いや巨人や竜にも効く猛毒を気合いで耐えるってスゴいなアンタ。そんな事できるのマカリオスだけだと思うぜ?」

「そんな事はない、ヘラクレス殿ならもっと余裕を見せているだろう。神の呪いと病に冒されても平気なヘラクレス殿ならヒュドラの猛毒にも普通に耐えられるさ」

「……うん、確かにそうかもな。ヘラクレスだしなぁ……」

 

 確かにヘラクレスならヒュドラの猛毒にも耐えられそうだとアキレウスは遠い目をしつつピロクテーテスを戦車に乗せて後方に送り出す。戦車が後方に向かって走り出すのを見送ったアキレウスはマカリオスを介錯しようと向き直る。

 

「よし、これでいい。じゃあマカリオス、介錯してや……!?マジか!クソッ、油断したぜ」

 

 一瞬目を話した隙にマカリオスが強烈な雷光を身に纏って自分に抱きついたのに気付いたアキレウスは冷や汗を流す。そんなアキレウスを見たマカリオスは静かに微笑む。

 

「アキレウス、俺はもうすぐ死ぬ。ヒュドラの猛毒に蝕まれているし、この激痛からさっさと解放されたいからな。だがただで死ぬわけにはいかん。俺は王をお守りする事ができなかった阿呆だ。しかも激情に駆られて勝手に連合軍に吶喊し返り討ちにされるとは救いようがない間抜けだ。ヘクトールやプリアモス王達には迷惑をかけてしまい申し訳ない事をしたと思っている」

「そう自分を卑下しなくても、いいとは、思うがなぁっ!」

 

 全身から眩い雷光を発しながら連合軍の本陣向かって歩みを進めるマカリオスの意図に気付いたアキレウスは全力で押し留めようとする。

 

「お、気付いたか。俺はもうすぐ死ぬが連合軍を巻き添えにして死ぬつもりだよ。とりあえず残っている力を全て解放すれば連合軍もただではすまないだろう」

「ああ、本陣の連中は残らず吹き飛ぶだろうな!それと俺も巻き込んで殺せば、一石二鳥というわけだ!」

 

「そうだ、君が止めないのならば俺は本陣のど真ん中で自爆して総大将達を道連れにするし、君が止めてくれるのならば君を道連れにできる。君がいなくなればヘクトール達は連合軍に勝てるはずだ……おお、我ながら名案じゃないか?うん、ではそうしよう!」

「う、うおおおお!?」

 

 いい笑顔を浮かべたマカリオスが更に激しく雷光を発しながら本陣に向かって走り出すのをアキレウスは全身全霊で抑えるようとするも、マカリオスの勢いを止める事はできず二人は本陣へ近づいていくのであった。

 

 

 

 

「なあオデュッセウスよ、ものすごく嫌な予感がするのだが。まさか化物は我等を道連れにするつもりはないよな?」

「残念ながらアガメムノン殿のご想像通りかと。アイアス!アガメムノン殿をお守りしろ!」

 

 

 

 

「あー、父さんは自爆するつもりですね。半神の力を全て使って連合軍を道連れにするみたいです。ヘクトールさんは急いで離れてください!」

「クソ、もう少し、もう少し近づければ総大将がやれそうなんだがなぁ!」

「すみませんが諦めください。ではヘクトールさん、この後は手筈通りお願いしますね」

 

 

 

 

 

 アキレウスの抵抗を無視して凄まじい勢いで本陣に迫るマカリオスであったが、マカリオスを止めるべく他の勇士達もアキレウスに加勢し攻撃してきたため動きが徐々に鈍っていく。そして針鼠のようになったマカリオスへ更なる一撃が襲う。

 

「これで、ダメ押しだ!」

「……もう一本あったのかぁ」

 

 気絶から回復していたピロクテーテスが最後のヒュドラの毒矢を射ち込み、遂にマカリオスの動きが止まる。その隙を見逃さずアキレウスは全身に力を込めてマカリオスを押し出していくが、マカリオスから発せられる雷光の輝きはますます強くなり、直視するのも難しい程光り輝いていた。

 

「むぅ、本陣の総大将達はやれないか。まあ君を道連れにできるのなら十分だな。後はヘクトールやアクイラ達に任せよう」

「おいおい、もう俺をやったつもりなのか?ナメるなよ、俺は大勇士アキレウスだ!それに妻や息子が帰りを待ってるのに死ねるかよ!」

「ほう、言うじゃないか。確かに家族を残して死ねないな……なら気合いで耐えるんだぞアキレウス」

 

 アキレウスの言葉を聞いたマカリオスは微笑むと……溜め込んだ力を一気に解放する。圧倒的な雷の奔流を受け止めたアキレウスは必死に耐え忍ぶが、電撃は周囲に拡散していき連合軍を襲い蹂躙していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「はいそこまでぇ!それで十分だから!それ以上力を出したら旦那様が死んじゃうからぁ!……ヨシ!旦那様を無事回収できたよ!仮死状態にもしたしこれですぐ死ぬ事はなくなったね!でも禁断のヒュドラの毒矢二度射ちはルールで禁止だよねぇ?」

「なんだそのルールは。そんなルール私は知らんぞ。戯言を吐いてる暇があるのなら早くアイアイエー島に行きマカリオスを治療してやれ」

「そ、そうだね!王様の言う通り早くアイアイエー島で治療しなくちゃ!じゃあ旦那様が着ていたこの戦装束は現場に置いといてヘクトール君に回収してもらおうね」

 

 

 

 

 

 

「……………ッ、なんとか生きてるみたいだ」

 

 雷の奔流が収まったのを確認したアキレウスは身体に幾多の傷跡を残しつつもよろよろとした様子で立ち上がり周囲を見回す。不死身の肉体と数々の防具があるとはいえ、マカリオスの最期の自爆に耐えて五体満足で生き延びるとは流石はアキレウスであった。

 

「うわ、ヒデェ。連合軍はかなりやられているじゃないか……今トロイアに追撃されたらろくに抵抗もできず敗走するだろうな」

「おやおや、生きていましたか。てっきり死んだと思っていたのですが、意地汚く怪物達の血肉を貪っていたのは無駄ではなかったようですなぁ」

「うるさいぞ」

 

 死屍累々たる連合軍の様子を見たアキレウスはこれはもう戦いどころではないと確信する。迎えに来た神馬の一頭の言葉を無視し、アキレウスは戦車に乗って本陣に戻る事にした。神馬達が引くアキレウスの戦車は遠くから見ても非常に目立っており、アキレウスが生きているのを確認したトロイア軍は追撃する事なく沈黙していた。 

 

「よう、大勇士様のお帰りだな。いやスゲえなお前。マカリオス殿の最期の自爆を間近でくらっても無事だなんて流石はアキレウスだぜ」

「これが無事に見えるのか?どう見てもボロボロだろうが」

「いやいや、確かに酷い怪我だが五体満足で生きているし普通に動けるじゃないか。俺なんか雷一発もらっただけでこのザマだぞ?」

「……」

 

 アキレウスを出迎えたピロクテーテスは笑いながら自分の両手を見せる。ピロクテーテスは雷撃をくらい全身に酷い怪我を負っていたが、両手の指が何本か欠け落ちており再び弓を引くのは不可能な状態であった。

 

「二発目の毒矢を射ち込んだ時にポロッといったんだ。身体中のあちこちがスゲえ痛いし勇士としては再起不能だろうな……ああそうだ、ヘラクレス爺さんから譲ってもらった大弓は無事だからアキレウスに譲るぜ。一騎打ちを邪魔した詫びだ。ヒュドラの毒矢はもうないが、あの大弓は素晴らしい業物だしお前もきっと気に入るはずだ」

「いいのか?」

「いいって、この手じゃもう二度と弓を引く事はできないし、死蔵するくらいなら大勇士のお前が持つ方が大弓も喜ぶだろうさ」

「……わかった、ありがたく受け取っておく」

 

 ピロクテーテスから大弓を譲り受けたアキレウスは感謝し、一騎打ちを邪魔した件は不問にする事にしたのであった。

 

 

 

 

 

「おおアキレウスよ、よくぞ戻ってきてくれた!無事、というわけではないようだが、あの化物の最期の足掻きに耐え切るとは流石アキレウスだ!……一騎打ちを邪魔した件についてはすまなかった。責任は私にあるからピロクテーテス達を責めないでくれ」

「頭を下げなくていいぜ。ピロクテーテスから大弓を譲ってもらったし怒りは収まっているからな。それにアンタがあの時一騎打ちに介入しようと決断したのも無理はないと理解しているぜ」

 

 本陣に入ったアキレウスは連合軍総大将アガメムノンに出迎えられつつ周囲を見回していた。

 

「本陣も酷い有様だな。一応聞いてみるが、まだ戦うつもりなのか?」

「……いや、遺憾ながら一度撤収する事にした」

「そうか、賢明な判断だ」

 

 アガメムノンの一度トロイアから撤退するという宣言にアキレウスは当然だと頷く。マカリオスの最期の足掻きは連合軍に甚大な被害を与えており、連合軍にもはや戦う余力がない事は誰が見ても明らかであったからだ。

 

「我々は一度帰国し戦力を回復した上で再度トロイアに、いや、その前に我々を利用してくれたヒュロスの若造を制裁するべきだな。まあそれはともかく、トロイアからも先程停戦の使者が来ていたし撤収作業は滞りなく進められるだろう」

「へぇ、俺達が撤収するのを黙って見送るとは驚いたな」

 

「貴様のお陰だよアキレウス。貴様が健在だからこそトロイアも警戒し追撃を諦めたのだ……アキレウス、怪我を負っているところをすまないが殿を務めてもらえないだろうか。貴様が睨みを利かせていればトロイアも迂闊な真似はできないだろうからな。撤収作業が完了したらゆっくり療養して怪我を治してくれ」

「おう、わかったよ」

 

 アガメムノンの頼みを受け入れたアキレウスは殿を務める事にした。その後は滞りなく撤収作業を完了させ各自一度帰国する事にしたのであった。

 

 

 

 

 

「父上、こちらがマカリオス殿の戦装束です。マカリオス殿の遺体は大神に回収されましたが、マカリオス殿は死ぬ間際に「自分の死体は母の墓の隣に埋葬してほしい」と遺言を残しておりました。父上、この戦装束はミュケナイに渡すべきかと」

「おお、おお……そうか。ではマカリオス殿の遺言に従い戦装束はミュケナイのヒュロス王に引き渡そう。大勇士の遺言ならばヒュロス王も無碍には扱わないはずだ」

 

 連合軍が粛々と撤収作業を進めている頃、トロイアの宮殿に帰還したヘクトールは、戦場で回収したマカリオスの戦装束をプリアモス王に引き渡していた。

 

「おい見ろ!連合軍が撤退していくぞ……!」

「よ、よかったぁ!私達助かったのね!」

「ミュケナイの守護者様のお陰だ!マカリオス様万歳!トロイアの守護者様万歳!」

 

 宮殿の外では連合軍が撤収するのを見てトロイアの市民や兵士達が歓喜の声をあげマカリオスを称えていた。彼等は命と引き換えにトロイアを守り抜いたマカリオスに深く感謝していたのだ。

 

「おお、トロイアの民達が喜んでおる。連合軍が撤収したのはマカリオス殿が自らを犠牲にしてくれたからだ……我々トロイアはこの恩を永遠に忘れず、大勇士の偉業を後世まで語り継ごうではないか。それが彼にできる唯一の恩返しだ。のぅパリスよ」

「は、はい。僕は、僕の我儘の為に命をかけてくれたマカリオスさんに本当に感謝しています」

 

 赤の他人である自分達の為に命を投げ捨ててくれたマカリオスにプリアモス王とパリスが深く感謝し祈りを捧げていた。ヘクトールもトロイアの恩人であるマカリオスに深く感謝しつつ祈りを捧げていたが、同時に今後の行く末についても考えていた。

 

(マカリオス殿は無事大魔女殿に回収されたようだし、ゆっくり休んでほしいものだよ。だが今後どうなるか)

―おや、やはり今後の展開について気になりますか?―

(そりゃあね。オジサンは捻くれ者だからこのまま連合軍がトロイアを諦めてくれるとは素直に思えないんだよねぇ。なあアクイラ殿、トロイアの平和は何時まで続くと思う?)

 

 アクイラと念話で会話するヘクトールはこの平和が何時まで守られるのかアクイラに問い、アクイラは少し考えた後返答する事にした。

 

―んー、そうですねー、まあ最低でも五年程は平和でしょう。父さんが暴れてくれたお陰で連合軍はズタボロですからね!―

(……短い平和だなぁ。五年といわず十年はもってほしいんだけどなぁ。欲を言えばオジサンが老衰で穏やかに死ねるくらいまでは平和が続いてほしいよ)

―まあ安心してください!今の連合軍に一番嫌われて敵視されているのはパリスさんではなくヒュロスさんですからね!連合軍は戦力を回復させたら確実にミュケナイに進軍するでしょうし、ヒュロスさんに敵意が向いている間はトロイアは平和なままですよ!―

(お、おおぅ)

 

 アクイラの言葉を聞いたヘクトールは思わずヒュロスに同情していた……色々とありつつもこうして第一次トロイア戦争は終結したのであった。




というわけで最終章となりました。もうすぐ本編が終わります。
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