ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話 作:コウハクまんじゅう
最近忙しくなってきたので、文量少なめの内容濃密めにシフトしていくつもりです
「はぁ!?退院の連絡を忘れた!?普通自身の身を案じている人には連絡の一本入れるものでしょう!?あの人に常識は無いんですか!!」
まだ朝早い風紀委員会の部室に、耳に響く金切り声が響き渡った。声のボリュームは落として欲しいが、私もその声には大いに賛成する。
「アコ。気持ちは分かるけど、もう少し声を落として。」
スマホを握り締め憤慨するアコを宥めつつ、自身のスマホに視線を落とす。そこにはひたすら謝り倒している石切のモモトークが表示されていた。
現在、私達は退院の連絡を怠った達也を4人で詰問しているところだ。散々こちらに心配をさせておいて何の連絡も寄越さなかったのだ、これくらいの罰は受けて然るべき。そう思いながら指を液晶画面に滑らせる。
「あいつ、ほんとこういうとこ抜けてるよな…」
「長期入院明けで鈍っているでしょうし、あんまり責め立てるのもかわいそうですよ。」
呆れながら息を吐きスマホをもて遊ぶイオリと、やんわりと宥めるチナツ。
声を張り上げ、コーヒーを流し込んだことでさきほどよりかは幾分落ち着きを取り戻した様子のアコがため息をついた。
「…そうですね。ただでさえ鈍いあの人の頭がこの2週間でさらに鈍くなっている可能性はあります。だからと言って私達に何も言わなくていい理由にはなりません。あのクソボケはこうでもしないと記憶には残りませんよ」
半ば呆れたように呟くと、テーブルに広がった書類を一つに纏めて角を合わせた。
チナツは言葉を濁しながらも、首肯してアコの言葉に理解を示した。
そういえば、とイオリが誰に言うでもなく口を開いた。
「退院したはいいけど、復帰はいつになるんだろ」
イオリの言葉を受け、書類処理の片手間に液晶へ指を走らせるとすぐさま返事が返ってきた。
「一週間は自宅療養、復帰しても戦闘はしばらく避けるように言われているそうよ。」
「復帰しても、一週間に一度左目を診てもらうためにトリニティへ通うとも言っています」
チナツがそう言い添えた。
途端、ペンを走らせる手がピタリと止まった。
時が止まったような錯覚と共に目の前の景色が遠くなるような感覚に襲われた。
無意識の内に込める力が強くなっていたようで、ミシミシとペンが軋む音で我に返った。
「「「「……」」」」
しばし沈黙が場を支配した。
「…こっちで世話することは、できないのかしら」
誰に言うとでもなく、独り言をこぼす。
「どうやら、救護騎士団及びティーパーティーの意向のようです。桐藤ナギサさんを含めた大勢のトリニティ生を助けられた恩義がある、と。」
今送られてきたであろう彼からのモモトークを要約して伝えてくれたチナツに感謝し、胸の内で渦巻く様々な感情の濁流を抑えるべく頭のなかで理屈をこねる。
そうだ。ゲヘナ、トリニティといった学園の確執とは無縁の彼ならばトリニティ生も救出するのは当然だろう。
…私も倒れていたら、達也に助けてもらえたのかな
彼が、彼の制服の一部を破って、額に巻いてくれたあの景色が鮮明に思い出された。もし私が動けない状態だったら、ひょっとしたらお姫様だっことか…
「…っ」
頭を振り払い、邪念を追い払う。なおも暴れ回る感情を抑えるために再び理屈を用意する。
ティーパーティーの現行ホストを始めとして多くのトリニティ生を救ったのならば、彼に手厚く支援をするのは至って道理が通っている。
…でも、嫌だ。彼が他の学園に、他の
頭では何もおかしくはないと分かっているのに、私の心がそれを許さない。
…そもそも私は彼の彼女でも何でもない。それなのに彼の交友関係を縛ろうとする自分に嫌悪する。
だめだ、考えれば考えるほど坩堝にはまっていく。
視線を下げて手元を見ると、少し強く握りしめてしまい歪んでしまったペンがいた。
そのひしゃげた姿は、私の心を映し出しているように見えてならなかった。
以前、ゲヘナ生は想い入れのある人物に激しく執着心を見せる傾向にあるとかいうゴシップ記事を読んだことを突然思い出した。
ああ、なんだ。私もやっぱりゲヘナ生だったんだ。
無茶苦茶ばかりする彼のことばかり揶揄していたが、そう言う自分も何も違わぬと気付かされ、辟易した。
「あら、達也さんがお詫び…に…」
そうして自己嫌悪に陥っている間にも、彼はアコとモモトークでやりとりをしていたようだ。
察するに、彼からお詫びの品を提示されたようだが、どうやらアコが沈黙するほどの品らしい。
「アコ、どうしたの?」
「その…」
よほど筆舌に尽くしがたかったのか、アコがモモトークの画面を見せてきた。
そして、私もその文面を見た瞬間に今まで考えていたことが全て吹き飛び、目の前の情報を処理することができなかった。
「……」
「え、なに、どうしたの?」
私まで固まったことで流石に気になったのだろう。チナツを伴ったイオリが私の背後に回り込み、共にスマホを覗き込んできた。
そして、同じように硬直した。
彼から送られてきたモモトークは、以下の通りだ。
『本当に悪かった…何でもするから許してくれ。4人全員の願いを聞くから、それでなんとか…』
大方、怒涛のモモトークラッシュに参って私達の怒りを収めるべく送ってきたのだろう。
このキヴォトスにおいて、男子が女子に向かって『何でもする』と言うのがどれほどの重みを持つのか考えもしないで。
「「「「………」」」」
再び沈黙が場を支配した。
しかしさきほどと違うのは、皆の目が獲物に狙いを定める猛禽類のようにギラついていることだろうか。
もちろん、私も含めて。
「…ふぅん、『なんでも』ね…」
いつもはほとんど動くことのない翼が暴れるのを抑え、『何でもする』の文面をひたすら繰り返し読み倒した。
そうしていると、アコが小さく訊ねてきた。
「…どうしますか?」
「とりあえず、追って知らせるって言っておいて。」
「わかりました。」
アコにスマホを返し、代わりのペンを取り出すと再び書類の上を走らせた。
その日はいつもの3倍速く書類が片付いた。
今回は風紀委員会視点。次は万魔殿視点です。
時系列で言えば、現在はエデン条約編完走後です。