ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話   作:コウハクまんじゅう

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石切の生活

 

 

 家に帰ってからというもの、俺は文字通り家から一歩も出ない生活を送っていた。

 来る日も来る日も同じ景色、同じ空間、同じ生活。

 終わりが見えているとはいえ、通常ならばとっくの昔に廃人になっていてもおかしくないこの生活を耐えられているのは、学校が終わったあと代わる代わる毎日見舞いに来てくれる風紀委員会の皆のお陰だ。

 

 例えばアコ。

 

 

『あ〜、美味い。アコ〜、コーヒーおかわり』

 

『…そんなに私のコーヒーがいいんですかぁ?』

 

『ああ。毎日飲みたいくらいだ』

 

『ッ…あなたって人は本当にもう…!』

 

『……ほんとに『毎日』ですか?『私の』じゃないとだめなんですか?』

 

『ん?ああ、そうだな。毎日でも飲みたい。』

 

『………ふーん、そうですか。あとここ間違えてますよ。』

 

『えっ、マジ!?…マジだった』

 

『まったく、私がいないとどうしようもないんですから、貴方は。…ふふっ』

 

 

 例えばチナツ。

 

 

『チナツ…俺、自分で食えるから…だから、食べさせるのだけは勘弁してくれ…ッ!』

 

『ダメです。この前こっそり野菜を残したの知ってるんですからね』

 

『なんで知ってんだよ!?』

 

『嘘です。今初めて知りました。』

 

『なっ、カマかけたのか!?』

 

『先輩が食堂で野菜を残しているのを見かけたので、もしかしたらと思っただけです。ほら、せっかく私が作った料理が冷めちゃいます。この前何でもするって言ったばかりじゃないですか。諦めて受け入れてください』

 

『うっ…お、おおお…』

 

 

 例えばイオリ。

 

 

『い、石切…その、これ…』

 

『ん?なんだこの細長ぇ箱…おおお!縦二連の散弾銃!?前に俺がカッケーって言ったやつ…おまっ、これ…』

 

『調印式の騒動の時にどっか行ってそれっきりって聞いたから、その…』

 

『あっ、た、退院祝い!ただの退院祝いだから!深い意味とか無いから!勘違いするなよ!?』

 

『お、おお、ありがとな。大切に使うよ。』

 

『ちょっ、やめっ、頭撫でるなぁ!……えへへ』

 

 

 そして、現在。

 俺はヒナに勉強を教えてもらっているのだが…。

 

 

 

 

「それで、ここの問題はまずこの公式を使って─」

 

「…なぁ、ヒナ」

 

「ん?どうかした?…ひょっとして、わかりにくかったかしら」 

 

「いや、そうじゃない。むしろめちゃくちゃ分かりやすくて助かる。俺が言いたいのはな、ヒナ。」

 

 差し込んできた夕陽に照らされた白髪が揺れ、整った美しい小顔がこちらを振り向く。

 淡い紫が宿る瞳がこちらを無表情に見つめる。

 

「なんで俺の膝に座ってんだ…」

 

 そう。

 現在、ヒナは俺の膝の上に座っている。

 正確には、俺はあぐらをかいているため又座に入り込んでいる。

 彼女のスカートの生地は存外薄い上に、彼女の体躯は小柄ゆえミリの隙間もなくぴったり密着している。

 つまりその…尻や背中の感触がダイレクトに伝わってきている。

 これはよくない。非常によくない。

 今まで仲間や妹のように思っていたが、ここに来て彼女に『女性』を感じてしまっている。

 密室…どころか男の部屋に男女が二人きり。しかもこの間のアツコとは違って俺達は同い年。

 何かの間違いが起こらないとは言えない。

 いや、例えアツコが同い年だったとしても事情が事情だしナニもしなかっただろうが。………多分。

 そんな俺の葛藤を露ほども知らないヒナは首を傾げてこちらを見る。

 

「そんな『何言ってるの』って顔されても…」

 

「嫌だった?」

 

「嫌、ではない…が」

 

「じゃあ、このままで。」

 

「う…あ、ああ」

 

 どうにも最近のヒナは押しが強い。調印式以降、完全に距離感がぶっ壊れてしまっている。どうにかしなくてはと思うのだが、彼女には特に心配をかけてしまったため強く出れない。

 そのためいつもこうして流されてしまう。

 淡々と、しかしこちらを気遣いながら説明を続けるヒナの横顔からペンが踊るノートへ視線を移す。

 

「─それで、この値を代入して計算すれば終わり。ふぅ、どこか分からないところはあった?」

 

「いや、大丈夫だ。ありがとう、腑に落ちた」

 

「…そう」

 

 ヒナはペンを置くと俺の膝に乗ったまま腕を伸ばし、体をよじる。それに合わせて彼女と密着している体の部分もより鮮明に感じ取ってしまうわけで。

 

(そう、大丈夫。大丈夫、俺は大丈夫。大丈夫だから…大丈夫っつってんだろッ!いいから立つな!!立ったら終わりなんだよ!!)

 

 うら若き女体を密に感じ取り、本能が鎌首をもたげようとするのはもはや自明の理であった。

 抜刀すれば破滅する剣を気合いで押し留めていると、ヒナが突然立ち上がった。

 煩悩との戦いから解放され、安堵した俺はようやく一息ついた。

 この後に続くヒナの言葉に、再び煩悩を抑え込む羽目になると考えもせず。

 

「今日はもう遅いし、泊まっていくわ」

 

「ああ、そうか。気をつけ…え?」

 

「ご飯の支度もできているし、お風呂に入ってくる。」

 

「えっ、えっ、え…」

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

「…ご馳走様でした」

 

「はい、お粗末さまでした。食器は私が」

 

「俺が洗う。ヒナは休んでろ、疲れているだろう」

 

 ヒナが言い終える前に皿を回収し、キッチンまで運ぶ。食材の破片がこびりついた皿を熱湯に晒し、洗剤を含んだスポンジで片っ端から磨き倒していった。

 

「手慣れてるわね」 

 

「そら、全部自分でやってっからな。」

 

 磨いた皿を再び熱湯で洗い流しながら答える。

 結局、勉強が終わった後はあれよこれよと言う間に風呂と食事が済んでしまい、ヒナが俺の家で一泊することが確定してしまった。

 

 風呂に入ろうとするヒナに、着替えはいいのかと訊ねれば『持ってきている』と自身のバッグを持ち上げた。

 そこで、最初から俺の部屋に泊まるつもりであったことをようやく悟ったが時すでに遅し。詰みの盤面が完成していたというわけだ。

 

「まったく、泊まるんなら事前に一言言ってくれりゃあいいのによ」

 

「そうね。忘れていたわ。」

 

「…まぁ、いいか」 

 

 もしや退院の連絡をしなかった意趣返しか?と勘づき、素直に引き下がる。

 すると、ヒナはライフルスタンドに立てかけていた縦二連に目が留まったようだった。

 

「あら、この銃は…?」

 

「ん?ああ、それか。イオリが退院祝いにってくれたヤツだ。」

 

「ッ!!?………イオリが?あなたに、銃を?」

 

「おお」

 

「…そう。」

 

 それきりヒナは黙り込み、何かを思案するように俯いていた。

 そんな様子を横目に洗い終えた皿を乾燥機に放り、濡れた手を雑にタオルで拭う。

 

「んじゃ、いい時間だしさっさと寝るか。ヒナは明日も学校あんだろ?」

 

「ええ。」

 

「俺はソファで─」

 

「やだ。私と一緒に寝て。」

 

 刹那の内に距離を詰められ、袖を掴まれ、翼で囲われ、退路を断たれた。

 

(風が…風が揺れねェ…)

 

 ピンクのスカートタイプのパジャマと黄色のカーディガンが揺れていなければ、常人なら動いたことにすら気づけないだろう。

 その瞳は承諾するまで離さないという確固たる意志を宿しており、俺は項垂れながら頷くしかなかった。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

「達也、もう少しこっち寄って。」

 

「ああ…」

 

 言われるがままにヒナの方へ身を寄せると、満足そうに声を上げて背中へピッタリとくっついた。

 現在、俺達は同じベッドの同じ毛布に入っている。

 マジで、なんでこんなことになったんだ…これはもう距離感壊れてるとかの話じゃ…

 あれ?でも病院で添い寝したな、そういえば。

 それならもう今更か。

 じゃあ何も問題ないか…

 といった具合に現実逃避をしていると、背中越しに俺の頬に小さな手が伸びてきた。

 

「達也」

 

「…なんだ?」

 

「こっち向いて」

 

「え…いや、それは…」

 

「ちょっとだけ」

 

 言いながら手を俺の頬に添えてくるヒナに押し負け、渋々体を捻ってヒナの方を向いた。

 

「ほら、向いたぞ」

 

「………」

 

 相変わらず、俺の頬に手を添えたままこちらを見つめるヒナ。

 こんな小さな手でも、あの化け物みたいな銃を手足のように扱い、空き缶みたいに不良を捻り潰せるんだよなぁと関係のないことを思い連ねる。

 すると、ふいに眼帯が巻かれた左目へと手を滑らせてきた。

 

「左目は、もう痛くない?」

 

「ああ。痛くなけりゃ何も感じない。」

 

「生活は大変?」

 

「妙な感じはするが…そのうちに慣れる。」

 

「…そう」

 

 ヒナは僅かに目を細めると眼帯を指先でなぞった。

 そこで俺は、初めて彼女が不安に揺れていることに気がついた。

 

「…ごめんなさい」

 

「え?」

 

「私がもっとしっかりしていたら、あなたの左目は今も…」

 

 左目に添えた手が小さく震える。カーテンのすき間から差し込んできた外の明かりが、震え潤うアメジストの瞳を浮かび上がらせる。

 なまじ己が強く、手を伸ばせば届く距離だったのも後悔に拍車をかけているのだろう。

 ついに耐えきれなくなったのか、視線を俺から外して手で顔を覆うヒナ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい…ごめ…なさ…」

 

「ヒナ。」

 

 そんな彼女の肩を抱き寄せ、頭を撫でる。

 

「あ…」

 

「俺を想ってくれるのァ嬉しいが、自分を責めるのは頂けないな。いいか、ヒナは何も悪くない。やれることをやっただけだ。俺が油断したからこうなった。だからこれは、俺の過失だ。まぁ、引き金引いたのは向こうだが。」

 

 ヒナは何か言いたげに身を捩ったが、やがて静かに俺の背中に腕を回した。

 

「…約束して。自分を大切にするって。」

 

「…なるべく頑張る。」

 

「無茶したら、怒るから。」

 

「それは怖いな。」

 

「それと、今夜はこのままがいい。」

 

「わかった。」

 

 言い終わるやいなや、ヒナは毛布を頭から被り俺の腹に顔を埋めた。ヒナの吐息で腹が温まるのを感じながら、訊ねる。

 

「ちなみに、これって俺が言った言う事聞くの内に入ってるか?」

 

「んーん。また別で聞いてもらう。」

 

「あー…はは、わかった。」

 

 もぞもぞと動く毛布とすき間からはみ出た白髪を撫で、俺も眠りにつこうと目を閉じた。

 

「…ねぇ達也。」

 

 毛布にくるまったまま、中から声をかけられた。

 

「ん?」

 

「他の女と寝た?…何か、匂う。」

 

 ドキリ、と思わず心臓が跳ねた。アリウススクワッドの3人を泊めた時からそれなりに日が立ち、洗濯もしたはずなのだが…どうやらヒナは分かるらしい。

 

「寝てねぇ。…甘い匂いの消臭剤使ったから、多分それだろ。」

 

「ふーん…そう。ところで、明日はトリニティへ行くんだったっけ?」

 

「あ、ああ。退院してからちょうど一週間だからな。救護騎士団に診てもらうために、な。」

 

「…そう。」

 

 そっけなく呟き、ヒナは頭をグリグリと俺の腹へ押し付け、毛布をさらに深く被り、背中に回した腕の力を強めた。

 

(ハハハ…これは、寝れねえ。)

 

 朝まで眠れないことを覚悟し、ヒナの詰まった毛布を撫でた。

 

 





キヴォトスにおいて、生涯の伴侶とも言える銃。
相手に銃をプレゼントする行為は、深い親愛の情を伝える伝統的な風習である。─出典:週刊万魔殿

なお石切は知らない模様。
※ヒナと石切は付き合っていません。当然イオリ以下他の風紀委員もです。嘘でしょ…

石切を含めた男子生徒が複数出てくるコメディ物を新しく書きたい。でもこっちの投稿遅れるかも。書いていい?

  • ん、書くべき。
  • ん、こっちを書くべき。
  • ん、いいから石切は生徒を抱くべき。
  • ん、いいから石切は生徒に襲われるべき。
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