ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話 作:コウハクまんじゅう
受験勉強が忙しいので投稿頻度落ちます…
ティーパーティーの聖園ミカ。
その紹介を聞いた瞬間に真っ先に思い浮かんだのは、入院中に小耳に挟んだ噂だった。
「ああ、脱走したって騒ぎになってた、あの…」
「あ、それ知ってるんだ。うう〜、恥ずかしいっ」
ミカは口をすぼめ、気恥ずかしそうに俺から目を逸らした。年相応のその姿を見ていると、併せて流れてきた噂についても到底信じられなかった。
「確か牢屋の分厚い壁を素手でぶっ壊─」
「石切くん、あなたは何も聞いてないの。いい?」
刹那、目の前には赤面した彼女の顔があった。眉は痙攣し、口の端はなんとか取り繕おうと無理やり引き伸ばされていた。どう見たって潔白である者の振る舞いではない。
「……え?まさか、本当─」
「な、に、も、聞、い、て、な、い。」
引き攣った笑みのままがっしりと両肩に手を乗せられる。掴んできた手に尋常でない力が加わり、ミシミシと肩が軋んだ。その圧に屈し、俺は頷く他無かった。
「ふぅ…立ち話もなんだし、座ろ?」
そう言って、少々年季の入ったベンチに文句をつけながら腰を下ろし、隣に座るよう促した。
促されるまま、俺は銃と袋に包んだ刀をベンチに立てかけ、ミカの隣に腰掛けた。それからミカは「アイスブレイク」と称して俺達は他愛の無い雑談を交わしていたが、どうにも様子がぎこちない。
今少し踏み込めないような、どこか遠慮しているような、そんな様子であった。その姿を見て、俺は1つの考えに至った。
「─それでね、その…」
あー、うー、と唸って話が続かなくなった所で、答え合わせをするべく割り込む。
「…やっぱゲヘナは嫌いか?」
「えっ?」
さきほどまで、ぎこちないながらもなんとか取り繕っていたミカの表情が固まった。
「えっと、その…」
突然の事態に何を言えばいいのか分からず混乱している彼女に助け舟を出すべく、口を開く。
「アイスブレイクするために話してるんだろ?いっそ後ろめたいことは全部喋っちまったらどうだ。安心しろ、俺は口が堅いし学園云々には拘らない人間だ。面と向かって言われたって別に気にしない。」
「あっ、うん。ゲヘナは嫌いだよ?」
「言ったな!?気にしないとは言ったが死ぬほど直球に言いやがったな!?…まぁ、ろくでもない連中が多いし、そう思われるのも無理はないんだがなァ。」
「それ君が言っちゃうんだ…あ、でも石切くんが嫌いなわけじゃないの。角も生えてないし。むしろ好き…って言ったら変な感じになっちゃうか。うーん、好意的?友好的?」
「そ、そうか。まぁそれならそれで良いんだ。良いんだが…じゃあ、何が引っかかるんだ?さっきから何か様子がぎこちないが…」
「石切くんも大概ズバっと鋭いこと言うじゃんね…うーん、ぜんぶ話しちゃったほうがいいのかな。」
そう言ってミカは暫時の間頭をひねって迷っていたようだが、決心がついたように一つ頷いてこちらを向いた。
「うん、話そう。セイアちゃんの時みたくなるのは、もう嫌だ。…石切くん、アイスブレイクはここまで。ここからは重くなるよ。」
そう前置きすると、ミカは姿勢を正してぽつりぽつりと語り出した。
□■□
そうしてミカから話を聞くこと数十分。俺は衝撃的な情報を耳に入れてしまった。
要約するとこうだ。
この一連の騒動を引き起こすきっかけとなったのは自分のせいで、調印式の惨劇を招く原因になってしまった、と。
それらを踏まえたうえで、ミカ曰く親友であるナギサを助けてくれたことを感謝する反面、左目を失わせてしまったことに加えて俺の大切な人達が傷つくことになってしまい申し訳ない、と。
なんというか、今日は人から随分と複雑な感情を向けられるなぁと思う。
「しかし…アリウスと和解したいが為に接触したのに、向こうの首魁に全部歪められちまって。散々拗れた果てに『魔女』か…とにかく気の毒だったな。」
聞けば聞くほど、この騒動はミサイルで古聖堂が吹っ飛んだだけの事件では無いのだなとつくづく思う。同時に、ただ和解を望んで行動しただけなのに、悉く悪い方へ転がってしまったミカを不憫に思った。
「まぁ、私の自業自得でもあるんだけどね?勝手に暴走して、大勢の人に迷惑かけちゃって。先生にも、石切くんにも、他の人達にも…。謝って済むことじゃないのはわかってるけど、ちゃんと言わせて。…ごめんね、石切くん。こんなことに巻き込んじゃって。そして、ナギちゃんを助けてくれてありがとう。」
そう言ってミカは頭を下げた。元とはいえ、生徒会長が一人に頭を下げられ俺は動揺を隠せなかったが、しっかり向き合わねばと気を取り直した。
「ああ。」
「…ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「なんだ?」
そう言ってミカは恐る恐る顔を上げ、複雑な感情が混じった瞳で俺を見つめた。幾度か逡巡する様子を見せた後、意を決して口を開いた。
「石切くんはアリウスを…サオリを、恨んでる?」
「別に。」
「そうだよね、やっぱり恨……ん?え??ちょっ、ちょちょ、ちょっとまって!?」
ミカは実に慌てた様子で、困惑一色に染まった瞳で俺を見つめる。
「い、石切くんは、サオリに左目を撃ち抜かれた…んだよね?」
ミカはそう言って、眼帯が巻かれた俺の左目を見やった。
「ああ。」
「もうその目は見えないんだよね?」
「ああ。」
「え、ええっとぉ…なんでそんなに涼しい顔してるのとか、色々聞きたいけど…とりあえず、なんでサオリを恨んでないのか聞いてもいいかな?」
「…うーん、なんつったら分かりやすいかなァ…」
目を白黒させながら、俺の言葉を待つ姿に何といったものかと頭を捻る。しかし考えついた言葉は傍から見ればどれもぶっ飛んでて納得してもらえるとは思えなかったが、それでも言うしかない。
「結論から言えば、俺が未熟だったから。」
「…???」
「ああ待て。全部説明する。」
案の定、思考が止まって視線が空へと投げ出されたミカを引き留め、順を追って話をした。
□■□
「えっと…つまり石切くんは、スクワッドを相手に勝つつもりだったと。」
「ああ。」
「だけど、疲労で油断したからサオリから一撃をもらったと。」
「ああ。」
「勝てるはずだった戦いで負けたから、その左目は自身の過失と捉えていると。」
「ああ。」
「…サオリに望むことは?」
「リベンジ。」
「………」
話を聞き終えたミカは静かに瞳を閉じ、額に手を当ててため息を一つついた。
「……あの、ごめんだけど、ひょっとして石切くんっておバカさん?」
「否定できねぇ…追試食らいまくって、退学がかかったテストが今度あるからな。」
「違うの、そうじゃないの…でも学力の方も残念だったのね…いや、そもそも
ミカはまた深く息を吐き出すと、額に当てていた手を下ろしてこちらを見つめた。
「ナギちゃんは、君のこと騎士様騎士様って言ってたけど。ほんとの君はもっと単純というか、一直線と言うか…向こう見ずだったんだね。転入したって言ってたけど、石切くん…」
言い終わらぬ内に、ミカはいっそ清々しいくらい面白そうに笑った。
「ふふっ…あははっ。誰よりもゲヘナの素質あるよ、君。」
「褒めてるか?」
「あははっ!そう思ったらいいんじゃない?ふっ、あはははは!」
そう言ってミカはしばらく笑い転げていたが、一通り笑い飛ばしてすっきりしたのか、「さて」と勢いをつけてベンチから立ち上がった。
「私はまだ雑草抜きが残ってるから、ここら辺でお開きにしよっか。ああ、手伝おうなんて考えないで?これは私の罰だから。…それに、石切くんはそろそろ帰らないとまずくない?結構時間経っちゃってるけど。」
「え?」
言われてスマホを見てみると、割と洒落にならないくらい時間が過ぎているのが確認できた。少なくとも迎えの車の運転手の子はキレても許されるくらいには。
「やべっ、早く行かないと…またな、ミカ」
「うん。じゃーね、騎士君!」
そう言って笑顔で手を振るミカに手を振り返し、俺は急いで迎えの車へ向かって駆け出した。
運転手の子にはちゃんと怒られた。ほんとうに申し訳ない。
次章、時計じかけの花のパヴァーヌ編。
時系列的にはパヴァーヌ第二章に合流する形です。