ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話 作:コウハクまんじゅう
部屋へ入ると、中央に置かれた巨大なソファの影から二人の少女がこちらの様子を伺っているのが見えた。一人はミドリ、もう一人は青い瞳の少女。
「あれが先生と一緒に来た男の人ですか?帽子を極端に偏らせて被っていて、なんだか悪い組織の幹部みたいです!」
「ちょっ、初対面の人にそういうこと言っちゃダメでしょ!そもそも達也さん、私達のお手伝いをしに先生と来てくれたんだから。」
「そうなのですか?ということはパーティーメンバーですね!あれ?でもなんだか私たちとは色々と違うような…?」
「多分…男子生徒だからかな?キヴォトスでは滅多にいないからね。」
「つまり、あの人はSSRランクキャラクターということですか?ではクリーチャーボールを投げて『捕獲』しましょう!」
「ダメだからね!?」
そうしてわちゃわちゃと揉み合う二人を見ていると、突然叫び声が上がった。
声が上がった場所は二人の奥。そこには、コントローラーを放り出し、床に仰向けに倒れ込んだ桃色の猫耳を生やした少女と先生がいた。
「うわーん!なんで私のコンボが当たらないの!?」
“モモイは焦るとレバガチャしちゃうから…。”
癇癪を起こし、両手両足をバタつかせて暴れ散らす少女。その顔は、ミドリとそっくりであった。恐らくは双子の姉妹か。
「ちょっとお姉ちゃん!男の人がいるのにはしたないよ!」
やはり、ミドリと桃色の猫耳の少女は姉妹らしい。まぁ、今なお床で暴れ回る姉をしばくミドリの方が、よっぽど姉に見えるが。それよりも、俺の興味はゲームの方へと向いた。ソファの横を通り過ぎ、床で暴れる桃猫耳の隣に腰を下ろす。
「何やってるんだ?」
「うぅ…カシ拳…」
「カシ拳?」
「カシ拳は略称です。フルネームは『カシオペアの拳〜ウーパールーパー大列伝〜』。人気な格闘ゲームの一つです。」
「あー、なんか話題になってたな。」
“達也もやる?”
「え、俺?面白そうですけど、今は二人が…」
「そうだ!ねぇ、私の仇取って!!操作方法教えるから!」
勢いよく起き上がった桃猫耳の少女がコントローラーを俺に突き出す。困惑しながらも受け取ると、少女は得意げな顔でふんぞり返った。
「ふっふっふっ。では、我が一番弟子よ。この才羽モモイ師匠が手取り足取り教えてしんぜよー。」
「初心者の先生に散々ボコボコにされた挙句、初対面の人に勝手に仇討ち押し付けといて何言ってるのお姉ちゃん。」
「うわぁああ急に刺さないで!私のライフはもうゼロなんだよ!?」
そうして、あれよこれよという間にコントローラーを受け取った俺は、モモイから操作方法を教わってから先生と戦った。
ここ数ヶ月は忙しく、ゲームを遊ぶ余裕などなかった俺は存分にカシ拳を楽しんだ。
□■□
「はー、やったやった。」
“ま、負けた…”
ゲームを始めてからおよそ半刻。初心者同士の対戦ということもあり、かなりの接戦となり大いに白熱した。結果、僅差で俺が勝ってお開きとなった。
「達也飲み込み早いね!流石は私の一番弟子。よく仇を討ってくれた!」
「いや、お姉ちゃんほとんど何もしてなかったよね?操作方法を教えて以降は、試合中に口挟み過ぎて邪魔してるようにしか見えなかったよ?」
「うぐっ」
「むしろ、途中から勝手に乱入して石切先輩にボコボコにされていました!」
「達也さんも初心者なんだけどね。」
「うぐぅっ!?」
ミドリとアリスの容赦ない追撃にやられ、立つ瀬がないとばかりに床へ倒れ伏すモモイ。
ちなみに、アリスというのはあの青い目をした少女のことである。むしろ、ゲームをしている時はモモイよりアリスのアドバイスに助けられたのは余談である。
「…というか、今日の部活の目的忘れてないよね?」
「あっ、そうだった…!」
「…そうだった?」
「ち、違う!違うのミドリ!ちゃんと覚えてるから!ね!」
そうして焦るモモイが言うことには、今日の部活動は次回作るゲームのアイデアを出しとのこと。先生を呼んだのは、良いアイデアを考えついてくれるだろう、と期待してのことだったそうだ。しかし、ゲームのアイデアなど急に言われても簡単には思いつかない。だからこそ人気が出たゲームをプレイして分析しようというモモイの計らいによって、俺達はカシ拳を遊んでいたのだという。しかし、それでも俺達は一向にヒントを得られずにいた。このまま次のゲームをプレイすることになる流れになるかと思ったその時。ふとモモイが呟いた一言から流れが変わる。
「ところでさ、達也が持ってるそれって何なの?」
「ん…これか。」
俺は右脇においていた袋に包んだ刀を掴んで立ち上がり、体の前まで持ってくると鞘の先端を床に突く。今、彼女の目の前には袋に包まれた刀が柱のように佇んでいる。
袋の紐を緩め、柄の方から徐々に姿を現すにつれて、モモイ達から感嘆の声が上がっていった。
「えっ!?こ、これ、もしかして『刀』ってやつじゃ…」
「ご明察。」
「アリス見たことあります!ファイナル・ファンタジアのスフィロスが持ってました!」
「刀って、もう廃れてキヴォトスから無くなっちゃったんじゃなかったっけ…?」
そうして話している間に、俺は三人の前で袋から出した刀を掲げてみせた。全貌を現した愛刀は、鞘から柄まで含めると俺の肩にまで届こうかという剛刀だ。
「「「おおおおー!!」」」
純粋に刀の美しさに見惚れる年相応の姿に、思わず頬が緩む。
「とっ、刀身!刀身は!?」
こちらへ二、三歩踏み出してきたモモイにニヤリと笑いかけてから下がらせると、鯉口を切る甲高い音を響かせる。次いで白刃が鞘を滑り出す繊細な音色が部室に響き渡り、刃先が鯉口を僅かに擦る音を以て刀身が露わになった。
俺は皆の方に刃が向かないよう注意を払い、存分に披露してみせる。三人は俺を取り囲み、刀をあらゆる角度から鑑賞し、その美しさに酔っていた。
「す、すごい…綺麗…本物の刀剣なんて初めて見た…」
「よく見るとたくさん傷がついてます!アリスの知ってる勇者の剣は傷一つない聖剣でしたが…これはこれでかっこいいと思います!まさに歴戦個体ですね!」
「じゃ、じゃあ、ひょっとして先輩はこれで戦ってた…ってこと!?」
「ああ、そうだ。」
「でも、プニプニ*1は剣術を鍛えても銃には勝てないと言っていました。先輩は本当に剣で戦っているんですか?」
「たりめーよ。ま、最近は銃も使ってっけどな。だが、それだってここ一、二カ月の話だ。それよりも前はマジに刀だけで戦ってたぞ。」
「刀だけで…」
「重゛ッ゛え、待って刀ってこんな重いの?こんなの振り回すわけ!?」
私も刀を触ってみたいとせがむモモイに刀を握らせ、事故らないように側について支えていると、アリスがこんな事を言いだした。
「石切先輩は侍大将みたいですね!あ、侍大将というのは、SAKIROに出てくる強い中盤ボスキャラクターのことです!」
「ほォ、侍大将…わかってんじゃねーか、アリス。」
侍、という言葉に胸が躍る。自分があこがれていた存在だけに、気分が良い。思わずアリスの頭をくしゃくしゃと撫でると、えへへと愛嬌たっぷりの笑みをこぼした。そんな愛くるしさがそそり更に頭を撫で続けていると、突然、何かを思いついた表情を浮かべた。
「石切先輩!」
「なんだ?」
「石切先輩は強いですか?」
「当然。」
「なんでも斬れますか?」
「戦車は何回か斬ったな。まぁ、その気になりゃなんだって斬れるさ。」
「では、石切先輩ならチビメイド様に勝てるかもしれませんね!」
瞬間、空気が凍った。それまで静観を貫いていた先生や、刀を手にはしゃいでいたモモイやミドリさえ動きを止めてハラハラした様子で見ている。
「チ、チビメイドぉ?」
「はい!チビメイド様です!」
「ええー…っと???」
要領を得ない説明に困惑していると、刀をこちらへ返したモモイとミドリが説明を代わった。
「そのー、アリスの言うチビメイドっていうのはネル先輩のこと。んで、ネル先輩っていうのはメイド部…C&Cっていう部活動のリーダー。C&Cはミレニアムきっての武闘派集団で、凄腕のエージェント達が所属してるんだ。」
「ちょっ、お姉ちゃん…!」
「他の学園にも知られてるし、別にいいんじゃない?…それで、他の先輩たちもすごいけど、リーダーのネル先輩が一番やばい。あの人ミレニアムの中じゃサイキョーだよ。『約束された勝利の象徴』って異名があるくらいだし。」
「……ほう」
C&C、武闘派、エージェント、ネル、最強。
断片的ながら、好奇心が湧くには十分な情報が耳に入った。久しく血が沸き立ってくる感覚をハッキリと感じ取り、体の奥底から熱が滾って来た。
「もし戦ったら、石切先輩は勝てますか?」
「ちょっ、アリスちゃん…!」
「それ以上は…ひっ…!!」
そう言って純粋な瞳でこちらを見上げるアリス。俺は、胸の内に広がる熱の赴くまま口を開いた。
「勝つ。」
“あっ…あー…”
全てを諦めたような先生の声と共に、部室の床を踏みしめる音が響き渡った。
「へぇ…ずいぶん面白ぇ事になってんな。」
声のした方…つまりはドアの方へと視線を向けると、そこには燃え盛る炎の如く赤色の短髪の少女が佇んでいた。口元には獰猛な笑みを浮かべ、目は獲物を定めた肉食獣のように鋭い。
少女の恰好に目を移してみると、頭にはメイドのカチューシャ、纏う制服にはエプロンのデザインをあしらっており、その姿はまさにメイドのようだった。
「う、うわーん!?襲撃イベント発生!野生のチビメイド様が部室に襲撃してきました!」
「ああ!?誰がチビだ、誰が!」
突如現れたメイドの少女は羞恥に顔を赤らめ、アリスを一喝。
“ね、ネル?一体いつからここに…というか、どうしてここへ?”
「探し回ってもチビが見つかんねーから部室まで来た。…ところで先生、こいつは何モンなんだ?」
訝しげな瞳をこちらへ向ける少女。
得たばかりの情報と照らし合わせれば、目の前のメイド少女の正体は容易に知ることができた。
(ネルにチビメイド…こいつが、ミレニアム最強の…)
“彼はシャーレの仕事を手伝いに来てくれた、石切達也くん。ゲヘナ学園の3年生だよ。”
「ゲヘナ…男子生徒…へぇ、マジかよ。本当にいたのか…」
途端、獲物を捉える鋭い瞳の中に相手を見定める冷静さが加わった。俺も負けじとその瞳に正面から向かい合う。
そうして睨み合いを続けていたが、向こうの方から視線を外し、頭をポリポリと引っかきながらこちらへ歩みを進めてきた。
「…ま、それはいい。」
まるで俺の間合いを完璧に把握しているかのように絶妙な距離を保った位置から、再びこちらを獰猛な笑みと鋭い瞳を以て睨み上げる。
「随分と腕に自信があるみてぇだが…口だけなら何とでも言えるだろ?」
瞬間、肌を突き刺すヒリつく熱気。それは、久しく触れることの無かった、闘気。
不良達を屠っている最中のヒナに勝るとも劣らない眼光に、彼女がヒナと同等の力を持つことを容易に察した。故に。
「だったらどうする?」
「決まってんだろ。」
一歩、俺の間合いに踏み込む。それは、言葉にせずとも伝わる、挑発。
「ちょっと面ァ貸せよ。」
その言葉を聞いた俺の口の端は、上がっていたように思う。
※石切の身長は172cm想定。