ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話 作:コウハクまんじゅう
ネルの誘いに乗った俺は、彼女の提案で邪魔が入らぬよう郊外の廃墟街へと移動した。
その際、「二人が大怪我しないように見てるからね。」と先生が、「先生を守る勇者としてアリスもついていきます」とアリスが共に来た。
モモイとミドリはゲーム制作のため部室に残った。
余談だが、どうやらロッカーには「花岡ユズ」というゲーム開発部の部長が入っていたらしい。まさか俺が人の気配を見逃すとは思わず、驚いたものだ。
閑話休題。
過去を振り返るのもほどほどに、首を回し悠然と構える最強と名高いメイド…ネルへと改めて向き直る。
こいつやばい。
重心がまったく揺らがない。
「いつでも来いよ」と「いつでも行くぞ」が共存している。
ただ向かい合ってるだけなのに肌が圧力でバリバリ削られていくんだが。
ホルスターから散弾銃を引き抜き、弾が込められているか確認。ついでに話を振ってみる。
「ところで、どこまでやっていいんだ?」
「ここらの廃墟は取り壊しが決まってる。人も滅多に来ない。まぁつまり…存分にやれるってこった。にしても…」
言葉を区切ると、珍しいものを見るような目でこちらを見た。
「あたしを相手にドンパチやろうってのにここまでビビらねぇ奴は久しぶりだ。しかもあたしの力量を推し量った上で、な。」
「たりめーだ。こんな奴とやれる機会なんて早々無ェからな。」
ネルは一瞬目を丸くしたかと思うと、すぐさま目を細め愉快そうに口角が上がった。
「…ハハッ、面白ぇ。」
金龍が刻まれた二丁のサブマシンガンが、互いを結ぶ鎖を揺らしてこちらを睨んだ。
「…ミレニアムサイエンススクール3年C&C所属、美甘ネル。」
「!…ゲヘナ学園3年風紀委員会所属、石切達也。」
呼応し、俺も散弾銃を構える。
照星の先にネルを収め、引き金に指を添える。
鼻に滑り込んだ風が肺を経由して口から溶け出る、その動作を二つ繰り返し。
「「ッ!!」」
空気を震わす銃声が交差した。
一発撃ったのと時を同じくして、身をよじって横へ跳ぶ。一拍置かずして、鉛玉が数発肩を掠めていった。
─近距離戦に活路あり。
もとより、俺の得物は刀と散弾銃。近づかなければ真価を発揮できない。
こちらめがけて濁流の如く押し寄せる灼光の群れを見て、即座に悟る。
「ッ!」
「!おっと。」
同じく横へ跳びながら射撃を続けているネルの懐へ潜り込み、顎めがけて一発。しかし、寸でのところで後ろへ仰け反られ、不発。外したと理解する前に銃身を掴んでぶん回すも、サブマシンガンの片割れで受け止められる。
「ハッ、やるな。」
「まだまだ。」
銃身から離した右手を柄へと滑らせ、瞬きの間に閃いた白刃がネルの小柄な身体を吹き飛ばす。
「こ、れがッ…刀か」
「モロに入ったのにかすり傷一つ無ェって…何かの冗談だろ…」
「いや。結構効いた。」
「の割には涼しい顔しやがって。」
左手には弾を込め終えた散弾銃を、右手には刀を構える。
やはり、片目では以前と感覚が違って慣れない。恐らくイオリが散弾銃をくれたのもそれを見越してのことだったのだろう。単に俺が「欲しい」「好き」と言っていたからだけなのかもしれないが。サンキューイオリ、愛してる。
「刀に縦二連の散弾か。武器のセンス良いじゃねえ、かッ」
「正直お前の金龍と鎖もイカしてると思…うッ」
一息の間に距離を詰められ、銃が不利と悟ればすぐさま手放し切り合いに持ち込む。
刀の、ひいては俺の間合いだというのに、ネルは華麗な身のこなしと卓越した射撃技術、それから桁外れのフィジカルでゴリゴリに押し込んでくる。
「ッハハ!てめぇの力はそんなもんかよ!」
「ッらァ!」
激しい戦闘で幾分リミッターが外れ、力の乗った一振りが炸裂しネルを大きく吹き飛ばす。
しかし、効いているのかいないのか。刹那のうちに体勢を立て直したネルは縦横無尽に動き回りながら弾丸の雨を降らせてくる。
「「おおおおおお!!」」
白刃と鉛玉が交錯し、爆ぜた。
□■□
「す、すごいです…石切先輩、チビメイド様を相手に渡り合っています…」
二人の戦いを共に見守っていたアリスが驚嘆の声を上げる。私も同意し、思わず二人の戦いに見入ってしまう。
ネルが達也を連れて部室を出ていこうとした時。生徒同士の喧嘩を見過ごすわけにはいかず、最初はそれとなく喧嘩を止めようとしたものの達也にすごく悲しそうな顔をされ、結局私の見張り付きで許してしまった。
決して達也の知らない一面を見せられてドキッとしたからとかでは無い。断じて。
それはさて置き。始まる前まではいくら達也といえどもネルには流石に敵わないのではと思っていたが…正直、私は達也の実力を見誤っていたのかも知れない。
戦闘開始から既に数十分が経過してネルが優勢になってきたように見えるが、達也もしぶとく粘って確実に攻撃を当てている。
“達也ってあんなに強かったんだ…”
思い返せば、達也は調印式の時にミサイルの爆発に巻き込まれていたが、五体満足でヒナと共に戦っていた。あのときは事態の対処に必死だったためスルーしていたが、よくよく振り返るとあの時から片鱗は見えていたのだ。
そこで私は、この前仕事で風紀委員会の元を訪れたことを思い出した。仕事の合間、ひょんなことからヒナの次は誰が強いのかという話になった。
『ゲヘナで私の次に強い子?達也じゃないかしら。』
『…そうですね。認めるのは非常に癪ですが、委員長に匹敵する実力者かと。癪ですが。』
『あいつ、不良が持ってる戦車兵器な顔して斬っちゃうし。装甲車は二桁行ってる。ほんとにどうなってんの…』
『石切先輩が風紀委員会に入ってからというもの、ゲヘナ自治区内の不良の動きが急速に沈静化しましたから。それに見合った実力があるのは確かですね。』
その時は話半分に聞いていたが、今になって全て真実味を帯びることになるとは。
改めて二人の戦いを目を凝らして眺める。ネルが俊敏に動き回って射撃に打撃や蹴りも交えて攻撃を加えるが、負けじと達也も散弾銃と刀で応戦する。
“……ほどほどにして止めないとね。”
「いいえ、ご主人様。それには及びません。」
“うわぁ!?”
突然話しかけられ、思わず肩を震わせる。声のした方へ顔を向けると、そこには見慣れたボリューミーな髪とフレームの細いメガネが。
「アカネ先輩!」
「ふふ、こんにちはアリスさん。」
前に飛び出してきた髪をたおやかに耳にかけ、ニッコリと微笑むアカネ。
彼女はミレニアムの2年生にしてC&C所属の生徒。任務において、ことあるごとに障害物を爆弾で吹っ飛ばす『掃除』を得意とするお淑やかなメイドだ。
“こ、こんにちは、アカネ。でも、どうしてここに…”
「今日は任務の通達があるので、C&Cのメンバーは全員…特に部長は部室で揃っていなければならないのですが…」
言葉を区切ると、未だ激しい戦闘を繰り広げている達也とネルへ目を向けた。
「まさか、こんなところで
「アカネ。」
アカネの背後から現れた人物が、咎めるように被せる。身の丈を遥かに越える対物ライフルに、鷹のような鋭い目付き、そして琥珀色の瞳。同じくC&C所属の、角楯カリンだ。
「あら、私としたことが…」
“カリンも来てたんだ。”
「はい。アスナ先輩に引っ張られて…」
“アスナも?でも、ここには…”
「アスナ先輩でしたら、既にあそこへ。」
アカネが指差す先には、思いっきり達也を抱き締めるアスナと、アスナの豊満な胸に埋もれ痙攣している達也の姿があった。
“いつの間に…”
「それでは、先生。私達はこれで。部長がご迷惑おかけしました。」
“あっ、いやいや、全然。本人たちが望んだことだし、私は大怪我する前に止めるつもりで見ていただけだから。”
「クッソー、せっかくいいとこだったのによー。」
そうこう話していると、やや不機嫌そうに舌打ちしながらサブマシンガンを背中に担ぎ直すネルがやってきた。
「もう十分やったでしょう。行きますよ。」
「不完全燃焼もいいとこだぜ、ったく…」
「リーダーの本気、久しぶりに見たかも!あの男の子すごいねー!アスナもやりたかったなー」
「いいから行きましょう、先輩。時間も押してますし。」
「それもそうだね。ご主人様!まったねー!」
「そんじゃあな、先生。付き合わせて悪かった。」
“私は大丈夫だよ。それじゃあね、みんな。”
ネルを回収したC&Cが引き上げていくのを見送ったあと、その場に立ち尽くしている達也の元へ向かった。
“お疲れ様、達也。怪我とかない?……達也??”
呼びかけても、頬をつついても、肩を叩いても無反応。アリスが裾をつかんで揺らしてもなお無反応。
「うわーん!石切先輩が処理落ちしてしまいました!」
“ど、どうしよう…”
そうしてあたふたしていると、ようやく達也が口を開いた。
「……より…」
“えっ、何?『より』??”
「…サツキ、より…大き─」
言い終える間もなく、突然鼻から大量の血を噴き出して達也は気絶した。
“達也!!?”
「うわあああ石切先輩!?大丈夫ですかしっかりしてください!」
「我が生涯に一片の悔いなし…」
“何言ってるの!?死んだら許さないからね!?”
無数の穴が空いた廃墟に、頓珍漢な悲鳴が響き渡るのであった。
□■□
『─以上だ。』
通信越しに、ややぶっきらぼうな声が室内に響き渡る。室内には無数のモニターが設置されており、ミレニアムのありとあらゆる要所を映す映像を絶えず送信し続けている。異常とも言える情報量に溢れた空間に、その人物はいた。
「ご苦労様。」
主は手短に部活を労い、送られてきた手元の電子の報告書に目を落とし思考を巡らせる。
『で、あいつは放っとくのか?』
「…ええ。彼は予測不能な変数だけれど、そもそも他の学園の生徒。もし介入すれば学園同士の問題になるのは明白。二大学園の抗争を予期できないほど愚かではないでしょう。」
『…そうか。ま、お前がいいって言うんならいい、リオ。』
「報告のときは
『あー、そうだったな。』
苛立つ声に、液晶を滑らせる指を止め顔を上げる。
「…今日は随分と調子が乱れているわね。調子が乱れる原因は、主に不規則な食生活や精神的ストレス、ホルモンバランスの乱れが挙げられるわ。もしくは─」
『違ぇ!そんなんじゃねぇよ。ただちょっと、不完全燃焼だっただけだ。』
「不完全燃焼?」
『そうだ。ちっと闘りたりなかっただけだ。』
「…依頼の内容は、ターゲットの戦闘能力を測る。だったはずだけれど。」
『わかってっけど、そういうんじゃなくてだな!…まぁ、いいか。報告終わったんだから切るぞ!いいな?』
有無を言わさぬ通信を切る音と共に、室内はコンピュータの駆動音と排熱音が支配する無機質な空間へと戻った。
一人部屋に取り残されたその人物は、暫時の間固まっていたものの、やがて静かにモニターへと歩み寄った。
モニターに備え付けられたパネルを操作すると、今までとは別の映像を映し出した。
そこには、地面まで伸びる長髪が特徴の青い瞳の少女と、腰に刀を帯びた青年、そしてスーツを着た大人の女性が映されていた。
「AL-1S…貴方は、必ず私が引導を渡すわ。」
その手中にあるタブレットを握りしめ、静かな決意を滲ませた声がモニターへと吸い込まれていった。