ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話 作:コウハクまんじゅう
時は流れに流れて、ついに翌日にエデン条約調印式を控える事となった。近頃は事件・事故共に小規模なものしか起きておらず、俺やイオリ、火宮が出ればすぐに収まっていた。
そうなると大半の風紀委員達は手持ち無沙汰になる。ということで、俺や幹部達を除いた風紀委員達は調印式の会場設営に駆り出されていた。
なんでも、調印式の場所は万魔殿側から提案されたらしく、トリニティにある古聖堂にて執り行われるらしい。
どうやら調印式関連で動くにあたって風紀委員会はいつも通り万魔殿から妨害を受けていたらしいが、会場設営に動いた途端に妨害の手が止んだそうだ。「現金なタヌキども」と、ヒナはアコと共に悪態をついていた。
そして風紀委員会がそんな状況の中、俺は何をしているのかと言うと…
「あーあ、分かっちゃいたが俺は当日まで参加不可か。せっかく他の学園を拝める機会なのによ…いててっ、火宮、もう少し優しく…」
「あっ…すみません」
堅物な口調の中に焦りと申し訳なさが混じった声が響き、より手つきが柔らかく優しいものへとなった。布が擦れる音がやけに室内に響き、今この部屋には二人だけしかいないということを強調しているようだった。
「これでよし、と…具合はどうですか先輩」
「ああ、お陰様でだいぶ良くなった。ありがとうな火宮」
「いえ、これも仕事ですから。」
火宮は硬い口調ながら丁寧な所作で手にしていた包帯を箱へしまい込んだ。俺は包帯を巻いてもらった腕と肩を確かめるようにぐるりと回してみせる。
ここはゲヘナ学園の医務室。俺は今日の任務で負傷した怪我も含め、体の至る所にできた生傷を応急処置してもらっていた。
俺は任務から戻るたんびに、こうして火宮に処置をしてもらっていた。一度救急医学部の世話になったこともあったが、死体に間違われて以降は関わっていない。
「いやぁ、今日は久々に歯ごたえがあった。前々から聞いていたが…『便利屋68』だったか?ありゃあ確かに指名手配されるわけだ」
まだ痛む傷を隠すように制服を羽織った。
便利屋68とは、(一応)ゲヘナ学園所属の2年生、陸八魔アルをリーダーとして活動している部活だ。本人曰く『独立した立派な会社』だそうだが。
探し物や店の手伝いからテロ行為まで何でもござれの、報酬さえ貰えれば何だってやる危ない連中…と聞いていた。実際、俺が駆けつけた時は建物を爆弾で思いっきり吹き飛ばしていた。
しかし蓋を開けてみればリーダー(社長)のアルはお人好しの良い子ちゃん。本当に危ないのは他3人の部員の方だった。
特攻ショットガン、トリックスター爆弾魔、切れ者。リーダーは百発百中の狙撃の名手と来た。
嵐のような勢いで突っ込んでくる特攻ショットガンとの白兵戦に差し込まれる雨のように振ってくる爆弾と驚異的な精密射撃。
風紀委員会の半分の戦力とも、ヒナ不在の風紀委員会なら勝てるとも言われている理由が分かった気がする。
リーダーが撃った弾をギリギリで斬り、特攻ショットガンを無力化した所で向こうから退いていったが。弾を斬った瞬間、白目を剥いて顔を青く染めていたリーダーのあの表情はなかなか良かったな
「いてて、あの特攻ショットガンめ、容赦なくぶっ放しやがって…」
「…あの、石切先輩。」
背中に手が置かれる感触が制服越しに伝わって来た。その手にはこちらを気遣う優しさと不安が込められているように感じた。
「どうか…どうか、ご自愛くださいね。」
「…火宮?」
もう片方の手も背中に添えられ、額と思わしき硬い感触も加わった。俺の背中に寄り添っているであろう火宮を振り返ろうとしたが、やんわりと抑えられた。
「石切先輩の事は他の委員達から聞いています。戦い方は荒いと言われていますが、被弾しそうな子達を身体を張って守っているそうですね。この間、イオリも助けられたと言っていました。」
「まあ、危なっかしいのが多いからな〜風紀委員は。みんな我武者羅で無茶しがちというか、強迫観念に憑かれたみたいによ。……ひょっとしなくてもヒナに負担を掛けまいと頑張ってんのか?ま、貴重な人員に離脱されても困るしよォ、それに俺は慣れてるからいいんだよ。大体俺みたいなのが怪我しても、誰も気にしないだろ」
「…いつも体を張って助けてくれるのに、どうして誰も気にしないなんて思えるんですか。」
「…悪い。失言だった。」
添えられた手が僅かに爪を立てた。まるでどこかへ行ってしまわないように必死で掴もうとするように。しかし角度が悪く、指が引っかからないようだ。
「私、怖いんです。石切先輩を見ていると、いつか取り返しのつかない怪我をしてしまうんじゃないかって。また誰かを庇って、先輩が─」
「火宮。」
その先の言葉は言わせる訳には行かない。
強引に遮ると、首を僅かに捻り言葉を紡いだ。
「俺は腕をなくそうが足をなくそうが、這いずってでも帰ってくる。だから、帰って来た時ァ治療頼むわ。…悪ィ、年ごろの女の子に見せるには少々良くなかったな。」
羽織った制服に袖を通し、ボタンを閉じ、立てかけてあった刀と銃を腰へ差した。
「ありがとうな、火宮。いつも助かるぜ」
服装を整え、目をしっかり合わせて礼を言う。火宮は一瞬何かを言い淀んで下を向いたが、逡巡した後顔を上げた。
「…チナツ」
「え?」
「チナツと呼んでください。私だけ苗字呼びはよそよそしくて落ち着きません」
「そうか?…じゃあ、チナツ。」
改めて名前を呼ばれたチナツは目を細めて頷いた。スカートの埃を払って立ち上がるのを横目に、俺はドアノブに手をかけた。すると、チナツに呼び止められた。
「重ね重ねになりますが、御自分の体は大切になさって下さい。あなたはもう風紀委員会の一員です。石切先輩が傷つくとみんなが悲しみます。」
「ああ。肝に銘じる」
こちらを射抜く、暖かくも鋭い目に誓った。
□■□
血のように真っ赤なカーペットのど真ん中を悠々と踏みつけると、自分も風紀委員なのだなという妙な実感が湧き出る。
しばらく歩いた後、見慣れた重厚なドアの前で立ち止まる。
雑に二度叩き、返事を待たずにノブを捻り引いた。
「よぉ、ヒナ。アコ。おっと、イオリもいたのか」
「いらっしゃい。でも、返事くらい待ったらどう?」
「はぁ…相変わらずガサツで無作法な男。風紀委員なのですから、少しは礼儀作法を身に着けたらどうなんですか?」
「おい!『も』ってなんだよ!なんかどんどん私の扱い雑になってないか!?」
無作法を咎める声が突き刺さるのも構わず、腰に差していた刀と銃をソファーに放り、その隣に体を沈めた。やはり風紀委員会の執務室に備えられている家具はどれも一級品だ。
ふと、テーブルの上に置かれていたクッキーが目に入った。
「食っていいか?」
「聞く気無いだろ…」
返事を待たずにクッキーを頬張る姿に、向かいに座るイオリが呆れ気味に呟いた。
俺がくつろぐ様子に、アコはもはや諦めたようにため息をついた。しかし俺はそんな事を気にも留めず、以前よりも整頓され綺麗になった机に目を向けた。
「前よりさっぱりしたな。書類の山が跡形もなく消え去ってらァ」
「ええ。誰かさんが大暴れしてくれたお陰で、すっかり後処理の書類が来なくなったわ。」
「感謝とお褒めの言葉として受け取っとくぜ」
ヒナの冷えた目と淡々とした口調は変わらないものの、その中には以前は無かった余裕があった。少なくとも俺に気安く軽口を叩けるくらいには。
さっきチナツから聞いたが、以前は就寝に夜中の1時を過ぎることがザラだったが、今では11時前には就寝できているそうだ。一体どこから仕入れたんだか。
「その代わりに、あなた宛の苦情も増えているのですが?そしてそれは全てこちらで処理しているということもお忘れなく。」
「ハハ、必要経費と割り切ってくれよアコ。書類よか、よっぽど早く片が付くだろ?それに、ここじゃ力でねじ伏せるのが一番手っ取り早くて効果的なんだからよォ」
「…まぁ、書類の量がかなり減って、負担が減った事は評価しますが。」
なまじ成果を上げているため、言い返せず不服と悔しさが混じったような表情でこちらを睨みつけるアコ。ニタリと笑ってやるとプイと顔をそらされてしまった。
「んで、会場の方はどうなってんだ?」
「何度かトリニティの正義実現委員会と揉めたが、設営自体は無事に終わった。」
今日現場に行ったというイオリが、うんざりしたように足を組み替えて答えた。
「揉めたのか。今までゲヘナだトリニティだと意識したことなかったが、そこまで仲悪いのかよ。」
「この犬猿の仲も今に始まったことじゃない。昔から続いてるからこうして終わらせようとしているの。」
面倒事が増えるのは御免だけどね、とヒナは目を閉じると今まで取り組んでいた書類を傍らに置いた。
「さて、今日はこれで終わり。みんなはもう解散して明日に備えるように」
ヒナの言葉に各自返事をして執務室を後にした。
さあ、次回ようやくエデン条約。
うーん、心情描写むづかしい…解像度高いお話書ける人にお聞きしたい。どうやったらそんな面白い話が書けるんですか!?(魂の叫び)
物語はカロリー使いますね…このお話を完結させたら手軽な短編集でも書こうかな