ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話   作:コウハクまんじゅう

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調印式、開幕

 

 いよいよ調印式当日。俺はヒナから言い渡されていた、目立たない配置場所にて既に待機していた。

 まだ朝早くだというのに多くの風紀委員が現場入りしており、正義実現委員会と思わしき生徒もまた多くいた。

 

 最終調整に慌ただしく奔走する両者を横目にひたすら物置に徹しつつ観察していると、イオリやチナツなど既に現場を訪れたことがある者達から聞いていた通り、会場の空気はピリついていた。

 

 引いた線を越える、言い合いがヒートアップする、意見の相違…など事あるごとに小競り合いが起き、そのたびに上級生や同級生が仲裁に入っていた。

 ゲヘナとトリニティで手を取り合う誓いを立てる式場で両者を分断する境を引くとは、なかなか溝は埋まらないようだと他人事のように思った。

 

(直接やりあった訳でもないのになんで争うのか…まったく理解に苦しむな。)

 

 時折こちらに気づいた風紀委員の子に軽く手を振って挨拶をしていると、今まで以上に騒がしくなってきた箇所があった。最初こそ介入は考えなかったものの、渦中にヘイローのない女性の姿を認めたことで状況は一変した。

 

(なっ…なぜこんなところにヘイローのない人間が!?まずい、これ以上のヒートアップは銃に手を掛けかねない…)

 

 ヘイローの無い人間は俺たちよりも遥かに貧弱だと言う。そうでなくともこの場において発砲は絶対に避けなければならない。

 脳裏には、「不用意に目立つ真似は控えるように」と俺に忠告をくれたヒナの姿が浮かび上がっていた。

 ─許せ。 

 

 

 

 

「おい、お前ら何やってんだ」

 

「誰だ!?…って、い、石切先輩!?」

 

「!?」

 

“えっ…男の子の生徒!?”

 

 横から参入した俺は全体の様子を見渡す。

 困惑した様子でこちらを眺めるのは、風紀委員会と正義実現委員会の人間、そしてヘイローの無い大人しそうな女性。

 よし、俺という異物が乱入したことによって場の空気は乱れた。このまま俺に注目を向けさせつつ有耶無耶にすればいいだろう。まずは風紀委員に向かい合う。

 

「ったく…今日はトリニティとゲヘナが協力しようって日なんだから、揉め事起こすなよなァ」

 

「で、ですが、あいつらが先に…わわっ」

 

「ちょっと神経質になり過ぎなんだよ、お前らは。頭冷やせって、な?」

 

「は、はひ…」

 

 軽く頭を撫でてやるとふにゃりと蕩け、あっさりと押し黙った。そして、こちらを困惑と警戒の目で見つめる正義実現委員会とヘイローが無い女性に向き直った。

 

「見ない顔だな。何者だ?」

 

 肩に俺と同じレバーアクションの銃を担ぎ、血塗れのセーラー服を身に纏った女が警戒の色を隠そうともせず訊ねてくる。

 

「石切達也。ゲヘナ学園3年の風紀委員だ。」

 

「…トリニティ総合学園3年、正義実現委員会委員長の剣先ツルギだ。今迄、風紀委員会は愚か、キヴォトスに男子生徒がいるという噂すら聞かなかった。いったいどこにいたんだ?いつ風紀委員会に…ゲヘナに入った?」

 

「雷帝が去った後にゲヘナに転入した。風紀委員会にはつい最近。ま、知らないのは当たり前だ。」

 

「……」

 

「……」

 

 おっかねぇ。それが最初に抱いた印象だった。

 正義実現委員会の構成員については幹部の名前のみ把握していたが、まさかこうも早く委員長と相まみえることになるとは。

 立ち姿だけでわかる、こいつは洒落にならん強さだ。ヒナと同等…か?おまけに男の俺を見ても動揺を見せず、すぐさま情報を引き出そうとする強かさとクレバーさ…下手に喋れば緊張で口を滑らせそうで、最低限の話しかできない。

 

「ツルギ。どうしましたか?何か問題でも…あら、そちらの方は…?」

 

 またもや正義実現委員会の人間がやって来た。今度は見上げるほどの高身長に、見るものを圧倒する黒翼の巨大な翼。そして大胆に裂けたスカート。

 治安を保つ者がいかがわしい格好をするのは如何なものか、と突っ込まなければどうにかなりそうな緊張感に心臓が汗をかいた。

 

「お初にお目にかかる。ゲヘナ学園3年、風紀委員会所属の石切達也だ。」

 

「あら、ご丁寧にどうも…え?え、ええっ!?」

 

 綺麗な二度見の後、俺の方を見て固まってしまった。

 そう、これが普通の反応のはずなのだ。

 

「お、男…?あ、いや、失礼しました。私はトリニティ総合学園3年生の、正義実現委員会副委員長の羽川ハスミです。以後お見知りおきを…」

 

 混乱しながらもしっかりと自己紹介を返せる所に育ちの良さを伺える。さて、問題はこの後だ。いきなり向こうの治安維持組織のツートップに遭遇してしまった。

 見たところ常識もあるようだし大ごとになる前に引き下がってくれるだろう。俺は揉め事の原因を取り除くべく、事情を聞き出して整理した。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

 どうやら揉めてた原因は、ここにいる女性…シャーレの先生とかいう人をギャラリーと勘違いして追い返そうとし、線を踏み越えたんだそうな。

 

「この御方が、シャーレの先生だ。覚えておけ。」

 

「「は、はい!」」

 

 剣先の一声で場は収まり、各自元の配置に戻った。

 剣先と羽川は去り際にこちらを一瞥し、何か話していたようだが内容までは分からなかった。

 

“いやー、なんかごめんね?巻き込んじゃって”

 

「いえ…ここで発砲沙汰になるのは避けたかったので。それに先生は一発でも弾ァ食らったら終わりでしょう?」

 

“初対面の私を守ってくれたんだ?かっこいい〜”

 

「か、からかわないでくださいよ」

 

“あはは。さて、改めて。私はシャーレの先生だよ。よろしくね、石切くん。”

 

「はい。よろしくお願いします、先生。」

 

“ところで、腰に差してるその黒くて細長いの、刀でしょ?かっこいいね!ロマンだね、ロマン!”

 

「あぁ、はい。あはは、ありがとうございます。そうですよね、かっこいいですよね、刀!」

 

 それから俺は、出番があるまで暇を持て余しているという先生としばらく談笑していた。

 周囲に配慮して先生だけに見えるように刀を抜いてみせたり、腰に携えたウィンチェスターライフルも見せてみたり。先生はこういったレトロチックというか、ロマンを感じさせる物が大好きなようで子供のようにはしゃいでいた。

 

 

「では、俺はそろそろ行きます。」

 

“うん、またね”

 

 あまり持ち場を離れすぎるのも良くないだろう。曲がりなりにも俺は組織の人間だ。俺は人の間を縫って進んで元の配置に戻った。

 

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

 

 会場に次々とトリニティの重役が入場してきた。古聖堂を拍手喝采が満たしていく。

 しかし不自然なことに、ゲヘナ側の首脳陣は風紀委員会しかいなかった。

 

(万魔殿、マコトやイロハ達は?)

 

 疑問に感じたものの、調印式は既に始まっている。

 両学園の重役の顔色をちらりと伺っても、正式な場であるため内面を悟られぬ仮面を被っており何を考えているかは読み取れなかった。 

 

 式は厳かな雰囲気の中進められ、いよいよ調印が成されようとしていた。両学園の重役が署名し、印を押そうとした。

 

 

 

 

 

─その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音。

 熱風。

 眩光。

 衝撃に弾き飛ばされ、咄嗟に体が受け身を取った。壁に叩きつけられ、瓦礫に埋もれ、感覚が消失した。

 目が覚めたのは、時間にして約1分後といったところか。

 

 

「…ぅ、…ぁあ…」

 

 あたまがいたい。しこうがまとまらない。

 頭を2、3小突き、額から流れ目を汚す血を乱雑に拭いてやるとようやく視界が戻った。

 

「………ああ…」

 

 俺は視界が戻ったことを後悔した。

 見渡す限り瓦礫の山と、あちこちから上がる火の手。そして瓦礫に倒れ伏し、挟まれている生徒の数々。

 口を開いても言葉にならない声しか出てこない。

 

 

 

 

 この日、平和に手を取り合うはずの調印式は無数の瓦礫と血と火にいとも容易く塗り替えられた。

 それはまさに、地獄の幕開けであった。

 

 

 

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