ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話   作:コウハクまんじゅう

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地獄の中で

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「…ぅ」

 

 瓦礫をどかし、下敷きになっていた正義実現委員会の子を引っ張り出した。出血と痣が酷かったが、一命は取り留めたようだ。

 服の一部を破って出血している箇所に当てて縛ってやる

 

「ぁ…あなた、は?」

 

「ゲヘナの石切だ。…無理して喋らなくて良い。息をするだけで辛いだろう」

 

 その子はこくりと頷くと、か細く礼を言って意識を失った。

 そのまま寝かせてやると、俺はまた次の人を助けに行った。

 

(ヒナはどこだ?アコもいたはずだ。…クソッ、一面瓦礫の山でどこがどこだか全くわかんねぇ)

 

 そうしてゲヘナ生、トリニティ生を助けつつヒナ達を探して歩き回っていると、まだ動ける正実の子達が集まってなんとか瓦礫を動かそうとしていた。しかしその子達も怪我が重く、力が出ないようだ。

 

「どいてろ、動かす」

 

「ぅえ!?あ、貴方は…?」

 

「は、はい、お願いします」

 

 正実の子達の前に出ると、瓦礫の隙間に手を差し込んでゆっくり持ち上げ、横にどかした。そこには、煤で傷んでもなお高潔さを纏う翼と長髪を持った生徒が倒れ伏していた。

 名前を桐藤ナギサ。

 確か向こうの生徒会に当たる…ティーパーティーが1人だったか。つまり、実質的なトリニティのトップ。直接調印をしたのも彼女だった。

 

(…今日はよく大物に遭遇するな。)

 

 どんどん目立たないような行動から離れていく自身の運の無さを嘆いた。

 

「ナギサ様…!大丈夫ですか!?」

 

「はやく、はやく救護騎士団を…!」

 

「ナギサ様を安全な場所まで…!」

 

「無理をするな、俺が運ぶ。」

 

 わたわたしている正実の子達の前に進み出て、倒れ伏している天使の体の下に慎重に手を滑り込ませ、なるべく揺らさないように抱きかかえた。

 

「よいしょっと…」

 

「あわわわ…」

 

「こ、これがお姫様抱っこ…」

 

 周りを見渡し、記憶と僅かに残った建物の跡を頼りに街の方を目指す。ある程度まで行ったら、異変を察したトリニティの生徒と鉢合わせるはずだ。

 そう考えた俺は、街の方向を朧気ながら思い出し、私達もついていくと言って憚らない正実の子達を伴い街の方へとひた走る。

 進む先々で瓦礫の下敷きになっている人を見かけるたびに、後で戻ると心の中で謝罪する。

 

「こっちです!こっちの方に予備隊が控えています!」

 

 先導する前髪で目が隠れた子に従って進んでいると、腕の中で小さなうめき声が上がった。

 

「ぅ……一体、何…が」

 

 腕の中の天使…桐藤ナギサは額から流れた血が右の目に入ってうまく開けられないらしく、左の目が小さく開かれた。

 

「あっ、ナギサ様が目を覚ましました!」

 

 隣を走っていた正実の子が叫んだ。心配そうに顔を覗き込み、安否を確認する。

 

「ナギサ様、大丈夫ですか?」

 

「ナギサ様…」

 

「私、は…大丈夫です…状況は?」

 

「私達は、何者かの襲撃を受けて…」

 

「石切さんが助けてくださったのです!」

 

 言葉を繋ぎながら正実の子達が端的に状況を説明。断片的な言葉であったが状況を理解するには十分だったようで、苦痛が色濃く残る表情を引き締めた。

 

「襲撃…一体どこが…ゲヘナ?いや、まさかアリ─」

 

 すぐさま状況に対処するべく高速で思考を巡らせていたであろう桐藤ナギサは、俺の顔を見て独り言がピタリと止まった。

 そして自分の体と俺の腕へと視線を移した後みるみる内に顔が赤く染まっていき、固まってしまった。

 

「?どうした…あ、ああ、そういう…」

 

 今の俺は、経緯がどうであれ1人の女子を抱きかかえている。助け出したときは救助に夢中になっていて意識する暇もなかったが、こうして冷静になってみると何をしているのだろう、俺は。

 

「気に障ったのなら、…申し訳ない。だが、安全な場所に行くまではこうするしかない、んだ。命に代えても貴方を守るので、今は許してほしい」

 

 何か言わなくてはと回らない頭で口走った。

 その言葉を聞いた桐藤ナギサは手で顔を覆い、翼を俺に巻き付けると小さく「…はい」とつぶやいた。

 

「わ、わ、わわ…」

 

「騎士みたい…」

 

 何とか納得して飲み込んでもらえたようでよかった。

 周りを守る正実の子たちまで顔を赤く染めているのは気にかかったが。

 そうして走っていると、意外と早く被害圏外に脱することができた。

 

「あっ…街に出ました!」

 

 煙と瓦礫の山を抜け、ようやく舗装された道路と綺麗な街並みが姿を表した。後ろを振り返ると、破壊され今も煙を上げる古聖堂と瓦礫と化した周辺の建物が目に入る。

 

 何故襲撃された?

 一体誰が、何のために?

 これから何が始まるのか?

 

 思考の渦に呑まれた心は、大騒ぎしているマスコミと民衆、そして古聖堂に誰も近づかないように止めている警備員の格闘する声によって引き戻された。

 予想通り、異常を察知した勘の良い正実予備隊の第一陣がまばらながらも現場に到着していた。そしてこちらの姿を確認すると慌てて駆け寄ってきた。

 

「ふぅ…これでなんとかなりそうだ。」

 

 救援に来た正実の委員に桐藤ナギサとここまでついてきてくれた子達を託し、瓦礫に埋もれている人たちを助けてほしいと頼んで古聖堂の方へと戻ろうとした。

 

「もし…!あなたの、名前は…」

 

 目を覚まし、いくらか喋れるようになった桐藤ナギサの声が背中越しに耳へ届いた。

 

「ゲヘナ学園三年風紀委員、石切達也。」

 

 首だけ振り向いてそう告げると、腰に差していた刀の鯉口を切り、今度こそ前を向いて古聖堂の方へ走り去った。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

 

 古聖堂跡へと戻り、道すがら瓦礫に埋もれている人を助けていると聞き覚えのある銃声が響き渡った。

 

「…!ヒナ!」

 

 彼女が持つ銃は独特な発砲音がするためすぐに分かった。銃声の方へ向かうと、ガスマスクをつけた不審な連中と交戦しているヒナの姿が目に入った。

 

─敵。

 

 そう判断してからの行動は実に速かった。

 ホルスターに収まっている銃を引き抜き、躊躇なく引き金を引き倒した。

 

 

 

ドンドンドンッ!!

 

 

 

 敵が銃声に気付き、奇襲に対応しようと振り向くも遅い。

 既に込めた弾を撃ち尽くした俺は銃のアドバンテージである距離を瞬く間に潰し、鞘に納められていた白刃を抜き放ち、一閃。 

 

「ぐあっ!?」

 

「な、何が起き─」

 

 駆けずり回りながら刃を舞わせ、重火器を装備している敵から切り伏せていく。ヒナも飛び出してきた俺に当たらないように弾をばら撒きながら、合流しようと近づいてくる。

 

「うわああああん!?誰ですかあなたは!?」

 

 おそらくリーダーであろう緑髪の少女が悲鳴を上げているのを他所に、淡々と敵を処理して回っていく。

 風紀委員会どころか、このキヴォトスにおいても最高戦力と言って差し支えないヒナと、単騎でゲヘナのトラブルメーカーたちを相手取ったこともある俺にかかれば、制圧は容易だった。

 

 

「…あっけなかったな。」

 

「石切!無事だったのね、よかった…」

 

「うわーん!つ、捕まってしまいました…き、きっとこれから私はあの手この手で凄惨な拷問を受けてしまうんですぅ!やっぱり、辛いことばっかりですね…えへへ…」

 

 周りの兵隊を全滅させた俺とヒナは、現在緑髪の少女を縛り上げていた。

 

「んで、こいつらは何なんだ?」

 

「…アリウス分校。かつてトリニティに数多くあった分派の一つ。」

 

「トリニティ?なんで同じトリニティが調印式を襲うんだよ?なぁ、おい」

 

 そう言って緑髪の少女を見るも、「な、何も言えません!」の一点張りで話にならない。口を割らせるのはできないと悟ったヒナは、次の目的地へと行こうとしていた。

 

「どこ行くんだ?」 

 

「先生のところへ…」

 

「おい、待て」

 

 そう言ってヒナの腕をつかんで引き戻すと、自分の制服の一部をちぎった。前髪をかき分けてちぎった布を当てると、頭の後ろで縛ってやる。

 

「これでよし、と…出血ぐらい止めてけ。血を失いすぎると判断も動きも鈍る。」

 

「!…あ、あり…がとう」

 

 赤面して顔を背けるヒナを他所に、再び緑髪の少女を見やり「こいつどうする?」とヒナに訊ねた。

 

「…放っておくわけにはいかないわ。それに、交渉材料になるかもしれない」

 

「じゃあ俺が持ってくか。」

 

「ひ、ひどい!私物扱いですかぁ!?」

 

 懲りずに喚く少女に耳を貸さず、小脇に抱えた。

 

「行くぞ」

 

「ええ」

 

「うわーん!私の扱いが雑過ぎまひいいいいいいいい速い速い速いですうううう!!!??」

 

「うーん、ちょっと重くて走りずらいな」

 

「色々背負っているからですうううううう!!!」

 

 泣き喚く少女を意に介さず、俺とヒナは一路先生の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが先生を見つけると、案の定敵に囲まれて退路を断たれている状態だった。正義実現委員会の2トップと聖職者らしき生徒が奮戦しているが、どう見ても詰んでいた。

 先生を見つけるとヒナはためらわず敵に銃を乱射し、ものの一瞬で薙ぎ倒した。

 

「先生!」

 

「ヒナ!それに石切くん…えっと、小脇に抱えてるのは…?」

 

「お、おえ…酔っちゃいました…つ、つらいですねぇ、苦し…ぅ゛お゛え゛っ…」

 

「ヒヨリ!」

 

 割と苦しそうにえづいているのと憎めない性格をしているので流石に同情というか、可哀想になってきた。

 黒いマスクをつけ、ロケットランチャーを持ったアリウス生は血相を変えてこちらを睨んだ

 

「ず、ずみまぜ…聖徒会が顕現する前に全滅…おぇ」

 

 その時、背後から銃声が響いたのと同時に、背中に強烈な衝撃が加わった。

 思わず緑髪の少女を手放してしまい、そのまま黒マスクの元へコロコロと転がっていった。

 

「ヒヨリ!大丈夫!?」

 

「う゛…ちょ、ちょっと気持ち悪いですが…一応、大丈夫です」

 

「石切!」

 

 間髪入れずに、背後に湧いてきた敵をヒナが蹴散らした。こちらに駆け寄り、心配そうに寄り添う。

 

「俺はいい、それより今は先生を…」

 

「ッ、正義実現委員会!先生をこっちへ!」

 

 こうして、先生はヒナと俺が護衛することになり、正義実現委員会を始めとしたトリニティ生はこの場にとどまって退路を守ることになった。

 

 

「先生を、よろしくお願いします!」

 

 

 その言葉と同時に、再び銃弾の嵐が吹き荒れた。

 トリニティの面々から先生を託された俺たちは撤退するべく敵の群れへ突撃した。

 ヒナが先生の側について乱射、俺は抜刀切り込みと銃を用いた白兵戦で、次々と現れる幽霊を葬っていった。

 

「チッ、多すぎんだろ…ッ!」

 

 悪態をつきながら銃をぶっ放し、刀を振るう。

 ガスマスクをつけ、聖職者の礼装を纏った幽霊の首が空に跳ね、塵となって消えていく。

 

「どけ!!」

 

 デストロイヤーから放たれた紫電の流星が幽霊を喰らい、道を切り開いていく。

 斬る、撃つ、倒す、斬る、撃つ、倒す…

 だんだんと言うことを聞かなくなってきた身体に鞭を打ち、刀を振るい、引き金を引き続ける。

 

「はぁ…はぁ…あーキッツ、まだか!?」

 

「もう、少し…もう少し耐えて、先生、石切…ここを抜ければ…」

 

 立ち塞がる幽霊を切り捨てると、戦うのに必死になっていて見えなかった景色が見えた。

 ここからあと少し進めば郊外に抜けられる。ようやっとここまで来たのか。確かに差し込んだ光明に刀を再び握りしめたのも束の間、さらなる増援が行く手をふさいだ。

 先頭に立つのは、さきほどの緑髪の少女と黒マスクの少女。

 

「ヒ、ヒナさんとお兄さん、また会いましたね…!」

 

「…絶対に許さない。」

 

「ハハ、…マジかよ」

 

 構えられたロケットランチャーが火を噴いた瞬間、反射的に俺は前方を斬り上げた。真っ直ぐ俺に向かってきたロケットは、真芯から真っ二つに両断され後方で爆ぜた。

 

“す、すごい…!”

 

「…え、は?今、何が─」

 

 混乱している隙を突いて一気に距離を詰め、両手で掴んだ刀を横薙ぎに払った。黒マスクの少女にはロケランで防がれたが、緑髪の少女は対応が遅れ、モロに刀を体に喰らった。

 

「うぐっ…」

 

 後ろから飛んできた弾幕の嵐を追い風に、返す刀でロケランを狙った。

 防御のため構えていた黒マスクの少女のロケランは跳ね上げられ、振り上げた刀をまた振り下ろした。

 

「がはっ…!」

 

 最後までこちらを睨みつけたまま気絶する黒マスクの少女。

 指揮系統を制圧した俺はすぐさま周囲を警戒するも、ヒナが片付けておいてくれたようでアリ一匹いなかった。

 

「ッはぁ…はぁ…よし…行くぞ、ヒナ、せんせ─」

 

 刹那、銃声。

 後頭部に何か固いものが無理やりねじ込まれる感覚に吐き気と苦痛を覚えた。

 

「が、は…」

 

 口にたまった血を吐き出し、刀を構えつつ後ろを向くと額にもう一発喰らい、よろめいて後ろへ倒れこんだ。意識が混濁しつつも、捉えたその顔は激しい憎悪に満ちていた。

 

「貴様…ッよくもミサキとヒヨリをッ!!」

 

「……」

 

 白衣を纏った青髪の少女の隣にもう1人、薄藤色の髪をした少女がいた。藤色の髪をした少女が青髪の少女を宥めているように見えたが、脳がシェイクされているためハッキリとは聞こえない。

 頼みの綱のヒナを見やったが、遂に限界が来てしまったようで先生を庇うように傍らに倒れ伏している。

 

 まずい、何も聞こえない。

 刀を握る手が言うことを聞かずにずっと笑っている。

 

─銃、銃はどうだ。

 

 藁にも縋る思いで引き金を引いてみるが、バキッと嫌な音を立てて部品が弾け飛んだ。

 常日頃から乱雑な扱いをして壊すたびに直していたが、この土壇場にきてこちらも限界が来たか。

 

…ごめんな、ありがとう。

 

 今更都合がいいが、ここまで戦いを共にしてきた相棒が片割れに後悔と感謝の念を込めて別れを告げた。

 もはやこの身と刀しか先生を護れるものはないと確認したうえで、先生の方を見た。

 

「…は?」

 

 銃口が、向いていた。

 突きつけているのは青髪、向けられているのは先生。

 

─待て、相手は普通の人間だぞ?

 

 その引き金を引くことの意味を、分かっているのか?

 無慈悲に引き金は倒されていく。

 

「ッ!」

 

「なっ!?」

 

 咄嗟に俺は刀を投げた。

 投げられた刀は回転する刃となって銃に食い込んだ。お陰で引き金からは手を放したが、まだ銃は撃てるはず。後に残るは、この身1つのみ。

 

「ッ、小癪な─!」

 

 銃口が再び先生へとむけられた。しかし、その間は先生と銃口の間に身体を滑り込ませるには十分だった。

 

─引き金が倒された。

 

 左目がマズルフラッシュの赤い光を捉え、次いで訪れた眼球を焼く熱さに脳が焼け、視界が暗転した。

 誰かの焦ったような声と悲鳴が耳に届き、俺は意識を手放した。

 

 

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