ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話 作:コウハクまんじゅう
曇らせ?あり。曇らせ慣れない…
急に伸び始めてデスクでひっくり返りました
乾いた発砲音と共にマズルフラッシュが明滅した。
地面に転がった空薬莢に赤黒い液体が飛び散り、続いて人が倒れ伏す鈍い音が響き渡った。
「チッ、銃が…」
忌々し気に吐き捨て、もはや使い物にならなくなった銃と、銃に深くめり込んだ刀が引き抜かれ宙に放られる。
無造作に投げ出された刀はガシャリと音を立てて主のもとへと落ちた。曇天の空を鈍く映すその姿は、主を守り切れなかった申し訳なさと無念が滲み出ているようだった。
“ぇ…あ…いし、ぎりくん…?”
先生は自分の身が彼の犠牲によって守られた事実と今しがた倒れた彼の姿を受け止めきれず、呆然としながら彼を見つめていた。そして、それは私も同じだった。
「あ…ああ…」
地面に血の海が広がっていく。
彼の頭に浮かんだ菊の花のようなヘイローがひび割れ、花弁が一枚消え落ちた。それ以降ヘイローは姿を消し、彼は沈黙した。
それは、まるで、命が消えていくのを暗示しているようで。
「石切…」
「ッ!?こ、こいつ!?」
俯きかけた顔を上げると、そこには意識を失ったはずの石切が小さく上体を起こし、刀を探すように腕を伸ばしていた。ちらりと見えた横顔には、頬を伝って顎へと血の滝がしたたっているのが見えた。
「姫、銃を!」
アリウススクワッドのリーダー、錠前サオリと名乗った青髪の女が横にいた紫髪の女の銃をひったくるように奪うと、石切に狙いを定めた。
「ッ触るな!!!」
考えるよりも先に体が動いた。鉄塊の如く重い銃を青髪の女へ定めると引き金を絞った。
銃口から火花が迸り、弾丸の嵐がスクワッドを含めた周囲のアリウス兵を薙ぎ倒す。
その時、遥か向こうから1台の救急車が爆走してきた。
「ッセナ!こっち!!先生、石切を!」
私の言葉にハッとした先生が石切を抱きかかえ、その際落ちていた刀も鞘へ納めて一緒に抱えた。
救急車の外に身を乗り出したセナが手を伸ばす。
「先生!手を!」
通り抜けざまに先生の手を取ったセナはその勢いのまま車内へ引きずり込み、先生と石切を乗せた救急車は走り去っていった。
「逃すな!!シャーレの先生は必ず仕留めろ!」
その言葉に呼応し、また幾つもの幽霊が出現した。しかし、それらは現れたそばから無数の銃弾に貫かれ、一歩も動けぬまま塵となって消えていった。
「なっ、まだそんな力が─」
「……」
胸の内に膨れ上がっていくどす黒い感情に呼応し、広げた翼が黒く、黒く染まっていく。握りしめたデストロイヤーが悲鳴を上げた。
体中の痛みや疲労が引き潮のように引いていくのをハッキリと感じた。鋭利な刃物を研ぎ澄ますが如く頭の中が冴え渡っていき、たった一つの感情だけが残った。
─許さない。
弾薬を装填する無機質な音が響き渡った。
感情がないはずの戒律の守護者達は、憎悪に身を焦がす悪魔を前にたじろいだように見えた。
「どれだけ耐えられるか、見物ね」
「逃げろ、姫ッ!」
全てを焼き払う死の流星が踊った。
□■□
“セナ、お願い…石切くんを…達也を助けて”
「もちろんです、先生。必ず助けます。私は救急医学部ですから」
頼もしい琥珀色の瞳がこちらを見つめ返した。
彼女は氷室セナ。ゲヘナの緊急医学部の部長で、医療技術に関するプロフェッショナルだ。セナはテキパキと処置を進めていき、私はその姿をただ見ているしかできなかった。
“達也の左目は…?”
「…残念ですが、この状態ではもう開かれることはないかと…」
その知らせを聞いた途端、目の前が真っ暗になった。
(…私のせいだ)
私が不甲斐ないせいで、彼に取り返しのつかない怪我を負わせてしまった。
達也の顔を見てみれば、彼の左目は完全に閉じられており、そこからは絶えず血が噴き出ていた。
いかに頑丈なキヴォトス人といえど、至近距離かつデリケートな部位への銃撃は重傷となるようだ。彼らも私と同じ人間だということを痛いほど感じる。
(ごめん…ごめんね、達也)
ただ彼の無事を祈り、謝罪することしかできない自分が嫌になる。
何が大人だ。何が先生だ。何が『生徒を守る』だ。
目の前の一人の生徒を救えなかったどころか、逆に命を助けられてしまった。
視界が滲む中、自身の無力さを呪って唇を噛み締めていると突然セナが驚いたように声を上げた。
「なっ…」
“ど、どうしたの?セナ”
「…彼の手が…私がいくら呼びかけても反応が無かったのに、突然。」
セナに言われて達也の手を見てみると、驚くべきことに彼は未だに何かを探すように小さく手を動かしていた。しかし段々と鈍くなっていき、動作も弱々しくなっていった。
「一体、何を探して…」
“…!”
もしかして、と思いついた私は、彼が肌身離さず身につけていた刀を持たせた。
すると、彼は今までの弱々しさが嘘のように刀を力強く握りしめた。ミシミシと刀が軋み、腕の表面には血管さえ浮き出ている。
「……信じられない。なんて闘争心なの」
セナは、達也が刀を握りしめる手を唖然として見つめた。
“達也は気がついてるの?”
「いいえ。ヘイローが出現していないのであり得ません。」
処置を進めながらも考え込んでいたセナがある結論に達したようで、独り言のようにつぶやいた。
「…彼は未だに戦う意思がある、ということでしょう。例え意識を失っていたとしても…」
“!!”
その言葉に強く頭を殴りつけられたような気がした。
意識を失っても尚、彼は戦おうとしている。恐らく、私を脱出させるために今も必死に足掻いている。
それに引き換え私は一体何をしている。私のためにヒナも達也も体を張って助けてくれたのに、いつまでウジウジしているのか。そんな体たらくで、何が先生か。
─パンッ!
「!?どうされました、先生?」
両頬を強く叩き、気合を入れ直す。
私のために怪我を負い、意識を失い、それでもなお戦う意思を失わない達也の姿に感化され、決意を固めた。
“ごめんね、何でもないよ。…行こう、セナ。”
「…はい、先生。」
事態の収拾を図るべく、私たちを乗せた救急車はさらに加速した。
□■□
“ナギサ…!”
「あっ…先生!」
“怪我はともかく、無事でよかった。”
トリニティ総合学園に着いた後、集中治療室へ運ばれるときでさえ達也は刀を離そうとしなかった。
そんな彼の姿を見送った私は、ナギサが搬送された病室を訪れていた。
「はい。私の騎…ごほん。ゲヘナ学園三年風紀委員、石切達也さんに助けていただきましたので」
“…!達也…”
思わぬところでの活躍を知り、思わず頬が緩んだ。しかし、彼の繋げたものを無駄にせぬよう今一度表情を引き締めた。
「ナギサ様、達也さんの口上を一言一句覚えてる…」
「声色と抑揚も近かったような?」
「なっ、そ…そそそ、そんなこと…!!」
お付きの正義実現委員会の子達の言葉にナギサは顔を赤らめ、翼をパタパタとせわしなく動かした。
その様子に、引き締めた頬がまた緩んで思わずクスリと笑うと、ナギサは咳払いを一つして話題を変えた。
「先生の方は、見たところ怪我がなくて何よりです。あの爆発で無傷とは、正に奇跡ですね」
“ううん、奇跡じゃないよ。私が無傷なのは、達也とヒナが私を助けてくれたから。”
「あ…そ、そうでしたか…何も知らずに、失礼しました」
慌てて頭を下げるナギサを制し今の状況を訊ねた。
「…現在の状況はあまり良くありません。シスターフッド、救護騎士団、正義実現委員会…各組織のリーダーが不在のため、既に混乱が起き始めています。不幸中の幸いとして、私が健在のためなんとか最小限に留まっていますが、いつ崩れるとも分からぬ薄氷の上にあることは変わりありません。過激派が水面下で動き出している可能性も…」
深刻そうに眉を顰め、解決策の見えぬ現状に不安と責任を感じている様子。そんなナギサの負担を減らすべく、私は口を開いた。
“ナギサがいるだけでも、全然違うよ。むしろその怪我とこの状況でよく頑張ってくれてる。”
「ええ。ティーパーティーとしての務めを、果たしているまでです。」
“うん、ありがとう。ここからは私に任せて。”
その言葉を聞いたナギサは肩の荷が下りたような、そんな安心した表情を浮かべた。
ナギサの病室を後にした私は、ハスミやツルギ、アコやイオリ達がいる病室へ立ち寄った。
「ああ…先生、よかった。ご無事でしたか」
「ぎゃぁあああ!?せ、せせせ先生!?ど、どうしてこちらに…!?いやそれよりも、よくぞご無事で…!!」
“うん、みんなのお陰でね”
ベッドの上で暴れ倒しているツルギをハスミが宥めているのを横目に、風紀委員会の面々へと向き直った。
「……先、生。石切は…?」
「い、委員長!まだ動いては…」
“…ヒナ”
まだ包帯が巻かれている身体を引きずり、アコに支えられながら、ヒナがこちらへ歩み寄って来た。
「お願い、教えて…石切は、無事…なの?」
“……なんとか一命は取り留めたよ”
「…!よかっ─」
“だけど、左目が…もう…”
「…ぇ」
生存を喜ぶ明るい顔から一転、不穏な知らせに表情を翳らせた。聡い彼女は先の言葉を聞かずとも全てを悟ったようだ。
「え?左目?ちょ、ちょっと待ってください、それってどういう…」
「石切、何かあったのか?」
他の風紀委員の面々もただならぬ雰囲気にざわつき、こちらへ注目している。一呼吸おき、私は残酷な事実を告げた。
“達也は、私を庇って左目を失くしたんだ。”
「…は?」
「え…」
「ッ私、少し行ってきます!」
「あ、ちょっと、チナツ!」
“今、達也は集中治療室で処置を受けてるんだ。今はそっとしておいてあげて、チナツ。”
「…ッ…わかり、ました」
駆け出そうとしたチナツを引き留め、私は風紀委員の面々が落ち着くまで気持ちを受け止めた。
「ほ、本当に左目見えなくなっちゃったのか?何かの間違いじゃないのか…?」
“残念だけど、本当なんだ、イオリ。”
「は…い、意味分かんない!だって、あんなに強くて、頑丈な、あの石切が…」
「…石切先輩、私言いましたよね…ご自愛くださいって…ッ!」
「あのバカっ…」
「……」
“…みんな、聴いてほしい。”
私の言葉に、みんながこちらを向いたのを確認すると静かに、確かに届くように語りかけた。
“達也はね、意識を失った後も刀を握ろうとしていたんだよ。彼は、意識を失っても、大怪我をしても尚、戦う事を諦めていない。庇われた私が言うのも図々しいけど…私は、彼が繋いだものを無駄にしないために、前を向いて進むべきだと思う。だから…”
「…大丈夫よ、先生。」
ヒナは俯いていた顔を上げ、目元を赤くしながらも落ち着いた声色で話し始めた。
「ここには先生を責める人なんていないわ。それぞれがやるべきことをやったまで。彼がいなければ先生は死んでいたかもしれない。私では、先生を守りきれなかった」
「委員長…」
ヒナは一度目を瞑った。再び開いた時には傷心した少女の姿は無く、そこにはゲヘナの秩序を保つ者としての鋭い光が宿っていた。
「石切が…達也が諦めていないと言うのなら、私も諦めない。」
そんなヒナの姿に感化され、他の風紀委員もまだ思う所はありつつもそれぞれ決起したようだ。
「…まあ、それはそれとして、達也には後でたっぷりと『お話』しないとね」
「そうですね。二度と自身を蔑ろにしないよう、徹底的に…た〜っぷりと『お話』しなければ」
「はい。あれだけ無茶をしないように言ったのに約束を反故にする先輩には痛い目を見てもらわないといけません。」
“そ、そっか…”
「なんか、みんな怖くないか…?」
先ほどとは違い、猛禽類が獲物に狙いを定めるような、『絶対に離さない』という強い意志と鋭さを帯びた目をしたヒナ達に背筋が凍る感覚を覚えた。
“それじゃあ、またね”
そうして病室にいたみんなに別れを告げると、私は次の目的地を目指して足早に廊下を進んだ。
次に会わなきゃいけないのは…
(ミカ…)
今も投獄されている、困ったお姫様の元へ向かうべく足を進めた。
↓この辺に入るタイミング失ったアズサ
実は原作ではミサイル後はずっと寝ていらしたナギサ様。
石切がナギサを助けたのって、実は割と転換点なのでは?と思ったけどあのトリニティのことだし反ティーパーティー派・反ナギサ派・過激派などが水面下で暴れてそうだなと思ったり。
でもティーパーティーのホストが健在っていうだけでかなり違うんじゃないのかなとも思ったり。うーん、政治は苦手です。
石切が死んでたら風紀組やばかったですねクォレハ…
生きてたので耐えました(耐えてない)