ゲヘナ学園所属の男子生徒がいろんな生徒に重い矢印向けられていく話 作:コウハクまんじゅう
※キャラ崩壊注意!
「〜♪」
静謐な雰囲気漂う純白のテラスにて、ご機嫌な少女の鼻歌が響いていた。
淑やかにティーカップを傾け、ソーサーに置かれる音が耳に響く。
少女の名は桐藤ナギサ。トリニティ総合学園の生徒会に当たる、ティーパーティーが1人である。調印式の際は、当代ホストである百合園セイア不在によって代行として調印した。
「やっほ〜ナギちゃん!今日もご機嫌だね。例の騎士君のことでも考えてたのかな?」
「なっ!?ミ、ミカさん!?」
しかし、そんな優雅なティータイムも儚く終わりを告げた。
フリルのついたスカートを翻し、羽先が丸い翼を揺らしながらテラスへと突入してきた薄桃色の長髪の少女。彼女の名は聖園ミカ、ティーパーティーを構成するメンバーの2人目。
先のエデン条約騒動ではアリウス分校と秘密裏に通じ合い、騒動の片棒を担いだ罪人。今はトリニティ自治区内に存在する牢屋に入れられている身である。
「あははっ、ナギちゃん取り乱し過ぎ。恋する乙女ってやつ?ヒュー!熱いね★えーと、何だっけ?『命に代えても貴方を』…」
「い、いい加減にしてくださいッ!ロールケーキとスコーンとクッキーぶち込みますよ!?」
「ええ!?ちょっ、この前はロールケーキだけだっむぐぐぐぐ…」
ナギサは目をぐるぐる回しながら、テーブルに用意された菓子を片っ端からミカの口に突っ込もうとする。
ミカは自慢の怪力でなんとか押し返そうとするも、リミッターの外れたナギサはミカも驚くほどの力を発揮する。
いよいよロールケーキとクッキーとスコーンが同時に押し込まれそうになった時に、ミカはあの切り札を投下することに決めた。
「あはは…」
「ッ!?」
その笑い声を聞いた瞬間、ナギサは石になったかのようにピタリと止まった。その目には明らかに動揺で揺れており、ミカの姿は目に入っていないようであった。
この笑い声は、本来はこのようなものであったらしい。
『あはは…えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ。』
ナギサの大切な友人が言っていたとされる、衝撃的な一言。
紆余曲折あり、この言葉は実際には言っていない事が判明したが、ナギサは未だにこの言葉をトラウマとして引きずっていた。
普段ならトラウマを抉られ、このまま有耶無耶になっていただろう。
しかし、今回のナギサはいつもとは違った。
実はこの聖園ミカ、牢屋にぶち込まれている身分でありながら常日頃から待遇に関する我儘をナギサ宛へバンバン送りつけていたのだ。
ほぼすべての蟠りが解けたとはいえ、あれだけのやらかしをしておいてこの小娘は、未だに娯楽を寄越せだのドライヤーを変えろだのシャンプー買ってこいだのとふざけたことを抜かす。
そして、最近はエデン条約の後処理に奔走しており心身が疲弊していた。
更には自身の恋心に茶々を入れるような言動。積もっていたミカへの不満とここ最近の疲れが爆発するのは無理もないことだった。ゆえに─
「…ぶち込むッ!!」
「ええ!?ナギちゃん!?」
桐藤ナギサは止まらない。
驚いて目を丸くしている小娘の顎を鷲掴みにし、無理やりこじ開けた。
さあ覚悟しろ、この強欲の権化めが。今すぐそのふざけた口に天誅を…
「そっ、そんな乱暴な姫様はっ、騎士様にッ嫌われちゃうよッッ!?」
「!?こ゛、こ゛ほっごほっ!!げほ…」
「ナギちゃん!?ご、ごめんね、私言い過ぎて…割と苦しそうだねナギちゃん!?」
「ゆ゛ッ…許゛し゛ま゛…許゛し゛ま゛せ゛ん゛ッ」
「声が!ナギちゃん声が!!」
越えた。
必死だったとはいえ、ミカは一線を越えた。
そのライン越えの発言は、初めて恋心というピュアな感情を抱いた桐藤ナギサに対してあまりに殺傷能力が高かった。
暫時の間、咳込んでまともに喋れないナギサの背中をわたわたしながらさするミカの姿がそこにはあった。
□■□
「大体、私の騎士様がそんなことを言うはずがありません。」
先ほどの嵐が嘘のように、テラスには落ち着いた空気が戻って来ていた。
ナギサのティーカップを傾ける頻度が先ほどよりも遥かに多くなった事を除いて。
「う、うん…そうだね…」
肯定、肯定、また肯定。
ミカは付和雷同を嫌う。我が道を行き、我を通す我儘お嬢様なのが聖園ミカだ。しかしこの時ばかりはあかべこの如く肯首の一択のみであった。
しかしそれも無理はないだろう。なにせ今のナギサは目に光が無く、どこを見ているかすら定かではない。だが一度ミカが茶々を入れれば爆発するのは明らかだった。
「騎士様は命をかけて私を護ると、あの地獄のような状況の中で確かにそう仰られたのです。ご自身も酷い怪我を負っているのに、ゲヘナという所属であるのにも関わらず、トリニティの人間である私をです。それはつまり、私に対して並々ならぬ愛を囁いているも同然。自らが愛を囁いた姫を騎士様が嫌いになるなどあり得ません。よってミカさん。あなたの騎士様への理解度は皆無に等しいのです。軽弾みに騎士様を貶さぬように。」
「う、うん。ほんとごめん…というか、まだその騎士君…石切君だっけ?会ったことないしね。あっ、でもナギちゃんを助けてくれたのは普通に嬉しいしお礼言いたいな〜」
「私のッ騎士様をッ!絆す気ですかッッ!!」
「もう何言ってもナギちゃんキレるじゃん!?」
鬼のような形相で再び椅子を立とうとするナギサを見て逃げ出そうとするミカ。このままでは永遠に鬼ごっこを繰り返す羽目になるだろう。
「─やれやれ、少しは落ち着いたらどうなんだい、ナギサ。」
一触即発の状況に待ったをかける冷静な声が響いた。
頭から突き出た大きな耳をピクリと動かし、呆れたように息を吐きながらテラスに入ってくる狐耳の少女。
彼女こそが3人目のリーダーにして当代のティーパーティーがホスト、百合園セイアだ。
「セイアさん…」
「あ、セイアちゃん。」
「ふぅ、ようやく落ち着いたか」
2人が椅子に座ってから椅子に腰掛けるセイア。用意されてたティーカップを傾けると、口を開いた。
「また石切君のことか。ミカ、人の恋路に茶々を入れるのは感心しないな」
「先入観で悪いと決めつける頭お硬いセイアちゃんに言われたくないかな★」
「実際は?」
「茶々入れたけどぉ…」
「ほら、やっぱり」
それ見たことかと言わんばかりにティーカップを傾けるセイアに、何も言い返せず不満気に頬を膨らませるミカ。しかし、クールダウンし落ち着きを取り戻したナギサが口を開いた。
「まぁ、もう過ぎたことですし。ミカさんも反省しているようですので、ここら辺にしておきましょう。先ほどは私も冷静さを欠いていましたので…」
そう言いながらもナギサは、セイアが馴れ馴れしく石切の名を呼んだことに何か引っかかりを覚えた。
しかしセイアの表情を観察しても、いつもとかわらぬ飄々とした顔を貼り付けており何も伺うことはできなかった。
気のせいだと判断し、ナギサがティーカップを置くと、テラスには明るい雰囲気が戻ってきた。それからは取り留めのない世間話で談笑していた3人だが、ミカが何かを思いついたように、ティーカップから顔を上げた。
「騎士君、どのくらいで退院できるの?まだけっこうかかる感じ?」
「そうですね…担当のセリナさん曰く、重傷ではあるものの通常よりも遥かに速いペースで回復しているとのことで、遅くて数週間、早くて今週中には退院できると聞いています」
「そっかぁ。…ねぇ、私達もお見舞い行かない?」
「…!い、いえ。ティーパーティーの私達が行っても、彼に余計な心労を掛けてしまうだけでしょう。退院したら彼を正式に招いて、そこでもてなすのが良いかと。そもそもエデン条約の騒動の後処理でこれから忙しくなりますし。」
「えーつまんない!…んー、でもそっか。大怪我しててゆっくり療養したいだろうしね。大勢で押しかけちゃっても迷惑かぁ…身分って面倒!」
一瞬目を輝かせたナギサだったが、すぐに山積みになっている課題を思い出して冷静になり、ミカはナギサの騎士様に会えないのを残念がっていたが、理解を示し素直に引いた。
「じゃあ、ナギちゃんの騎士君に会うのは退院してからのお楽しみだね!」
「ああ、そうなるね。」
「あれー?セイアちゃん、そっけないね?こういうの真っ先に食いつくと思ったんだけど?」
「興味はあるさ。ただ、彼に無理を強いるべきではないと思っただけだよ。まだ傷も痛むだろうしね」
「…?そうだね。」
既に彼と知りあっているような口ぶりにミカは違和感を覚えたが、達観した語り口調はいつものことなのですぐに忘れた。
しかしこの時、百合園セイアはひそかにほくそ笑んでいた。
彼が出てくる未来こそ観測できないが、現在と過去は視ることができる。
つまり彼女は、風紀委員によって2時間詰められ、平謝りしている彼の姿を既に視ていた。
その時点で既に愉快だったのに、彼がここへ招かれ、私が既に彼と知り合いだとナギサが知ったら何が起きるかは想像に難くない。
(覚悟はできているかい?石切くん。)
ひとりでに上がっていく口角をティーカップで隠し、来たる日を楽しみにしながら茶会へ意識を戻した。
愉悦FOXですまない