爺さんが死んだ。面白く、愉快で快活な老人と言い表すのにピッタリの人間だった。俺は一人爺さんお気に入りの椅子に腰かけている。他の親戚、両親たちは皆、相続について話しているらしい。急なことであったため、遺書なども存在せず、色々もめているらしい。
「この家はどうする」だの
「倉庫にあるものは」だの
爺さんの倉庫には大量の骨董品がある。高く売れる物もあるだろう。仕事の都合上、両親はなかなか家に帰ることはなく、高校生になった今でも爺さんの家に入り浸っていた。嫌な顔一つせず、豪快に笑い飛ばし、意味の分からない武勇伝を聞く。案外その時間が嫌いじゃなかった。
必要なことだとは分かっている。重要なことであるのも分かっている。ただ、今は物や金などではなく、その感情を少しでも爺さんに向けてほしいと感じた。そういった大人の話に混ざりたくなかったため、爺さんの部屋に来ていた。酷く息苦しいと感じた。笑い声が聞こえないだけで随分と静かだ。
「なんで死んだんだよ」
そう愚痴らずにはいられなかった。
「ねえねえ」
いきなり声が聞こえた。声の聞こえた先に視線を向けると小さな女の子が立っていた。大体小学生くらいだろうか。
「どうしてここにいるの?」
「何となくだ。」
「おじいちゃん、いなくなっちゃったね」
「そうだなぁ...」
「さみしい?」
「さみしいよ。俺は爺さんが大好きだったから。」
立ち上がる。いくらつまんない話しかしていないとはいえ、流石に親の目が届く範囲にいたほうがいいだろう。そう思い、手を差し伸べる。
「親御さんの所に行こうか。」
手を握ってきた。そうして話し合いをしている部屋に行く。部屋の前につき、扉を開
けた瞬間、話し声が止まる。皆の視線がこちらを向く。
「もしかして、邪魔だったか...すみません、この子と隣の部屋に行っておきます。」
「ちょっと待ちなさい!」
母親が声を荒げる。
「そこの子、どこにいたの」
「普通に爺さんの部屋にいたけど...」
女の子がため息をつく。
「つまんないの」
空気が張りつめたような気がした。
「それはそうか、皆、私のことを知っているのね。ふふふ...」
空気が冷たくなる。
「私たちの扱いに困っているのでしょう?なら私から一つ提案があるわ。」
女の子がこちらを見る。その視線はなぜか妙に居心地がいいと思った。一人になりたいときの風が優しく吹いている夜道のような。まるで包み込まれるように感じた。
「あなた、私たちの主になってみない?」
「なっ!」
誰かの声があがった。
「子供に業を背負わせるつもりか!」
おじさんの声が聞こえた。
「あら、業なんて失礼しちゃうわ。業となったのは今までの持ち主にその器がなかっただけよ。それに、私たちが業になったのはあなたたちのせいでしょう?」
「...えっと、ここで俺が断ったらどうなるんだ?」
「ふふ...知りたい?」
「...母さん、俺がこの家を継ぐのは大丈夫?」
「俊!あなたは何も知らないだろうけどその選択は」
「爺さんは何も言わなかったから大丈夫だろ。俺はここにいる時間がそれなりに長かったんだから。」
家が揺れる。その揺れている原因が手をつないでいる女の子から発せられていることは瞬時に理解できた。
「今この瞬間から、あなたを主と認めるわ。ふふ、これからよろしくね。じゃあ、書類上のもろもろ、お願いね。そこの人間たち。」