...あれから、とんとん拍子に物事は進み、次の日には爺さんの家に住むことになった。荷物を運び、ふと、一息をつく。もともとこの家にそれなりに居着いていたため、持ってくるものは意外と少なかった。しかし、それでもやはり荷物は荷物。それなりの重量がある。
「なんか、あっという間だったな...」
玄関に入り、ふとそんな言葉を口にする。
「ふふ、私が言ったのだから当然でしょう?」
満面の笑みでいきなり後ろから現れた。
「そう言えば、なんて呼べばいいんだ?名前を聞いていなかったな。」
「私は...まぁ、ルーと呼んで頂戴。」
「ルーか。わかった。」
「...何も聞いてこないのね。」
「何がだ?」
「明らかに名前、渾名でしょう?」
「あぁ。...爺さんがな、妖怪とかの名前は向こうが明かしてこない限りは聞かないほうがいいって話をしてたからな。」
「妖怪なんて失礼しちゃうわ。そんな低俗な存在ではないのよ。」
「じゃあ余計に聞いたらまずいんじゃないか?」
「私の名前にはそれほど強力な何かはないのよ。ただ、少し自分の名前が嫌いってだけ。」
「ほーん」
「...興味ないのね、あなた。一応私のせいでここに住むことになったのだけど?」
「いや、その点についてはむしろ感謝してる。爺さんが死んで、この家とも別れるのは、少し寂しいからな。」
そうだ。爺さんは死んだのだ。両親の代わりに世話をしてくれていた爺さん。...正直、実の両親よりも入れ込んでてもおかしくないほどには俺は爺さんのことが好きだった。だからこそ、この家ともはいさよなら、とするにはまだ覚悟が足りていなかった。浅い付き合いではあるが、友達もいる。だが、何よりも俺が家族だと感じていたのは爺さん一人だった。
「この家に住む権利を俺にくれたのはお前だからな。学校までの距離が遠くなったのは恨むが」
少しからかうように言葉を紡ぐ。そして、
「それ以外は感謝しかないさ。ありがとな、ルー。」
「...ふふ、そうやって人に呼ばれたのは初めてだわ。」
少し宙に浮き、嬉しそうに微笑む。
「これからよろしくね。俊君。」
「あれ、名前言ってたっけ。」
「あら、あなたの母親が呼んでいたじゃない。」
「...そう言えばそうだったな。まぁ、これからよろしく頼む。」
「あ、あとこの家に住んでいるのは私だけじゃないからね。」
「?そりゃあ俺も住んでいるからルーだけじゃないと思うが...」
「違う。私みたいな存在が他にもいるってこと。」
ルーはいたずらっぽく笑う。
「気を付けないと飲み込まれるかもね。」
ルーの笑う声が聞こえた。