飲み込まれる。その言葉に想像以上の悪寒を感じた。比喩であることは分かっている。しかし、なぜかその言葉に非常に強い恐怖を確かに感じた。俺はそんなに感受性の強い人間では決してない。であるのに関わらず、その言葉にここまで強い感覚を覚えた。
「ふふ、ごめんなさい。少し脅しすぎたかしら。でもそのくらいの心構えでいなさい。」
ルーは背を向けリビングへ行く。
「荷ほどきをしましょう。手伝うわ。」
深呼吸をする。心が落ち着いていくのを感じる。
「そうだな。今行く。」
「そう言えば、今まで結構な時間この家にいたつもりだったが、どうして俺はルーのことを見たことがなかったんだ?」
「ああ、それは私があの人間と仲が良くなかったためね。と、言うよりも人間とまともに話すのはあなたが初めてよ。普段は姿を消しているの。」
「仲が良くなかった?姿を消す?」
色々分からないことばかりである。
「こうやって姿を消せるの。」
黒い粒のように体が分解するようにルーの体が消えた。
「こうやって、ね。」
背後に浮かび肩を掴んできた。
「透明になりながら言葉を話すことは出来ないのか?」
「できないわ。だって口がないのだもの。あと、透明になっているわけではないわ。姿を見えなくしているのよ。」
「?一緒じゃないか?」
「違うわ。まだ詳しいことを教えるつもりはないけど。」
「そうか。じゃあ仲が良くなかった件については聞いても大丈夫か?」
「うーん...ま、いいでしょう。私の存在は人間と共にありながら相容れない存在だから。それをどこぞの誰かが封印まがいのことをしたのよ。それでこんな風になってしまったのよ。」
「へー」
うまく理解できず、空返事をしたのがばれたのか、
「ちなみにこんな風にしたのはあなたのおじいさんよ。」
「爺さんが!?」
「ええ、この家はそういったものの倉庫になっているわ。人間を滅ぼすことが可能なものがいくつもある。」
じっとルーを見る。触ろうとしてみると。するとするりと避けられた。
「何乙女を触ろうとしているのよ。」
「いや、話から察するにルーもその一つなんだろ?信じられないというか...」
「ふふ、いいわ。あなたはそのままでいて。」
ルーは怪しげに微笑む。
「な、何をするつもりだ?」
「ふふ、別に何もしないわよ。もう、私のことをどうとも思わない人間がいることが...いいなと思っただけよ。」
嬉しそうな顔だった。俺の頬にルーの手が添えられる。
「あなたは、そのままでいて。」
その声色は何故か重くて、優しくて、そして酷く寂しそうだった。
「...はいはい。そろそろ荷解き進めようぜ。先延ばしにしたらいつ終わるか分からなくなる。」
なぜかそれが妙に照れくさく感じた。
「...ふふ、そうね。」
「そう言えば、ルーって飯食えるのか?」
「あんまりたくさんは食べないけど、少しなら食べれるわ。もともと食事は必要ない体だから。」
「おっけー。なら後で軽く何か作るわ。」
そうして奇妙な二人暮らしの生活が始まった。