漂泊者の相棒   作:無音区へGO!

1 / 1
改稿してから再投稿。2000文字くらいで更新し続けられたら上々かなぁ……


01 プロローグ

共鳴能力分析報告

共鳴者名:シュウ   共鳴能力:増幅?

測定材料:【周波数スペクトル報告RAXXXX-G】

概要:共鳴時期は不明。音痕は左手の甲に位置する。莫大な量の反響エナジーを体内に生成・蓄積することで身体能力を強化できる他、音痕を通して体外に放出することで周囲の環境に強烈な共振現象を起こす。共鳴源の特定には至っていない。

ラベル曲線:収束がなく、中段で急上昇しているため、突然変異型共鳴者と認定。

オーバークロック診断報告

オーバークロックリスク:未定。 オーバークロック歴:有。

 

 

「ああ゛~っ、やっと書き終わったァ……!」

 

 今州城──先駆条約の建物に併設されたカフェの席で、今州を襲った未曾有の残像潮についてのレポート&コラムを(半強制的に)書かされていたオレは、思いっ切り伸びをした。

 パキポキと凝り固まった首筋をほぐしつつ、すっかり冷めきったコーヒーを流し込む。

 

「お疲れ様です、シュウさん。コーヒーを淹れ直しますね」

「お、サンキュー」

 

 労いの言葉をかけてきた受付嬢の馬琪(マキ)さんに礼を言いながら、オレは窓の外に目を向ける。既に時刻は夕暮れ時に差し掛かっており、西側の空が茜色に染まっていた。

 昼前に作業を始めたはずが、気が付けば随分と時間が経っていたらしい。

 

 そうやって暫くの間、糖分の足りない頭でボケーっとしていると、誰かに肩を叩かれた。

 

「ここにいたのか、シュウ」

「……漂泊者?」

 

 オレを呼んだのは、濡れ羽色の黒髪に金色の瞳を持つ青年──漂泊者。

 

 ”瑝瓏の客人”として今令伊に招待された賓客だったはずが、今や夜帰を率いて奮戦した忌炎将軍と並んで、【戦争】の鳴式・無相燹主の野望を打ち砕いた英雄だと持て囃されている。

 今日はその活躍を称えるとかで、今汐(コンシ)から直々に辺庭へ呼び出されていたはずだ。

 

「そっちの用事は済んだのか? 漂泊者」

「ん? あぁ。『俺の尽力と献身のおかげで今州は危機を脱した』と今汐と散華から感謝を伝えられた。偶々この場に居合わせただけの俺にとって、身に余る言葉だと思うんだが……」

「まあまあ、素直に受け取っとけって」

 

 オレがそう言うと、漂泊者は後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべ、

 

「それと……今汐から食事の誘いを受けた。俺と個人的な親交を深めたいらしい。折角の誘いを無下にするわけにもいかないから、返事を迷っているんだけど」

「ほ~ん? なら行け。絶対に喜ぶから」

 

 今州を治める若き令伊──今汐は10代の少女ながら、人々からの信頼は篤い。が、その裏には歳主『角』の共鳴者であること以前に、彼女の弛まぬ努力と思慮を巡らす日々があるわけで。

 当然と言うべきか、彼女には本音を打ち明けられる友人が少ないのである。

 

 オレと散華(サンカ)と長離先生を除けば……うん、考えるのは止そう。

 

「シュウがそう言うなら」

「おう。お前が4人目になるんだ」

 

 正確に言えば2人目だが。散華は身辺警護を行う近衛としての立場があり、長離先生もまた参事を務める傍ら顔を突き合わせる場面が少ない。諸々の制約に縛られないのはオレくらいだった。

 まぁ、だからと言って顔パス&アポ無しで訪問を許可するのはどうかと思うが。

 

「……おっと、シュウと喋っていたら本題を忘れるところだった」

 

 実はオレも忘れかけていた。

 

「ははは、そうだったな。んで、オレに何か用事でもあったのか?」

 

 首を傾げて続きを促せば、漂泊者は懐からデバイスを取り出して見せてきた。

 そこに表示されていたのは、17:56を示す時刻。何のことか分からずに首を傾げると、漂泊者はまったくと言わんばかりに口を開いた。

 

「忘れたのか? 今日の夕方に、俺たちで祝勝会を挙げるって秧秧(ヤンヤン)たちと約束しただろう?」

「──あ」

「嫌な予感がしてシュウを呼びに来たんだが……俺の杞憂じゃなかったみたいだな」

「完ッッ全に忘れてたわ。サンキュー漂泊者!」

 

 残像潮を撃退し、鳴式の脅威を退けたことを祝ってささやかながら宴会を開こう──的な話をしたことが頭からすっぽりと抜けていた。

 あの時共に肩を並べて戦った友人たちを招待したのはオレなのに、そもそもの発起人が遅刻したとなれば合わせる顔がないのは明白。漂泊者のおかげで恥をかかずに済みそうだった。

 

「後4分……、ダッシュで行けば間に合うか?」

「考える暇があるなら急げ。もし間に合わなくても俺が一緒に謝ってやるから」

「あ、相棒~ッ」

 

 目指すは今州城の一角、攀花(パンファ)食堂。

 

「よし、行くぞ漂泊者!」

「遅れるなよ、シュウ」

 

 開きっぱなしのキーボードを閉じ、オレたちはカフェを飛び出して猛ダッシュ。まるで競い合うようにして、攀花食堂へと続く道を一目散に駆け抜けていく。間に合え……間に合え……!

 

 

 

 

──オレは結局遅れてしまった。

 

「2分経過。遅かったじゃないか」

「オメーのせいだぞ裏切り者め」

 

 素知らぬ顔で背中をポンポン叩いてきた漂泊者を睨み付けながら、びしょ濡れになった髪を掻き上げて水滴を飛ばす。何から何まで全ての衣服が水を吸って、肌にへばりつく感触が気持ち悪い。

 せめてもの抵抗として、オレは重いジャケットを漂泊者に放り投げてやった。

 

 ……途中まではオレがリードしていたのだが、何を思ったのか漂泊者が〈燎原の炎騎(バイク野郎)〉に変身。 マフラーから炎を吹かして突っ込んできたのを華麗に回避したまでは良かったが、着地をミスって足を滑らせ、そのまま橋の上から湖にドボン。

 

 結果として、水も滴る間抜けなヤツがその場に取り残されたのである。許さねぇ。

 

「だ、大丈夫ですかシュウさん?」

「オレは大丈夫。それよりも悪いね、ちょっと遅れて」

「いえいえ、ちょうど残りの人たちも到着したばかりなのでお気になさらず」

 

 明らかにひと悶着あった(・・・・・・・)オレの様子を見かねたのか、やや狼狽えつつも気遣ってくれた秧秧に頭を下げてから、手招きした友人たちと同じテーブル席に腰を下ろす。

 既に人数分のグラスと鍋敷きが置かれていて、食堂からは美味しそうな匂いが漂っている。

 

「遅刻は褒められたものではないですよ、シュウ」

「悪いと思ってるって。モっさん」

 

 対面に座っていた燃えるような赤髪の男──モルトフィーに謝罪して。

 

「シュウはなんでびちゃびちゃに濡れてるんだい?」

「それは聞かないでくれ、凌陽(リンヨウ)

 

 続いてモルトフィーの隣にいた白毛の少年──凌陽の質問をはぐらかし、

 

「あっ、このタオルを使ってください。返さないでいいですからね」

「ありがとうヴェリーナちゃん……」

 

 最後にオレの隣、面倒見の良すぎる植物少女──ヴェリーナの手からタオルを受け取った。

 

 因みにもう一つのテーブルには漂泊者、秧秧、熾霞(シカ)、そして白芷(ビャクシ)が座っている。他にも知り合いに声を掛けたのだが、仕事柄こういう場には赴くことが難しかったり、都合が悪かったり、二人きりで会おうと言われたために、オレを含めた八人がこの宴会に顔を出している。

 

 それは兎も角、こうやって友人たちが一堂に会する機会は中々ないため、取り留めのない雑談に興じていると、いつの間にか各々の料理が運ばれてきて宴会の準備は整ったらしい。

 乾杯の音頭を行うのは、もちろん漂泊者だ。グラスを掲げ、声高らかに宣言する。

 

「それじゃあ改めて俺の口から。……今州は危急存亡の(とき)を免れた。俺のことを英雄だと賞賛する声もあるが、それは違う。ここにいる皆と、今州に生きる全員の助力があってこそ事態を乗り越えることができたんだ。でも今はとりあえず……皆の活躍を労う時だ。乾杯!」

 

「「「乾杯ーー!」」」

 

 カチンとグラスを鳴り合わせ、友人たちを労いつつ料理に舌鼓を打つ。決して華やかとは言えない仲間内の宴だが、こうして考えてみると戦いに区切りがついたという安堵感がある。

 

 そんな実感は静かに、何事もなかったかのようにオレの心に届いた。胸中の思いは丁寧で、どこにも嘘はなかった。ありがとう、こうやって笑い合えるだけで十分だ。

 

 ……宴もたけなわ、酔いも回り心地よい空気に包まれつつある中で、近くの舞台に講談師が立って話し始める。オレたち以外にもちらほらと客の姿が見える食堂で語られるのは、今州を巡る残像潮との戦いと、新たなる英雄の誕生を称える物語。

 

「前回の続きから……押し寄せる残像を、たった一人で食い止める羽毛の髪の少女……少女に危機が迫る時……重なる雲の切れ間から、煌々たる光の柱が差し込んだ。雲も残像も薙ぎ払う光の柱」

 

「あ、これ秧秧のことじゃん」

「少し気恥ずかしいです……」

 

「そして、光に当てられた巨像から、現れる2つの人影。──漂泊者と忌炎将軍。2人の歩みは、巨岩を崩落させ、無相燹主の野望は破綻した。淀んだ空気が一掃され、兵戈も止んだ」

 

「裂空砲が効いて何よりでした」

「僕はその時離れていたから分からないけど……相当凄かったんだろうなぁ」

 

「事の成否はいつだって天意でなく、人の営みによるものだ。一時の失意あれど、局面を打開しようとする者はいる。……かつて星々の降る野原に、龍の怒号を聞いた。今は、それに比類する凱歌が響き渡る。この先どうなることやら……だが、それを語るにはまだ早い」

 

「シュウの活躍が入ってない。俺が文句を言ってくる」

「止めろッッッ!」

 

 オレが残像数百体相手に大立ち回りを演じた話とか、乱入してきた〈雷刹のウロコ〉&〈飛廉の大猿〉コンビをブチのめした話が入ってないと、不満げな漂泊者が講談に割って入ろうとするアクシデントがあったものの、総じて語り口調が上手く惹きつけられる物語だ。

 

 パチパチと観衆から疎らな拍手が送られる中、講談師は一礼して去っていった。

 

「シュウ」

「何だよ」

 

 辺りに喧騒が戻ってくると時を同じくして、漂泊者がオレの隣に座った。

 

「お前はこれからも──俺の漂泊の旅に着いてきてくれるのか?」

 

 問いかけられる。金色の瞳が真っ直ぐ捉え、真剣な面持ちでオレを見ていた。

 

「ハッ、急に何を言い出すかと思えば……」

 

 グラスに残っていた水を一気に飲み干し、視線を交差させる。そして、

 

「当たり前だろ」

「そうか」

「あぁ、そうだ」

 

 ──オレは漂泊者(こいつ)の相棒だ。着いてこいと言われれば着いてくまで。

 

 いやしかし、それにしても……漂泊者に出会ってからそれ程経っていないにも拘らず、大分絆されてしまっていたらしい。かなり色々と……濃い日々を送ったからだろうか?

 

「おい、漂泊者の相棒はこのアブさまだぞ! 忘れるんじゃない!」

「ゴメン。忘れてた……」




主人公にだけ遠慮がない漂泊者。次回からゲームのストーリー沿いに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。