ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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選択とは妥協である。

 

〜大森林〜

 

「よっ、ほっ」

 

異端児達には手を出さずに無視。向かって来た普通のモンスターだけを撃破する。もうサポーターとか言ってられない。ベルとは逸れたし、メイスも抜いた。

 

「…げっ」

 

空を見上げると見慣れた金翼。似合わない血化粧なんてしちゃって…うわなんで麗傑(アンティアネイラ)まで居るんだよ。最悪…ま、向かうしかないか。

 

〜移動中〜

 

近くの木の陰に潜伏する。超音波うっせぇ。結界なかったらヤバかったぞ。

 

「ん〜…」

 

さーてどうしたもんか…先にレイを回収するか?一応対策用の道具は持ってきているが…。

 

「あの二人が邪魔すぎる」

 

イルタさんは恐らく異端児達の事は知らされてないし、アイシャさんは…そもそも何で此処に居るんだ?俺が捕獲したらイルタさんが騒ぎ出すだろう。でも此処で騒ぎになるのは避けたい。

 

「ほっとくかぁ…?いや、リドの居場所が分からないし会える保証もないから此処で事情だけでも聞きたいんだよなぁ…」

 

Lv.5一人に…たぶんLv.3一人。ライラさん直伝の発煙筒なら正直誤魔化せなくは無い。周りに鼻が利く獣人も居ないしな。

 

「…やるか」

 

市販品を改造し、右腕に装着した折りたたみ式のボウガンを展開。矢ではなく特殊弾をセットし、発煙筒を左手に構えた。

 

「…!」

 

先ずは煙幕。発煙筒を二人の足元に素早く投擲。

 

「!?」

 

「あぁ!?何だいコレは!」

 

ごめんねアイシャさん。後で謝るから許してクレメンス。煙幕が展開され、周囲が白煙に満たされる。

 

「よっ。」

 

「!?」

 

素早く特殊弾をレイに向かって撃つ。中身は…。

 

「網…!?くっ…!」

 

投網を改造した捕縛用ネット。投網と言っても対水棲モンスター用の物だ。Lv.5クラスの実力があるレイでも簡単には破れないだろ。素早く網と繋がったケーブルを巻き取る。

 

「くうっ…!?」

 

レイをキャッチ。横抱きにする。

 

「よっ。」

 

「ロイ…!?何で…何で貴方が此処に…!?」

 

悪いが此処じゃ話せない。レイを抱えたまま全力ダッシュ。森の中に。

 

「離してっ…!こんな姿…見られたくないんです!」

 

「ソレを含めて全部聞かせてもらう。このまま別れるにしても一緒に行くにしても、状況確認は必要だからね。」

 

「っ…!」

 

 

〜大森林 戦場外れ〜

 

「……そうか」

 

「……」

 

フォー…、オードも…。ごめん。もうちょっと情報集められてれば良かったんだけど…。

 

「攫われたのは、ウィーネ、ラーニェ、フィアです。他の皆は謎の呪詛(カース)で同士討ちさせられて…」

 

「……分かった、取り敢えず俺も行く」

 

「ダメです。貴方は人間、私達は怪物。もう私達は…会うべきじゃないんです。怒りが抑えられなくて…結局、私もっ、どれ程貴方から暖かさを貰っても、バケモノだった……!」

 

「だから俺に5年一緒に過ごした仲間を見捨てろって?嫌だね」

 

「何でっ!」

 

「大切だから」

 

「……!」

 

レイが涙を堪えて睨みつけてくる。

 

「貴方は人間なんです!どれ程私達を大切に想ってくれていても、人間は人間の中で生きていくべきなんです!」

 

「それは否定しない。でも、それを理由にして片方を諦めるのはダメだよ。」

 

「なんで!?貴方も、地上に大切な人達が居るんでしょう!?選ばなきゃいけないんです!貴方も、私も!」

 

「でも、そこに幸せは無い」

 

「っ…!」

 

妥協を続け、他人に敷かれたレールを選んだ所で、そこに満足できる結果なんて訪れない。大切な人のどちらかを見捨て、どちらかを生かすやり方ではいつか破滅を迎える。選ぶのでは無い。掴み取らなければいけない。

 

「俺は地上に大切な人達が居る。でも異端児の皆も大事だよ。俺の幸せは、両方居てくれないと成り立たない。だから…協力させてよ。一緒に戦おう?」

 

「っ……ごめん、なさい……!」

 

おーよしよし。今はたっぷり泣いてくれ。

 

 

〜大森林 戦場〜

 

「確かに強い。が、怒りで視野が狭くなっている」

 

『ガッッ!?』

 

「対峙する側は脅威だが、不意打ちは通りやすい」

 

ロイが不意打ちでレイを捕縛した少し前、エルフの剣士は樹上から木刀で奇襲を仕掛けていた。

 

「あ、あんたは…、アストレア・ファミリアの!?」

 

「……ただの通りすがりです」

 

「それは無理があるぞ!?」

 

どっかの主神(ガネーシャ)のせいで鍛えられてしまった団員のツッコミが炸裂する中、正体不明(笑)の覆面冒険者は戦況を変えていく。

 

「援軍…?『下層』に潜っていた冒険者か?それにあのエルフは…」

 

アイシャとリオンの参戦にいち早く気づいたシャクティは、テイムという縛りを無視して戦う二人の遊撃を利用する事にした。自らは接近してくるトロルを片手で殴り飛ばし、串刺しにしようと突っ込んでくるユーノを鞭で端に転がす。思わぬ援軍を得たガネーシャ・ファミリアは趨勢を建て直していく。

 

 

〜ベル視点〜

 

一方、ベルはリオン達の援護が届かない所で防戦を演じていた。

 

『シャァっ…!』

 

「うっ…!?」

 

半人半蛇の異端児(ラウラ)が緑髪を乱れさせ、鋭い爪を振り下ろす。手を繋いだ異端児達の一人から向けられる暴力に、ベルは悲しさと恐怖で呼びかける事すらできない。喉がつっかえたように動かないベルの双眸は苦渋に染まった。

 

「っ…!」

 

すれ違いざま回避するが、ラウラの爪がローブを引き裂く。バックパックごと変装を引き裂かれ、ベルは姿を戦場に晒した。

 

『ガアアアアアアアアアアッ!!』

 

一匹のリザードマンがベルとラウラの間に割って入る。腰に刺したシミターやロングソードは使わず、ベルの両肩を掴んで押し倒す。

 

「――リドさん!!」

 

「どうして此処に来た、ベルっち!!」

 

自分の倍以上の体重がのしかかり、戦場をもつれ合うように転がっていく。リドの意図を察したベルは、そのままの勢いで転がっていった。

 

 

〜フェルズ視点〜

 

『グロス!』

 

「っ!フェルズか!」

 

名を呼ぶ声にグロスは振り返る。冒険者の死角となる水晶の柱の影から黒衣の魔術師が現れた。ヴェールを脱ぎ捨て、透明状態(インビジビリティ)を解除したフェルズが空中のグロスに呼びかけた。

 

「戦いを止めさせろ!今我々が争うのは無意味だ!」

 

「聞けん!今抵抗をやめれば、あの冒険者達は我々を殺すだろう!」

 

「そんな事はさせない、約束しよう!まずは話を――」

 

乱戦の中、グロスを説得しようとするフェルズ。グロスが呼びかければ、皆止まりはするだろう。しかし…。

 

「ならば、あの冒険者共を引かせろ!」

 

「っ!?」

 

「約束すると言うのなら、今此処でやってみせろ!」

 

頭上から要求するグロスに、フェルズは言葉を詰まらせる。その沈黙がグロスの神経を逆撫でした。

 

「無理だろう、フェルズ!所詮貴様も()()()()だ!!」

 

「っ…!」

 

「貴様が優先すべきは人類であり、我々では無い!」

 

フェルズが異端児達と接触して15年。その年月の中で積み重ねてきた信頼を忘れてしまう程に、グロスは怒っていた。

 

「貴様の甘言に、私はもう騙されない!」

 

「グロス、私は…!」

 

「もう、何もかも手遅れなのだ!」

 

グロスは見切りを付けるように、フェルズに背を向ける。森の奥に飛翔し、その灰色の喉を震わせた。

 

『――――ォォッ!!』

 

それは異端児達だけに向けられたメッセージ。人間には聞き分けられないモンスターの声色で、森の中に居る同胞達に呼びかける。

――同胞を探す、自分に続け。と。

 

「レイは……!」

 

レイを探していると、森の外れから飛んでくるレイを発見したグロス。視線を交わす。

 

――レイ、人間共を足止めしろ!

 

――分かっています。

 

血化粧も消え、何処か憑き物が取れたかのようなレイに怪訝な表情を浮かべながらもグロスは森の東端を目指した。

 

 

〜ベル視点〜

 

リドから事情を聞き出したベルは、リドに、異端児達に味方しようと近づく。しかし…。

 

「――リドさん、僕も」

 

「来るなっ!」

 

振り上げられたリドのロングソードが、地面に突き刺さる。激しく舞い上げられる砂埃と小石に、咄嗟に腕で顔を覆った。

 

「……!?」

 

視界を回復させたベルは驚愕の表情を浮かべる。目の前の地面には大きな亀裂が走っていた。リドとベルを…化け物と人間を、隔てる境界線。

 

「ベルっち、こっちに来るな。引き返せ」

 

「リドさん…!?なんで…!?」

 

「俺っち達は…もう終わりだ。こんな騒ぎになっちまった。もう悲願(ゆめ)なんて叶わねぇ」

 

二振りの刀剣を握り締めながら、リザードマンは語る。もはや希望は潰えたのだと。

 

「だけど、同胞達は絶対に取り返す……!」

 

「!!」

 

だがその瞳に宿した戦意が陰る事は無かった。

 

「ウィーネ達は俺っち達が必ず取り戻す……だからベルっち、こっちに来るな。」

 

「……っ!」

 

「俺っち達と一緒に居る所を見られたら、ベルっち達も終わるぞ。だから、来るな。こんな事になったのは、俺っち達の責任だ。巻き込みたくねぇ。」

 

リドは突き放す。破滅の道から遠ざけるように。己の中で渦巻く、人類への憎悪を爆発させないように。そして…裏切られる事を、恐れるように。

 

「……何グズグズしてるんだよベルっち!今、こんな所を見られるだけでもヤバいんだぞ!?早くリリっち達の所に帰れ!」

 

が、動けない。その『怪物』の訴えに頷く事が、ベルにはどうしてもできなかった。怒鳴りつけるリドの声が、ベルの身体を揺さぶる。

 

「ベルっち達は人間だろ!もう化け物なんかに構うな!」

 

「リドさん…」  

 

「行けよ!」 

 

「リドさんっ…」

 

「行っちまえ!」

 

「それでも、僕は…!」

 

オオオオオオオオオオオオオオオーッ!!

 

人語では無い『怪物』の叫喚が、ベルの身体をビリビリと震わせ、背後に押し飛ばす。咆哮を持って拒絶を言い渡すリザードマンに、ベルの顔は歪んだ。

 

「――クラネルさん!」

 

「「!」」

 

直後、鋭い木刀の一閃が二人の間に割って入る。自身に向けられた攻撃をリドは素早く回避し、フード付きのローブを被ったエルフが少年を庇うのを確認すると、勢い良く反転し、逃走した。

 

 

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