ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。 作:一般通過社会人
〜人造迷宮クノッソス〜
「――千年」
ゴーグルを再び装着し、ディックスは言う。千年。千年か…俺達人間の寿命を、幾つ賭けても足りない。それ程、濃密で永い時間。
「先祖共が、ギルドからこそこそ隠れながら作ってた時間だ」
「馬鹿な…!?誰にも気づかれる事無く、それ程の時間を…!?」
「なら今俺達が居る
ごもっとも。こんなデカい構造物どんな匠でも一朝一夕じゃできない。魔法なんてよく分からん物があるこの下界でも、物理的に不可能な筈だ。
「顔も知らねえ俺の親父や、
努力する方向を間違えてるなぁ…。まあ、建物なんて使い方しだい何だろうけどさ。
「逆に言えば……千年かけてもまだ中層にしか辿り着けてねえ」
これでもまだ『設計図』の三割ってところだ、と。目の前の男は唾と一緒に吐き捨てた。
「まさか、イケロス・ファミリアが
ディックスは唇をつり上げる。ま、そう言う事だろうな。
「ダイダロスの系譜がお前等の言う『悪党』といつから付き合いがあったのかは知らねえ。少なくとも俺がこの陰湿な迷宮で生まれた時には既にがっつり繋がっていた――全ては、迷宮を完成させる為にな。」
ダイダロス側が提供するのはこの人造迷宮クノッソスと言う、秘匿性が極めて高い拠点兼潜伏場所。逆に闇派閥側が提供するのは資金援助とギルド含めた秩序側への隠蔽。ギブアンドテイクの関係だ。話を聞く限りはダイダロスの一族はこの迷宮を完成させる事にしか興味が無く、完成させた後はどうでも良かったのだろう。それもお互いにとって都合が良かった。
「ダイダロスの系譜は一つの『手記』に踊らされて、こんな物を作り上げたってわけだ」
そう言ってディックスは話を締めくくる。関係がある闇派閥の名前も聞きたかったが……話さないだろうし、止めとくか。
「……つまり、異端児達の捕獲、密売も金策の一つと言う事か。」
アダマンタイト製の壁に、オリハルコン製の扉。総額は億なんて単位では表せない金額になっている筈だ。そんな金額を調達するなら、ギルドが怖い等とは言っていられない。ディックスが何時から団長をしていたのか、何時異端児達の存在を知ったのかは知らないが…ファミリアを牛耳るようになってから直ぐに密売に手を出した筈だ。
「御託はいい!」
グロスが大きな音共に傍にあった空の檻を破壊する。…来るな。
「貴様等が同胞を虐げ、オード達を殺した事に変わりない!――報いを受けさせてやる!!」
グロスがディックスに飛びかかり、爪を振り下ろす。ディックスは特に動揺した様子もなく、傍に居た手下の襟を掴み、グロスの前に放り投げた。手下の絶叫が響く。
「俺っちとグロスが前に出る!ドール達は傷ついた奴等を守れ!」
「なっ…ぎゃあっ!?」
「あまり突出し過ぎるなよ?」
それを開戦の合図にするかのように、リドが傍に居た獣人に斬りかかり、激突が始まった。おいおい突出し過ぎるなって言ってんのに早速し過ぎてるじゃん。おっと、こっちも…。
「クソがっ!」
「くっ…ファイアボルト!」
フィアを庇う為に突撃してきたハンターをベルが一蹴。レットも武器を構え、ハンター達を遠ざける。
「フィア。口開けて。」
「ロイ…?あ。」
フィアの口にポーションを流し込む。してもらいたい事がある。
「…ありがとうございます、ロイ!」
「礼はこの状況を何とかしてからにしよう。18階層までの道のりは分かる?」
「はい!」
「よし。18階層で冒険者達を足止めしているレイ達を連れてきてくれ。全員此処に集合させるんだ。」
「分かりました!ロイは…?」
「此処で暴れる。ま、死なないように頑張るさ。」
「……レイを、置いていかないでくださいね?」
「分かってる。フェルズ。鍵を。」
「ああ。」
フェルズがレットにオーブを渡す。未だ下半身に枷は付いているものの、傷は治した。ハーピィのフィアが飛べない道理は無い。力強く羽ばたいたフィアの片足にレットが捕まり、出口の方に戻っていった。
「待てっ!」
「うっさい」
「ごっ…!」
逃げたフィアを追おうと強引に突貫してきたハンターに、ボウガンから矢を撃ち込む。顔面で矢が爆ぜて気絶した。結構製作費高いんだぞこの矢。リド達の方も順調だが…。
「おいおい…ちょっとばかし強すぎるじゃねえか。こりゃ誤算だ」
一人奥で状況を俯瞰しているディックスが動く。
「出し惜しみしてる間もねえな…やっぱり、
「ッ!させるかっ!」
左手で槍を担ぐディックスは右手の人差し指を突き出した。グロスが止めに走るが…ダメだ間に合わん。結界で守ろうにもリド達が前に出過ぎてる。付近に居る捕まってた異端児達の前に結界を展開。ベルも巻き込む。
「!?」
「っ!来る!あのカースだ!」
「分かってる!」
「っ…!」
ラーニェが騒ぐ。突如現れた結界にベルが驚いてるが無視。結界の上方に傾斜をつける。
「【迷い込め、果てなき
ディックスはレベル5……上に逸らせばギリ防げるな。
「【フォべートール・ダイダロス】」
紅の光波が結界と衝突する。っぐ…!?
「ビリっときたぁ…!」
「何が…!?」
やべえ精神力半分持ってかれた…持ってきたポーションを呷り、急いでメイスを構える。結界でカバーしきれなかったリド達前線組がこっちを振り返った。
『――オオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
その瞬間、結界の外に居た全てのモンスターが暴れ出した。
「――っ!!」
「グロス、リド…!!」
「これが…呪詛…!」
フェルズが手を前に突き出し、ラーニェが変わり果てた同胞の名を呼ぶ。ベルは光波が通り過ぎたのを確認すると、暴れ出した異端児達を見てカースの効果に戦慄した。傷ついた異端児達を後ろに下げ、結界を解除する。
「皆、今助け…!」
「ダメだ行くな!今のリド達に意識は無い!」
「ラーニェ、君も手伝ってもらうぞ!他の者も戦える者は手伝ってくれ!」
フェルズがラーニェにポーションを渡し、その他戦えそうな囚われていたモンスターを回復させる。流石に全員に配れる量は無い。戦えそうな者だけだ。
「あ〜、大抵コレを使っちまえば全部終わり…の筈なんだが」
暴れるモンスター達を愉快そうに眺めていたディックスが視線をこちらに移す。
「
「警戒はしてたさ。来ると分かってれば対策はできる。」
魔法もしくは呪詛はLv差が2以内に収まってればギリギリ逸らせる。精神力の効率の良さを捨てる事になるし、受け止めろって言われたら無理だけど。
「凄まじいな君の結界魔法は…」
「いやこれからでしょ」
フォべートール・ダイダロス…幻惑系のカース。対集団に特化した、初見殺しのカースだ。ギルドの追跡を十年近く躱し続けられていたのはこのカースのおかげだろう。だが、このカースの厄介な所はここからだ。運が悪い事に結界で保護できなかった異端児達の中には腕っぷしが自慢の者が多くいる。
「コレを切るからには、仕留め損ねるなんてあっちゃならねえんだが……」
大広間の戦場には宣告無しに放たれた呪詛を回避できなかった狩猟者達も暴れている。リド達に簡単にぶっ飛ばされる所を見るとせいぜいLv.2か1って所か。だが、連続で向かってこられたら脅威には変わり無い。
「まあ、良い――モンスター共に喰われちまえ」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
直後、別の異端児に吹き飛ばされたリド達が襲いかかって来た。