ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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難易度:ナイトメア



愚者

 

〜アイズ視点〜

 

この感情は何と言うのだろう。悲しみ、怒り、絶望、驚愕…本来ならそのどれかに当てはまっている筈なのに、不思議とどれも違う気がする。

剣よりも鋭く、斧で割られるよりも深く、爪牙で貫かれるよりも痛い。純然たる事実と衝撃はこの身体に血を強いた。

自分の存在を否定されたかのような、そんな喪失感。心が空っぽになったかと思えば、文にもならないような単語が嵐のように湧き出てくる。

嫌、離れて、『それ』から。

貴方は私の側に居て。

貴方だけはいなくならないで。

『彼』と同じように、私の側から離れないで。

そんな『光景』を私に見せないで。

『それ』はとても醜いもの。全て唾棄するべきもの。振り払わなければいけないもの。

忌み嫌い、憎むべきもの。

決して寄り添ってはならない。手を取り合ってはならない。抱きしめてはならない。

奪う者に慈悲など許されない。この世で最も罪深い略奪者。

『それ』の名前を貴方は知っている?

『それ』の名前を貴方は分かっている?

『それ』の名前は――『怪物』。

 

その感情の名は、何と言うのだろう。

私は分からなかった。

嘘つき、と言えばいいのだろうか。

許さない、と我を失えばいいのか。

やめて、と泣き喚けば良いのだろうか。

ねぇ、と貴方に聴きたい。

泣きそうな顔で、こちらを見る貴方に問いかけたい。

通じ合えていた、と思ったのは私の間違い?私だけの幻?

何をしているの?

どうしてそこにいるの?

どうして、貴方は『怪物』を庇っているの!?

酷い!酷い!酷い!

酷い裏切りだ!

 

……そして。

何で、『君』が、生きているの?

偽物?いや、違う。私の中の力が、スキルが、君を本物だと言っている、叫んでいる。

君は5年前のあの日、死んだ筈。

あれから毎年、毎月、お墓参りは欠かさなかった。欠かせなかった。

やめてしまえば君との繋がりが切れてしまうと思ったから。怖かったから。

貴方を見殺しにしたあの女達と一緒にお墓参りは苦痛だったけど、それでも君との繋がりが無くなってしまうほうが耐え難い苦痛だったから。

でも、君は今私の目の前に居る。生きている。

でも、でも、でも…、君までもが、『怪物』を庇っている。

私のせい?私があの時、全てを捨てて『怪物』に執着したから?

私があの時、憎しみで全てを塗り潰していたから?

それでも、私は君の事が大切だった。寝る時も、勉強も、お風呂も、ダンジョンでさえも。君と一緒なら苦痛じゃなかった。楽しかった。

君が私の元を離れた時、目の前が真っ暗になった。理由が分からなかった。ロキに我を忘れて殴りかかって、ガレスに止められた。それからは苦痛の日々だったけど、それでも時間が経てば君と、きっとまた一緒に冒険できるって信じて待ってた。

でも、そうはならなかった。そうなる前に、君は死んじゃった。

 

お願い。二人とも、こっちに来て。

私を一人にしないで。

また一緒に冒険しようよ。

 

誰か、私を……。

 

 

〜リヴェリア視点〜

 

………バカな。

 

何故、お前が其処に居る。不意に、そんな言葉が漏れた。

現場に到着した時には、心底驚いた。

当たり前だ。お前は死んだ。あの日あの場所で、正体不明のモンスターに殺された。

実際に私も後で現場に赴いて確かめた。遺されたのは武骨なメイスだけだった。

だが、其処に居る。確かに生きて、ボロボロだが動いている。

5年間息を潜めていた?

いや、ありえない。アストレア・ファミリアの面々は仲間の死に嘘をつくような恥知らずではないし、ロイは有名人。5年も地上で息を潜めるなど不可能だ。

ダンジョンに潜んでいた?

いや、これもない。ロイの身体は塵も残らずに消えている。万が一何らかの方法で復活できたとしても、身体は全損だ、恩恵はマトモに機能するかも怪しいだろう。恩恵無しで5年も隠れられるほどダンジョンは甘くない。

何故、何故、何故?幾度も疑問が湧き上がり、混乱する。冷静になろうとしてもできなかった。

 

ロイとの日々は楽しかった。

アイズと一緒に来た彼は、姉とは違い戦士としての才能は無かったが、座学は末恐ろしい速度であらゆる知識を吸収していった。惜しむらくは魔法の才が遅咲きだった事と、種族がヒューマンだった事。それさえなければ私は彼を正式な後継者として育てていただろう。フィンも本気で戦術や指揮を教え、次の団長にしようとしていた。

しかし、我々はその本人の才能に胡座をかき、致命的なミスをしてしまった。アレさえなければ、今頃ロイは……いや、やめておこう。

 

兎に角私は、自分を尊敬し付いてきてくれる彼に一種の母性のような物を感じていた。

本当に楽しかった。楽しかったんだ。

だが…今は?

彼は、私の目の前で『怪物』を庇っている。

右隣を見る。フィンも目を見開いている。

左隣を見る。アイズは顔を真っ青にして固まっている。

更に右を見る。アリーゼも、輝夜も、ライラでさえも、信じられないモノを見るような顔をしている。

私は?分からない。分かりたくもない。自らの顔が、恐ろしくて堪らない。

 

何故だ。何故…っ、こんな事に…!

 

 

 

〜数分前 人造迷宮クノッソス 階段 ロイ視点〜

 

…!?何か背筋がゾワッときた。気の所為…だよな?それはそうとして…。

 

「あ〜…最悪。マジでどうしよ…いやもうだめぽ…」

 

「ロイさん!?諦めないでくださいよ!」

 

「いやもうだめぽ…」

 

ベルと二人で階段を駆け上がりながら絶望する。すっげえ長い階段だ。いや、18階層から地上まで直通と考えれば当然なんだけど。

 

「二人とも!」

 

「フェルズさん!」

 

あ、フェルズに追いつかれた。疲れてるんだな俺も…。

 

「走ったままで良い、少し待て」

 

「?」

 

呼吸を乱す俺達に、フェルズはグローブに包まれた手を添えた。

 

「【ピオスの蛇杖(つえ)、ピオネの母光(ひかり)。治療の権能をもって交わり、全てを癒せ】」

 

アレ?知らない詠唱だ。蘇生魔法の他に何か使えたのか?

 

「【ディア・パナケイア】」

 

えっ何々。何この光の玉。何かこっち来る。

 

「わ?」

 

「これは…!」

 

「エリクサーと同じ、いわゆる全癒魔法と言うやつだ」

 

「なるへそ」

 

高位の回復魔法か。もうコイツ一人でいいんじゃね?

 

「ありがとうございます、フェルズさん!」

 

「ありがと……あ」

 

「どうした?」

 

そうだ伝えておかなきゃ。フェルズに伝言頼もう。

 

「…そうだフェルズ。ウラノスに謝っといて」

 

「何をだ?」

 

「……団長達に全部話すわ」

 

「……やむを得ないだろう」

 

どうせもうバレる。ファミリア追放…いや、オラリオ追放も視野に入れなきゃいけない。そうしたら全部吐かされるだろうし…。

 

「…じゃ、行くわ」

 

「…あぁ」

 

フェルズと別れ、ベルと一緒に懸命に腕を振る。そして…。

 

「…!ロイさん、光が…!」

 

「くっそダメだもう地上に出る!」

 

目の前には光の筋、そして石材が砕かれる音。できれば出る前に止めたかった。が、できなかった。反省だらけだが、此処まで来たらなるようになるしかない。

 

 

〜ダイダロス通り〜

 

「っ!」

 

「はあっ!!」

 

瓦礫を退けて、街に出る。ウィーネは…!?

 

ァァァアアアアアアッ!!

 

「っ…ベル、動き止められるか!?」

 

「……やってみます…!」

 

俺じゃ火力不足だ。『あのスキル』は火力が高すぎるし、現状調節が効くベルのスキルに頼るしかない。

 

「何とかして動きを止めれば…!」

 

この宝石を、額に戻せる。そうすれば、状況は……マシ、にはなる。…そう、マシだ。どう足掻いてもマシにしかならない。

 

「きゃーッ!?」

 

「モンスターだーっ!?」

 

…見られたか。だが、人的被害が出なければ…っ!!

 

「っ!」

 

「きゃっ……ぁ?」

 

「逃げてください。なるべく遠くに。」

 

「っ…はい!」

 

危ね…瓦礫が落ちてきてた。間一髪庇えた。ウィーネは…?

 

『ァァァァァァァァァァアッ!!』

 

「っ…ウィーネっ!」

 

「ベル君!!」

 

ヘスティア神!?と、言う事は…ヘスティア・ファミリアも居るのか…。って春姫さんが!!

 

「っあ!!」

 

ベルが鎧の手甲でウィーネの尾を何とか弾く。危ね…俺さっきから危ねしか言ってないな。

 

「ベル、様……!」

 

「春姫さん、下がっていてください!」

 

「っ…はい!」

 

何とか春姫さんを下がらせた。……でも、ここは、マズい。この路地は広場程じゃ無いが、開け過ぎてる。万が一、冒険者が来れば……!

 

 

――その時だった。上から、閃光が、ワイヤーが飛来する。

 

「――――」

 

「――――」

 

『ァ――アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

空気が凍りつく。ウィーネが貫かれた左肩ごと、槍の勢いに押されて壁に激突する。槍とワイヤーに身体を縫い付けられたウィーネは、肩を抑え必死に藻掻いていた。建物の上を見ると、4つの人影が確認できた。【勇者(ブレイバー)】【狡鼠(スライル)】【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】【大和竜胆(やまとりんどう)】。最高(さいあく)のオールスターだ。

 

「アレが、今回の騒動の元という事かな……?」

 

「だろうな。取り敢えず、捕縛…いや、もう無理だな…討伐……か!?」

 

「そうね…ヴィーヴル、目撃証言とも一致するわ……!?」

 

「どうした、団長………っ!?」

 

……バレた、か。

 

『――――――――――――――――――ッッッ!!』

 

『や、やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!』

 

『ロキ・ファミリアと、アストレア・ファミリアだぁぁぁぁぁぁあ!』

 

『冒険者様ぁ!』

 

歓声が辺りを包む。その声が、興奮が。建物の上に現れた存在のほどを物語っている。でも、俺達の周りだけは嫌に静かだった。この展開が読めていたとしても、心臓の音が五月蝿い。身体中の全細胞が、警鐘を鳴らしている。……団長達、だけか?それならまだ…。

 

「…………ぇ?

 

「まだ、住民達に被害は及んで居ないようだな……は?

 

「ん?リヴェリアどう………おい、あやつは…」

 

「あら?アレって…?」

 

「アルゴノゥト君だー!!」

 

「またあの兎野郎か……オイ、ババア!ボサッとすんな!」

 

お師匠…いや、【九魔姫(ナイン・ヘル)】【重傑(エルガルム)】…、今まで交流は無かったものの恐らくは、【大切断(アマゾン)】【怒蛇(ヨルムンガンド)】【凶狼(ヴァナルガンド)】。そして…【剣姫(けんき)】アイズ・ヴァレンシュタイン。…マズい、コレだけの戦力が集まるなんて想定外だ。もっと戦力の展開に時間がかかると思ってた。と言うか何で団長達まで居るんだよ…!

 

「あのモンスターって、18階層の事件と関係あるの?枷とか付けてるけど、アレって武装してるって言うのかなぁ?」

 

「わかんないけど…コレを見越してギルドは待機命令を出したのかもね?」

 

「っち!だったら先に言っておけっての…!」

 

……落ち着け。此処でミスったら全部終わるぞ。【大切断(アマゾン)】、【怒蛇(ヨルムンガンド)】、【凶狼(ヴァナルガンド)】の会話的に、恐らくは両ファミリア共にギルドの待機命令を無視して展開しているのだろう。そして、この盤面を読めそうな人物は……。

 

「……アリーゼ。何故、彼が、彼処に居る?いや…何故、生きている!?」

 

……あの人だ。フィンさん。あの人の頭なら、少ない情報でもこの盤面読んでくる可能性がある。だが、今回の事件だけではないだろう。リオンが持っていたオーブと言い、俺がダンジョンに居る間に色々と起こっていたらしい。

 

「……え?ロ、ロイは……」

 

「報告していなかったのか…?」

 

……どうする。何とか説得……いや、無理だ。アイツが邪魔すぎる。それに民衆の目もある。この場から逃げる?いや、ダメだ。ウィーネを置いて行ける理由が無い。ダメだ、諦めるな。何とか、何とか別の突破口を………。

いや、もう、コレしかない。不意に隣を見ると、ベルと視線が合った。言葉は交わさない。もう、お互いコレしかないと分かっているから。腕を、ゆっくり、肩の高さまで上げる。

 

『おおおおおぉぉぉぉぉぉ………――?』

 

民衆の興奮が冷めていく。場が静まり返るのが分かった。

 

「…あぁ?」

 

狼人(ウェアウルフ)が眉を顰めた。

 

「ちょっと…何よ、アレ」

 

「アルゴノゥト君…?」

 

アマゾネスの姉妹は狼狽えた。

 

「……何を、している…!?」

 

「……儂の目の錯覚か?」

 

「……どういう、つもりかな…?」

 

ハイエルフ、ドワーフ、小人族(パルゥム)は動揺しつつも目を細めた。

 

ロ、イ……!?

 

「何してんだ、お前…!!」

 

「やめろ…やめてくれ…!!

 

赤髪のヒューマン、桜色の髪の小人族(パルゥム)、極東のヒューマンも同様だった。

 

 

 

「「この竜女(ヴィーヴル)は、僕/俺達の獲物だ。」」

 

「「だから、手を、出すな…!!」」

 

 

 

………オラリオの、全てが敵だ。

 

 





〜原作との相違点〜

現状展開している戦力→ロキ・ファミリア+アストレア・ファミリアのリュー・リオンを除いたフルメンバー。駆け付けたメンバーの他に、ロキ・ファミリア、アストレア・ファミリアのLv.3とLv.4がしっかり周りを固めている。

(この場での)勝利条件→Lv.6を8人、Lv.5を2人相手にして何とか逃げ切り、その他Lv.4が多数混じった冒険者による包囲網を躱して、ただですら目立つウィーネ含む異端児達を安全な所に身を潜めさせる……何だこの糞ゲー。
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