ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。 作:一般通過社会人
〜黄昏の館〜
「以上、ロイからや。」
「「「「「「「………。」」」」」」」
館の応接間に、ダイダロス通りから一先ず帰還したロキ・ファミリアの主要構成員達が招集されていた。皆主神からの言葉に黙り込む。
「……っ!」
「ちょっとアイズ!?」
「待てアイズ!」
ティオネとリヴェリアの制止も虚しく、ロイの実姉、アイズ・ヴァレンシュタインは部屋を飛び出す。呼び戻そうとティオネが立ち上がるが…。
「やめとけ。今は一人で考えさせろ」
「はぁ!?ほっとけって言うの!?」
「一人にしてやれって言ったのが分かんねぇか?ちったあ頭使え」
「……!」
ベートの言葉に唇を噛み締めながらも再度ソファーに座る。と、同時にガレスも口を開いた。
「むぅ…困ったのう。要はあれじゃろ。『自分の恩人に手を出さないでくれ。出すと言うのなら覚悟しろ』じゃろう?」
「とは言ってもね…周りの目もある。既に僕たちは大勢の前でモンスター…異端児達を痛めつけてしまった。今更止めるわけにはいかない」
団長であるフィンの意見は変わらず。殲滅一択である。とはいえ、気は進まないようだ。
「…ねーねー。どうしても戦わなきゃダメ?そもそもアリーゼ達はなんて言ってるの?」
「アリーゼ達は闇派閥の対処をするの一点張りだ。だが、アリーゼ達も何らかの援護をしてくるだろう」
「え〜!?じゃ、アリーゼ達とも戦うの?」
「んな訳ないでしょバカティオナ!あっちも民間人の目がある、表立った戦闘はできない筈よ!」
ティオナの発言にティオネが噛み付く。彼女の言う通り、アストレア・ファミリアは今回表立った支援はできない。
「…で、ロキ。僕たちが仮にロイの言う事を聞いたとしたら、何のメリットがあるんだい?彼の事だ、そこら辺を用意していないとは思えないけど…」
「クノッソスの鍵と手記、全部渡すそうや。勿論他に条件なしでな」
フィンは一瞬思考する。
「………なるほど、魅力的だ。魅力的だ……が、それでも駄目だ。こちらの戦力の方が上である以上、取引に付き合う理由も無い」
「やっぱりか…ま、フィンがそう言うなら止めへんわ。皆はどうする?」
「ん〜……その、アイズの弟君も気になるけど、鍵の方が優先だしね。私も戦うよ!」
「私は…団長が戦うなら、私も戦います♡」
「気持ちわりぃぞ色ボケゾネス。…だが、そうだな。アイズの弟だか何だか知らねぇが、態々そんな取引に乗っかる必要も無ぇんだ、戦闘一択だぜ。あの時の借りは返さねぇとな…!」
「ロイと戦うのは残念じゃが、仕方あるまい」
「……戦う。それしかないだろう」
最後にリヴェリアが決断する。自らの子同然の者からの通告に最初は思い悩んでいたようだが、腹を括ったらしい。続いて口を開いた。
「だが、ロイの事は私に任せてもらう。いや…私と、アイズに。それでも良いか?フィン」
「…構わないよ。ただし、アイズにはどうするかちゃんと確かめてくれ」
「分かっている」
リヴェリアがアイズを追いかけて部屋を出ていった。再び静寂が部屋に流れる。暫くすると、ロキが口を割った。
「……正直な?」
「「「?」」」
主神の言葉にベート、ティオナ、ティオネが疑問符を浮かべる。
「あの二人には、戦ってほしくないねん。いや、本当に、マジの話や」
「…そもそもその二人、何で喧嘩しちゃったの?私達がこのファミリアに入ってからの4年間、一度も話題に出てこなかったけど…でも、アイズは嫌いって訳じゃなさそうだし、やっぱり弟君の方の問題?」
「せやなぁ…ティオネ達が入る頃には、既にロイはダンジョンの中やったし、アイズたんも……何とか表には出さない事ができるようになっとったからなぁ。でも、引きずりはしてたんやで?」
「……あ、たまに寝不足になってたのって…。」
「出ていかれた時の事、未だに夢に出るらしいねん。あの時は大変やったからなぁ…」
「ロキに殴りかかっておったのう。儂が居なければどうなっていたことやら…」
「アイズが!?」
「信じらんな〜い。でも、それなら尚更何で喧嘩しちゃったの?」
ティオナの言葉にフィンが反応する。
「……そうだね。色々原因はあるけど、一番の理由は…。」
〜黄昏の館 アイズの部屋〜
「…アイズ」
「リヴェ、リア……」
月夜の部屋の中心で一人の少女が膝を抱えて蹲っていた。普段は光の元で輝いて見える金髪は、心なしかその輝きを喪っているように見える。
「ねぇ…わたし、何か…ロイにしちゃったの…?」
「…いいや。お前は悪くない」
「じゃあ何でッ!!!」
「っ……」
その少女…アイズ・ヴァレンシュタインは普段なら絶対に出さないような声を荒げる。其処には悔恨と悲壮が滲んでいた。
「何で…ロイは、私の前から居なくなっちゃったの!?私のせいじゃないなら誰のせい!?誰がロイを私から引き剥がしたの!?誰が…ロイを、モンスターの………っ〜!!」
その先を言おうとして、アイズは口を噤む。やり場のなくなった怒りが、混乱が、涙として溢れ出ていた。
「………アイズ。お前には、選択肢が二つある」
「…何?」
「モンスター達…異端児達を見逃し、ロイと仲直りする。」
「それ、はッ…!!」
モンスターに対して怒りと憎しみを持って滅殺を貫いてきたアイズ。異端児達もその例には漏れない。そして、これを選択する事は今までの己の全てを否定する事に等しい。もう一つは…。
「これまで通りの滅殺を貫き、ロイとの仲を諦める。」
「………い、や…!」
アイズとしては弟への親愛とモンスターへの憎しみ、両方とも捨てがたい物だった。
「駄目だ。選べ。分からないのか?ロイはこのまま、お前と一生関わらずに生きていく選択肢も取れたんだ。それにも関わらず、我々に道を選ばせてくれた。『フィンの命令』ではなく、『自分の意志』で来てほしかったんだ…他でもない、お前に」
リヴェリアが優しく説く。だが…。
「……………無理、だよ…、選べない…!」
「そう、か……なら、一先ずこの作戦には参加するな。今のお前では…ロイを傷つけるだけだ」
「………!」
返事は返ってこなかった。変わりに返ってきたのは、啜り泣く声。リヴェリアはアイズを後ろからそっと抱きしめると、部屋を出る。
「………ロイ」
部屋を出たリヴェリアは痛みを堪えるかのように顔を歪め、応接間のある廊下の方に戻っていった。
〜応接間〜
場面は再び応接間。ティオナ、ティオネ、ベートは先に部屋に戻った。部屋には三傑と主神のみ。
「…リヴェリア。アイズはどうだった?」
「……駄目だ。結論を出せそうにない」
「無理もないのう…。ほぼ7年ぶりに顔を合わせた家族に、自分か復讐か選べと唐突に言われたのだから」
事実、無理もない。アイズの視点から見たら何も分からないまま最愛の弟と別れ、何も分からないまま敵対する羽目になってしまったのだから。
「……フィン。お前はどうなんだ?ベル・クラネルと話し、ロイに通告され…それでも曲がらないと言うのか?相手は理知のある存在…『取り引き』なら、可能ではないか?」
「ありえない」
リヴェリアの言葉にフィンが即座に否定の意を唱える。
「『鍵』を手に入れる為にモンスターと結託する。確かに有効かもしれない。だが、その後は?」
「……」
「団員たちの士気は下がらないか?離反するものは?ファミリアの中には家族や恋人、仲間を奪われた者が大勢いる。彼等を納得させる事は本当にできるのか?」
「……」
リヴェリアとガレスは無言の肯定を返す。事実、ロキ・ファミリアにはそういう者たちが大勢身を寄せている。もし仮にモンスターとの結託が漏れてしまえば、幾らアストレア・ファミリアの面々が居るとはいえ、都市崩壊の危機を前に内輪揉めをしてしまう事になりかねない。
「ウラノスとヘルメスもそうだ。ロイ達には大人しく協力しているが、僕達の場合は立場が違う。
外界の住民達にとって神とは、良き親でもあり、抗い難い脅威でもある。特にこの神達は突出してその傾向が強く、基本中立の立場を取っているが為に状況次第で敵にも味方にもなり得る。その
「…そして。この際だからハッキリ言おう。僕は未だにロイ・ヴァレンシュタインを諦めていない」
「……!フィン、貴様…!」
「君も分かるだろうリヴェリア?彼は…人間性は勿論、戦力として、単純な駒としてもかなり重要なんだ。特にアイズが彼と組んだ時の破壊力は……大抗争の時に確認済みだ。君が報告してくれた事じゃないか」
「……っ…!」
ロイは7年前、大抗争の時に一度だけ姉と組んで戦った。その時の力はあの場でも群を抜いて凄まじい物だったという。
「確かにあの場では頭一つ抜けておったな。
「…しかし!」
「今彼を確保できたら、対闇派閥も断然に楽になる。アリーゼ達も、嫌とは言えない筈だ。勿論、終わったらちゃんと…返すさ」
「口が過ぎるでフィン。ロイは物やない。それに、焦り過ぎや。これが終わったらウチからもロイにお願いする…それでええか?」
「……分かった。すまない…少し、焦り過ぎていた」
「……いや、私も冷静とは言えなかった。…取り敢えず、ロイの事は私に任せてくれ。必ず…必ず、説得する」
主神の言葉にフィンが謝罪する。結局、ロキ・ファミリアは戦闘を選択した。もはや止められない。